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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)6947号 判決 1990年4月12日

原告

大阪滋賀交通株式会社

被告

有限会社中山運送

ほか一名

主文

一  被告(反訴原告)有限会社中山運送及び被告藤井篤美は、原告(反訴被告)に対し、各自金六六二万七六四八円及びこれに対する昭和六三年二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)有限会社中山運送に対し、金六五万八九一四円及びこれに対する昭和六三年二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)及び被告(反訴原告)有限会社中山運送のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴、反訴を通じてこれを五分し、その二を原告(反訴被告)の、その余を被告(反訴原告)有限会社中山運送及び被告藤井篤美の負担とする。

五  この判決一、二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴請求

被告らは、原告に対し、各自金一一〇四万六〇八〇円及びこれに対する昭和六三年二月一一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴請求

反訴被告は、反訴原告に対し、金三二九万四五七〇円及びこれに対する昭和六三年二月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、北陸自動車道上でスリツプして停止した大型貨物自動車(トレーラー牽引車)に大型乗用自動車(観光バス)が追突して双方車両が破損した交通事故につき、観光バスの所有者がトレーラー牽引車の運転者(民法七〇九条に基づく)及びその使用者(民法七一五条に基づく)に対し車両修理費等の損害賠償請求をし(本訴請求)、トレーラー牽引車の所有者が観光バス運転手の使用者(民法七一五条に基づく)に対し車両修理費等の損害賠償を請求(反訴請求)した事案である。

一  争いのない事実

次のとおりの交通事故(以下、「本件事故」という。)が発生した。

日時 昭和六三年二月一〇日午後六時三〇分ころ。

場所 福井県南条郡今庄町新道北陸自動車道上り二二三・六KP付近

事故車(一) 被告(反訴原告)有限会社中山運送(以下、「被告会社」という。)所有にかかる、大型セミトレーラー(佐八八け三三。以下、「トレーラー」という。)を牽引する大型貨物自動車(佐一一か四〇六七。以下、「牽引車」という。また、右トレーラー、牽引車をあわせて「被告車」ともいう。)。

右運転者 被告藤井篤美(以下、「被告藤井」という。)。なお、被告藤井は被告会社の社員であり、本件事故は、被告会社の業務の執行中に生じたものである。

事故車(二) 原告(反訴被告。以下、単に「原告」という。)所有にかかる大型乗用自動車(大阪二二あ五五一五。以下、「原告車」という。)。

右運転者 訴外住友茂夫(以下、「住友」という。)。なお、住友は原告の乗務員であり、本件事故は原告の業務の執行中に生じたものである。

事故状況 被告車が本件現場の道路上に停車中、原告車が衝突した。

二  争点

1  事故態様

原告は、被告車は西行二車線の本件道路を走行中、スリツプしてジヤツクナイフ現象(牽引車とトレーラーがその連結部分において「く」の字型に屈曲する現象)を起こし、その牽引車を道路左端のガードロープに衝突させ、牽引車、トレーラーによつて二車線全部をふさぐ形で停止したところに、原告車が被告車トレーラーの左側面に衝突したものであると主張する。

これに対して被告らは、被告車は二車線道路を全部ふさいで停止したのではなく、ほとんど追越車線へ車体をはみ出すことなく停止していたところに、原告車が被告車トレーラーの後部左角部分に衝突したものである旨主張する。

2  被告藤井及び訴外住友の過失の有無

原告は、被告藤井には、連結車である被告車を運転して、カーブで凍結している高速道路を走行していたのだから、ジヤツクナイフ現象をおこして、高速道路の進行を阻害することのないようにする義務があつたにもかかわらず、前方、路面等の不注視やハンドル操作、スピード制御等の運転操作ミスによりジヤツクナイフ現象を起こし、本件道路の二車線全部をふさぐ形で停車した過失があり、本件事故は、被告藤井の右過失により発生したものである旨主張する。

これに対して被告らは、被告藤井の過失を否認したうえ、本件事故は、時速五〇キロメートル以下に速度規制のなされた本件道路を時速九〇キロメートルで進行した住友の過失により生じたものである旨主張する。

3  損害額(特に原告は、被告車の牽引車部分の修理費用は、自らスリツプしてガードロープに衝突させたことによつて生じた損害で、本件事故と相当因果関係がない旨主張する。)

第三争点に対する判断

一  争点1(事故態様)及び争点2(被告藤井及び訴外住友の過失の有無)について

1  事実

証拠(甲一、三ないし一二、一五、検甲一ないし七、証人住友茂夫、同宮垣一弘、同白尾勝義、同山並富士男)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故地点は、北陸自動車道上り線(自動車専用道路、以下、「本件道路」という。)二二三・六KPの西方約一八・五メートルの地点である。

本件事故地点付近の本件道路は、やや左にカーブしながら東西に伸びる幅員一〇・八メートル(各三・六メートルの走行車線、追越車線と一・一メートルの北側路側帯、二・五メートルの南側路側帯から成る。)のアスフアルト舗装がなされた西行道路であるが、本件道路両端にはガードロープが設置され、本件事故地点付近の道路南端には案内看板が設置されていた。

また、本件事故地点は、長さ二七五五・〇七メートルの今庄トンネルの西側出口から約一キロメートルの西方の地点であるが、右トンネル出口から本件事故地点までの本件道路は、一旦ゆるやかに右カーブし、さらにゆるやかに左カーブしており、本件事故地点は、このゆるやかな左カーブの途中であり、その勾配は、西方へ約二・五パーセントの上り勾配であつた。

(二) 本件事故当時の本件道路の状況は、今庄トンネルの西側出口以西の路面が凍結しており(同トンネル東側の路面は、雪が溶けて湿潤の状態であつた。)、本件事故地点付近の路面も凍結状態で、本件当日の午後六時二〇分より普通タイヤ車のみチエーン着装規制がなされていた。また、本件道路の最高速度は、本件当日の四日前の昭和六三年二月六日から、引き続き時速五〇キロメートルに規制されていた。

(三) 被告藤井は、被告車(牽引車の車長五・三七メートル、車幅二・四九メートル、車高二・八四メートル、トレーラーの車長一〇・九三メートル、車幅二・四九メートル、車高三・七九メートル)を運転して、本件道路(走行車線)を時速八〇ないし九〇キロメートルで西進し、今庄トンネルを越え、本件事故地点の約二五六メートル東側付近にさしかかつた際にさらに加速しようとしたところ、路面が凍結していたため、被告車が滑走し、蛇行をはじめた。そのような滑走、蛇行状態のまま、本件事故地点の約五一・五メートル東側付近まで進んだところ、被告車が右方向に滑走したので、被告藤井は、左へ急ハンドルを切つた。このため、被告車(牽引車)は、本件事故地点の約七メートル東側の本件道路南端のガードロープに衝突し、さらに被告車は滑走を続け、本件事故地点付近で、牽引車とトレーラーが連結部分で「く」の字型に屈曲し、本件道路全体を塞ぐ態様で停止した(右停止時、牽引車は、その前面を東南東ないし南東方向に向け、右前部が道路南端ガードロープに接していた。また、トレーラーは、その前面を南西方向に向け、その右後部が道路北端に接していた。)。

(四) 訴外住友は、原告車(観光バス、スノースパイクタイヤ着装。その車長一一・九二メートル、車幅二・五〇メートル、車高三・五五メートル。)を運転して、本件道路(走行本線)を時速約九〇キロメートルで西進し、今庄トンネルを越え、本件事故地点の約三五三・五メートル東側付近にさしかかつた際に、その約一六四メートル前方で、被告車がおかしな動き方(蛇行)をしているのを認め、ギアーを五速から四速に変えて、時速約八〇キロメートルに減速した。

その後、被告車及び後続の原告車が前記右カーブにさしかかり、本件道路の両側には山が迫つていたこともあつて、住友の視界から被告車が一時消えたが、原告車が本件事故地点の約一〇四・五メートル東側付近まで進行したとき、住友は、本件事故地点付近で被告車が本件道路を完全に塞ぐ状態で停止しているのを認めた(なお、本件事故地点のどの程度東側の地点に至れば本件事故地点を見通せるかについては証拠上判然としない。)。

住友は、右態様で被告車が停止しているのを認め、その地点で危険を感じて急ブレーキ(フツトブレーキ)をかけたが、路面が凍結していたため、原告車は滑走をはじめ、原告車後部を左右にふりながら、本件道路の中央付近を走行していつた。そして、本件事故地点の約二〇キロメートル手前まで進行したとき、フツトブレーキに加えサイドブレーキもかけたが及ばず、原告車前面の右端から約〇・七メートルあたりを被告車トレーラー左後部角付近に衝突させ、その衝突で被告車を約一・五メートル西側に押し出して、被告車牽引車とトレーラーとをさらに屈曲した「く」の字型にさせるとともに、牽引車右側面を本件道路南端の案内看板に衝突させた。そして、原告車は、その前面が被告車トレーラー左側面後部付近に接する態様で停止した。

(五) 右衝突後、原告車及び被告車が前記態様で停止している本件事故現場に、訴外坪田真己運転の普通貨物自動車(なにわ四四た一八九、カローラバン、車高は一・五五メートル。以下、「坪田車」という。)が突つこみ、坪田車はその前面が被告車トレーラーの左後部角付近に、左後部が原告車の右側面に衝突した。

また、その直後、訴外二村祐次運転の普通貨物自動車(尾張小牧一一あ六八四六、以下、「二村車」という。)が本件事故現場に突つこみ、二村車はその左前角が坪田車右後部に、左後角が原告車右側面に衝突した。

(六) 被告車は、自らガードロープに衝突し、その後原告車等に衝突されたことにより、次のとおり損傷した。

(1) 牽引車

(車両前部)

右側前照灯破損、フロントバンパー曲損、フロントエプロン破損。

(車両後部)

左角凹損。

(車両右側面)

運転席ドア破損、サイドステツプ破損、前輪泥よけに擦過痕、後輪フエンダーに擦過痕。

(車両左側面)

後部角凹損、ステツプ下部擦過痕。

(2) トレーラー

(車両左側前面部)

荷台の前部から三メートルの部分に凹損、荷台下部の前部から一・九メートルの部分に擦過痕、荷台下部のサイド巻込防止アーム曲損、荷台下部の前部から一・九メートルの部分に赤色塗膜片付着。

(車両左側面後部)

荷台下部の後部から三・五メートルの部分に擦過痕、荷台後部角に高さ三・五メートルの擦過痕。

(その他)

車両の前部、後部、右側面及び左側面中央部分に外観上判別できる損傷はなかつた。

(七) 原告車は、被告車トレーラーとの衝突により、車両前部が次のとおり損傷した。

上部のルーフがゆがみ盛り上がる、上段ガラス破損、窓枠曲損(右端より約〇・七メートルのところ)、ワイパー破損、フロントバンパー破損、下段ガラス(右端から約〇・七メートルのところ)に縦状ひび割れ。

なお、被告らは、本件事故前被告車は、ほとんど追越車線に車体をはみ出すことなく停止していたものである旨主張するが、右主張を裏付けるに足りる証拠がないうえ、右主張どおりの停止状態であれば、本件事故により牽引車右側面に損傷が生じるはずがなく、またトレーラー後面に損傷が生じるはずであるのに、かえつて、牽引車右側面に損傷が生じ、トレーラー後面に損傷が見当らないのであり、このことに実況見分調書(甲四)における被告藤井の指示説明の内容や、右認定の原告車、被告車の損傷部位、内容、被告車の車長等の形状、本件道路の幅員等の客観的事実を総合して考えると、前記のとおり、被告車は、「く」の字型に屈曲して本件道路全体を塞ぐような態様で停止していたものと認定するほかはない。

2  判断

以上の事実に基づいて、被告藤井及び訴外住友の過失の有無について判断する。

(一) 被告藤井の過失について。

本件道路のように、路面の凍結したややカーブのかかつた道路では、走行車両は滑走しやすくなり、ことに、被告車のような連結車両にあつては、凍結道路で急なハンドル操作をすれば、ジヤツクナイフ現象(連結車両において、走行中あるいは制動時に車輪に滑りが生じると、牽引車とトレーラーの相互位置関係が正常状態からはずれ、これが相互の反力によつて助長されて、連結部において「く」の字型に屈曲する現象)を起こして操向不能になる(甲一三)のであるから、凍結道路を走行する連結車両の運転者としては、あらかじめ速度を落として、車両が滑走したりジヤツクナイフ現象を起こしたりしないように運転するべき注意義務があるというべきところ、被告藤井は、路面が凍結し、最高速度が時速五〇キロメートルに規制された本件道路を時速八〇ないし九〇キロメートルで走行し、さらに加速しようとしたところ被告車を滑走させ、しかも滑走中急ハンドルを切つて、被告車にジヤツクナイフ現象を生じさせて、自動車専用道路である本件道路を完全に塞ぎ、後続車がハンドル操作によつて衝突を回避する可能性を完全に奪う態様で停止させたものであり、被告藤井にはこの点において過失があり、右過失が本件事故発生の大きな原因になつたものといわなければならない。

(二) 訴外住友の過失について。

他方、住友も、路面が凍結し、最高速度が時速五〇キロメートルに規制された本件道路を時速約九〇キロメートルで走行していたところ、本件事故地点の約三五三・五メートル手前で、約一六四メートル前方の被告車が蛇行しているのを認め、その時点で、被告車の滑走や自損事故による停止もありうることを予見しえたというべきであり、しかも路面が凍結していて、高速度のまま急ブレーキをかけると自車も滑走することを予見しえたというべきであるから、住友において、被告車の蛇行走行を認めた時点以後、凍結道路において不測の事態が生じても安全に停止しうる速度で運転すべき注意義務があつたというべきである。それにもかかわらず、住友は、時速約八〇キロメートル程度にまで減速したにとどまり、前記最高速度(時速五〇キロメートル)以下に減速することなく、右速度のまま漫然と走行したものであり、住友にはこの点のおいて過失があり、この過失も本件事故発生の原因となつたというべきである。

(三) そして、被告藤井と訴外住友の過失の内容、程度を対比し、前記認定の本件事故現場の状況、本件事故態様等、本件証拠上認められる一切の事情を総合して考えれば、双方の過失割合は、被告藤井六割、訴外住友四割と認めるのが相当である。

二  争点3(損害額)について

1  本訴請求

(一) 車両修理費用(請求額金一〇〇四万六〇八〇円) 金一〇〇四万六〇八〇円

前記認定事実及び証拠(甲二、証人宮垣二弘)によれば、本件事故により原告車前部が破損し、その修理費用として右金額の出捐を要したことが認められる(なお、原告は、原告車前部の修理費用のみ請求するものであるところ、原告車は本件事故後、坪田車及び二村車に衝突されたものであるが、その衝突部位はいずれも右側面であり、これらの衝突により原告車前部の損害が拡大したことは考え難い。)。

(二) 過失相殺

前記認定のとおり、本件事故発生につき、訴外住友(原告側)にも四割の過失があるというべきであるから、原告が被告らに請求しうる金額は、前記修理費用(金一〇〇四万六〇八〇円)から四割を控除した金六〇二万七六四八円である。

(三) 弁護士費用(請求額金一〇〇万円) 金六〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、金六〇万円と認めるのが相当である。

2  反訴請求

(一) 車両修理費用(請求額金二九九万四五七〇円) 金一四九万七二八五円

前記認定事実及び証拠(乙一ないし三、証人白尾勝義)によれば、被告車(牽引車、トレーラー)は、本件の一連の事故(被告車の自損事故及び原告車を含む後続車から衝突された事故)により、一1(六)記載のとおりの損傷を受け、牽引車の修理工賃として金一一一万円、トレーラーの修理工賃として金一〇三万〇三〇〇円、牽引車及びトレーラーの部品代として金八五万四二七〇円の合計金二九九万四五七〇円を出捐したことが認められる。

ところで、前記認定の本件事故態様から考えると、牽引車前部及び右側面の各損傷は、主として被告車が自損事故を起こして、本件道路南端のガードロープに衝突した際に生じたものと認められること、牽引車左側面、後部及びトレーラー左側面前部の各損傷は、主として被告車が自損事故によりジヤツクナイフ現象を起こし、牽引車とトレーラーが屈曲して接触した際に生じたものと認められること、トレーラー左側面後部の損傷も、原告車との衝突後さらに坪田車に衝突されて損傷が拡大したと考えられること、他方、原告車が衝突したことによる直接の損傷は、トレーラー左側面後部の損傷のみであるが、右衝突により被告車は約一・五メートル押し出され、このため牽引車とトレーラーがさらに屈曲した「く」の字型になるとともに、牽引車右側面が案内看板に衝突したものであつて、原告車の衝突により、牽引車左側面、後部及びトレーラー左側面前部並びに牽引車右側面の損傷が拡大したものと考えられることを総合して考慮すれば、本件事故(原告車の衝突)と相当因果関係に立つ被告車の修理費用は、その総額(金二九九万四五七〇円)の五割に相当する金一四九万七二八五円であると認めるのが相当である。

(二) 過失相殺

前記認定のとおり、本件事故の発生につき、被告藤井にも六割の過失があるというべきであるから、被告会社(反訴原告)が原告(反訴被告)に対して請求しうる金額は、前記修理費用(金一四九万七二八五円)から六割を控除した金五九万八九一四円である。

(三) 弁護士費用(請求額金三〇万円) 金六万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、金六万円と認めるのが相当である。

(裁判官 本多俊雄)

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