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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)3630号 判決 1988年8月17日

原告

日鐡リース株式会社

右代表者代表取締役

土屋義郎

右訴訟代理人弁護士

鎌倉利行

檜垣誠次

内藤欣也

被告

株式会社エスコリース

右代表者代表取締役

平山秀雄

右訴訟代理人弁護士

梅垣栄蔵

森博行

被告補助参加人

阪和興業株式会社

右代表者代表取締役

北二郎

右訴訟代理人弁護士

山元眞士

主文

一  原告が、別紙物件目録記載の機械につき、所有権を有することを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  株式会社関西鐵工所(以下「関西鐵工所」という。)は、もと、別紙物件目録記載の機械(以下「本件機械」という。)を所有していた。

(二)  日鐵商事株式会社(以下「日鐵商事」という。)は、昭和五八年一〇月一二日関西鐵工所から、本件機械を代金一三七〇万円で買受け、同月二五日、鳥取県米子市の藤谷冬雄商店こと藤谷喜久雄(以下「藤谷商店」という。)方でその引渡を受けた。

2  日鐵商事は、昭和五八年一二月一〇日、藤谷商店に対し、本件機械を、リース期間九六か月、リース料一か月二一万三〇〇〇円、リース料総額二〇四四万八〇〇〇円の約定でリースし、簡易の引渡をなした。

3(一)  原告は、昭和五八年一二月二六日、日鐵商事から、リース事業全部の営業の譲渡を受け、本件機械の所有権を取得するとともに、前記リース契約上の貸主の地位を承継した。

(二)  藤谷商店は、昭和五九年七月九日、右譲渡及びリース契約上の貸主の地位の承継を承諾した。

4(一)  藤谷商店は、昭和六二年一月七日、鳥取地方裁判所米子支部において、破産宣告を受けた。

(二)  原告は、昭和六二年一月一六日到達の内容証明郵便で、藤谷商店の破産管財人勝部可盛に対し、前記リース契約を解除する旨の意思表示をした。

5  原告が、右破産管財人に対し、本件機械の引渡を要求したところ、右破産管財人は、被告が本件機械につき、原告の所有権を争っているとして、その引渡を拒絶した。

6  よって、原告は、被告に対し、原告が、本件機械につき、所有権を有することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は不知。

2(一)  同4(一)の事実は認める。

(二)  同4(二)の事実は不知。

3  同5の事実は認める。

三  被告の主張

1  被告は、次のとおり、本件機械の所有権を承継取得あるいは即時取得している。

(一) 被告補助参加人阪和興業株式会社(以下「阪和興業」という。)は、昭和五八年一二月二〇日、藤谷商店から、本件機械及びアイトレーサー熔断機ライン(以下「別件機械」という。)を代金五三〇〇万円で買受け、被告は、昭和五九年一月三一日、阪和興業から、本件機械及び別件機械を代金五四二八万円で買受けた。

(二) 阪和興業は、そのころ、本件機械の代理占有者である藤谷商店に対し、爾後被告のために本件機械を占有すべき旨を命じ、被告は、これを承諾して、指図による占有移転を受けた。

(三) 仮に、阪和興業が本件機械の所有権を有していなかったとしても、被告は、右(二)の占有取得の際、阪和興業が本件機械の所有者と信じていたもので、その際、本件機械を見分し、プレート、ラベル等の貼付なきことを確認しており、右のとおり信じるにつき過失がなかった。

2  被告は、昭和五九年一月一三日、藤谷商店に対し、本件機械および別件機械を、代金は六七三〇万八〇〇〇円とし、これを同年一月から昭和六三年一二月まで毎月末日限り、一一二万一八〇〇円ずつ六〇回に分割して支払う旨の約定で、所有権留保約款付割賦販売をしたが、藤谷商店は、昭和六一年一二月分以降の割賦金を支払わなくなり、翌昭和六二年一月七日破産宣告を受けたため、被告は、同年三月一三日、前記藤谷商店の破産管財人に対し、右割賦販売契約を解除する旨の意思表示をした。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の(一)、(二)の事実は不知。同1の(三)の事実は否認する。

2  同2の事実は不知。

五  原告の反論(即時取得の抗弁について)

1  民法一九二条の即時取得の要件のひとつである「引渡」には、占有改定による占有移転が含まれないのと同様に、動産の現実の占有状態に何ら変化がない以上、指図による占有移転も含まれない。すなわち、民法一九二条が、動産取引における善意の第三者を保護するための規定である反面、真の所有者から反射的にその所有権を奪うものであることに照らせば、第三者が権利を取得するためには、客観的に外部から認識可能な状態すなわち現実的な占有取得を必要とするというべきである。特に本件においては、被告が信じた前主の占有自体が占有改定によるものであり、即時取得における「引渡」(=占有の承継取得)としては、否定的に取扱われるものであるから、たとえその占有を指図による占有移転によって改めて移転を受けたとしても、それが前主の行為でしかない以上、占有状態自体に質的な変化はない。このように阪和興業の占有自体が即時取得の関係では否定されるものである以上、被告が現実の占有を取得しない限り、被告の占有自体も即時取得の要件を充足するものではありえない。

2  仮に、即時取得における「引渡」が指図による占有移転で足りるとしても、被告には過失があるというべきである。

すなわち、リース会社もその経済的な実質においては金融機関であるから、信用供与の場面において被告には相手方の資産状況等につき慎重に調査すべき義務があり、また、本件の各契約は、本件機械がメーカーである関西鐵工所から納品された直後に締結されたものであるから、被告としてはメーカーに対し代金の支払状況等を確認すべき義務があり、右の確認を実行しさえしていれば、本件機械が原告によって注文され、藤谷商店に納品されたものであることが容易に判明したにもかかわらず、被告は、このような注意義務を尽さず漫然と阪和興業が本件機械の所有者であると軽信したのであって、被告に過失があることは明らかである。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因について

<証拠>を総合すると、関西鐵工所は、本件機械のメーカーで、本件機械を製作、所有していたこと、日鐵商事は、昭和五八年一〇月一二日、関西鐵工所から本件機械を代金一三七〇万円で買受け、同月二五日、鳥取県米子市の藤谷商店方でその引渡を受けたこと、日鐵商事は、同年一二月二〇日、藤谷商店に対し、本件機械を、リース期間九六か月、リース料一か月二一万三〇〇〇円、リース料総額二〇四四万八〇〇〇円の約定でリースし、簡易の引渡をなしたこと、原告は、同月二六日、日鐵商事から、リース事業全部の営業の譲渡を受け、本件機械の所有権を譲受けるとともに、藤谷商店との間の右リース契約上の貸主の地位を承継したこと、藤谷商店は、日鐵商事及び原告から、右営業譲渡と本件機械の譲渡、リース契約上の地位の承継の通知を受け、昭和五九年七月九日、日鐵商事及び原告に対し、右譲渡及びリース契約上の貸主の地位の承継を承諾したこと、藤谷商店は、昭和六二年一月七日、鳥取地方裁判所米子支部において、破産宣告を受けたので、原告は、藤谷商店の破産管財人勝部可盛に対し、右リース契約を解除する旨の意思表示をし、同破産管財人に対し、本件機械の引渡を要求したところ、同破産管財人は、被告が、本件機械につき、原告の所有権を争っているとして、右要求を拒絶したこと(右事実中、藤谷商店が、破産宣告を受けたこと及び同破産管財人が、原告の要求を拒絶したことは当事者間に争いがない。)が認められる。

二被告の承継取得の主張について

被告は、藤谷商店より本件機械を買受けた阪和興業から、本件機械を買受けた旨主張するが、藤谷商店あるいは阪和興業が本件機械の所有権を取得したことについての主張、立証がないから、被告が、本件機械を承継取得したとの主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

三被告の即時取得の抗弁について

1  <証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  被告は、機械等のリースあるいは割賦販売を業とする会社であるところ、昭和五八年一二月一三日ころ、鉄鋼、機械類を扱う商社である阪和興業から、藤谷商店に対し、本件機械及び別件機械を割賦販売してもらいたいとの話があり、被告会社の担当社員であった中山陽一は、同月一五日、阪和興業の担当者とともに、鳥取県米子市の藤谷商店方に赴き、右各機械の置いてある藤谷商店の第二工場で、物件を確認するとともに、右阪和興業の担当者らから、右工場やその敷地及び工場内の機械、備品等一切は、もと協和スチールという会社の所有であったが、右会社の業績が悪化したため、藤谷商店が総額一億円で買取ったものである旨の説明を受けた。

(二)  被告会社は、前記中山の報告をもとに、本件機械及び別件機械を阪和興業を通じて藤谷商店から買取り、それをさらに藤谷商店に所有権留保の割賦販売(いわゆる割賦バック契約)することとし、昭和五九年一月一三日、前記中山が、藤谷商店方において、藤谷商店との間で、本件機械及び別件機械について、代金は六七三〇万八〇〇〇円とし、これを同年一月から昭和六三年一二月まで、毎月末日限り一一二万一八〇〇円ずつ六〇回に分割して支払を受ける旨の約定の割賦販売契約を締結した。なお、阪和興業は、昭和五八年一二月二〇日ころ、本件機械及び別件機械を藤谷商店から買取り、被告は、昭和五九年一月三一日、阪和興業から、右各機械を代金五四二八万円で買取った。

(三)  被告は、昭和五九年一月三一日、前記割賦販売契約の第一回目の代金決済と同時に、阪和興業から、本件機械及び別件機械の引渡を受け、また、藤谷商店から同日付の割賦販売物件受領書を受取って、それを藤谷商店に引渡した。もっとも、右各機械は、終始、藤谷商店の第二工場に設置されていたものであり、右阪和興業からの引渡及び藤谷商店への引渡とも、書面上のものであり、客観的な機械の設置状況及びその占有状態に変化はなく、また、当日、その場に関係者が立ち会って納品、受渡をしたわけでもない。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

2  右1認定の事実によれば、本件機械は、昭和五八年一二月から昭和五九年一月にかけて、藤谷商店から阪和興業へ、阪和興業から被告へ、被告から藤谷商店へと順次売却されたものの、その間本件機械の客観的な占有状態には、全く変化はなく、終始藤谷商店において、本件機械を直接占有していたのであるから、藤谷商店から阪和興業への売買に伴う占有の移転は、いわゆる占有改定によるものと解されるし、また、右認定の事実関係からすれば、阪和興業から被告への占有の移転は、いわゆる指図による占有移転によるものと解される。

3  被告は、阪和興業から占有を取得した際、阪和興業が本件機械を所有するものと過失なく信じていたから、民法一九二条により、本件機械の所有権を取得した旨主張するのに対し、原告は、民法一九二条の要件のひとつである「引渡」には、指図による占有移転は含まれない旨反論する。

そこで判断するに、民法一九二条の立法趣旨は、一般動産取引の安全を維持するため、従前、動産の占有を他人に委託していた真の権利者よりも、むしろ、その他人から取引によって正当に占有を得、権利を取得したと信じるものを保護しようとするものであると解すべきところ、本件においては、前記一、三の1、2で認定した事実によると、本件機械の真の所有権者は日鐵商事で、藤谷商店は、同商事から本件機械のリースを受け、同商事のために本件機械を占有していた占有受託者であるところ、本件機械は、藤谷商店から阪和興業へ、阪和興業から被告へと順次売却されたが、その占有の移転は、前者が占有改定によるもの、後者が指図による占有移転によるものであり、その間、本件機械は、藤谷商店の直接占有の下にあって、被告に対する譲渡人阪和興業が直接占有者藤谷商店に指図するという意思表示があった以外には、外観上本件機械についての従来の占有事実の状態に何ら変更はなかったので、真の所有権者日鐵商事にとっては、藤谷商店に対する本件機械の占有委託関係に変化はないし、藤谷商店から阪和興業、さらに阪和興業から被告に対する本件機械の譲渡の事実を外部から認識することは困難であったといえ、このような場合にまで民法一九二条を適用するとすれば、かえって、一般取引の安全を害するおそれがあり、前記同条の立法趣旨に沿わないことになるから、被告の占有取得には同条は適用されないというべきである。

したがって、被告の即時取得の抗弁は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

四よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山本矩夫 裁判官及川憲夫 裁判官徳岡由美子)

別紙物件目録

ギャップ・シャーリング(G三―六二四)

モデルBC―八S集積装置付

切断能力 一六ミリメートル×二四五〇ミリメートル

機  番 二一八六四

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