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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)10985号 判決 1992年5月28日

大阪府高槻市上田辺町五番一八号

原告

株式会社田辺屋

右代表者代表取締役

伊藤学

右訴訟代理人弁護士

小松正次郎

小松陽一郎

大阪府茨木市竹橋町一三番三三号

被告

安田啓二

大阪府高槻市津之江町二丁目五番一〇号

被告

安田和也

大阪府茨木市竹橋町一三番三三号

被告(第二事件)

本家菓匠幸春有限会社

(旧商号・総本家田辺屋幸春有限会社)

右代表者代表取締役

安田啓二

右三名訴訟代理人弁護士

稲村五男

主文

一  被告らは、大阪府三島地域(高槻市、吹田市、茨木市、摂津市及び三島郡島本町)において、「総本家田辺屋幸春」という商号及び「冬籠殿」という営業表示を使用してはならない。

二  被告らは、右地域において、別紙被告商標目録(一)ないし(五)記載の各商標を商品菓子類及びその包装紙に使用してはならない。

三  被告安田啓二及び被告安田和也は金一〇〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を、被告らは金一〇〇万円及びこれに対する平成元年八月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告に対し、連帯して支払え。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告らの連帯負担とする。

六  この判決の第三項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは「総本家田辺屋幸春」という商号及び「冬籠殿」という営業表示を使用してはならない。

二  被告らは、別紙被告商標目録(一)ないし(五)記載の各商標を商品菓子類及びその包装紙に使用してはならない。

三  被告らは、原告に対し、連帯して金六〇〇〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  原告の営業、営業表示及び商品表示

原告は、昭和四三年一一月四日に設立された、生菓子の製造販売及びそれに附帯関連する一切の事業を目的とする株式会社であり(甲1)、その商号の略称である「田辺屋」を営業表示として使用し、その製造販売するあん巻き菓子に商標「冬籠」を使用している(争いがない。)。

二  被告らの行為

1  被告安田啓二(以下「被告啓二」という。)及び被告安田和也(以下「被告和也」という。)は、大阪府茨木市において、和菓子の製造販売業を営んでいたが、昭和五八年一〇月から平成元年三月一九日まで、その営業につき「総本家田辺屋幸春」という商号(以下「被告商号」という。)を使用し、昭和六一年九月一八日から平成元年二月一九日まで、右と併せて「冬籠殿という営業表示(以下「被告営業表示」という。)も使用した(右のうち、昭和六三年一月二六日以前の使用は争いがなく、その後の使用は乙77及び弁論の全趣旨)。被告啓二及び被告和也は、昭和五八年一〇月から平成元年三月一九日まで、別紙被告商標目録(一)ないし(三)記載の各商標(以下順次「被告商標(一)」、「被告商標(二)」、「被告商標(三)」という。)をその製造販売するあん巻き菓子の包装紙に付し、右商品の広告に使用し、また、昭和六一年九月一八日から平成元年二月一九日まで、別紙被告商標目録(四)及び(五)記載の各商標(以下順次「被告商標(四)」、「被告商標(五)」といい、被告商標(一)ないし(五)を一括して「被告商標」という。)をその製造販売するあん巻き菓子の包装紙に付し、右商品の広告に使用した(右のうち、昭和六一年九月一八日から昭和六三年一月二六日までの被告商標(一)ないし(四)の包装紙への使用は争いがなく、その余は、甲18の1及び2、検甲9の1ないし3、検甲10の1及び2、乙16、乙77、弁論の全趣旨)。

被告本家菓匠幸春有限会社(以下「被告会社」という。)は、「総本家田辺屋幸春有限会社」という商号で昭和六一年一二月一一日に設立され(争いがない。)、昭和六二年一月一日から右と同じ終期まで、同様に、被告商号、被告営業表示及び被告商標を使用した(証拠関係は右に同じ。但し、商号の変更登記は後記第三の三のとおり。)。

被告会社は、被告啓二及び被告和也の個人営業を法人組織に改めたものであり、実質的には同被告両名の個人営業と同一視されるべきものである(弁論の全趣旨)。

2  昭和五八年一〇月以降現在までの被告らの店舗は、大阪府高槻市津之江町所在の店舗(以下「高槻店」という。)と茨木市竹橋町(昭和六一年九月一七日まで)ないし同市永代町(同月一八日以降)所在の店舗(以下「茨木店」という。)の二店である(乙16、乙46、乙47、乙55、乙56、乙77)。

3  被告啓二は、次の各商標権(以下(一)の商標権を「被告商標権(一)」、(二)の商標権を「被告商標権(二)」といい、一括して「被告商標権」という。)を有していた(乙2の1~3、乙3の1~3)。

(一) 登録番号 一五八五三四四号

登録商標 別紙被告登録商標目録記載のとおり(以下「被告登録商標(一)」という。)

出願日 昭和五四年一一月二六日(商願昭五四-八九八四七号)

公告日 昭和五七年八月二三日(商公昭五七-四八三四七号)

登録日 昭和五八年四月二七日

商品の区分及び指定商品 三〇類(平成三年政令第二九九号による改正前) 菓子

(二) 登録番号 一八九七一八七号

登録商標 「冬籠殿」の文字を書してなるもの(以下「被告登録商標(二)」という。)

出願番号 商願昭五八-九七六七号

公告番号 商公昭六〇-三五六〇号

登録日 昭和六一年一〇月二八日

商品の区分及び指定商品 三〇類((一)に同じ) 菓子、パン

三  原告の請求の概要

原告の営業表示「田辺屋」及び商標「冬籠」は、いずれも大阪府高槻市及び茨木市を中心とする地方において広く認識され、また、「田辺屋」の文字は原告の商品表示たる機能も取得し、「冬籠」の文字は原告の営業表示たる機能も取得して、同様に広く認識されていること、並びに、<1> 被告商号は原告の営業表示「田辺屋」と、被告営業表示は原告の営業表示「冬籠」とそれぞれ類似し、これらの使用は原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせること、<2> 被告商標(一)ないし(三)は、原告の商品表示「田辺屋」と、被告商標(四)及び(五)は原告の商標「冬籠」とそれぞれ類似し、これらの使用は原告の商品と混同を生じさせることを理由に、不正競争防止法一条一項一、二号に基づき、被告ら(第一事件は被告啓二及び被告和也、第二事件は被告会社)に対し右各使用の停止を請求するとともに、同法一条の二第一項に基づき、被告らに対し、右各使用により原告に生じた損害一億三七八四万二八〇〇円の内金六〇〇〇万円とこれに対する第二事件の訴状送達の日の翌日である昭和六二年一一月二四日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の連帯支払いを請求(第二事件)。

四  主な争点

1  原告の「田辺屋」という営業表示ないし商品表示及び「冬籠」という商標ないし営業表示がいわゆる周知性を取得しているか。

2  原告の「田辺屋」と被告商号及び被告商標(一)ないし(三)、原告の「冬籠」と被告営業表示及び被告商標(四)及び(五)がそれぞれ類似し、被告らによる被告商号、被告営業表示及び被告商標の各使用が、原告の営業上の施設又は活動ないし原告の商品と混同を生じさせるか。

3  被告らが被告商号、被告営業表示及び被告商標を使用するおそれがあるか。

4  被告らが、被告商標を使用したことが、商標法により被告商標権の権利の行使と認められる行為(不正競争防止法六条)に該当するか。

5  被告啓二は相続ないし譲渡により「田辺屋」及び「冬籠」の名称を使用する権利を承継したから被告らの行為は適法であるとの主張の許否。

6  原告の請求が権利の濫用にあたるか。

7  原告が被告らの行為により営業上の利益を害されたか。それが肯定された場合、被告らが賠償すべき損害金額はいくらか。

第三  争点に対する判断

一  争点1(周知性)について

1  証拠(甲2、甲3、甲4の1~3、甲5、甲6の1~3、甲7の1~3、甲8、甲9の1~3、甲13の1~5、甲14の1、2、甲15、甲16、甲17、甲24~34の各1及び2、甲35、検甲1~3、検甲7、検甲8の1及び2、乙5の1~4、乙6の1~6、乙7~12、乙14の1、2、乙15、乙17、乙21、乙28、乙33、検乙12の1~6、原告代表者、被告〔被告会社代表者〕啓二)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 大阪府高槻市(昭和一八年の市制施行前は三島郡高槻町)所在の伊藤家では、江戸時代末期頃から、家業として「田邊屋」ないし「田辺屋」という商号で和菓子製造販売業を営み、その製造販売するあん巻き菓子に商標「冬籠」を使用してきており、明治四〇年頃には伊藤梅春こと梅吉(原告代表者伊藤学〔以下「学」という。〕及び被告啓二の祖父)が、高槻町において右家業を承継していた。

(二) その後、同人の営業を子である伊藤幸春こと孝三郎(被告啓二の父。以下「孝三郎」という。)が承継したが、大正八、九年頃その弟である伊藤明(学の父。以下「明」という。)が分家暖簾分けして、高槻町内において、「田邊屋」ないし「田辺屋」という商号で和菓子製造販売業を開始し、その製造販売するあん巻き菓子に「冬籠」の商標を使用し、大正一四年五月一五日には「冬籠」の商標について商標登録(登録番号第一七一三六八号)を了した。

(三) このようにして、高槻町内で「田邊屋」ないし「田辺屋」という商号を用いる和菓子業者が二店舗併存して営業するようになったので、本家の戸主である孝三郎は、商号を「本家田邊屋」として営業し、昭和一一年に同人が死亡してからは、その子である伊藤榮太郎(被告啓二の兄)が右営業を承継した。昭和一七年頃には、榮太郎の店を「東田辺屋」、明の店を「西田辺屋」ということもあった。

昭和一八年頃には、高槻市内においては、商標「冬籠」を使用したあん巻き菓子は、地元の古くからの銘菓として著名であり、「田辺屋」ないし「田邊屋」という商号は、右両名の営業であることを示す表示として著名となっていた。

(四) ところが、榮太郎は、昭和一八年頃召集を受けて軍務につき、営業に用いていた鍋釜類も国家に供出し、その営業を止め、終戦後も高槻市ないしは同市を商圏に含む地域で営業を再開することがなかった。他方、明の営業は継続され、次第に、高槻市内において、同人が同市の老舗である「田邊屋」の営業を承継しているものと認識され、「田邊屋」ないし「田辺屋」なる商号は同人の営業を表示し、商標「冬籠」も同人の商品を示すものとして、消費者に認識されるようになった。

(五) 昭和三三年一二月頃から、榮太郎の弟である伊藤文雄(被告啓二の兄。以下「文雄」という。)が、榮太郎の営業していた「本家田邊屋」の再興を企図して、同市内で、「本家田邊屋」及び「六代目本家田邊屋」という商号を用いて営業を開始し、その製造販売する菓子に「田邊屋の冬籠」及び「田邊屋の冬籠姫」の各商標を使用したところ、明が同人を被告としてその停止を求める訴えを提起し、昭和三八年八月二七日言渡されたその控訴審(大阪高等裁判所昭和三六年(ネ)第四九七号商号使用禁止等請求事件)判決において、文雄の右商標、商号の使用は不正競争防止法(昭和四〇年法律第八一号による改正前)一条一号、二号に該当することを理由に、右各商号の使用禁止、右各商号と右各商標の商品菓子類及びその包装紙への使用禁止並びに「本家田邊屋」の商号登記の抹消登記手続の各請求が認容され、文雄から上告申立があったが、昭和三九年九月一八日に上告棄却の判決が言渡されて、右控訴審判決は確定し、同人はその頃その使用を止めた。

(六) 明は昭和三九年三月に死亡し、学がその営業を承継し、昭和四三年一一月四日に原告が設立されてその営業をそっくりそのまま承継し、従前のとおり営業表示「田辺屋」及び商標「冬籠」の使用を続けている(争いがない。)。

原告は、「田辺屋」及び「冬籠」の文字を大書した、年数回の日刊新聞への折り込み広告、バス車体の側面広告、阪急電鉄高槻市駅、茨城市駅及び総持寺駅の各駅構内における看板広告、高槻市内の道路脇における看板広告、地方紙「きつつき」及び「北大阪新聞」への広告などを継続し、また、新聞、書籍及び雑誌で原告が老舗の和菓子店として紹介されるとともに商標「冬籠」を付したあん巻き菓子が有名な菓子として紹介された。

(七) 原告は、高槻市上田辺町(通称出屋敷町)所在の本店でその商品を販売する他、昭和五一年からは阪急電鉄高槻市駅北口前の支店でその商品を販売し、昭和五三年九月から平成元年八月までの間の原告の全商品の売上高は、別紙年度別売上高一覧表の「売上高」欄及び別紙年度別売上高損害金額一覧表の「現実売上高」欄記載とおり、年間一億九〇〇〇万円余ないし二億八〇〇〇万円余に上り、そのうち商標「冬籠」を付したあん巻き菓子が占める比率は約九五パーセントである。

(八) 大阪府の地域区分によると、高槻市は、三島地域(高槻市、吹田市、茨木市、摂津市及び三島郡島本町の四市一町からなる。)に属し、この地域は、昭和一五年四月一日に吹田市が設置されるまでの大阪府三島郡の郡域をほぼ継承しており(平成二年度大阪府統計年報、昭和六三年三月発行の大阪府の人口動向基礎資料編)、かつ高槻市と吹田市、茨木市、摂津市及び三島郡島本町はJR東海道本線、阪急電鉄京都線及び同千里線により結ばれている(顕著)。

2  以上の事実を総合すれば、遅くとも昭和五八年一〇月頃までには、原告の営業表示「田辺屋」及び商標「冬籠」は、少なくとも大阪府高槻市内及び同市を含む三島地域(同市、吹田市、茨木市、摂津市及び三島郡島本町)において広く認識されるに至っていたと認められ、同時に、「田辺屋」の文字は原告の商品表示たる機能を、「冬籠」の文字は原告の営業表示たる機能をそれぞれ取得し、その趣旨の表示としても同地域において広く認識されるに至っていたと認められ、現時点においても同様であると認められる。

被告らは、「冬籠」及び「ふゆごもり」なる文字が和菓子の商標として他に使用されている例がある旨主張する。確かに、雑誌「製菓製パン」の昭和五八年一一月号に「冬籠」なる名称の創作和菓子が掲載されたこと、同誌昭和五九年一一月号に東京都港区所在の和菓子店「塩野」の季節菓子として「冬籠り」なる名称の和菓子が紹介されたこと、同誌昭和六〇年一一月号に「冬ごもり」なる名称の和菓子の製造方法が掲載されたこと、昭和五四年一一月発行の書籍「茶菓子一二ケ月」に「冬籠」なる名称の和菓子が掲載されたこと、昭和五六年一一月発行の書籍「茶の湯歳時記冬」に「冬籠」なる名称の和菓子が掲載されたことがあり、また、京都市の和菓子店「虎屋黒川」、名古屋市の和菓子店「ことぶき屋」及び京都市の和菓子店「末富」で「冬籠」ないし「冬ごもり」と命名した和菓子を販売している事実が認められる(乙23~27、乙31、乙32、検乙6の1、2、検乙7の1~3、検乙8の1~3)けれども、右各書籍雑誌は広く消費者に読まれる発行部数の多い書籍ではなく、また右各販売事例も異なる地域におけるものであるから、これらの事実があっても、原告の「冬籠」の商標ないし営業表示が前記地域において周知性を取得した旨の認定を変更することはできない。

被告らはまた、<1>榮太郎は本家田辺屋の営業を再開する意思を有していたのであって、廃業したわけではなく、戦災敗戦とその後に続く未曾有の混乱の中で一時的に営業を中断しただけであり、同人がその意思を遂げないまま不遇のうちに亡くなったが、この間に営業及び商号の廃止や商号及び商標に関する権利の放棄はなく、同人の弟である文雄と子である伊藤昭八郎が「本家田辺屋」の営業を再開し、前記訴訟の敗訴によって再び中断したが、この際も営業及び商号の廃止や商号及び商標に関する権利の放棄はなく、被告らは、孝三郎や榮太郎の遺志を継いで、「本家田辺屋」の継承者として、右訴訟により再度中断した営業を再開したのであり、<2>榮太郎は、兵役に召集された頃、兄弟のうち誰でも可能な者が家業を再開するように言っており、海軍航空隊に在隊中の被告啓二と面会した際にも、「戦争が終わり運よく生還したら家業を再開せよ」と言い渡しており、また昭和二二年に復員した後、愛媛県松山市方面で「田辺屋」の冬籠の製造販売をしており、これらの事実は同人が家業及び「田辺屋」という商号を廃止していないことを示すものである旨主張する。

しかしながら、実際には、前記のとおり、伊藤家の家業であった和菓子店の系譜を継ぐ和菓子店は、昭和一八年頃以降昭和五八年一〇月頃までの間は、結果的には前記控訴審判決により「本家田邊屋」の商号等の使用禁止を命じられた、昭和三三年一二月頃から昭和三九年九月頃までの文雄の営業を除けば、明、学を経て原告に承継されたもののみであり、榮太郎は高槻市ないしはその近隣地域で営業を再開することはなかったのであるから、仮に榮太郎が自ら営業を再開する意思、或いは兄弟のうちの誰かに営業を再開させる意思を有しており、愛媛県において一時営業した事実があるとしても、そのような事実関係は、原告の高槻市を含む三島地域における前記の周知性の取得を妨げる事情とはなりえない。また、文雄の各商号ないし商標の使用期間は約六年間にとどまるうえ、不適法としてその使用停止を命じた確定判決に従い、昭和三九年九月には使用を中止しているのであるから、文雄の右使用も右周知性取得の認定を妨げる事情とはなりえない。

他方、高槻市を含む三島地域以外の地域において、原告の「田辺屋」の営業表示及び商品表示や「冬籠」の商標及び営業表示が広く認識されていると認めるに足りる証拠はなく、原告の請求第一、二項のうち、右地域における使用の差止めを求める部分はこの点で既に理由がない。

二  争点2(類似性及び混同)について

1  被告商号「総本家田辺屋幸春」について

被告商号のうち、「田辺屋」の部分は、原告の営業表示「田辺屋」と同一であり、その部分の外観、称呼及び観念において共通するが、「総本家」及び「幸春」の部分が存することにより外観、称呼及び観念が一応相違する。しかしながら、前記のとおり、高槻市を含む三島地域においては、「田辺屋」という営業表示が広く知られているから、被告商号に接した需要者は、そのうちの「田辺屋」の部分の外観や称呼ないし観念に強く影響され、「田辺屋」と全体的に類似のものとして受け取るおそれがあると認あられる。そして、「総本家」なる語は、「多くの分家の分かれ出たおおもとの本家」という意味を有し、「屋」なる語は、商売を営む家の屋号として用いる接尾語である(大辞林)から、被告商号のうち「総本家田辺屋」の部分からは、「田辺屋なる商号を用いて商売を営む家ないし会社の中で総本家たる立場にあるもの」との観念を生じると推認される。被告商号のうちの「幸春」の部分からは、創業者や現在の経営者等その営業主体にとって重要な人物の名ないし雅号が「幸春」であろうとの連想を生じると考えられるが、そのことにより右の「田辺屋なる商号を用いて商売を営む家ないし会社の中で総本家たる立場にあるもの」との観念の発生が妨げられることはないと考えられるから、被告商号に接した需要者は、右の観念からも、「田辺屋」という営業表示を用いる原告に対して本家と分家という密接な関係にあると認識するおそれがあると認められる。したがって、被告商号は、原告の営業表示「田辺屋」と類似するというべきである。

右類似性に、被告らと原告の営業がともに和菓子の製造販売業であることを併せ考慮すると、被告らが被告商号を高槻市を含む三島地域で使用することは、原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせる行為にあたると認められる。

2  被告商標(一)ないし(三)について

被告商標(一)「総本家田辺屋幸春」は、右と同旨の理由で、原告の商品表示「田辺屋」と類似し、被告らが高槻市を含む三島地域において被告商標(一)をその商品である菓子及びその包装紙に使用することは原告の商品と混同を生じさせる行為にあたると認められる。

被告商標(二)「旧高槻藩御用菓子司総本家田辺屋幸春」及び(三)「旧高槻藩御用菓子司六代目総本家田辺屋幸春」のうち、「旧高槻藩御用菓子司」の部分は、その商品の出所の歴史的由来を説明するものであり、「六代目」の部分は、現在その商品の出所が創業から数えて六代目にあたることを意味するものであるから、その商品の出所を表示する機能に乏しく、需要者は商品の出所の表示としては「総本家田辺屋幸春」の部分に着目すると認められる。そうすると、被告商標(二)及び(三)は、被告商標(一)についてと同旨の理由で、原告の商品表示「田辺屋」と類似し、被告らが高槻市を含む三島地域において被告商標(二)及び(三)をその商品である菓子及びその包装紙に使用することは原告の商品と混同を生じさせる行為にあたると認められる。

3  被告営業表示「冬籠殿」について

被告営業表示のうち、「冬籠」の部分は原告の営業表示「冬籠」と同一であって、外観における相違点は、末尾に「殿」の一文字がある点のみであり、「冬籠」からは「フユゴモリ」の称呼を生じ、「冬籠殿」からは「フユゴモリドノ」又は「フユゴモリデン」の称呼を生じると認められるが、両者は冒頭からの五音が同一であって、相違点は語尾の「ドノ」又は「デン」の二音の有無のみであり、また、「冬籠」からは、その字義に照らして、冬の間動物が巣の中に入りじっとしていること、あるいは冬の間寒さを避けて家にこもっていること、との観念を生じ、「冬籠殿」からは、その字義に照らして、<1> 「冬籠」に「殿」という敬称を付したものであり、冬籠りする人との観念、又は<2> 冬籠りをするための建造物の観念を生ずると認められ、「冬籠」の点で共通し、状態を意味するか人又は場所を意味するかという相違のみであり、結局、両者は、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、一応の相違は認められるものの、共通点が多い。そして、前記のとおり、高槻市を含む三島地域において原告の営業表示「冬籠」が周知となっているから、「冬籠殿」という営業表示に接した需要者は、そのうちの「冬籠」の部分の外観、称呼及び観念に強く影響され、「冬籠」という営業表示を用いる原告と同一か、又は密接な関係にある姉妹店等であることを示す全体的に類似の表示と受け取るおそれがあると認められる。したがって、被告営業表示は、原告の「冬籠」という営業表示と類似するというべきである。

右類似性に、被告らと原告の営業がともに和菓子の製造販売業であることを併せ考慮すると、被告営業表示を高槻市を含む三島地域で使用することは原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせる行為にあたると認められる。

4  被告商標(四)及び(五)について

被告商標(四)「冬籠殿」は、右と同旨の理由で、原告の商標「冬籠」と類似し、被告らが高槻市を含む三島地域において被告商標(四)をその商品である菓子及びその包装紙に使用することは原告の商品と混同を生じさせる行為にあたると認められる。

被告商標(五)は「冬籠殿」の漢字にその自然な称呼である「ふゆごもりでん」というルビをふったものであるから、被告商標(四)についてと同旨(「フユゴモリドノ」に関する部分を除く。)の理由で、原告の商標「冬籠」と類似し、被告らが高槻市を含む三島地域において被告商標(五)をその商品である菓子及びその包装紙に使用することは原告の商品と混同を生じさせる行為にあたると認められる。

5  なお、被告らは、<1> 被告らの高槻店の屋根看板は「巻絹六代」であり、また、茨城店においては、店頭に田辺屋の系図を記載して原告とは経営主体が異なることを明記したパネルを設置して、経営主体の相違を顧客に明示し、包装も工夫して、原告のものと異なることを明らかにしており、<2> 被告らの高槻店は原告の店舗から約二・五キロメートル離れており、茨木店(昭和六一年九月一八日に移転した後の店舗)は原告の店舗から約七・五キロメートル離れており、店舗の構え、その大小等も相違するうえ、<3> 被告商号、被告営業表示及び被告商標は、被告らの先祖代々が使用していた名称を承継して使用するものにすぎないから、一般顧客は原告被告それぞれの店舗の相違を十分に認識しており、営業ないし商品の混同を生じない旨主張するが、右各主張事実を考慮しても、前記認定を変更することはできない。

三  争点3(被告らが被告商号、被告営業表示及び被告商標を使用するおそれ)等について

被告らは、平成元年二月一九日限りで被告営業表示及び被告商標(四)及び(五)の使用を止めて、翌二〇日からはあん巻き菓子について商標「冬六代」を使用しており、同年三月一九日限りで被告商号及び被告商標(一)ないし(三)の使用も止めて、翌二〇日からは「菓匠幸春」及び「和菓子幸春」という営業表示を使用していること、被告会社は平成元年六月一二日に、商号を「本家菓匠幸春有限会社」と変更する旨の登記をし、被告啓二は、同年六月一三日には被告商標権(二)について商標権放棄の手続きをなし(同年八月一四日登録)、同年一〇月一二日には被告商標権(8)について商標権放棄の手続きをなした(同年一二月四日登録)こと、平成元年中には、老人クラブの機関誌の広告、電話帳の記事及び道路脇の広告看板に、被告商号、被告営業表示や被告商標が記載された事例が存したが、老人クラブ機関誌は発行者の手違い、電話帳は被告らの変更手続きが原稿締切日後であったこと、広告看板は広告代理店が契約期間満了後も放置していたことにそれぞれ起因するものであって、被告らの積極的な行為に基づくものではないこと、平成二年以降はそのような事例もなく、被告らは被告商号、被告営業表示及び被告商標を一切使用していないことが認められる(甲18~22、検甲9、検甲10、乙42~58、乙61、乙77、検乙10、検乙11、被告〔被告会社代表者〕啓二)。

しかしながら、被告(被告会社代表者)啓二は文雄の弟であり、前記一1(五)記載の紛争の存在及び確定判決の内容を熟知し、かつ、昭和五一年には学を含む明の相続人が文雄の相続人に対して前記一1(五)記載の使用行為による損害の賠償を請求する訴訟において被告の一人となり、昭和五三年一一月に大阪地方裁判所において請求認容の判決を受け、同年一二月には同事件原告らと右損害賠償債務の支払いに関する和解契約を締結したにもかかわらず、孝三郎の息子であること等を根拠に、同人や榮太郎が営業していた「本家田邊屋」の営業を以前と同じ営業形態で再開する権利があるとの考えから、被告商号、被告営業表示及び被告商標を使用したものであり、現時点においてもそれを使用することは適法であると考えていること(甲35、甲36、甲37の1~5、乙75、乙77、原告代表者、被告〔被告会社代表者〕啓二)に照らすと、被告らは、現時点においても、被告商号、被告営業表示及び被告商標を使用するおそれがあると認められる。

そして、前記二認定のとおり、被告らの被告商号及び被告営業表示の使用は、原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせる行為であり、被告商標の使用は原告の商品と混同を生じさせる行為であるから、原告は、被告らの行為によって「営業上ノ利益ヲ害セラルル虞アル者」に該当する。

四  争点4(不正競争防止法六条の抗弁)について

あん巻き菓子は、被告商標権の指定商品に属するから、あん巻き菓子又はその包装に「総本家田邊屋幸春」及び「冬籠殿」の標章を付し、これを販売し、その標章を商品に関する広告に付す行為は、いずれも、一応、被告商標権の行使(商標法二五条、二条三項)にあたるように見える。

しかしながら、被告啓二は、昭和五四年夏頃に和菓子の販売業を始めるに際して商号中に「田辺屋」の文字を使用したいとの強い希望を有していたものの、前記一1(五)記載の紛争の存在及び確定判決の内容を知っていたために、同様の紛争が生じることを予想してその使用は控え、「菓匠幸春」という商号を用い、昭和五七年一〇月にあん巻き菓子の製造販売を始めた際にも、「冬籠」の文字を含む商標を使用したいとの強い希望を有していたものの、同様にその使用は控えて商標「巻絹六代」を使用しつつ、他方で、被告商標、被告商号及び被告営業表示を使用した場合に文雄のときと同様不正競争防止法に基づきその使用停止を命じられることを免れる目的で、原告には秘密裡に、昭和五四年一一月に被告登録商標(一)の、昭和五八年には同(二)の各商標登録出願をし、その登録を受けて、その登録商標権行使名義で被告商標、被告商号及び被告営業表示の使用をしたものであり(右三で認定の事実、乙2の1~3、乙3の1~3、乙77、被告〔被告代表者〕啓二)、本家田邊屋を営業していた孝三郎や榮太郎と被告啓二及び被告和也との血縁関係に照らすと、被告啓二及び被告和也が「田辺屋」や「冬籠」を商標、商号ないし営業表示として使用したいと考えることは心情的には理解できないわけではないけれども、右事実関係の下においては、右被告らの各行為は、信義に従った誠実な商標権の行使とはおよそかけ離れたものであって、権利の濫用に該当し、不正競争防止法六条所定の商標法による権利の行使と認めることはできない。

五  争点5(被告啓二の「田辺屋」及び「冬籠」の名称を使用する権利の取得)について

被告らは、榮太郎は、召集された頃、兄弟のうち誰でも可能な者が家業を再開するように言い、海軍航空隊に在隊中の被告啓二と面会した際にも、「戦争が終わり運よく生還したら家業を再開せよ」と言い渡しており、被告啓二は、孝三郎から、榮太郎、文雄を介して相続ないし譲渡により「田辺屋」及び「冬籠」の名称を使用する権利を承継した旨主張するが、榮太郎の営業は高槻市ないしその近隣地域では再開されなかったのであり、同人がその営業ないし商品に使用していた商号「田辺屋」及び商標「冬籠」の使用が継続されていたとはいえないから、仮に被告ら主張の者の間で単に(営業とは無関係に)「田辺屋」及び「冬籠」の名称を使用する権利の承継がされたとしても、そのことにより、前記周知性を取得した営業表示及び商品表示を有する原告に対する関係において、被告らが、被告商号、被告営業表示及び被告商標を適法に使用しうる権限を取得することはないと考えられるから、被告らの右主張も理由がない。

六  争点6(原告の請求が権利の濫用にあたるか)について

1  被告らの主張

明は大正九年頃、梅吉及び孝三郎から、暖簾分けとして分店を出すことを許されたものであるのに、大正末期にその分店の看板に「正本家田辺屋」と明記し、梅吉、孝三郎に無断で自己の単独名義で「冬籠」及び「田邊屋〓冬籠」の商標登録をしている。これは、本家田邊屋を裏切り、それに取って代わろうとする不遜な行為であり許されない行為である。そして、榮太郎も明も、被告啓二ら榮太郎の兄弟が「田辺屋」という営業表示及び「冬籠」の商標を含めて家業を承継することを認めていたのであり、被告啓二は、この家業を本家においても継承発展させることが、父孝三郎や祖先に対する最大の供養と確信して、和菓子の製造販売業務を行っているのである。分家でありながら本家を裏切り、それに取って代わろうとした明の流れを汲む原告が本家の流れを汲む被告らに対し、「田辺屋」ないし「冬籠」を含む被告商号、被告営業表示及び被告商標の使用差止を請求することは信義誠実の原則及び公序良俗に反し、権利の濫用として許されない。

2  判断

被告ら主張の事実関係を考慮しても、原告の請求が権利の濫用にあたるとは認め難い。

七  争点7(損害の発生及び額)等について

1  前記認定のとおり、被告らの被告商号及び被告営業表示の使用は、原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせる行為、被告商標の使用は原告の商品と混同を生じさせる行為であり、かつ、被告らの営業は原告の営業と同じく和菓子の製造販売業であり、被告らが被告商標を使用した商品は、原告が商標「冬籠」を付している商品と同じくあん巻き菓子であるうえ、被告らの店舗は原告の店舗と同一市内ないし隣接市内に位置することに照らすと、被告らと原告の営業及び商品は市場において競合する関係にあると認められ、したがって、原告は、被告らの右行為により営業上の利益を害せられたと認められる。そして、前記認定事実に照らして考えると、被告らは右行為につき少なくとも過失があったことは明らかである。

2  証拠(甲24~34の各1及び2、甲35、原告代表者)によれば、原告の昭和五三年九月(第一一期)から平成元年八月(第二一期)までの営業年度毎の全商品の売上高の推移は、別紙年度別売上高一覧表の「売上高」欄及び年度別売上高損害金額一覧表の「現実売上高」欄記載のとおりであり、昭和五四年九月(第一二期)から昭和五八年八月(第一五期)までの各営業年度の前年度と比較した年間売上高の伸び率は、別紙年度別売上高一覧表の「伸び率」欄記載のとおりであり、第一三期、第一四期及び第一五期の各伸び率を平均すると約八・一三パーセント、右売上高中に占める「冬籠」の商標を使用したあん巻き菓子の割合は約九五パーセントであると認められる。

3  原告は、被告らによる被告商号、被告営業表示及び被告商標の使用行為がなかったならば、第一六期(昭和五八年九月~五九年八月)の売上高は、少なくとも第一五期の売上高の八・一三パーセント二二一一万二〇〇〇円(一〇〇〇円未満は切捨て)は増加したであろうことが当然に予想され、第二一期まで同様に前期よりも二二一一万二〇〇〇円ずつ増加して、別紙年度別売上高損害金額一覧表の「本来の売上高」欄記載のとおりの売上高になるべきところ、被告らの商品と原告の商品が混同され、また原告の信用の低下を招来し、利用者の混乱を惹起して、いわゆる客離れ現象を生じた結果、現実の売上高は同表の「現実売上高」欄記載のとおりの額にとどまり、その結果、同表の「売上高差額」欄記載のとおりの得べかりし売上金額を得ることができず、原告の売上高に対する利益率は三〇パーセントであるから、右金額の三〇パーセントにあたる得べかりし利益金一億三七八四万二八〇〇円の損害を被った旨主張する。

4  しかしながら、まず、経済界ないし和菓子業界一般において、売上高が従前の売上高の増加率と同じ割合で増加する蓋然性が高いとの経験則が存するとは認め難い。高槻市においては、昭和四九年に開店した西武百貨店や昭和五四年一一月に開店した松阪屋百貨店の中に、著名な和菓子店及び洋菓子店が多数出店してきているうえ、昭和五六年に原告の支店に近接して有力な和菓子店も出店した等、原告と厳しい競争関係に立ち強い顧客吸引力を有する菓子店が多数存在するようになり、これら菓子店の売上が原告の売上に影響を及ぼす関係にある(検乙9の2、被告〔被告会社代表者〕啓二)上に、原告支店の前面道路は、阪急電鉄京都線連続立体交差事業工事のため、昭和五八年五月から、仮線路を原告支店前面道路に敷設したことによって道路幅員が大幅に縮小され、人通りが減少し、立地条件が悪化し当然売上も減少したと推認される事情が認められる(乙79、検乙9の1、原告代表者)。その上、製菓製パンの業界誌「製菓製パン」には、昭和五八年頃以降製菓業界が構造的不況業種の仲間入りをしかねない慢性的伸び悩みの状態にある旨の報道もある(乙36~40)。また、総務庁統計局発行の消費者物価指数年報(平成二年版)によると、全国の品目別価格指数のうちの菓子類の指数は、昭和六〇年を一〇〇とした場合、昭和五三年が八三・八、昭和五四年が八四・一、昭和五五年が八八・六、昭和五六年が九四・二、昭和五七年が九七・三、昭和五八年」が九八・四、昭和五九年が九九・三、昭和六〇年が一〇〇、昭和六一年が一〇〇・八、昭和六二年が一〇一・一、昭和六三年が一〇〇・八、昭和六四年(平成元年)が一〇二・六であり、昭和五四年から五八年までの四年間で約一七・〇パーセントの上昇率であったのに対して、昭和五八年から平成元年までの六年間では僅かに約四・三パーセントの上昇率にとどまっており、この事実に照らすと、原告の第一一期から第一五期にかけての売上高増加は、菓子類一般の物価上昇(上昇率約一七・〇パーセント)と歩調を合わせての増加であり、第一六期以降の売上高増加率の停滞は、菓子類一般の物価の推移と歩調を合わせての停滞が主な原因と推認することも可能である。

これらの事実関係を総合して考えると、到底、原告主張のように順調に原告の売上高が増加すべき蓋然性があったと推認することはできないといわざるをえない。

しかし、被告らの被告商号及び被告営業表示の使用は、原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせる行為であり、被告商標の使用は原告の商品と混同を生じさせる行為であること、被告らの営業は原告の営業と同じく和菓子の製造販売業であり、被告らが被告商標を使用した商品は、原告が商標「冬籠」を付している商品と同じくあん巻き菓子であること及び被告らの店舗と原告の店舗との位置関係に、右の原告の売上高の推移、被告会社の売上高(乙62の1及び2、乙63、乙76~78、被告〔被告会社代表者〕啓二)、被告啓二、被告和也及び被告会社による被告商号、被告営業表示及び被告商標の各使用期間等本件に現れた一切の事情を総合して考えると、右混同に基づく原告の売上減少及び信用毀損による損害額は、被告啓二及び被告和也による個人営業であった昭和五八年一〇月から昭和六一年一二月末日までの間に一〇〇万円、被告会社が営業を開始した昭和六二年一月一日から平成元年八月三一日までの間に一〇〇万円と認めるのが相当であり、右金額を超える損害が原告に生じたことを認めるに足りる証拠はない。

八  結論

以上によれば、原告の請求は、被告らに対して大阪府高槻市を含む三島地域における被告商号、被告営業表示及び被告商標の使用の各停止を、被告啓二及び被告和也に対して右損害金一〇〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月二四日(第二事件の訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを、被告らに対して右損害金一〇〇万円及びこれに対する平成元年八月三一日(右損害発生期間の末日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いをそれぞれ求める限度で理由があり、その余は理由がない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 辻川靖夫 裁判官長井浩一は転補のため署名捺印することができない。 裁判長裁判官 庵前重和)

(別紙)

被告商標目録

(一) 総本家田辺屋幸春

(二) 旧高槻藩御用菓子司総本家田辺屋幸春

(三) 旧高槻藩御用菓子司六代目総本家田辺屋幸春

(四) 冬籠殿

(五) 冬籠殿

(別紙)

被告登録商標目録

<省略>

(別紙)

年度別売上高一覧表

<省略>

(別紙)

年度別売上高損害金額一覧表

<省略>

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