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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)2217号 判決 1990年4月23日

原告

盛浩志

被告

木村吉伸

主文

一  被告は、原告に対し、五四二五万四五四四円及びうち五一二五万四五四四円に対し昭和五八年三月一八日から、うち三〇〇万円に対し昭和六一年三月二七日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、一億六五一六万四〇〇〇円及びうち一億六一一六万四〇〇〇円に対し昭和五八年三月一八日から、うち四〇〇万円に対し昭和六一年三月二七日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  1について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和五八年三月一七日午後二時ころ

(二) 場所 大阪府豊中市待兼山町一番一号先路上(大阪大学豊中地区構内通学道路、以下、「本件事故現場」という。)

(三) 第一加害車両 自動二輪車(登録番号、一神戸ち六八〇〇号、以下、「被告車」という。)

右運転者 被告

(四) 第二加害車両 自動二輪車(登録番号、一泉え五八三九号、以下、「岩元車」という。)

右運転者 訴外岩元伸一(以下、「訴外岩元」という。)

(五) 態様 原告(昭和三七年九月一六日生)を後部座席に同乗させて見通しの悪いカーブとなつている本件事故現場の道路を東方から北西方に向かつて進行してきた被告車と、北西方から東方に向かつて進行してきた岩元車が、互いに相手車両の発見が遅れて衝突の危険が生じ、それぞれハンドルを左に切つて衝突を避けようとした際に、両車とも安定を失つて路上に転倒し、路上に投げ出された原告の頭部に岩元車の前輪部が落下した(以下、「本件事故」という。)。

2  責任原因

被告は、本件事故当時、被告車を所有してこれを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 受傷、治療経過等

(1) 受傷

原告は、本件事故により、脳挫傷、右側頭部・頭頂部裂創、右鎖骨骨折、遷延性意識障害等の傷害を受けた。

(2) 治療経過

原告は、本件事故直後、大阪府立千里救命救急センターに収容されて昭和五八年七月五日まで同センターに入院したのち、同日大阪府立病院に転院して同年一〇月二〇日まで同病院に入院し、右各病院で穿頭術、脳室・腹腔短絡術等の治療を受けたが、意識障害の改善は見られないままで、同日医療法人錦秀会阪和記念病院(以下、「阪和記念病院」という。)に転院し、その後現在に至るまで同病院に入院中である。

(3) 後遺障害

原告は、昏睡、四肢麻痺、咀嚼及び言語機能全廃(経管栄養投与を要する)、大小便の失禁状態が継続し、自発的呼吸も気管切開下で辛うじて維持しているものであり、終生入院加療及び介護を必要とするいわゆる植物人間の状態にあつて、回復の見込はない。

(二) 損害額

(1) 治療費 二六一万三三九九円

原告の前記治療のために、大阪府立千里救命救急センターにおいて一七一万四〇四一円、大阪府立病院において八九万九三五八円、合計二六一万三三九九円の治療費を要した。

(2) 差額ベツド代 一五〇三万一三七〇円

原告は、前記入院中に大阪府立病院において八万六〇〇〇円、阪和記念病院において一四九四万五三七〇円、合計一五〇三万一三七〇円の差額ベツド代を要した。

(3) 付添看護料 一六四〇万〇七〇八円

原告の症状は、事故以来前述のとおり重篤で経管栄養投与、排便等の処置のため専門の付添人が必要であるため、阪和記念病院に入院した昭和五八年一〇月二〇日から専属の付添婦を雇用しており、平成元年七月三一日までにその費用として合計二二〇九万四四〇八円を支払つたが、そのうち五六九万三七〇〇円については、国民健康保険より補助を受けたので、これを控除した一六四〇万〇七〇八円が付添看護による損害となる。

(4) 入院雑費 二三二万九〇〇〇円

原告は、前記のとおり、平成元年七月三一日までに二三二九日間入院を継続しており、この間少なくとも一日当たり一〇〇〇円、合計二三二万九〇〇〇円の雑費(近親者の通院費を含む。)を要した。

(5) 将来の差額ベツド代・付添看護料・入院雑費

原告は、前記の状態で回復の見込がないため、終生入院加療及び介護(付添看護)を要するものであるが、本件事故による受傷後意識を回復しないものの六年余にわたつて生命を維持しているので、少なくとも平成元年八月以降一〇年間は生存可能であり、右生存可能期間中に以下のとおりの差額ベツド代、付添看護料、入院雑費を要する。

<1> 差額ベツド代 二〇九〇万八一九六円

原告の阪和記念病院における差額ベツド代は平成元年七月三一日現在、一日当たり七二一〇円であるから、右金額を基礎とし、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、平成元年八月以降の一〇年間に要する差額ベツド代の現価を計算すると二〇九〇万八一九六円となる。

(計算式)

7,210×365×7.9449=20,908,196

<2> 付添看護費 一九一〇万七三六五円

原告は、平成元年七月三一日現在、一日当たり一万〇二三九円の付添看護費を要し、そのうち三六五〇円は国民健康保険から補助を受け、その残額の一日当たり六五八九円を自己の負担で支払つているから、右金額を基礎とし、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、平成元年八月以降の一〇年間に要する付添看護料の現価を計算すると一九一〇万七三六五円となる。

(計算式)

6,589×365×7.9449=19,107,365

<3> 入院雑費 二八九万九八八八円

原告が必要とする入院雑費は一日当たり一〇〇〇円とみるのが相当であるから、右金額を基礎とし、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、平成元年八月以降の一〇年間に要する入院雑費の現価を計算すると二八九万九八八八円となる。

(計算式)

1,000×365×7.9449=2,899,888

(6) 逸失利益 一億五六八四万〇一七二円

原告は、昭和五七年四月に大阪大学歯学部に入学し、本件事故当時、同学部に一回生として在籍していたものであり、本件事故に遭わなければ、昭和六三年三月に二五歳で同学部を卒業し、同年から歯科医師として稼働するはずであつたところ、本件事故による前記後遺障害のために労働能力の一〇〇パーセントを喪失したから、昭和五九年賃金センサス第二巻第二表の医療業に従事する大学卒男子労働者の平均年収である七〇三万五四〇〇円を基礎収入とし、就労可能期間を二五歳から六七歳までの四二年間とし、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、平成元年七月末の現価として算定した一億五六八四万〇一七二円相当の得べかりし利益を喪失したものというべきである。

(計算式)

7,035,400×22.2930=156,840,172

(7) 慰謝料 二〇〇〇万円

原告が前記受傷のために受けた精神的苦痛に対する慰謝料として相当な額は、二〇〇〇万円を下らない。

4 過失相殺

原告の本件事故による受傷については、ヘルメツトを着用しないで被告車に同乗した原告の過失が寄与しているので、前記3の損害額合計二億四一八七万〇一七七円についてその二割を過失相殺として減額すると、原告が賠償請求をしうる損害額は一億九三四九万六一四一円となる。

5 損害の填補 四三七四万円

原告は、本件事故につき、自賠責保険から四一三〇万円、被告から一四四万円、訴外岩元から一〇〇万円の支払いを受け、これを前記損害に充当した。

6 弁護士費用

原告は、本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬として四〇〇万円を支払うことを約した。

よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として、一億六五一六万四〇〇〇円及びうち弁護士費用を除く一億六一一六万四〇〇〇円については、本件不法行為の日である昭和五八年三月一七日から、弁護士費用四〇〇万円については、本件訴状送達の翌日である昭和六一年三月二七日から、いずれもその支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1のうち、(一)ないし(四)及び(五)のうち原告が被告車の後部座席に同乗していたことは認めるが、その余は否認する。

2  同2のうち、被告が本件事故当時、被告車を所有していたことは認める。

3  同3、(一)は不知。同3、(二)のうち、(2)(但し、大阪府立病院入院中の部分を除く。)、(3)及び(5)は否認し、その余は知らない。

阪和記念病院の差額ベツド代及び同病院入院中の付添看護費の支払いは、将来分も含めて、本件事故と相当因果関係がない。また、原告は、逸失利益の算出について、医療業に従事する大学卒男子労働者の平均年収を基礎収入としているが、近時歯科医師の国家試験の合格率は年々低下しており、本件事故当時、大阪大学歯学部に入学して一年未満しか経過しておらず専門課程にすら進級していない原告が歯科医師になる蓋然性は高いとはいえないから、原告の逸失利益について、医師としての平均年収を基礎とするのは相当でない。

4  同4については、原告に主張のような過失があることは認めるが、過失割合は争う。

5  同5は認める。

6  同6は知らない。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故による原告の受傷については、原告にも、ヘルメツトを着用しないで被告車の後部座席に同乗し、本件事故現場付近が見通しの悪いカーブであるうえに坂道であることを熟知しながら、運転者である被告の身体または被告車の車体を把持することなく同乗していた過失があるから、損害額の算定に当たつては、原告の右過失を斟酌してその五割を減額すべきである。

2  好意同乗

原告は、自動二輪車の運転に興味を持つて、事故当日、同級生である被告に対して被告車を運転させてほしい旨を懇請し、被告がこれを拒絶すると、それでは後部座席に同乗させてほしいと懇請したため、被告は、先に拒絶したことに対する負い目もあつて、やむを得ず原告を後部座席に同乗させたものであるから、本件事故によつて生じた損害の全額を被告に負担させるのは相当でなく、しわゆる好意同乗減額としてその三割を減額すべきである。

四  抗弁に対する認否及び原告の主張

1  抗弁1のうち、原告がヘルメツトを着用しないで被告車の後部座席に同乗していたことは認めるが、その余は争う。

2  抗弁2は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実(本件事故の発生)は、(五)(事故の態様)を除き、当事者間に争いがなく(但し、(五)記載の事実のうち、原告が被告車の後部座席に同乗していたことは当事者間に争いがない。)、成立に争いのない甲第一ないし第四号証、同第六、第七号証、乙第三、第四号証、本件事故現場付近の写真であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により昭和五八年一二月八日に原告後見人盛浩三が撮影したものと認められる検甲第一号証の一ないし二二、訴外岩元(分離前の相被告)及び被告の各本人尋問の結果を総合すれば、本件事故現場の状況及び本件事故の態様として、本件事故現場は、大阪大学豊中地区構内の西門(石橋門)から国道一七六号線石橋交差点に通じ、北側の高さ約一・四メートルのコンクリート塀が設置されている大阪大学構内沿いに石橋方面に向つて南西方向から西方向に右にカーブし、なだらかな下り坂となつている幅員六メートル前後の見とおしの悪いアスフアルト舗装道路であつて、右道路は大阪大学の通学道路として大阪大学が管理しており、同大学により車両は時速一〇キロメートル以下で走行するよう指示され、右指示は道路際に設置された標識により表示されていること、被告は、後部座席に原告を同乗させた被告車を運転して、大阪大学の構内から石橋方向に向つて時速約三五キロメートルの速度で右道路を進行してきて、右カーブの途中にある道路のくぼみを避けるために道路右側寄りに進路をとつたところ、折から訴外岩元が岩元車を運転して右道路を石橋方向から右カーブに向つて時速約二〇キロメートルの速度で対向してきたので、衝突の危険を感じてブレーキ及びハンドルの操作による衝突回避の措置をとつたが、前記スピードのためもあつてハンドル操作を誤り、そのため被告車はバランスを失つて車体右側面を下にして転倒し、約六・二メートル路面を滑走して道路の中央付近に停止し、被告車の後部座席に同乗していた原告は道路右側(北側)に投げ出されたこと、他方、岩元車は、訴外岩元が約二一メートル前方に被告車を発見するのと同時にブレーキをかけるとともに左にハンドルを切つたため、被告車との衝突を避けることができたが、道路左(北側)端の側溝のコンクリート製溝蓋によつて生じていた段差に車輪をとられ、被告車から投げ出された後路面を滑走してきた原告の体の上に転倒したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  被告が本件事故当時被告車を所有し、これを運転していたことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告は、被告車を自己のために運行の用に供していた者として、自賠法三条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償する責任がある。

三  そこで、原告の損害について検討する。

1  成立に争いのない甲第五号証、同第八ないし第一一号証、同第一六号証及び証人盛敬子の証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、本件事故により、脳挫傷、右側頭部から頭頂部にかけての裂創、右鎖骨骨折、遷延性意識障害の傷害を受け、事故直後に昏睡状態のまま大阪府立千里救命救急センターに搬入されて入院し、意識改善のための種々の治療と気道確保のための気管切開術を受け、更に、その後現れてきた水頭症による脳室拡大の治療のために二度にわたつて脳室・腹腔吻合術(短絡形成手術)を受けたが、昏睡状態からの改善は見られないままで推移したので、昭和五八年七月五日、大阪府立病院に転院し、同病院においても同年八月一〇日に脳室・腹腔短絡再建術を受けるなど意識改善のための種々の治療を受けたこと、しかし、原告の意識はやはり改善せず、目を開け自発呼吸はしているものの一切の反応を示さない状態のまま推移したので、脳外科的にはもはや施すべき治療方法はないとして同病院から退院を求められたが、原告は、咀嚼機能を全廃しているため栄養を経管摂取しており、また、痰による窒息防止のため、気管の切開口から頻繁に吸引する必要があり、更に種々の感染症の防止のためにも入院を継続する必要があるので、同年一〇月二〇日に阪和記念病院に転院し、以後平成二年二月現在まで同病院に入院していること、原告の意識障害は、その後も目だつた改善は見られず、現在も意思疎通も、四肢の自動運動も全くできない状態が継続しており、右状態が改善する見込はないが、特に生存に不安を感じさせるような状況はないことが認められる。

2  次に、右認定の原告の受傷内容、治療経過及び症状を前提に損害額について検討する。

(一)  治療費 二六一万三三九九円

成立に争いのない甲第一三号証の一ないし五、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、前認定の大阪府立千里救命救急センターにおける治療のために一七一万四〇四一円、大阪府立病院における治療(差額ベツド代を除く。)のために八九万九三五八円、合計二六一万三三九九円の治療費を要したことが認められる。

(二)  差額ベツド代 一五〇三万一三七〇円

前掲甲第一三号証の一ないし三、成立に争いのない甲第一三号証の六、証人盛敬子の証言により真正に成立したものと認められる甲第一四号証の一ないし六九及び同証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、大阪府立病院入院中一時特別室を使用して八万六〇〇〇円の差額ベツド代を、阪和記念病院においては二人部屋の特別室を使用して一四九四万五三七〇円の差額ベツド代を支払つたことが認められるところ、前認定の原告の症状の内容及び程度を考慮すれば、右支出額は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(三)  付添看護料 一六四〇万〇七〇八円

証人盛敬子の証言により真正に成立したものと認められる甲第一五号証の一ないし二一七及び同証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、前認定のとおり頻繁に痰を吸引する必要があり、また、給食、排便等のためにも常時付添による看護ないし介助が必要であるため、昭和五八年一〇月二〇日以降付添婦を雇用し、平成元年七月三一日までにその費用として合計二二〇九万四四〇八円を支出したことが認められるところ、前認定の原告の症状の内容及び程度を考慮すれば、右支出額も本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であるが、このうち五六九万三七〇〇円については、原告において国民健康保険組合から補助を受けた旨自認しているから、これを控除した一六四〇万〇七〇八円が付添看護による損害となる。

(四)  入院雑費 二三二万九〇〇〇円

原告は、前認定のとおり、事故当日より平成元年七月三一日までに二三二九日間入院を継続しており、証人盛敬子の証言によればこの間少なくとも一日当たり一〇〇〇円、合計二三二万九〇〇〇円の雑費を要したものと認められる。

(五)  将来の差額ベツド代・付添看護料・入院雑費 三四五八万五〇四七円

前認定の原告の症状に証人盛敬子の証言を総合すれば、原告は今後も従前と同様の入院を継続する必要があるとともに常時付添による看護ないし介助を必要とするものと認められる。そして、前認定のとおり、原告は本件事故による受傷後意識を回復しなしままに六年一一か月間に渡つて生存しており、現在特に生存に不安を感じさせるような状況にはないことからすると、原告は、その主張のとおり少なくとも平成元年八月以降一〇年間は生存可能であるものと推認されるから、右生存可能期間を基礎として将来必要とする差額ベツド代・付添看護料・入院雑費の本件事故当時の現価を算定すると、以下のとおり、その合計額は三四五八万五〇四七円となる。

<1> 差額ベツド代 一六八四万九六六五円

前掲甲第一四号証の六九によれば、原告の阪和記念病院における差額ベツド代は、平成元年七月三一日現在、一日当たり七二一〇円であることが認められるから、原告は同年八月以降においても少なくとも同程度の差額ベツド代を必要とするものと推認される。そこで、これを基礎にホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告が将来必要とする差額ベツド料の本件事故当時の現価を算出すると一六八四万九六六五円(一円未満切り捨て、以下、同じ。)となる。

(計算式)

7,210×365×(11.5363-5.1336)=16,849,665

<2> 付添看護費 一五三九万八三九七円

前掲甲第一五号証の二一七、証人盛敬子の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告の付添看護のために、平成元年七月三一日現在、一日当たり一万〇二三九円を要しているが、国民健康保険より一日当たり三六五〇円の補助を受けているので(右補助は原告が生存する限り継続する。)、原告の負担となるのは残額の一日当たり六五八九円であることが認められるから、原告は将来においても少なくとも六五八九円の付添看護料を必要とするものと推認される。そこで、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告が将来必要とする付添看護費の本件事故当時の現価を算出すると一五三九万八三九七円となる。

(計算式)

6,589×365×(11.5363-5.1336)=15,398,397

<3> 入院雑費 二三三万六九八五円

前認定の原告の症状及び入院継続の必要性からすれば、原告は、平成元年八月以降においても一日当たり少なくとも一〇〇〇円の入院雑費を要するものと認められるから、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告が将来必要とする入院雑費の本件事故当時の現価を算出すると二三三万六九八五円となる。

(計算式)

1,000×365×(11.5363-5.1336)=2,336,985

(六) 逸失利益 四四七四万六九六八円

前掲甲第八号証、乙第三号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故当時、原告は満二〇歳(昭和三七年九月一六日生)の健康な男子で、大阪大学歯学部一回生に在籍していたことが認められ、国立大学歯学部の学生の大多数が卒業年次に歯科医師資格の国家試験に合格して以後歯科医師として稼働していることは公知の事実であるから、本件事故に遭わなければ、原告は昭和六三年三月には二五歳で同学部を卒業し、以後六七歳まで四二年間歯科医師として稼働可能であり、その間を平均すると、毎年少なくとも昭和六三年賃金センサス第二巻第一表の医療業に従事する二五歳ないし二九歳の大学卒男子労働者の平均年収額である四五九万七〇〇〇円を下らない収入を得ることができるはずであつたと推認することができるところ(右推認を妨げるような事情を認めるべき証拠はない。)、前認定の原告の症状によれば、原告は本件事故による受傷のためにその労働能力の一〇〇パーセントを喪失したものと認められる。しかしながら、原告は、前認定のとおり終生入院を必要とするのであるから、将来の生活に必要な費用は、前認定の将来の入院治療のための差額ベツド代、付添看護料、入院雑費に限られ(証人盛敬子の証言及び弁論の全趣旨によれば、前認定の治療費を除いた原告の治療費は公費でまかなわれており、将来においても原告が負担する必要はないものと認められる。)、通常の場合に必要とされる稼働能力の再生産に要する生活費の支出は免れることになるから、原告の逸失利益を算定するに当たつては、稼働可能期間を通じ、五割の生活費を控除するのが相当である。

そこで、右収入額及び稼働可能期間を基礎に、右生活費相当額及びホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益の本件事故当時の現価を算出すると四四七四万六九六八円となる。

(計算式)

4,597,000×(1-0.5)×(23.8322-4.3643)=44,746,968

(七) 慰謝料 二〇〇〇万円

前認定の原告の受傷内容、治療及び症状の経過、現症状、その他本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すれば、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては、二〇〇〇万円が相当であると認められる。

四  過失相殺

前認定の本件事故の態様及び原告の受傷内容に前掲乙第三、第四号証及び訴外岩元(分離前の相被告)の本人尋問の結果を総合すれば、原告の本件事故による受傷については、原告にもヘルメツトを着用することなく、かつ、自己と被告との二つの鞄を持つて両手がふさがつていたこともあつて、運転者である被告の体または被告車の車体をつかむなど自己の体の安定を保つ措置を講じないで被告車の後部座席に同乗していた過失があり、右過失は、原告が頭部に前認定のような重篤な傷害を受けたことに大きく寄与していることが認められるので、この点は被害者の過失として斟酌すべきである。

しかし、前認定の本件事故現場の状況及び本件事故の態様に前掲甲第一号証、乙第二、第三号証を総合すれば、被告には、被告車進行方向右側の見通しが悪かつたのであるから、減速のうえ前方を注視し、道路左端を走行するべき注意義務があつたにもかかわらず、道路管理者の指示に反して時速約三五キロメートルで走行し、かつ、道路にくぼみがあつたにしても、その左側を走行する余地がなかつたわけではないのに、対向する車両はないものと安易に判断して、道路の右側寄りを走行した過失があり、右過失が本件事故発生の最大の原因となつているものと認められ、更に、前述の原告の過失についても、被告は、自動二輪車の運転者として乗車用ヘルメツトをかぶらないものを同乗させて運転してはならない法令上の義務を負う立場にあり、原告の依頼による短距離の同乗とはいえ(この事実は、前掲乙第三号証により認められる。)、前認定のとおり自己の鞄を原告に持たせることにより、原告が不安定な状態で同乗する原因を作つているのであり、右危険な状況を認識することもできたはずであるのに前認定のような危険性の高い走行をしたものであるから、このような被告の過失と対比すると、原告の前記過失の割合は三割とみるのが相当である。

そこで、原告の右過失を斟酌し、前記1ないし7の損害額の合計一億三五七〇万六四九二円についてその三割を過失相殺として減額すると原告が賠償を求めうる損害の額は九四九九万四五四四円となる。

なお、被告は、原告の好意同乗を理由とする減額をも主張しているが、右同乗が被告主張のとおり原告の懇請によるものであるとしても、前記のとおり右同乗の態様自体を過失に当たるとして過失相殺をしたうえで、更に好意同乗を理由とする減額をしなければ信義則ないし衡平の原則に反することになるとは認め難いから、右減額はしない。

五  損害の填補

請求原因5の事実は当事者間に争いがなく、原告の前記損害額から右争いのない填補額四三七四万円差し引くと、残額は五一二五万四五四四円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理の経過、認容額に照らすと、原告が本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は三〇〇万円と認めるのが相当である。

七  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、五四二五万四五四四円及び右金員のうち五一二五万四五四四円に対する本件不法行為の日である昭和五八年三月一七日から、弁護士費用三〇〇万円に対する不法行為の日の後であり訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六一年三月二七日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇 本多俊雄 中村元弥)

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