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大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)2097号 判決 1990年11月26日

原告 矢崎邦子

被告 国

代理人 小見山進 三好正幸

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の求めた裁判

一  原、被告間において、原告が大阪大学付属図書館事務補佐員の地位を有することを確認する。

二  被告は原告に対し金二四三万一五九五円及びこれに対する昭和六〇年四月二日から完済まで年五分の割合による金員ならびに同月以降毎月一七日限り金一三万一四五円を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  二につき仮執行宣言

第二事案の概要と争点

一  事案の概要(当事者間に争いがない)

1(1)  原告は、大阪大学学長により、昭和五四年九月一日から同五六年五月一〇日まで、国家公務員法(以下、国公法という)上の一般職国家公務員たる同大学付属図書館中之島分館の事務補佐員(時間雇用非常勤職員)として、次いで、同月一一日から同五九年三月三〇日まで、同図書館本館閲覧課事務補佐員(日々雇用非常勤職員)として、任用されてきたが、同日の任用期間(任期)終了をもって再任用されなかった。

(2)  人事異動通知書による原告の任用関係は、時間雇用職員として、同五四年九月一日任用(任期同五五年三月三〇日)、同五五年三月三〇日退職、同年四月一日任用(任期同五六年三月三〇日)、同五五年九月五日退職、同月一六日任用(任期同五六年三月三〇日)、同五六年三月三〇日退職、同年四月一日任用(任期同五七年三月三〇日)、同五六年五月一〇日退職、日々雇用職員として、同月一一日任期(任期一日、任用予定期間同五七年三月三〇日、別段の措置をしない限り、右期間内は任用更新、但し、右期間を超えて更新しない)、同五七年三月三〇日退職、同年四月一日任用(任用予定期間同五八年三月三〇日、他は右同)、同五八年三月三〇日退職、同年四月一日任用(任用予定期間同五九年三月三〇日、他は右同)、同五九年三月三〇日退職とされていた。

2  原告は被告に対し、同五九年四月以降も同大学付属図書館事務補佐員としての地位を有することの確認及びこれに伴う賃金の支払並びに不法行為に基づく慰謝料の支払を求めた。

二  原告の主張

1  同大学学長が原告を日々雇用職員として任用するにあたり付した任期の定めは無効である。

(1) 国公法は五九条、六〇条の他、一般職職員の期限付任用を認めていない。従って、仮に、同法附則一三条により、右以外に、非常勤職員の期限付任用が認められるとしても、右任用は特段の事由が存在し、且つ、同法の趣旨に反しない場合、即ち、臨時的業務に関し、期限は六か月から一年の範囲で許容されるにすぎないと解すべきである(最高裁昭和三八年四月二日第三小法廷判決参照)。

(2) 国立大学における日々雇用職員の任用は、季節的または一時的に増加した業務の処理のため必要がある場合に限り、臨時に行われ、その任用継続期間は最長一二か月を超えてはならないとされている(文人任第五四号、同三七年三月二七日・文人任第四六号)。

(3) 原告が日々雇用職員として同大学付属図書館において従事した業務内容、勤務形態その他の労働条件は常勤職員のものと差異はなかった。

<1> 原告の従事した業務は、大学図書館の利用者に対するサービスの殆ど全般にわたっていたため、常勤職員の業務と渾然一体をなし、常時、職員の補職を要する恒常的職務であり(原告の後任は補填されている)、一定の専門的知識、経験、習熟を必要とした。

<2> 原告の所定勤務時間は常勤職員と同一で、残業も、土曜日は常に、週日も多く行った。年次有給休暇の取得も常勤職員と同一であり(日々雇用職員には産休の取得も認められていた)、その他の各面でも常勤職員と同様の取扱を受けていた。

<3> 原告の日々雇用職員としての任用は、同図書館閲覧課の日々雇用職員が退職したため、その後任を充足するための配置換であった。

(4)<1> 人事異動通知書に記載された任用予定期間及び更新制限並びに三月三一日の雇用中断日の設定は政府方針や行政指導を潜脱するための形式にすぎず、厚生年金保険や健康保険の適用上は継続雇用として取扱われている。

<2> 原告は、日々雇用職員として、当初の任用予定期間を超えて三年間任用され、実際には三月三一日も稼働し(但し、同五七年を除く)、同日の賃金の支払を受けていた。

<3> 従って、同大学学長は、実質上、原告を任期の定めなく任用していたというべきである。

(5)<1> 同大学事務長会議は文人給一〇九号を受け、同五五年七月二三日、同日以降任用する日々雇用職員の雇用継続期間を最大限三年とする旨の申合せをした。しかしながら、右申合せは法的根拠も合理性もなく、同日以前に任用された日々雇用職員との権衡を失するから原則として違法と解すべきであり、例外的に、日々雇用職員の従事する業務が三年以内で終了し、且つ、被任用者の同意がある場合に限って妥当し得るにすぎない(人事院規則八-一二第一五条の二第一項但書)。従って、この要件を充たさない日々雇用職員の期限付任用は違法である。

<2> 原告は右三年期限の告知を受けず、又、前記のとおり恒常的職務に従事した。

(6) 以上の原告が日々雇用職員として任用された経緯、期間及び従事した業務内容、勤務実態等に照らすと、原告の期限付任用は前記文人任第五四号、第四六号に違反するばかりか、国公法にも違反する。

従って、原告の任用に付せられた任期の定めは無効であり(任期の定めは任用の重要な要素ではないから、任用自体は無効ではない)、原告の任用は任期の定めがないと解する他ない。

2  原告の日々雇用職員としての期限付任用は任用の更新により任期の定めのない任用に転化した。

3  原告の任用を任期の定めのない任用と解し得ないとしても、前記事実並びに次の事実を総合すると、原告の任用関係は継続することが期待されていたというべきである(最高裁昭和六一年一二月四日第一小法廷判決参照)。

(1) 同図書館において、日々雇用職員は、原則として時間雇用(パート)職員の中から経歴が長く、且つ、能力のある職員が任用されるため、時間雇用職員に比べ、身分は安定し給与その他の労働条件も優れ、常勤職員に準じた取扱がされてきており、一〇年以上も勤続している例がある。

(2) 原告は、上司から、分館の時間雇用職員でいるより本館の日々雇用職員の方が将来のためになると勧められ、長期雇用及び待遇向上を信じてこれに応じた。その際、日々雇用職員の任期が三年である旨告げられていたら、原告は日々雇用職員への任用替には応じていない(時間雇用職員の任期は三年で終了しない)。

4  以上によると、原告の任用は任期の定めのない任用であり、仮にそうでないとしても、任用関係の継続が期待されていたから、原告を再任用をしないことは解雇又は雇止めにあたり、解雇法理が適用又は類推適用されるべきところ、同大学学長において、原告を解雇或いは雇止すべき相当事由はなく、原告を再任用しなかったのは、原告の組合活動を嫌忌したためであるから、権利の濫用、裁量権の濫用として無効である。

よって、原告は任用期間の定めのない同大学付属図書館事務補佐員としての地位を有する。

5  原告は、同五九年四月再任用されなかったことにより雇用継続に対する期待権を侵害され、且つ、その後、理由のない執拗な就労妨害を受けたため様々な苦痛を強いられ、慰謝料一〇〇万円相当の精神的損害を受けた。

二  被告の主張

1  原告は同五九年三月三〇日任期の終了により日々雇用職員としての地位を失った。

(1)<1> 国公法上、非常勤職員を任期を定めず任用することは許されず、文部省においては、日々雇用職員の任期は一日と定められている(文人任第五四号)ところであり、同法の制度上、任期の定めのない日々雇用職員が存在する余地はない。

<2> 公務員の任用は任命権者の明確な任用意思に基づく厳格な要式行為であり、文部省において、非常勤職員の任用は人事異動通知書の交付によって行い(文人任第五四号)、任用の内容は人事異動通知書の記載によってのみ定まる。

<3> 非常勤職員は任期が満了し、任用が更新されないときは当然に退職する(人事院規則八-一二第七四条一項本文、同項三号、文人任第五四号)。

(2)<1> 同大学総長は、同図書館における補助的業務のため、原告を非常勤の時間雇用職員及び日々雇用職員として任用したのであり(原告の従事した業務は、高度な判断、特別の習熟、知識、技能または経験を必要とせず、代替性の強い簡易な内容であり、常勤職員の業務に比し、業務の範囲、権限及び責任が格段に異なる)、原告の任用は国公法の許容範囲内である。

<2> 原告の任用の任期は人事異動通知書に記載されているとおりであり、同五八年四月一日付人事異動通知書には任用期間は同五九年三月三〇日と明記してある。そして、原告はその後、再任用されなかったのであるから、同図書館の日々雇用職員たる地位を有しない。

(3) 原告の期限付任用を無効と解すべき理由はない。いわんや、原告の任用の任期の定めのみを無効とし、任期の定めのない任用と解すること、或いは期限付任用が反復更新によって任期の定めのない任用に転化したと解することは、国公法制度上存在しない任期の定めのない非常勤職員を創設することであり、且つ、任用権者の任用意思にも反し、到底許されない。

2  原告は同大学における日々雇用職員の雇用期間が最大限三年であることを熟知しており、原告の抱く任用継続の期待は、単なる主観的予測ないしは希望にすぎず、法的に保護されるべきものではない。

(1) 同大学長は、原告を日々雇用職員として任用した同五六年五月一一日以降、原告の任用及び退職の都度、原告に対し、人事異動通知書を交付して任用の内容を明確に告知し、又、原告は退職の都度退職金を受領した(但し、原告は、同五九年三月三〇日限り退職した旨の同月三一日付同通知書及び右退職に伴う退職金の受領は拒否した)。

(2) 同大学は、同五五年七月二三日全学事務長会議において、日々雇用職員の雇用期限は一年を原則とし、継続して雇用する必要がある場合でも二年を限度とし、特別の場合であっても三年を超えないものとする旨を決定した。これに対し、同大学教職員組合文科系支部は右決定の撤回闘争を展開してきてきた。原告はパート職員の時から右組合に所属していたから、右決定を熟知していたことは疑いない。

(3) 同図書館の人事担当者は同五六年五月一一日原告を日々雇用職員として任用するに先立ち、日々雇用職員の任期は最大限三年であることを伝え、原告は了承した。

3  同大学学長が原告を再任用しなかったことは何ら違法不当ではなく、不法行為にあたらない。

第三当裁判所の判断

一  地位確認請求等

1  原告の主張1について

(1) 国公法上、一般職職員の期限付任用は、同法五九条(条件付任用)及び六〇条(臨時的任用)以外にも、明文の規定はないが、期限付任用を必要とする特段の事由があり、且つ、期限付任用が同法に定める職員の身分保障の趣旨に反しない場合には許されると解するのが相当である(最高裁昭和三八年四月二日第三小法廷判決参照)。

従って、同法附則一三条に基づく人事院規則八-一四第一条、同八-一二第七四条一項三号、二項が規定する日々雇用非常勤職員、文人任第四六号、第五四号が規定する文部省における日々雇用非常勤職員の任用は、右の趣旨に添う限り、国公法に違反しない。

(2) 日々雇用常勤職員の任用が専門的知識、経験、習熟を要する恒常的職種について行われた場合、その任用は違法と解されるが、右の場合、任用行為の付款たる任期の定めのみを無効とし、任用自体は任期の定めのない任用であると解することはできない。その理由は、国公法制上、任期の定めのない非常勤職員の任用は存在せず、又、日々雇用非常勤職員の任用と任期の定めのない職員の任用と、任用権者、任用方法が異なっていること(以上は当事者間に争いがない)、従って、又、日々雇用非常勤職員の任用権者において、付款たる任期の定めがなくても、なお、任期の定めのない非常勤職員或いは常勤職員として任用したと解する余地は全くないからである。

2  原告の主張2について

日々雇用非常勤職員の任用が許容される場合、右任用が、任用予定期間をも超えて反復繰返されたからといって、期限の定めのない任用に転化するとは解されない。何故ならば、日々雇用非常勤職員の任用の内容は、法律によって規定されているのであり、任用権者及び人事担当者の合理的意思解釈によって決し得るものではないからである。

3  原告の主張3について

原告は、原告の任用は、反復更新されたことにより、実質上、任期の定めのない任用として継続し、同五九年四月以降も更新されることが期待されていたと主張する。しかしながら、原告の任用関係が実質的に任期の定めのない任用として継続していたと認めるに足りないのみならず、仮に、原告の任用関係が実質的に任期の定めのない任用として継続していたとするならば、或いは、人事担当者にそのような言動があったとするならば(原告の任用関係の法的性質を左右しない)、それは正しく国公法及びその他の関連法規に違反するのであるから、これを根拠とする任用継続の事実上の期待は法によって保護するに値しないといわざるを得ない。原告挙示の最高判は私企業の雇用に関する事例であり、国家公務員の任用に関する本件に適切ではない。

4  従って、原告の任用関係は、任期の定めのない任用であること、又、任用の継続が期待されていたことを前提とする原告の主張は採用できない。

以上によると、原告の地位確認請求及び賃金請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

二  不法行為による慰謝料請求

1  原告は、大阪大学学長は原告を同五九年四月以降も日々雇用職員として再任用しなかったことにより、原告の任用継続の期待権を侵害したと主張する。しかしながら、前記説示及び文人任第五四号によると、同大学学長は、原告を再任用をなすべき法律上の義務を負わず、又、原告を再任用し得る裁量権を有する訳でもなく、原告の日々雇用職員としての任用継続の期待は法の保護しない事実上の期待に過ぎない。そして、他に特段の事情を認めるに足りる証拠もないから、同大学学長において原告を再任用をしなかったことが不法行為にあたると認めることはできない。

2  原告は、旧上司により同五九年四月以降不法な手段、方法によって旧職場で就労することを拒否されたと主張する。しかしながら、原告が同五九年四月以降旧職場で就労する権限を有しないことは明らかであり、且つ、旧上司の採った原告の就労を阻止する手段、方法が特に違法であり、不法行為にあたると認めるべき証拠はない。

3  以上によると、原告の慰謝料請求も理由がない。

三  よって、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判官 蒲原範明 野々上友之 長谷部幸弥)

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