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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)635号 判決 1989年11月13日

原告

和田弘子

右訴訟代理人弁護士

小林勤武

服部素明

三上孝孜

國本敏子

梅田章二

谷智恵子

被告

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

杉浦喬也

右訴訟代理人弁護士

高野裕士

右訴訟代理人

福田一身

北村輝雄

橋本公夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が被告に対し労働契約上の従業員たる地位を有することを確認する。

2  被告は原告に対し、金六〇万六〇〇〇円並びに昭和五九年二月から毎月二〇日限り金一五万一五〇〇円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  2につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨並びに担保を条件とする仮執行の免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告は昭和六二年四月一日日本国有鉄道(以下「国鉄」という)の分割民営化に伴い設立され、国鉄の一部債務等を承継した(日本国有鉄道改革法一五条、同法附則二項、日本国有鉄道清算事業団法一条)。国鉄は、線路、建設物等の建設及び改良の工事に関する業務(右工事の計画、設計、施工の監督)を行う直轄地方機関として大阪工事局を設置していた。

原告は同四七年三月九日期間を二ヵ月として大阪工事局に雇用され(以下「本件契約」という)、その後形式的には二ヵ月ごとに契約更新を繰り返し、(一旦退職した同四八年九月三〇日から再就職した同四九年一月一〇日までの期間を除き)同五八年九月三〇日まで継続して勤務し、同時点において国鉄から日額四八三〇円毎月二〇日限り前月分支払いの約定で給与の支払いを受けていた。

2  本件契約締結の経緯

原告は、臨時雇用員の退職に伴う欠員募集に応募して、同四七年三月九日採用された。大阪工事局担当者は採用にあたり、原告に対し、「二ヵ月契約になっているがそれで辞めてくれということはない。退職年齢はないので長く働いて欲しい」旨述べた。

3  契約更新の状況

原告と国鉄間における契約更新手続きは、記入済みの臨時雇用員雇用契約書に押印するというものであり、それさえも履践されないことがあった。昭和五〇年一一月頃からは六回分の契約が一年分一枚の契約書にまとめられ、順次押印するという形式がとられた。

4  職務内容

<1> 原告は大阪工事局に事務補助職として採用された。大阪工事局においては各課に一人事務補助職を配置する体制をとる旨労使間で合意していた。

<2> 事務補助職の職務内容は次のとおりである。

ア 職員の出張命令簿の整理、旅費請求書の作成、出張に伴う公務指定書請求、切符の手配

イ 職員給与・一時金・旅費等の受取り、課内の親睦会費・慶弔費等の給与等からの差引表作成及びそれらの支払い、私用電話・電報料金の支払い

ウ 課内庁注用品の請求・受取り・整理

エ 職員の勤務状況及び旅費・超過勤務手当の月別集計表の作成

オ 写図の外注業者からの納品・請求伝票の処理

カ 会議の打ち合わせ資料の作成補助、図面のインク入れ、コピー、書類の浄書

キ 往復文書等(現場からの書類、業務資料、局報等)の受取り・配布

ク 清掃、職員・来客に対する給茶

<3> これらは責任ある独立した職務であるばかりか、恒常的に必要不可欠な職務であって、大阪工事局の工事量の増減に影響を受けない。

5  労働条件

<1> 勤務時間は、職員と同様、午前八時一五分(実質的な出勤時間は同八時三〇分)から午後五時であった。

<2> 賃金は毎年改訂され、賃金ベースは職員の改訂時期に合わせて、国労大阪工事局分会と大阪工事局の団体交渉により決定される。ほかに、ボーナス(年三回、国労本部と国鉄との間の交渉により全国一律に決定される)・残業手当(年末年始の繁忙時)が支給され、職員と同率の退職金が保障されている。

<3> 年次有給休暇・結婚休暇・忌引休暇のほか、非休(国鉄における特別の休暇)・妊娠管理休暇(妊婦の定期検診のための休暇)、生理休暇・育児時間は職員と同様保障され、昭和五一年からは産前産後休暇が認められた。

6  本件契約の期間の定めの有無

本件契約は期間を二カ月としているが、長期間契約更新を繰り返してきたこと並びに右2ないし5の事実に照らすと、右期間の定めは形式的なものにすぎず、本件契約は期間の定めのない労働契約である。

7  解雇の意思表示

被告は同五八年九月二〇日原告に対し、同月三〇日限りで解雇する旨の意思表示をなし(以下「本件解雇」という)、同年一〇月一日以降原告の就労を拒否し、もって自己の責めに帰すべき事由により原告の就労を不能に帰せしめた。

8  本件解雇の無効事由(整理解雇の要件の欠如)

本件契約は期間の定めのない労働契約であるから、整理解雇の法理が適用される。

<1> 整理解雇の必要性の不存在

ア 国鉄赤字の原因

a 国鉄は昭和二四年公共企業体となった時点で約五三六億円の借入金を計上しており、その後の設備投資も膨大な借入金によって賄われてきた。

b 政府の道路整備優先政策の結果、設備投資費中国の助成金は僅か一・八パーセントである。

c 国鉄赤字の七〇パーセントは貨物輸送によって惹起されるところ、その原因は貨物輸送運賃の値上げが政策的に抑制されたことにある。

d 旅客運賃の通学定期割引・身体障害者割引、貨物運賃の割引・新聞雑誌運賃の割引等本来国が負担すべきものを国鉄が負担している。

e 国鉄は戦後国の政策に基づき外地鉄道からの引揚者・復員軍人等を大量に雇用し、恩給公務員・軍人・外地鉄道員(これらは積立金がまったくなかった)としての勤務期間を国鉄共済組合の加入期間に通算したため、ここ数年来の退職者の増大によって、年金・退職金負担が国鉄財政を圧迫している。

f 地方交通線(いわゆるローカル線)の赤字は国鉄赤字の大きな要因であるところ、地方交通線は地域住民にとって不可欠であり公共性も強いから、国がその赤字を補填すべきである。

g このように国鉄赤字の原因は国や国鉄の基本政策にあり、国鉄労働者の整理解雇の正当化事由にはならない。

イ 公共性を担う国鉄は、経常収支の均衡のみを目的とすべきではなく、国民の足としての輸送の提供、安全性の確保の観点から要員数を検討すべきであって、国鉄に余剰人員は存在しない。

ウ 国鉄における余剰人員問題は、同五九年二月ダイヤ改正により大量の要員削減を実施したため、同年四月一日において二万四五〇〇人の余剰人員が生じたことに始まり、国鉄再建監理委員会が同六〇年七月二六日国鉄外への人員整理を含む人員調整策を示した「国鉄改革に関する意見」を提出することによって具体化するのであって、本件解雇の行われた同五八年九月の時点で、臨時雇用員の一律解雇の必要性はなかった。

<2> 解雇回避努力義務の不履行

国鉄は臨時雇用員を一律解雇するに先立ち、希望退職募集・配転可能性の追求等解雇を回避するための企業努力をまったくしなかった。

<3> 人選基準の不合理性

ア 原告をはじめとする本件臨時雇用員は、雇用期間・職務内容等労働条件以外の面においては正規の職員とほとんど異ならないのであるから、被告が人員整理をするにあたり、個別具体的な検討をまったくせず、臨時雇用員全員を一律に第一順位とすることは合理性を欠き、本件解雇の意思表示は無効である。

イ 原告と一緒に解雇された臨時雇用員五九人のうち五三人は女性である。国鉄は戦後女性を正規職員として採用せず、代わりに臨時雇用員として採用し、前述した恒常的・不可欠な職務に従事させてきた。本件解雇を含む臨時雇用員の一律解雇は実質的には女性を対象とする整理解雇であって、性別による差別に該当し無効である。

<4> 労働組合との協議義務不履行

原告は国労大阪工事局分会(以下「国労分会」という)に所属していたところ、国労分会は同五八年六月二九日以降一〇回にわたり大阪工事局との間で団体交渉をもった。整理解雇の要件としての労使間の協議が整ったといえるためには、少なくとも、使用者が労働者又はその代表に解雇がやむを得ないことを十分に説明し、解雇に伴う諸条件につき相談調整したことが必要である。しかるに、大阪工事局は国労分会に対し誠実に解雇理由を説明せず、国労分会の解雇撤回要求に対し、希望退職に応じなければ解雇を強行すると繰り返し述べるのみであって、協議義務を尽くしたとはいえない。

9  本件解雇の無効事由(雇用安定協定の存在)

国鉄においては、労使間に職員を対象として、機械化等の実施に伴って、本人の意に反する免職及び降職は行わないという協定が締結されている。

10  よって、原告は被告に対し、労働契約に基づき、従業員たる地位の確認を求めるとともに、同年一〇月から同五九年一月までの賃金六〇万六〇〇〇円並びに同年二月以降毎月二〇日限り賃金一五万一五〇〇円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。

二  請求原因に対する認否と被告の主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、原告が臨時雇用員の退職に伴う欠員募集に応募して縁故採用されたことは認め、その余は否認する。

3  同3の事実は否認する。

4  同4の<1>の事実のうち、原告が大阪工事局の事務補助職臨時雇用員として採用されたこと、大阪工事局が同五八年四月ころ各課にほぼ一人ずつ事務補助として臨時雇用員を配属していたことは認めるが、これは労使間の合意に基づくものではない。

同4の<2>の事実は(図面のインク入れを除き)認める。

同4の<3>の事実は否認する。原告の職務は正規の職員の事務を補助する雑務的なものである。

5  同5の<1>の事実のうち、原告の勤務時間は認め、これが職員と同様であることは否認する。大阪工事局職員の勤務時間は午前八時四五分から午後五時二〇分である。

同5の<2>、<3>の事実のうち、ボーナスは年三回で全国一律に決定されること、年次有給休暇が保障されること、非休・生理休暇が職員と同様保障されること、産前産後休暇が無給欠勤扱いで保障されることは認め、その余は否認する。

6  同6の事実のうち、原告が期間を二カ月として本件契約を締結し、その後も二カ月ごとに契約更新を繰り返してきたことは認め、その余は否認する。

7  同7の事実のうち、国鉄が同年一〇月一日以降原告の就労を拒否したことは認め、その余は否認する。国鉄は同五八年九月二〇日原告に対し、大阪工事局長名で、同月九月三〇日の契約期間満了により雇用契約が終了した後は雇用契約を締結しない旨(いわゆる雇止め)の意思表示をした(以下「本件雇止め」という)。

8  同8冒頭の主張は争う。

同8<1>(整理解雇の必要性の不存在)の事実は否認する。

同8<2>(解雇回避努力義務の不履行)の事実のうち大阪工事局が希望退職募集及び配転可能性の模索を行わなかったことは認めるが、後述のとおり、大阪工事局は解雇回避措置に代わる措置として、誠実に再就職斡旋を行った。

同8<3>(人選基準の不合理性)のアは争う。臨時雇用員と正規の職員とは、雇用手続き・雇用条件・職務内容等につき大きな差異があり、企業との結びつきの度合いを異にするのであって、人員整理の必要がある場合に、短期雇用を前提として補助的職務に従事する臨時雇用員につきまず雇止めの措置をとることは正当である。

同8<3>のイの事実のうち、本件雇止めと同時期に大阪工事局から雇止めされ又は退職した臨時雇用員五九人のうち五三人は女性であることは認め、その余は争う。大阪工事局には臨時雇用廃止計画が提示された時点で五九人の臨時雇用員がいたが、うち七人が昭和五八年九月末以前に大阪工事局の説得に応じて退職したため、大阪工事局は臨時雇用員五二人(事務補助職四三人、守衛・雑役職九人。この中には守衛男子六人が含まれている)に対して雇止めの意思表示をした。雇止めの対象に女性が多かったのは事務補助の職務がたまたま女性に担務されていたからにすぎない。

同8<4>(労働組合との協議義務不履行)の事実のうち、原告が国労分会に所属していたこと、大阪工事局は同五八年六月二九日から同年八月二五日までの間国労分会との間で団体交渉又は話合いをもったことは認め、その余は否認する。大阪工事局は、右席上で国労分会に対し、国鉄の経営状況・工事量の推移等本件臨時雇用員の雇止めが回避できなかった事情につき繰り返し説明するとともに、原告ら臨時雇用員全体につき、国鉄におけると同程度の労働条件の企業への再就職斡旋を行う旨提案し、組合の了解を得るため最大限の努力をした。

9  同9(雇用安定協定の存在)の事実は認める。右雇用安定協定は、本件雇止めには適用がない。

10  労働契約の期間の定め

国鉄は、同四七年三月九日原告を雇用するにあたり期間を二カ月間と定め、その後も(原告が同四八年九月三〇日に国鉄を一旦退職した後、同四九年一月一〇日再就職した期間を除き)二カ月ごとに契約更新を繰り返した。国鉄は同五八年九月二〇日原告に対し、大阪工事局長名で、同年九月三〇日の契約期間満了により雇用契約が終了した後は雇用契約を締結しない旨(いわゆる雇止め)の意思表示をなし、原告と国鉄の本件契約は同日の経過により終了した。

11  職員と臨時雇用員との相違

<1> 正規の職員は国鉄の名の下に雇用されるが、原告を含む大阪工事局の臨時雇用員は同局長名で雇用される。採用にあたっての選考方法は、職員の場合学科試験・適性試験・身体検査・面接試験等の厳格な考試に合格することが必要だが、臨時雇用員の場合面接のみで採用決定される。職員は採用に際し身元保証人が必要だが、臨時雇用員は不要である。

<2> 賃金・諸手当等は、職員の場合、勤続年数・現職経過年数・職群経過年数・学歴・年齢・勤務成績等を加味して格付けされた職群並びに毎年昇級した号俸による職員基本給表に基づき定まる基本給のほか、基準内賃金として扶養手当・都市手当・職務手当が、基準外賃金として特殊勤務手当・割増賃金等がそれぞれ月給として支給されるのに対し、臨時雇用員の場合、定額賃金日額(基本日額に勤続加算を加えた額)に出勤日数を乗じた金額がいわゆる日給月給制により支払われるが、原告のように七年以上勤続の臨時雇用員でも勤続加算額は二〇〇円であり、勤続年数による賃金格差はほとんどない。

一時金は、職員の場合基準内賃金の約四ないし五カ月分が支給されるが、臨時雇用員の場合、雇用継続期間に応じ五段階に分けて七万円ないし四三万円程度の定額が支給される。

<3> 職員はしばしば超過勤務が命ぜられるが、臨時雇用員は原告として超過勤務を命ぜられることはない。

<4> 職務及び職責について、職員は、受験成績・勤務成績又はその他の能力の実証により任免(任用)され、国鉄の行う本来的な業務に従事し、その職務の内容及び責任に応じて給与が定まる。これに対して、臨時雇用員は、勤務態度や能力につき査定を受けることなく、もっぱら補助的雑務的な事務補助を担当する。職員の就業規則には、昇給・昇格・降職・免職・懲戒に関する規定があるが、臨時雇用員の就業規則にはそれらの規定はない。

<5> このように、正規の職員と臨時雇用員とは、採用方法、賃金・諸手当・一時金の内容及び形態、労働時間、職務内容及び職責につき明らかな差異があり、原告もこのことを熟知して労働契約を締結した。したがって、本件契約は反復更新により期間の定めのない労働契約になることはない。

12  雇止めを正当化する合理的な理由

余剰人員整理のための臨時雇用員の雇止めを行うにあたっては、正規の職員を整理解雇する場合と異なり、国鉄はその維持運営の必要上相当広範囲の自由を有する。以下の事情の下においては、国鉄が原告に対し期間満了を理由として雇止めをしたことには合理的な理由がある。

<1> 雇止めの必要性

ア 国鉄の経営危機と膨大な赤字

国鉄は、昭和三九年度に赤字を生じて以来その経営が悪化の一途を辿り、同五五年度には赤字が一兆円を越え、同五七年度末の累積欠損金は約八兆九〇〇〇億円、長期負債は約一八兆四〇〇億円であった。

イ 臨時行政調査会の昭和五七年七月三〇日付第三次答申と同五八年八月の国鉄再建監理委員会の提言

a 昭和五五年一一月二八日、国鉄職員三五万人体制を実現するため、年度ごとの減量計画を含む経営改善計画の提出を国鉄に義務付けた日本国有鉄道経営再建促進特別措置法が成立し、同年一二月二七日公布された。これを受けて、国鉄は同五六年五月運輸大臣に対し、人件費を含む経費削減の必要性を強調した経営改善計画を提出した。

b 臨時行政調査会は同五七年七月三〇日、新規採用・設備投資(安全確保のためのものを除く)の停止を謳った第三次答申を提出した。これを受けて、同五八年六月発足した国鉄再建監理委員会は、同年八月内閣総理大臣に対し、新規採用及び設備投資の停止、工事規模の圧縮に対応した人件費の削減等を提言した。

ウ 国鉄及び大阪工事局における設備投資費の減少

a 国鉄における設備投資額は、昭和五三年に初めて一兆円を越え、その後同五六年度までは約一兆円を維持していたが、同五七年度は八八八六億円(実績)、同五八年度は七〇六〇億円(予算)、同五九年度は五六六四億円(同)と圧縮された。

b 大阪工事局における工事費は、同五五年度から同五七年度にかけては、福知山線電化関係工事及び大阪駅ビル新築工事等によって年間五〇〇億円程度であったが、同五八年度は三二四億円、同五九年度も三二四億円(予算)と削減され、同六〇年度以降も回復または増加する見通しはない。

エ 国鉄及び大阪工事局における人員の余剰及びこれに伴う臨時雇用員の余剰

a 同五九年四月一日における国鉄全体の余剰人員(過員)は二万四五〇〇人であった。

b 大阪工事局における要員一人当たりの適正工事量は五〇〇〇万円ないし六〇〇〇万円である。同五五年度から同五七年度にかけての大阪工事局における職員数は約一〇〇〇人であったが、その後の設備投資費の削減にかかわらず、大阪工事局の職員数は同五八年度一〇〇六人、同五九年度九三六人と微減したのみである。

オ 職員の過員と臨時雇用員の雇止め

工事局は、同五八年国鉄全体の設備投資費の圧縮に対応して人件費を削減するため、全国の工事局で雇用していた臨時雇用員(事務補助職)約三五〇人の業務の見直しを行い、事務補助員制度を廃止することを前提とした予算措置を組んだ。これを受けて、大阪工事局は、臨時雇用員が短期雇用にかかるものであること、職場においても余剰となっていること等諸般の事情を考慮し、本件雇止めを決定した。

<2> 再就職斡旋

ア 大阪工事局は、同年八月二五日ころから、同年九月三〇日限りで雇止めの対象となる臨時雇用員に対し、再就職の希望の有無・再就職先についての希望に関し事情聴取をするとともに、国鉄の関連会社又は公共職業安定所を通じての求人会社七〇数社を斡旋した。その結果、原告及び自ら再就職先を確保する旨申入れのあった数名を除くすべての臨時雇用員の再就職先が決定し、ほとんどのものが雇止めと同時に再就職先に就職した。

イ 原告は大阪工事局による再就職斡旋を拒否し、あくまで雇用の継続を希望した。大阪工事局は、同年八月二五日以降九月三〇日までの間七回にわたり原告に対し、本件雇止めがやむを得ないものであることを説明して納得を得るべく努力するとともに、総合的な労働条件において被告に優る三田青写真工業株式会社・椿本福祉サービス株式会社・桜川ポンプ製作所株式会社を紹介して再就職に応じるよう説得した。しかるに、原告は、再就職先についての希望として、総評傘下の労働組合が存在すること、身分保証があること、国鉄と無関係であること、子供二人があるため残業が少ないこと、営業はしたくないこと等を挙げて、大阪工事局の斡旋に応じなかった。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1(当事者)の事実は当事者間に争いがない。(証拠略)によれば、大阪工事局長は昭和五八年九月二〇日原告に対し、解雇予告書によって、同年一〇月一日以降原告との間で雇用契約を締結しない旨の意思表示をしたこと、(証拠略)によると、右はいわゆる雇止めの趣旨であることが認められ、大阪工事局が原告に対し同日以降の就労を拒否したことは当事者間に争いがない。

二  本件契約の期間の定めの有無を検討する。

1  (証拠略)、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

<1>  大阪工事局の従業員には、国鉄により採用される職員と、大阪工事局長により採用される臨時雇用員があり、前者は主として技術職であるのに対し、後者は事務補助・守衛・雑役業務を担当している。昭和五八年における従業員数は、職員が一〇〇六人、臨時雇用員が九〇人であった。

臨時雇用員は大阪工事局との間で期間を二カ月と定めた雇用契約を締結するが、大半が契約更新を繰り返して長期間にわたり雇用されており、本件雇止め以前に、臨時雇用員が期間満了によって雇止めされたことはなかった。臨時雇用員は職員化を強く希望していた。

<2>  採用条件

採用にあたり、職員は学科試験・適性試験・身体検査・面接試験等に合格すること、身元保証人をたてることが必要だが、臨時雇用員は面接を経て採用され、身元保証人は不要である。

<3>  労働条件

ア 勤務時間は、職員が午前八時四五分から午後五時二〇分までであるのに対し、臨時雇用員は午前八時一五分から午後五時までである。職員は業務の実態により超過勤務を命ぜられるが、臨時雇用員は原則として命ぜられることはない。

イ 賃金・諸手当等は、職員の場合、勤続年数・現職経過年数・職群経過年数・学歴・年齢・勤務成績等を加味して格付けされた職群並びに毎年昇級した号俸による職員基本給表に基づき定まる基本給のほか、基準内賃金として扶養手当・都市手当・職務手当が、基準外賃金として特殊勤務手当・割増賃金等がそれぞれ月給として支給されるのに対し、臨時雇用員の場合、定額賃金日額(基本日額に勤続加算を加えた額)に出勤日数を乗じた金額がいわゆる日給月給制により支払われ、原告のように七年以上勤続の臨時雇用員でも勤続加算は二〇〇円である。一時金は、いずれも年三回、国労本部と国鉄の間の交渉により全国一律に決定された額が支給されるが、職員の場合、年間合計で基準内賃金の約四ないし五カ月分(同五七年度実績四・五八カ月)が支給されるのに対し、臨時雇用員の場合、雇用継続期間に応じ五段階に分けて七万円ないし四三万円程度の定額が支給されるにとどまる。退職金は、職員の場合退職手当支給事務基準規程により支払われるのに対し、臨時雇用員の場合臨時雇用員の退職手当についてと称する事務連絡に基づいて支払われ、その算出方法・支給額に差異がある。

ウ 勤務日数は同一であるが、臨時雇用員は公休日・祝日・年末年始は無給扱いとなる。年次有給休暇は付与条件・付与日数に差異がある。妊娠管理休暇(妊婦の定期検診のための休暇)・生理休暇・育児時間・産前産後休暇(同五一年から)は職員、臨時雇用員いずれも認められる。

エ 職員は業務の必要により大阪工事局内外の転勤を命ぜられるが、臨時雇用員は原則として命ぜられない。

<4>  職員の場合、退職勧奨年齢は管理職五五歳・一般職員五八歳(大阪工事局では五五歳でほぼ退職している)であるのに対し、臨時雇用員には定年・退職勧奨年齢の定めがない。

<5>  職員には日本国有鉄道就業規則が適用されるが、臨時雇用員には臨時雇用員就業規則が適用される。

<6>  原告は臨時雇用員の退職に伴う欠員募集に応募し、簡単な面接試験を経て、縁故採用された。大阪工事局採用担当者は、二カ月の期間の定めのある臨時雇用員として採用することを説明した上、実際上二カ月で雇止めをすることはないから継続して働いて欲しい旨述べた。

<7>  原告はその後大阪工事局との間で二カ月ごとに契約更新を繰り返し、同四八年九月三〇日に一旦退職したが同四九年一月一〇日再就職し、本件雇止めまで働き続けた。右契約更新手続きは、当初二カ月ごとに予め大阪工事局が契約内容を記入した臨時雇用員雇用契約書に原告が署名又は署名・押印する形態がとられ、その後六回(一年分)の契約が一枚の契約書にまとめられ、初めに原告が署名・押印した後は二カ月ごとに順次押印する形態になった(この手続きも履践されないことがあった)が、同五六年四月一日分からは再び二カ月ごとに原告が署名・押印して契約書を取り交わす形態になった。

<8>  職務内容

ア 原告は事務補助職として停車場第一課第一係に配属され、同係係長の指示の下に事務補助業務に従事していた。事務補助職臨時雇用員は事実上各課に一人配属されていた。

イ 原告の具体的な職務内容は次のとおりである。

a 職員の出張命令簿の整理、旅費請求書の作成、出張に伴う公務指定書請求、切符の手配

b 職員給与・一時金・旅費等の受取り、課内の親睦会費・慶弔費等の給与等からの差引表作成及びそれらの支払い、私用電話・電報料金の支払い

c 課内庁注用品の請求・受取り・整理

d 職員の勤務状況及び旅費・超過勤務手当の月別集計表の作成

e 写図の外注業者からの納品・請求伝票の処理

f 会議の打ち合わせ資料の作成補助、図面の色付け、書類のコピー・浄書

g 往復文書等(現場からの書類、業務資料、局報等)の受取り・配付

h 清掃、職員・来客に対する給茶

2  右事実によれば、本件契約は、あくまでも二カ月の期間の定めがある雇用契約であって、当初から期間の定めのない労働契約であったことを認めるに足る証拠はなく、更新を繰り返すことにより期間の定めのないものに転化したと認めることもできない。しかしながら、本件契約は、反復更新されて一一年余にわたり継続されてきたことにより、実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していたこと、事務補助職の職務内容は正規職員に比して同程度に高度のものとはいえないが、課内の事務処理にあたり必要不可欠のものであったことに徴し、本件雇止めの意思表示は実質において解雇の意思表示にあたると解されるから、本件雇止めの効力の判断にあたっては解雇に関する法理を類推すべきである。したがって、大阪工事局において従来の取扱いを変更してもやむを得ないと認められる特段の事情の存しない場合には、期間満了を理由として雇止めをすることは許されないと解するのが相当である。

三  そこで、まず雇止めの必要性について検討する(請求原因8<1>)。

1  (証拠略)、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

<1>  国鉄は全国に九箇所の工事局を設置しており、大阪工事局もその一である。大阪工事局は独立採算制をとっていない。

<2>  国鉄は、昭和三九年度に欠損を生じて以来その経営が悪化の一途を辿り、同五五年度には赤字が一兆円を越え、同五七年度末の累積欠損金は約八兆九〇〇〇億円、長期負債は約一八兆四〇〇億円であって、事実上破産状態にあった。

国会は同五五年一一月二八日、職員を現在の四二万四〇〇〇人から三五万人に削減するため、年度ごとの経営改善計画提出を国鉄に義務付けた日本国有鉄道経営再建促進特別措置法を議決し、同法は同年一二月二七日公布された。これを受けて、国鉄は同五六年五月二一日運輸大臣に対し、同六〇年度職員三五万人体制(その後三二万人体制に計画変更)実現による人件費の削減・設備投資費の圧縮を打ち出した経営改善計画を提出した。

臨時行政調査会は同五七年七月三〇日内閣総理大臣に対し、新規採用・設備投資(安全確保のためのものを除く)の原則停止を謳った第三次答申を提出し、内閣は同年九月二四日この趣旨に沿い、当面緊急に講ずべき対策を閣議決定した。これを受けて、同五八年六月発足した国鉄再建監理委員会は、同八月内閣総理大臣に対し、新規採用及び設備投資を原則的に停止し、工事規模の圧縮に対応して、工事費中工事関係職員の人件費等に当てられる総経費を削減すべき旨を提言した。

<3>  国鉄における設備投資額は、同五三年に初めて一兆円を越え、その後同五六年度までは約一兆円を維持していたが、同五七年度には八八八六億円(実績。予算は一兆三六〇億円であった)、同五八年度は七〇六〇億円(予算)、同五九年度は五六六四億円(同)と圧縮された。これに伴い、大阪工事局の工事費も、同五五年度から同五七年度にかけては毎年約五〇〇億円であったが、同五八年度は三二四億円、同五九年度も三二四億円(予算)と削減され、同六〇年以降も回復または増加する見通しはなかった。

<4>  同五九年二月のダイヤ改正による合理化が一段と進んだ結果、同五八年度の余剰人員数(現在員数から業務に必要とされる所要員数を差し引いた数)は四万三五〇〇人となり、同年度末の特別退職者数は約二万二〇〇〇人だったことから、同五七年度からの持ち越し三〇〇〇人を加えた同五九年四月一日時点での余剰人員数は二万四五〇〇人であった。国鉄は同年六月五日余剰人員対策として、一時帰休制の導入、関連企業への出向・派遣、勧奨退職制度手直しによる退職促進を挙げて、その実施に取り組んだ。

大阪工事局の職員数は、福知山線電化関係工事及び大阪駅ビル新築工事の行われた同五五年度から同五七年度にかけて約一〇〇〇人、その後設備投資額の削減・担当工事の減少した同五八年度一〇〇六人、同五九年度九三六人、同六〇年度八八六人であった。

<5>  工事局は、同五八年国鉄全体の設備投資額の圧縮に対応して人件費を削減するため、各工事局で雇用していた臨時雇用員(事務補助職)約三五〇人の業務の見直しを行い、臨時雇用員の担当業務を職員の業務に移行することとし、事務補助員制度の廃止を前提とした予算措置を組んだ。大阪工事局においても、右工事費削減には旅費・超過勤務手当の節約のみでは対応しきれず、臨時雇用員の賃金削減が不可避と判断して、臨時雇用員制度を廃止することを決定し、同年六月二九日原告を含む臨時雇用員五九人に対し雇止めを提案した。

<6>  原告の担当していた職務は、本件雇止め後、停車場第一課第一係(第一課を総括する業務を分掌する)の職員が担当し、人員の補充はなかった。

<7>  国鉄のいわゆる分割民営化は、同六〇年七月国鉄再建監理委員会の「国鉄改革に関する意見」提出によって具体化し、同六一年一一月二八日に分割民営化を定めた国鉄改革関連法案が議決され、同六二年四月一日に新会社が発足した。その間、同六一年六月から退職金を上積みした希望退職者募集が開始され、多くの国鉄職員が退職したほか、余剰人員は国・地方自治体・特殊法人、民間企業、国鉄関連企業に再就職したが、九州や北海道では多くの国鉄職員が新会社に採用されず、清算事業団に身分が引き継がれた(清算事業団では三年間再就職措置が保障されているのみである)。

2  以上の事実によれば、国鉄は高度の経営危機にあり、民間企業であれば倒産必至の状況下にあって、国鉄赤字を解消することが国民的課題となっていたこと、国鉄は右赤字解消のため設備投資の原則停止と共に人件費の削減を中心的な方策に据え、職員をも含めた人員整理計画を策定・実施したこと、いわゆる分割民営化に伴い、職員の一部は退職勧奨に応じ又は国鉄以外への転出を余儀なくされ、新会社に採用されなかったことからすれば、国鉄が人件費削減のために臨時雇用員制度の廃止を前提とした予算措置を組んだこと及び大阪工事局が設備投資費の圧縮に対応して原告を含む臨時雇用員五九人の雇止めを決定したことには企業経営上の観点から合理性がある。

3  原告は、国鉄赤字の真の原因は、借入金による設備投資の強行、公的助成金の欠如、貨物輸送運賃の値上抑制、恩給公務員・復員軍人・外地鉄道員の国鉄共済組合への組入れによる年金・退職金負担の増大、地方交通線の赤字にあり、臨時雇用員の雇止めを正当化する事由とはならないと主張する。しかし、雇止めの必要性は、その時点における企業の経営状態により客観的に判断されるべきであって、経営危機に至った原因が使用者その他にあるとしても、雇止めの必要性を失わしめることにはならない。

また、原告は、国鉄の余剰人員問題は同五九年四月一日二万四五〇〇人の余剰人員が生じたことに始まり、国鉄再建監理委員会の「国鉄改革に関する意見」提出により具体化するのであって、本件雇止めの時点では解雇の必要性はなかったと主張する。たしかに、いわゆる分割民営化のための人員削減計画が具体化したのは同六〇年七月以降であるが、前記認定のとおり、国鉄は同五七年度末には既に破産状態にあり、業績改善の可能性は皆無であったこと、国鉄は分割民営化に移行する準備段階として、同五六年五月には人件費の削減を中心的な課題に挙げていたこと、臨時行政調査会・国鉄再建監理委員会も本件雇止め以前に同様の答申・提言をしていることからすれば、同五八年九月三〇日の時点で本件雇止めの必要性がなかったとはいえない。

四  国鉄のした再就職斡旋について検討する。

(証拠略)、原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

1  大阪工事局は、雇止めの対象となる臨時雇用員の再就職を斡旋するため、局長及び次長からなる再就職斡旋対策本部を設置して、国鉄の関連会社の他公共職業安定所や国鉄を退職した職員等を通じて再就職先を模索し、同年八月二五日ころから雇止めの対象となる臨時雇用員に対し、再就職の希望の有無・再就職先についての希望を聴取すると共に、求人会社七〇数社を斡旋した。その結果、雇止め以前に退職した者七人、再就職しない意思を明らかにした者七人、自ら再就職先を確保する旨申し入れた者一人及び原告を除く四三人が大阪工事局の斡旋により再就職した。大阪工事局は再就職斡旋をするにあたり賃金が同等以上であることを重視しており、臨時雇用員らは新規採用されることになるため、斡旋対象となった企業の中には賃金以外の労働条件が臨時雇用員のそれより劣後するものも含まれていた。

2  原告は同年八月二五日の希望聴取の段階から一貫して雇用の継続を希望した。大阪工事局は原告に対し、再就職先としてア三田青写真株式会社(国鉄の関連会社で、社員として採用され、現給が保障される)・イ椿本福祉サービス株式会社(社員として雇用され、基本給一二ないし一三万円の他生活手当一万円が支給される。通勤時間が短い。労働組合は企業組合で、上部団体に加入していない)・ウ桜川ポンプ製作所株式会社(日給月給制の準社員として雇用され、基本給一一万二〇〇円ないし一二万円の他住宅手当二〇〇〇円・食事手当八〇〇円が支給される。通勤時間が長い。勤務場所が駅から遠いため送迎バスが用意されている)を紹介した。原告は、アは大阪工事局出入りの同社従業員から、生理休暇はあるが満足に取れない雰囲気で、従業員の出入りも激しい旨聞いていること、イは労務対策が厳しいこと、ウは通勤時間が長く、始業時間も午前八時一五分と早いことを理由にいずれの斡旋も拒絶し、再就職先の希望条件として、総評傘下の労働組合が存在すること、正規の従業員としての身分保障があること、国鉄と無関係であること、子供二人があるので残業等がないこと、営業はしたくないことを挙げた。大阪工事局はその後も斡旋に応じるよう説得に努めたが、原告はこれに応ぜずあくまで雇用の継続を求めた。

五  原告は、臨時雇用員を一律に第一順位として解雇するのは人選基準に合理性がないと主張する(請求原因8<3>ア)。

しかしながら、前記認定のとおり、職員と臨時雇用員とは採用形態・条件、職務内容、労働条件等を異にしており、臨時雇用員もその差異を熟知して長年にわたり職員化を要求していたこと、臨時雇用員の職務は職員により代替可能であることに徴すれば、簡易な手続きで期間を二カ月と定めて採用された臨時雇用員を雇止めする場合と、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない雇用契約を締結した職員を解雇する場合とでは、自ずから合理的な差異があり、臨時雇用員を一律に第一順位として雇止めするのも不合理とはいえない。

六  原告は、国鉄が解雇回避努力義務を尽くさなかったから、本件雇止めは無効であると主張する(請求原因8<2>)。

前述のとおり、臨時雇用員を一律に第一順位として解雇することも不合理とはいえないから、本件雇止めに先立ち職員の希望退職者を募集しなくても解雇回避努力義務違反とはならない。また、本件雇止め当時、臨時雇用員全員が余剰であり、国鉄の他の部局に配置転換する余地もなく、臨時雇用員制度の廃止が不可欠であったのであるから、原告の配転可能性を探求し又は他の臨時雇用員に対して希望退職者を募集しなかったことも、解雇回避努力義反(ママ)とはならない。

七  原告は、本件解雇を含む臨時雇用員全員の一律解雇は女性を対象とするもので、性別による差別にあたり無効であると主張する(請求原因8<3>イ)。

(証拠略)によれば、国鉄は昭和二四年の行政整理により女子職員を大量解雇して以来女子職員の新規採用を停止し、九七人の女子職員を採用した同五二ないし五五年を除き、男女雇用機会均等法が施行されるまで女性を職員として採用しなかったこと、その間、事務補助業務は、臨時雇用員として採用した女性に担当させてきたこと、大阪工事局の臨時雇用員は全体で五九人であり、そのうち五三人が女性であったこと、国鉄は、男女雇用機会均等法施行後女性を職員として採用し始めたこと、本件雇止めは臨時雇用員制度廃止の一環としてなされたものであるところ、大阪工事局が同五八年六月二九日に臨時雇用員の削減を提案して以降七人の臨時雇用員が退職したため、同局が同年九月三〇日限りで雇止め措置をとったのは、事務補助職四三人、守衛・雑役職九人(うち守衛六人は男性)であることが認められる。これらの事実によれば、国鉄が男女雇用機会均等法施行前に女性を職員として採用しなかったことの当否はともかく、これを違法と断ずることはできないし、雇止めを通告された五九人の臨時雇用員中五三人が女性であったとしても、それは事務補助職をたまたま女性が担当していた結果であって、臨時雇用員の一律解雇が性別による差別に該当するということはできない。

八  さらに、原告は、大阪工事局が国労分会との間で労使協議義務を履行していない旨主張する(請求原因8<4>)。

(証拠略)原告本人尋問の結果によれば、大阪工事局は同五八年六月二九日国労分会に対し臨時雇用員の削減を提案して以降、一〇回にわたり同分会との間で団体交渉をもったほか、同年八月四日には停車場第一課所属の同分会組合員と同課課長・課長補佐との間で課長交渉を行ったこと、同分会は団体交渉の席上において、当初国鉄赤字についての当局の経営責任、雇止めの必要性が生じた理由、設備投資費・工事量の推移、設備投資費の削減理由・回復の見通しの有無等を問い質し、あくまで雇止めの撤回・雇用の継続を要求して譲歩の姿勢を示さなかったが、同年八月二四日に至り(雇用の継続を希望する原告は別として)再就職斡旋条件についての申入れを行い、再就職先の労働条件、複数の斡旋先の紹介等を要望した上、国鉄が責任をもって再就職先の斡旋をするよう求めたこと、大阪工事局は臨時雇用員削減の理由として、国鉄全体の赤字、大阪工事局の工事量の減少、波動業務対応としての臨時雇用員の必要性の消失を挙げたが、同分会は、国鉄赤字の原因は構造的欠陥を放置した国鉄当局にあり臨時雇用員が削減されるのはおかしいこと、臨時雇用員の業務は波動業務ではないこと等を主張して、これに納得せず、あくまで原告の雇用の継続に固執して団体交渉は平行線のまま終了したことが認められる。

一般に、労働協約に整理解雇についての労使間の協議ないし同意条項がない場合でも、使用者は人員整理を進めるにあたって労働組合に実状を説明しその了解を得るよう努力すべき信義則上の義務があると解されるが、右認定の事実によれば、大阪工事局は、臨時雇用員削減問題について国労分会の了解を得るべく十分尽くすべき処置を講じたにもかかわらず、なおその了解を得られなかったことが認められ、労使協議を履行していないとはいえないと解するのが相当である。

九  原告は、国鉄においては労使間に職員を対象として、機械化等の実施に伴って、本人の意に反する免職及び降職は行わないという協定が締結されているところ、本件雇止めはこれに違反して無効であると主張する(請求原因9)。

右協定の存在は当事者間に争いがないが、前記認定のとおり、職員と臨時雇用員との間には採用形態・条件、職務内容、労働条件等において基本的な差異があり、右協定は専ら職員を対象とするもので臨時雇用員には適用がないと解されるので、原告の主張は理由がない。

一〇  以上によれば、国鉄及び大阪工事局において臨時雇用員に対し従来の取扱いを変更して雇止めをする事もやむを得ない特段の事情が存しなかったものとは認められず、他方、本件雇止めを無効と判断すべき事由はない。したがって、本件労働契約は、同年九月三〇日の経過をもって期間満了により終了したというべきである。

一一  よって、原告の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 土屋哲夫 裁判官 大竹昭彦)

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