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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)1019号 判決 1984年10月04日

原告

生原栄人

右訴訟代理人

林信一

皆見一夫

被告

今田功

右訴訟代理人

佐野正秋

谷口光雄

被告

エイアイユーインシュアランスカンパニー

(エイアイユー保険会社)

右日本における代表者

堺高基

右訴訟代理人

中山厳雄

主文

被告今田功は原告に対し、金一、七一〇万七、六三四円およびこれに対する昭和五九年二月二四日から支払済まで年五分の割合による金員を、被告エイアイユーインシュアランスカンパニー(エイァイユー保険会社)は原告に対し、金一、二四四万〇、八二〇円およびこれに対する同月二一日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その一を被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

第一事故の発生

請求原因一の事実は、原告と被告今田において争いがなく、請求原因一の1ないし4の事実は、原告と被告会社間でも争いがなく、<証拠>によれば、同5の事実が認められる。

第二責任原因

一運行供用者責任

請求原因二の1の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告今田は、民法七〇九条につき判断するまでもなく、自賠法三条により、本件事故による原告の傷害に基づく損害を賠償する責任がある。

二一般不法行為責任

請求原因二の2の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告今田は民法七〇九条により、本件事故による原告の物損につき賠償する責任がある。

三契約責任

請求原因二の3の事実は、原告と被告会社間に争いがない。従つて、被告会社は本件保険契約により、本件事故による原告の後遺障害に基づく損害を填補すべき責任がある。

第三損害

1  受傷、治療経過等

<証拠>によれば、請求原因三(一)(二)の事実が認められ、かつ後遺症として、脊柱に奇形を残し(自賠法施行令別表に定める第一一級七号)、上肢の三大関節中の一関節(左手首)の機能に障害を残す(同第一二級六号)等の症状が固定(昭和五八年一月三一日頃固定)したことが認められる。

ところで、原告は右の後遺障害のほか、原告には神経症状も本件事故による後遺障害である旨主張するが、原告本人尋問の結果によれば、原告の本件事故による後遺症神経症状は、脊柱の奇形に由来し、かつ、右神経症状は、局部に頑固な神経症状を残す後遺症一二級一二号程度のものであることが認められ、そうすると、原告の主張する後遺症神経症状は、脊柱に奇形を残す後遺症に含めてこれを評価するのが相当であると認められる。

2  治療関係費

(一)  治療費

<証拠>によれば、原告は本件事故による傷害治療のため、自己負担分のみでも六〇万九、二八六円の治療費を要したことが認められる。

(二)  コルセット代

<証拠>によれば、原告は、本件事故による傷害治療のためコルセット使用の必要が生じ、一万三、二〇〇円のコルセット購入代金を支出したことが認められる。

(三)  眼鏡代

<証拠>によれば、原告は本件事故による傷害治療のため眼鏡使用の必要が生じ、七万円の眼鏡購入代金を支出したことが認められる。

(四)  入院雑費

原告が一〇八日間以上入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日一、〇〇〇円の割合による合計一〇万八、〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

(五)  入院付添費

<証拠>によれば、原告は前記入院期間中七四日間付添看護を要し、その間一日三、五〇〇円の割合による合計二五万九、〇〇〇円の損害を被つたことが認められる。右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。

(六)  通院交通費

<証拠>によれば、原告は前記通院のため合計二万八、八〇〇円の通院交通費を要したことが認められる。右金額を超える入院付添人交通費分については、これを含めて近親者付添看護費が算定されていることから、本件事故と相当因果関係がないと認める。

3  逸失利益

(一)  休業損害

<証拠>によれば、原告は、事故当時三一才で、建築業を経営し、少なくとも一か年平均三七二万〇、三〇〇円の収入(昭和五七年度賃金センサス・原告と同年代男子労働者平均賃金)を得ていたが、本件事故により、昭和五七年六月一九日から昭和五八年一月三一日まで休業を余儀なくされ、その間合計二三〇万三、五二八円の収入を失つたことが認められる。

(二)  将来の逸失利益

前記認定の原告の年令・職業・収入および前記認定の受傷並びに後遺障害の部位程度によれば、原告は前記後遺障害のため、昭和五八年二月一日から、少くとも、一〇年間はその労働能力を二七%、その後一五年間はその労働能力を一四%それぞれ喪失するものと認められるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一二一四万六、八二〇円(円未満切捨て。以下同じ)となる。

計算式<省略>

なお、被告会社は原告の本件事故による後遺障害の程度及び残存期間を争い、<証拠>を提出するが、右証拠によれば、原告は症状固定後は稼働しており、昭和五九年五月六日に追突事故の加害者となつたことが認められるものの、右事実及び証拠によるも、右認定の原告の労働能力喪失率及びその期間を認定する妨げとはならない。

4  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、原告の年令その他諸般の事情を考えあわせると、原告の後遺症慰藉料額は三二二万四〇〇〇円、入通院の慰藉料額は一五〇万円とするのが相当であると認められる。

5  物損

(一)  被害車全損

<証拠>によれば、被害車は、昭和五一年型日産スカイライン二〇〇〇GT車であつて、昭和五五年に購入した際の代金は八〇万円であつたこと、被害車は、本件事故のため全損となり、廃車処分とされたことが認められ、経験則(オートガイド自動車価格月報)によれば、昭和五七年度における被害車と同種同型車両の中古車販売価格は、少なくとも四〇万円以上であることも認められ、そうすると、原告は、本件事故により、自己の所有する被害車が全損状態となつて廃車を余儀なくされ、そのため、少なくとも四〇万円の損害を受けたものというべきである。

(二)  仕事道具一式

<証拠>によれば、原告は、被害車に積載していた仕事道具一式が、本件事故のため使用不能となり、仕事道具一式の当時の価額一〇万円につき損害を受けたことが認められる。

(三)  洋服一式

<証拠>によれば、原告は、本件事故により、当時身に付けていた新調の洋服(時価少なくとも四万円)、靴(時価二万二、〇〇〇円)その他下着などが使用不能となり、少なくとも六万二、〇〇〇円以上の損害を受けたことが認められる。

(四)  腕時計

<証拠>によれば、原告は、本件事故により、事故当時身につけていた腕時計を紛失したこと、事故より五ないし六年前の右腕時計購入価格が六万五、〇〇〇円であつたことが認められ、そうすると、右腕時計の事故当時の推定価格一万三、〇〇〇円(購入価格の五分の一)の損失を被つたものと推認することができる。

第四損害の填補

請求原因四の事実は、当事者間に争いがない。

よつて原告の前記損害額合計二、〇八三万七、六三四円から右填補分五二三万円を人損分から差引くと、原告が被告今田に請求しうる残損害額は一、五六〇万七、六三四円となる。

第五弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告今田に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一五〇万円(うち、後遺障害分にかかる弁護士費用の額は一一〇万円)とするのが相当であると認められる。

第六無保険車傷害条項に基づく注請求

一<証拠>によれば、原告と被告会社間で締結された自家用自動車保険約款(以下、本件約款という)には、概略次の如き条項が記載されていることが認められる。

第三章 無保険車傷害条項

第一条 (当会社の支払責任)

一項 当会社は、無保険自動車の所有、使用または管理に起因して、保険証券記載の自動車(以下「被保険者」という。)の生命が害されること、または身体が害されその直接の結果として後遺障害が生じることによつて被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被る損害(この損害の額は第八条に定める額をいう。)について、賠償義務者がある場合にかぎり、この無保険車傷害条項および一般条項に従い、保険金を支払う。

二項 当会社は、一回の無保険車事故による前項の損害の額が、自賠責保険等によつて支払われる金額および対人賠償保険等によつて、賠償義務者が前項の損害について損害賠償責任を負担することによつて被る損害のてん補を受けることができる場合は、その対人賠償保険等の保険金額または共済金額の合計額を超過する場合にかぎり、その超過額についてのみ保険金を支払う。

第八条 (損害額の決定)

一項 当会社が保険金を支払うべき損害の額は、賠償義務者が被保険者またはその父母、配偶者もしくは子が被つた損害については法律上負担すべきものと認められる損害賠償責任の額によつて定める。

二項 前項の額は、保険金請求権者と賠償義務者との間で損害賠償責任の額が定められているといないとにかかわらず、次の各号に定める手続によつて決定する。

一号 当会社と保険金請求権者との間の協議

二号 前号の協議が成立しないときは、一般条項第一八条(評価人および裁定人)に定める手続または当会社と保険金請求権者との間における訴訟、裁判上の和解もしくは調停

第九条 (費用)

保険契約者または被保険者が支出した次の費用は、これを損害の一部とみなす。

一号

二号 一般条項第一四条六号(他人に損害賠償の請求をすることができる場合)に規定する権利の保全または行使に必要な手続をするために当会社の書面による同意を得て支出した費用

第六章 一般条項

第一九条 (保険金の請求)

一項 当会社に対する保険金請求権は、次の時から、それぞれ発生し、これを行使することができる。

三号 無保険車傷害に関しては、被保険者が死亡した時または被保険者に後遺障害が生じた時

二項 被保険者が保険金の支払を請求するときは、所定の期間内に、保険証券に添えて所定の書類または証拠を当会社に提出しなければならない。

第二〇条 (保険金の支払)

当会社は、被保険者が前条第二項の手続をした日から三〇日以内に保険金を支払う。但し、当会社がこの期間に必要な調査を終えることができないときは、これを終えた後、遅滞なく保険金を支払う。

二右認定事実をもとに、原告が被告会社に請求しうる金員の総額について検討するに、まずはじめに本件約款第三章第八条に基づき損害額を決定し、しかるのちに、同章第一条二項を適用すべきところ、前記認定のとおり、被保険者である原告の本件事故に基づく後遺障害による損害は、加害者である賠償義務者が負担すべき、原告の将来の逸失利益一、二一四万六、八二〇円、後遺障害慰藉料三二二万四、〇〇〇円及び後遺障害分にかかる弁護士費用一一〇万円の合計金一、六四七万〇、八二〇円となる(なお、原告は、被告会社に対し本件訴訟による被告会社への弁護士費用を請求するが、原告の被告会社に対する本訴請求は本件契約に定められた保険金支払請求権に基づきその履行を求めるものであるから、原告の右請求は、これを認めることはできない。また、第三章第九条二号によつても請求しえないのは後記のとおりである。しかしながら、本件の如く、被保険者である原告が任意に履行しない賠償義務者を相手に損害賠償義務の履行を求めて訴訟を提起し、これを遂行している場合には、原告において負担した賠償義務者に対する弁護士費用のうち相当因果関係にある金員については、被保険者の損害となり、賠償義務者の法律上負担すべきものとなるのであるから、被告会社は、第三章第八条一項により、被保険者である原告の損害として、原告に対し右金員を支払う義務があるものと解され、同章第九条二号にいう費用とは、求償権の保全のための行使手続費用であつて、原則として手続費用のみをいい、争訟費用は含まれないものと解すべく、例外的に、保険会社が争訟費用を損害の一部として負担することを同意した場合にのみ、争訟費用の全額を保険会社において負担するものと解すべきであるから、被告会社の同意があつたことを主張立証しない原告の被告会社に対する弁護士費用の請求は、第三章第九条二号においても、これを認めることはできず、また、被告会社は、本件の如く、保険会社の求償権の保全のためではなく、原告が自らの損害の填補を求め、加害者に損害の一費目として弁護士費用を請求している場合には、同号を根拠に原告の被告今田に対する本件事故と相当因果関係にある弁護士費用の支出につき、これの支払を被保険者である原告の損害ではないとして拒むことはできないものと解すべきである)から、右金員より自賠責保険金として原告が受領した金員のうち、本件事故による後遺障害分として受領した四〇三万円を控除した一、二四四万〇、八二〇円がその損害総額となる。次に、原告の請求する被告会社に対する遅延損害金の起算日について検討するに、第六章第一九条一項三号によれば、原告は被告会社に対し、前記認定のとおり、原告の本件事故による傷害が症状固定した日は、昭和五八年一月三一日であるから、同日には保険金支払請求権が発生し、これを行使することができるが、右は不確定期限であり、同条二項及び同章第二〇条により、被保険者が所定の期間内に、所定の書類または証拠を保険会社に提出して保険金支払請求し、保険会社は右請求を受けた時から原則として遅滞の責に任じなければならないのであるが、契約上、支払われるべき保険金額がいまだ確定していない本件保険契約においては、保険会社において、事故の発生、原因、責任関係のみならず、損害の程度、その金額などの調査をする期間が必要であり、右の期間を支払猶予期間とすることはこれを是認することができ、従つて、その期間経過後に保険金支払義務の履行期が到来するものと解されるところ、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、後遺症状固定後、被告会社に所定の書類等を提出して保険金支払請求をしたが被告会社からの提示支払金額に不満をもち、昭和五九年二月二〇日に本件訴訟を提起し、同月二三日に至つて被告会社に本件訴状が送達されたことが認められ、右事実によれば、原告は、本件訴訟提起前、すでに所定の書類等を提出して保険金の支払請求し、被告会社では、提出書類等をもとに必要な調査を終え、原告に対し、支払保険金額を提示していることが推認され、そうすると、遅くとも原告が本件訴訟を提起した日においては被告会社の保険金支払義務の履行期が到来しており、訴訟提起の翌日より、被告会社は商事債務である保険金支払義務の履行を遅滞したものというべきである。

第七結論

よつて被告今田は原告に対し、一、七一〇万七、六三四円、およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五九年二月二四日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、被告会社は原告に対し一、二四四万〇、八二〇円、およびこれに対する同月二一日から支払済まで年六分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(坂井良和)

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