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大阪地方裁判所 昭和59年(わ)771号 判決 1984年5月31日

主文

被告人を懲役三年及び罰金二〇万円に処する。

未決勾留日数中七〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金二五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収してあるビニール袋入り覚せい剤二袋(昭和五九年押二四四号の三)、銀紙包入り覚せい剤一包(同押号の四)及び半切茶色封筒に入つたビニール袋入り覚せい剤七袋(同押号の九)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、昭和五九年二月二日午後二時五分ころ、大阪市港区市岡一丁目六番二二号所在の大阪府港警察署中庭に駐車中の普通貨物自動車内において、フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶65.56グラム(昭和五九年押二四四号の三、四及び九はその一部である。)を所持したものである。

(証拠の標目)<省略>

なお、被告人は、捜査及び公判の各段階を通じて、概ね、本件覚せい剤は「西田一男」なる男に依頼されて一時的に保管していただけであり、自らこれを密売して利益を得る目的はなかつた旨供述するけれども、本件覚せい剤は、65.56グラムと多量であるうえに、銀紙包入りのもの(昭和五九年押二四四号の符号四。以下、押収番号については符号のみをもつて表示する。)を除くその余のもの(符号三及び九)はいずれも約五グラム又は一〇グラムずつビニール袋に分包されており、しかも符号九の覚せい剤が入つていた半切茶色封筒にはいずれもその内容量に対応する「⑤」又は「⑩」の数字が記載されており、その量及び形態から見てこれらが密売のためのものであることは明らかであるところ、前掲各証拠によると、更に、被告人は逮捕された当時右の覚せい剤のほか、電話番号控帳一冊(符号一四)、メモ紙二枚(符号一一)名前と電話番号等を記載したメモ一枚(符号一五)、ポケットベル二台(符号一二及び一三)、「西一男」名義の預金通帳一冊及びキャッシュカード一枚並びに現金一一万一一〇〇円を所持していたこと、右電話番号控帳は、被告人が備忘のため自ら記載したもので、覚せい剤事犯の前科・前歴を有する者を含む暴力団関係者が加入名義人となつている電話番号が多数記載されているほか、後記の三口の普通預金口座の銀行及び支店名、口座番号等が記載されていること、符号一一のメモ紙のうち一枚には被告人の手によつて本件覚せい剤の総量(グラム数)に近似する「残70」との記載がなされていること、符号一五のメモは、被告人が自ら作成した一覧表であるが、それには、「立花、上田堺、柿内、広岡、森本」という姓が記載されており、各姓ごとに覚せい剤のグラム数と見られる「5、10」の各欄に、その代金額(円)と見られる「3万、6万」(立花及び森本関係)、「4万、8万」(上田堺関係)、「3万5、6万」(柿内及び広岡関係)の各数字が記載されているほか、連絡先と見られる電話番号が記載されており、「立花、柿内、森本」についてはこれと前掲電話番号控帳記載の電話番号とが一致すること、符号一二のポケットベルには「立花、広岡」と、符号一三のポケットベルには「森本、柿内」とそれぞれ書かれた紙片が貼付されており、これらはいずれも被告人が自署したものであるが、右各姓は前掲符号一五のメモに記載されているものと同一であるうえ、符号一三のポケットベルの加入名義人吉村近之及びその加入者の電話番号の名義人正司哲夫はいずれも覚せい剤事犯の前科を有するものであること、右の各ポケットベルと同一物であるか否かは不明であるが、被告人は、昭和五九年一月二四、五日ころにもポケットベルを所持していたこと、前記預金通帳及びキャッシュカードは、株式会社香川相互銀行弁天町支店「西一男」名義の普通預金口座(番号一一二八五七二)について発行されたものであるが、右口座は、同年一月一三日被告人が同支店に自ら赴き架空名義を用いて開設したものであり、同月二六日、株式会社宮崎銀行綾支店から振込依頼人「原山富志子」名義をもつて一〇万円が振込入金されていること、前掲電話番号控帳に記載されている口座のうち、株式会社大和銀行市岡支店「大内千鶴」名義の普通預金口座(番号一九〇七九〇九)は、被告人の二女が同五八年九月一日開設したもので、同年一〇月二九日現在その預金残高が零になつていたが、そのころ同女は被告人に聞かれて同口座の番号を教えたことがあり、その後、同年一二月二日「ヨコタタダミ」名義で二〇万円、同月一四日「キノシタハツジ」名義で三万円、同月二九日「オオヤマヒロシ」名義で一〇万円、同五九年一月一〇日「オオヤマミノル」名義で三万五〇〇〇円がそれぞれ振込入金されており、これらはいずれも実質的には被告人に宛てて送金されたものであること、同銀行天六支店「山田一男」名義の普通預金口座(番号一八一六九三三)は、同五八年九月一六日架空名義を用いて開設されたもので、その後同口座には「オオウチチヅル」名義で同五九年一月二三日に七万五〇〇〇円、同月三〇日に一二万五〇〇〇円、「ニシカヅオ」名義で同月二六日一三万円が振込入金されているが、これは被告人が右の各名義を用いて振込入金したものであること、被告人は、同五八年一一月二二日に前刑の執行が終了し、翌二三日大分刑務所を出所した後直ちに来阪して二女のもとに同居したが、その後さほど稼働した形跡がないのに、逮捕時には一一万円余もの多額の金員を所持していたことが認められ、これらの各事実に徴し、かつまた、被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書並びに当公判廷における供述中、被告人が本件覚せい剤及びポケットベルを所持するに至つた経緯、「西田一男」なる男についての説明、前掲の電話番号控帳、メモ(符号一一)及びメモ紙(符号一五)の各記載についての説明、三口の普通預金口座の出入金に関する説明、被告人の稼働状況、所持していた金員の出処に関する説明の部分は、いずれも不自然、不合理で、到底措信しえないことに鑑みると、被告人が自ら覚せい剤の密売を行うか又は何人かの行つていた覚せい剤の密売に加功するかして、自ら財産上の利益を得ていたものと推認することができ、したがつて、本件覚せい剤もまた被告人が右密売により自ら財産上の利益を得る目的で所持していたものと推認することができる。

(累犯前科)

被告人は、昭和五七年一二月一五日宮崎地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪により懲役一年に処せられ、同五八年一一月二二日の右刑の執行を受け終わつたものであつて、以上の事実は、右裁判の判決書謄本及び検察事務官作成の前科調書によつてこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示所為は覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項一号、一四条一項に該当するところ、情状により懲役刑及び罰金刑を併科することとし、被告人には前記の前科があるので刑法五六条一項、五七条により同法一四条の制限内で再犯の加重をした刑期及び所定金額の範囲内で被告人を懲役三年及び罰金二〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中七〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、押収してあるビニール袋入り覚せい剤二袋(昭和五九年押二四四号の三)、銀紙包入り覚せい剤一包(同押号の四)及び半切茶色封筒に入つたビニール袋入り覚せい剤七袋(同押号九)はいずれも判示の罪に係る覚せい剤で犯人が所持していたものであるから、覚せい剤取締法四一条の六本文によりこれを没収することとする。

(量刑の理由)

本件所持に係る覚せい剤は65.56グラムと多量であること、被告人の関与していた覚せい剤の密売は、一回の取引量も多く、かなり本格的なものであり、被告人は生活費のほとんどを右密売による利得で賄つていたものと推認されること、更に、同種事犯による前刑の執行終了後間もなくの犯行であることを併せ考慮すれば、被告人の刑責は重いといわなければならず、右密売に携わつていた期間が比較的短いことなど被告人に有利な事情を斟酌しても、主文掲記の刑はやむをえないものと考える。

よつて主文のとおり判決する。

(青木暢茂 齋藤隆 稲葉一人)

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