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大阪地方裁判所 昭和58年(行ウ)53号 判決 1985年5月31日

原告

品川燃料株式会社

右代表者

高橋吉雄

右代理人支配人

前田三哲

原告

品川油化株式会社

右代表者

谷内晶

原告ら訴訟代理人

塩津務

津島輝一郎

大熊良臣

被告

大阪府東府税事務所長下野堯秀

右訴訟代理人

道工隆三

井上隆晴

柳谷晏秀

青本悦男外三名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告ら

被告が昭和五七年八月一八日付で、原告品川燃料株式会社の昭和五五年一二月から同五六年七月までの各月分の軽油引取税についてした更正処分及び過少申告加算金の賦課処分並びに原告品川油化株式会社の昭和五六年一月から同年五月までの各月分の軽油引取税についてした更正処分及び過少申告加算金の賦課処分をいずれも取消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決

2  被告

主文と同旨の判決

二  原告らの請求原因

1  原告らはいずれも地方税法七〇〇条の二第一項三号にいう特約業者として軽油引取税の特別徴収義務を負う者であるところ、原告品川燃料(以下、原告らを表示する際「株式会社」を省略する。)は被告に対し昭和五五年一二月から同五六年七月までの各月分の軽油引取税につき別表一の「すでに納入(納付)義務の確定した額」欄記載のとおり申告したが、被告は昭和五七年八月一八日付で同表の「更正・決定額」欄記載のとおりの更正処分及び同表の「加算金額」欄記載のとおりの過少申告加算金の賦課処分をし、また原告品川油化は被告に対し昭和五六年一月から同年五月までの各月分の軽油引取税につき別表二の「すでに納入(納付)義務の確定した額」欄記載のとおり申告したが、被告は右同日付で同表の「更正・決定額」欄記載のとおりの更正処分及び同表の「加算金額」欄記載のとおりの過少申告加算金の賦課処分をした(以下「本件処分」という。)。

2  原告らはいずれも本件処分を不服として昭和五七年一〇月四日大阪府知事に対し審査請求をしたが、同知事は昭和五八年三月一五日付で審査請求棄却の裁決をし、その裁決書は翌一六日原告らに送達された。

3  しかしながら、本件処分は、いずれも原告らが元売業者である日綿實業株式会社(その後社名変更によりニチメン株式会社となる。以下「ニチメン」という。)に対して販売した軽油で、原告らが特別徴収義務を負わないものを申告にかかる各月の課税標準量に加えてなされたものであつて、課税標準量を過大に認定した違法がある。なお、本件軽油はすべてニチメンから特約業者である奈良興産株式会社に販売されており、その軽油引取税の特別徴収義務者は同社である。

4  よつて、原告らはそれぞれ本件処分の取消を求める。

三  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1及び2の事実は認める。同3の事実中、ニチメンが元売業者であり、奈良興産が当時特約業者であつたことは認めるが、その余は争う。

2  原告らが本件処分にかかる各月中に販売した軽油は、被告に申告した課税標準量以外に、奈良興産に販売して同社が引取つた本件軽油があり、その引取量及び課税標準量は、別表三記載のとおりである。

3  原告らがニチメンに販売したと主張する本件軽油は、右のように実際は原告らが奈良興産に直接販売して同社が引取つたものであり、同社に未課税軽油を入手させるためにニチメンが原告と奈良興産との間に当事者として介在したかのごとく仮装されたものにすぎない。その事情は次のとおりである。

(一)  原告品川油化は原告品川燃料の子会社であるが、専任の社員を大阪出張所に置いていないため、その軽油取引に関する業務はすべて原告品川燃料大阪支店の担当者が取扱つていたところ、原告らとニチメンとの間には従前軽油の継続的な取引はなかつた。また奈良興産は当時橿原市内の貸ビルの一室に小さな事務所を持つ特約業者であつたが、資産も信用もほとんどない会社であり、従前ニチメンとの間に軽油の継続的な取引はなかつた。

(二)  本件軽油の実際の発注はすべて奈良興産から原告らの担当者山村昌彦になされ、原告らはこれに基づいて同社に出荷手続を行つていたものであり、その間ニチメンは一切関与していない。ニチメンと奈良興産との間で作成されている本件軽油の販売についての関係伝票等は出荷の都度作成されたものではなく、山村、奈良興産専務取締役石川省治及びニチメンの担当者飯田正勝の三名の事前の了解に従つて、奈良興産が原告らから本件軽油の出荷を受けた月の月末に、石川と山村が同社において用意できた現金又は銀行保証小切手とその金額に見合う軽油の量を記載したメモを持参してニチメンに赴き、飯田が右メモに基づき一連伝票となつている売上原票、納品書、受領書等を一括作成し、右受領書に石川がサインしていたものである。従つて、ニチメンは原告らと奈良興産との取引に名前を貸していたに過ぎず、同社はニチメンに対し軽油一キロリットルにつき一〇〇〇円の手数料を支払つていた。

(三)  本件軽油の取引に先立ち、山村は原告品川燃料が軽油を継続的に買受けている特約業者の三愛石油株式会社の担当者北村正人に対し、ニチメンの飯田の了解のもと、三愛石油が同原告に売渡す軽油の一部をニチメンへの売上に計上してほしい旨依頼し、これに基づいて三愛石油が同原告に昭和五七年七月から一一月にかけて売渡した軽油のうち各月三〇ないし四〇キロリットルをニチメンが三愛石油から引取つたことにした上、これを奈良興産経由で同原告が引取つたこととし(すなわち、軽油そのものが右経路で動いたのではなく、代金決済だけが右経路で処理されたにすぎない。)、この分について奈良興産が奈良県に軽油引取税の申告納入をした。その上で同年一二月から本件軽油の取引がなされたのであつて、右一連の行為は将来の脱税の準備行為と目される。

(四)  原告品川燃料の昭和五六年七月分の軽油引取税の納入申告の中には奈良興産に引渡した軽油一二六キロリットル分が含まれているが、ニチメンは奈良興産が同月二八日に特別徴収義務者の指定を取消されたことを知つて直ちに前記形態の取引を中止しているから、その後数日間に同原告と奈良興産との間で右のごとき大量の取引がなされたとは考えられず、しかもそれ以後両者間の取引は跡絶えている。従つて、右一二六キロリットルは、奈良興産が同原告から前記のようにニチメンの介在を仮装して引取つた軽油のうち、ニチメンに現金等を持参できなかつた分が残つたものとみるのが相当である。

(五)  原告らはニチメンと取引があつたことを仮装するため、自己の得意先数社に出荷した軽油をニチメンに出荷したように伝票の一部を後日書きかえている。

4  従つて、原告らが奈良興産に販売して同社が引取つた本件軽油については原告らに特別徴収義務があり、その各月の課税標準量を原告ら申告分に加えてした本件処分はいずれも適法である。

四  被告の主張に対する原告らの認否及び反論

1  被告の主張2の事実、同3の冒頭の事実は否認する。

2  同3の(一)の事実中、原告らに関する部分は認めるが、奈良興産に関する部分は知らない。

同3の(二)の事実中、本件軽油の発注が奈良興産から原告らに、出荷手続が原告らから奈良興産になされていたこと、奈良興産とニチメンとの間では本件軽油につき毎月末に納品書等が一括作成され、代金も現金で決済されていたことは認めるが、その余は否認する。原告らが本件軽油を奈良興産から受注し、同社に出荷していたのはニチメンの委託によつてその業務を代行していたものであり、ニチメンのような商社が取引に当事者として関与する場合の通常の形態であるし、軽油取引においては発注はすべて電話で行われ、注文書、納品書等はその都度作成することなく月末に一括処理するのが慣習である。またニチメンは本件軽油の取引に関与することにより一キロリットルにつき一〇〇〇円の売買差益を得ていたのであり、右金員は手数料ではない。

同3の(三)の事実は否認する。被告主張の期間中にニチメンが三愛石油から軽油を引取つたのは原告品川燃料の元売業者がその頃ニチメンに売渡すべき軽油の都合がつかなかつたため、同原告がニチメンに三愛石油を紹介したという事情によるものであり、同原告が奈良興産から軽油を購入したのは、たまたま他より値段が安かつたからに過ぎない。

同3の(四)の事実は否認する。ニチメンが奈良興産に売渡した本件軽油の代金はすべて現金で決済されており、未決済分が残つたということはありえない。

同3の(五)の事実は否認する。被告主張の伝票は誤記をその日のうちに訂正したものに過ぎず、原告らからニチメンに売渡した軽油の数量は取引ごとに確定しており、コンピューターに打込まれた上、月末に集計されているから、取引数量を後日訂正することは不可能である。

3  軽油取引業界においては、特約業者が元売業者である商社を通して他の特約業者から未課税軽油を購入するのはよくあることであり、これは、(一)大都市近辺の県が財源確保の必要上県内の特約業者に対し未課税軽油を仕入れるよう働きかけをすることがあること、(二)業者としても課税済軽油を購入する場合に比べて納税時期の点から資金繰りに余裕ができ、納税奨励金を受けられる等の利点があること、(三)スポット価格の軽油を入手できる場合は、元売業者である商社に多少のマージンを支払つてもレギュラー価格の軽油よりも安価になる場合が多いこと等の事情によるものである。

本件軽油の取引もその一例であり、発注は奈良興産から原告らに、出荷は原告らから奈良興産になされているが、これらは前記のように原告らがニチメンの委託により業務を代行していたものであつて、占有改定ないしは指図による占有移転により引渡が行われていたと見るべきである。また原告らはコンピューターに打込んだ取引数量に基づき本件軽油の代金を取引月の翌月中旬にニチメンに請求し、その月末に銀行振込によつて支払を受けており、ニチメンは奈良興産から取引月の月末に現金等で支払を受けているのであり、これから見てもニチメンが名義だけの当事者でないことは明らかである。

五  証拠<省略>

理由

一請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二軽油引取税は、特約業者又は元売業者からの軽油の引取(特約業者の元売業者からの引取及び元売業者の他の元売業者又は特約業者からの引取を除く。)を課税客体とし、引取容量を課税標準として、当該特約業者又は元売業者の営業所所在の道府県において、その引取を行う者を納税義務者として課税されるものであるが(地方税法七〇〇条の三第一項)、その徴収は原則として特別徴収の方法によるものとされ、軽油の引取をさせる元売業者又は特約業者を特別徴収義務者とし、その者がその営業所において引渡した軽油の代金を引取者から徴収する際に、その数量にかかる軽油引取税を徴収させた上、毎月の課税標準量等を所定の期限までに申告させ、かつ納入させることとされている(同法七〇〇条の一一第一、二項)。

従つて、原告らに対する本件処分のうち、特約業者である原告らの申告にかかる係争各月の課税標準量を超える分である本件軽油が、原告ら主張のように元売業者であることに争いのないニチメンに販売して引取られたものである場合には、その引取は課税客体でなく、原告らにその軽油引取税の特別徴収義務もないことになるが、被告主張のように当時特約業者であつたことに争いのない奈良興産に販売して引取られたものである場合には、その引取は課税客体となり、原告らにその軽油引取税の特別徴収義務が生ずることになる。なお、本件軽油の販売、引取先がニチメンか奈良興産であるかは別として、原告らがそのいずれかに対し販売して引取られた係争各月の引取量自体が別表三記載のとおりであることは当事者間に争いのないところである。

三被告は、本件軽油の販売、引取先は奈良興産であり、ニチメンは原告と奈良興産との間に当事者として介在したかのごとく仮装されたものであると主張するので検討するに、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  原告らはいずれも軽油の特約業者であり、原告品川燃料の子会社である原告品川油化は大阪出張所に専任の社員を置いていないため、その軽油取引に関する業務はすべて原告品川燃料大阪支店の担当者が取扱い(この事実は当事者間に争いがない。)、具体的には、原告品川燃料は軽油を仕入れるに際し、担当者の判断によつて仕入先を決定するが、原告品川油化の系列会社の油槽所から仕入れる必要がある場合には同原告の仕入として処理していた。

2  原告らと元売業者のニチメンとは、いわゆるスポット軽油を時々販売していたほかは、従前軽油の継続的取引関係はなかつたところ(この事実は当事者間に争いがない。)、原告品川燃料大阪支店燃料課の担当者山村昌彦は昭和五五年六月頃特約業者である奈良興産の代表者塩野幸吉、専務石川省治から、未課税軽油を販売してほしい旨の依頼を受けたので、上司とも相談の上、ニチメンの大阪石油ガス部石油ガス課主任飯田正勝に対し、奈良県の軽油引取税収入をふやすため奈良興産に未課税軽油を販売したいが、同原告が全責任を持つのでニチメンに一キロリットル当り一〇〇〇円の手数料でこの取引に介在してほしい旨申入れた。

ニチメンはそれまで軽油については子会社であるニチメン石油株式会社を通じて他社と取引しており、ニチメン大阪石油ガス部では軽油取引の実績はほとんどなかつたが、飯田はとりあえず山村と共に橿原市内の貸ビルの一室にある奈良興産の事務所を訪れ、同社の塩野と石川に面接した結果、同事務所の規模等から見て同社は与信がとれるような状態ではないと判断し、取引をする場合には現金決済が条件となる旨を告げたところ、山村らはこれを了承した。その後、飯田は上司の決裁を得た上、同年七月から右条件で申入れのあつた取引を開始してよい旨山村に通知した。

3  もつとも、当時原告らの系列に属する元売業者から供給される軽油の中から奈良興産に回す余裕がなかつたので、山村は差し当り原告品川燃料がスポットで軽油の供給を受けていた特約業者の三愛石油から買受ける軽油を奈良興産に回すことにし、ニチメンの飯田の了解を取りつけた上で三愛石油の大阪支店需給課長北村正人に対し、同年七月から同原告が買受ける軽油のうち、後日同原告が指定する数量についてはニチメン宛に売上を計上してほしい旨を電話で依頼した。北村は飯田と連絡をとりニチメンが了解済であることを確認した上右依頼に応じることとし、三愛石油は同年七月から翌昭和五六年六月までの間原告品川燃料に売渡した軽油の一部につき次のような処理をした。すなわち、発注及び出荷は三愛石油と原告品川燃料間で直接行うため、ニチメンは全く関与せず、三愛石油の出荷数量等はすべてその都度同原告宛として得意先別出荷数量表等に記入され、コンピューターに入力されたが、毎月二〇日すぎに山村から北村に対し、当月分の同原告への売上軽油のうちニチメンへ売上計上すべき分につき売上日付、数量を指定して電話で連絡されてきたので、三愛石油はこの分を出荷数量表等の訂正によりニチメンへの売上に振替え、既に入力していた同原告宛の出荷数量等のうち右振替分の取消を月末にコンピューターに入力した。

このようにして昭和五五年七月から昭和五六年六月までの間に三愛石油からニチメンへの売上として計上された軽油は合計一一八〇キロリットルに達したが、右軽油はすべて奈良興産に引取られた(形式上は三愛石油、ニチメン、奈良興産の順であるが、実際には三愛石油、原告品川燃料、奈良興産の順で動いたことになる。)。

4  右と併行して、山村は昭和五五年一二月から原告品川燃料の系列元売業者から供給を受ける軽油に余裕が出てきたので、これをニチメンを介して奈良興産に回すことにしたが(原告品川油化については昭和五六年一月から開始された。)、発注及び出荷は原告らと奈良興産との間で直接行われ、その間ニチメンが関与することはなかつた。この形式で奈良興産に引取られた軽油が本件軽油であり、形式上は原告ら、ニチメン、奈良興産の順であるが、実際は原告ら、奈良興産の順に動いたものである。

5  右3、4の取引についての代金決済等は次の方法でなされた。すなわち、山村と奈良興産の石川が毎月末にニチメンに赴き、山村が持参した当月分の軽油の出荷日及び数量(ただし昭和五五年一二月以降は数量のみ)を記載したメモ(原告ら分、三愛石油分の区別もなされていたものと推測される。)に基づいて、飯田が奈良興産宛の売上原票、納品受領書、請求書を一括作成すると、石川が右数量の代金に相当する現金又は銀行保証小切手を飯田に交付して、納品受領書にサインをし、飯田は奈良興産宛の領収証を同人に交付した(右伝票類の一括作成と現金決済の点は当事者間に争いがない。)。またニチメンから三愛石油に対する支払は、翌月中旬に交付する翌々月一五日満期の約束手形によつて、原告らに対する支払は、翌月末原告らの銀行口座への振込によつて、いずれも奈良興産から受領した金員より一キロリットル当り一〇〇〇円の手数料を差し引いてなされた。

6  ニチメンは、奈良興産が昭和五六年七月二八日に特別徴収義務者の指定を取消されたことを知り、直ちに前記3、4の取引を一切中止することにしたが、原告品川燃料は同月に奈良興産に対し軽油一二六キロリットルを販売したものとして、右軽油にかかる軽油引取税を申告納入しており、翌八月以降は同社との取引を取止めている。

7  奈良興産は前記3、4の経緯により引取つた軽油にかかる軽油引取税を奈良県高田県税事務所長に対し昭和五五年一一月分まではほぼ取引量どおり申告したが、取引量の急増した同年一二月以降も従来の取引量程度しか申告しなかつたので、同年一二月分から昭和五六年二月分までにつき更正処分を受けた。しかし昭和五八年六月一八日付の再更正処分により、右更正処分は実質的に取消された。なお、奈良興産の事務所は昭和五六年一〇月に閉鎖され、代表者は所在不明となつている。

8  被告が原告らから任意提出を受けた係争期間中の出荷指図書、出荷伝票、運賃請求書等によれば、原告らは得意先数社に納入した軽油の出荷指図書の一部を後日に書替え、その分をニチメンに納入したような出荷指図書に作り直している形跡がある。

以上の事実が認められるところ、証人飯田正勝、日紫喜剛の各証言中右認定に反する部分は信用できない。

四右認定事実によれば、本件軽油の取引につき原告らが奈良興産との間にニチメンを介在させたのは、奈良興産に未課税軽油を取得させるためであつたことが明らかであるが、ニチメンの介在は形式的に名義を貸しただけに過ぎず、ニチメンには原告らから本件軽油を買受け、奈良興産に売渡すことによつて売買の当事者になろうとする意思はなく、原告らや奈良興産としてもニチメンを売買の当事者とする認識はなかつたものと見られ、本件軽油は実質上原告らから奈良興産に売渡され、同社が引取つたものと認めるのが相当である。

成程、ニチメンが本件軽油の取引に介在するにつき奈良興産の現金決済を条件としたこと、本件軽油の代金が同社からニチメンへ、ニチメンから原告らへ支払われていることは先に認定したところであるが、右現金決済の点は、ニチメンとしては名義を貸すことにした以上、奈良興産から本件軽油の代金を受取つて原告らに支払う必要があるところから、与信能力のない奈良興産の支払遅延によつて将来に問題を残すことがないよう特に配慮したがためであると考えられるし(なお証人飯田正勝はニチメンのような商社が行う取引について現金決済が条件とされる例は稀有である旨証言している。)、右支払経路の点は、厳密にいえば奈良興産が原告らに支払うべき本件軽油の代金をニチメンが原告らのために代理受領し、これから一定の手数料を控除して原告らに交付する旨の合意に基づくものと考えられるから(従つて、原告らがニチメンに対し、ニチメンが奈良興産に対しそれぞれ本件軽油代金の請求権を有するものではない。)、何ら前記の判断を左右するものではない。

なお、奈良興産の特別徴収義務者指定が取消され、ニチメンが本件軽油の取引介在を取止めることにした昭和五六年七月に、原告品川燃料が奈良興産に突如として軽油一二六キロリットルを販売したものとして、右軽油にかかる軽油引取税を申告納入していることは、極めて奇異なことであつて、前記認定の事実経過からすれば、奈良興産はそれまでに同原告から本件軽油以上の量の軽油を引取つていたと考えられ、そのうち本件軽油についてはニチメンの介在により現金等で決済したが(むしろ現金決済のできた分が本件軽油になつたと見られる。)、決済できずに残つたものが生じたため、同原告において右のような処理をしたのではないかと推測されるのであり、このことからしても本件軽油は原告らから奈良興産に売渡され、同社が引取つたものであることが裏付けられるというべきものである。

五原告らは、本件軽油の発注及び出荷が原告らと奈良興産との間でなされたのはニチメンの委託による業務代行であり、商社が取引に関与する場合の通常の形態であると主張するが、右主張に沿う証人日紫喜剛の証言はたやすく採用しがたく、本件軽油の個々の取引内容についての決定権限は当初から原告らと奈良興産にあつたと考えるのが相当であつて、引渡についても占有改定ないしは指図による占有移転等の観念を容れる余地はなく、甲第二六号証の一、二中の右主張に沿う記述も、商社が有する金融機能の説明の一部であつて、そもそも本件取引についてはニチメンはかかる機能を果していないのであるから、右記述は本件には適切でない。

また、原告らは、軽油取引においては注文書、納品書等はその都度作成することなく月末に一括処理するのが慣習であると主張し、証人飯田正勝の証言中にはこれに沿う部分があるが、本件においては原告らとニチメンとの間、ニチメンと奈良興産との間に本件軽油の売買がないのに、右売買があつたかの如くにして月末一括処理がされたことが問題視されているのであつて、かような処理が軽油取引における慣習であるか否かは前記判断を左右するものではない。

更に原告らは、前記出荷指図書の書替えに関し、ニチメンに売渡した軽油の数量はコンピューターに打込まれて月末に集計されているから取引数量を後日訂正することは不可能であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、却つて三愛石油における前記認定のような処理方法は取引数量の後日訂正が容易であることを推測させるに足りる。

なお、原告ら主張のように特約業者が元売業者である商社を通して他の特約業者から未課税軽油を購入する例があるとしても、それは当事者間で実質的な取引契約が成立している場合であり、本件のごとくニチメンが形式的に名義を貸しただけで仮装の当事者に過ぎない事例はこれに当てはまらない。

六以上によれば、原告らは奈良興産に販売して同社が引取つた本件軽油につき特別徴収義務があることは明らかである。(なお、本件軽油の取引と同様の形態がとられた三愛石油関係の取引についても、その実質は原告品川燃料が同社から引取つたものを直接奈良興産に売渡したもの(同原告が三愛石油に支払うべき代金は、ニチメンが奈良興産から同原告のために代理受領した代金によつて代位弁済する合意があつたと解される。)と見るのが相当であり、従つてこれについては三愛石油が特別徴収義務を負うものというべきところ、証人加藤一樹の証言によれば、これの関係では奈良興産が特別徴収義務者として奈良興産に軽油引取税の申告納入をしており、被告は同県側と協議をした結果、最終的には同県の課税を維持することにし、三愛石油に対しては課税しないことになつたことが窺われるけれども、この事実は本件軽油について原告らに特別徴収義務があるとすることの妨げとなるものではない。)。

従つて、本件軽油の各月の課税標準量を原告ら申告分に加えてした本件処分はいずれも適法であり、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(青木敏行 古賀 寛 梅山光法)

別表一 原告品川燃料に対する処分一覧表<省略>

別表二 原告品川油化に対する処分一覧表<省略>

別表三 原告らが奈良興産に販売した軽油<省略>

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