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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)7250号 判決 1984年5月30日

八尾市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

松葉知幸

大阪市<以下省略>

被告

株式会社日本貴金属

右代表者代表取締役

Y1

大阪市<以下省略>

送達場所

大阪市<以下省略>

被告

Y1

兵庫県西宮市<以下省略>

被告

Y2

兵庫県川西市<以下省略>

被告

Y3

主文

一  被告らは、各自原告に対し、金一五〇万九四九〇円およびこれに対する被告会社日本貴金属は昭和五八年一〇月二八日から、被告Y3は同月二九日から、被告Y2は同年一一月一四日から、被告Y1は同月二九日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二請求原因

一  原告は、商品先物取引等投機的取引には全く経験のない主婦である。被告株式会社日本貴金属(以下、被告会社という。)は、香港金銀業貿易場における金地金取引の受託を業とする旨称している会社であり、被告Y1は、被告会社の代表取締役、被告Y2、同Y3は、その取締役である。

二  原告は、次のとおり、被告会社の不法行為により、損害を蒙ったものである。

1  原告は、昭和五八年一月二〇日午前一〇時半ころ、女性から電話で、「金を買うことによって、お金を上手にふやすことができます。営業マンが行きますので、少しでいいから話だけでも聞いて下さい。」と勧誘され、同日午後三時ころ、原告宅に被告会社の営業マンと称するAの訪問を受けた。Aは、原告に対し、「金は必ず値上りします。毎年二月・八月は値上りしていく時期ですから、今買えば一ヵ月で三〇〇万円につき二〇〇万円はもうかります。一ヵ月だけでもよい。一口三〇〇万円だが一〇〇円でも他の客とあわせて一口にできます。」「御主人には内緒で、もうけた後でいえば喜ばれます。」等と長期間にわたって執拗に勧誘したので、原告は、一〇〇万円の金を買うことにして契約書に署名捺印し、同日、内金として五万円を交付した。

2  Aは、同月二一日午前九時ころ、原告宅に来て車で原告を被告会社事務所に連れていった。Aの上司である被告会社の支店長Bは、右事務所で原告に対し、「絶対にもうかります。一ヵ月でいい。一四〇万円もうかります。責任をもちます。」などといって強硬に取引量をふやすよう勧誘したので、原告は、同日昼前一〇〇万円の注文を二〇〇万円の注文に変更して署名捺印した。原告は、同日午前一二時すぎころ、被告会社の営業主任Cにつきそわれて銀行へ行き、Cからの銀行預金を引出すより借入の方が有利である、銀行でも金を売っているから金を買うことは決していわないようにとのアドバイスに従い、銀行から一九五万円を交付した。

3  被告会社従業員は、同年二月二三日午後三時ころ、原告宅に来て、原告に対し同月一六日時点での二ユニットの売付注文書に署名するようにと迫り、原告は、わけのわからないままに署名させられた。

4  原告は、あまりに理解できないことばかりなので、同月二四日、被告会社に電話して抗議したところ、被告会社の管理課長Dから、「今終れば四〇万円位しか返ってこない。二三日に暴落し、今後もっと下るかもわからない。手持資金があればやり直しができるがどうするか」といわれた。原告は、支店長のBに電話したところ、同人から「申し訳ない。奥さんの分については手数料はとらないでもよい。」というばかりで、結局原告は、同日午後一時半の時点で決済することに応じざるをえなかった。

5  その後原告は、同年三月一七日、被告会社より、取引精算金名下に六二万五一〇円の銀行振込を受け、二〇〇万円中一三七万九四九〇円の返還を受けられなくなった。

三  被告会社の原告に対する右行為は次の理由により不法行為を構成する。

1  被告会社の取引精算書によると、原告は、昭和五八年二月一六日に手仕舞したことになっているが、原告は全く知らないことで、同月二三日に同月一六日付の注文書に署名させられたものである。

2  被告会社は、原告に対し、原告出捐の金額でそれに対応する金地金の現物が購入できるかのように本件取引を説明し、先物取引としての仕組、追加保証金が必要となる場合があること、相場変動により多額の損失を蒙る危険があることなどを説明せず、安全確実に利益が出る旨虚偽の事実を告げている。

3  被告会社の「香港純金塊取引」は香港金銀貿易場における売買取引の名を借りたにすぎない欺罔的取引である。すなわち、被告会社は、右貿易場が公表する値段を借用し、現実に貿易場で顧客の注文を執行することがないのに、右借用した公表値段で取引した旨虚偽の形式をつくっているにすぎず、被告会社が一ユニット一〇〇万円の金額を顧客から受取り、追加保証金を要求するのは、貿易場での定めではなく、被告会社が勝手に定めたものであり、かつ、被告会社は、顧客の注文に対して必ず同数の反対注文を自己玉として建てており、顧客を容易に損失に終らせるよう顧客操縦を行っているのである。

四  被告Y1は、被告会社の代表取締役として、被告Y2、同Y3は取締役として、被告会社の右違法行為を企画し、推進させているものであって、原告に対し、不法行為責任を負うものであり、仮にそうでないとしても、悪意又は重過失によって原告に損害を蒙らせたもので、商法第二六六条の三による責任を負うものである。

五  原告は、前記二の一三七万九四九〇円と本件訴訟の弁護士費用一三万円の合計一五〇万九四九〇円相当の損害を蒙った。

六  よって、原告は、被告ら各自に対し、不法行為による損害賠償請求として、被告Y1、同Y2、同Y3については予備的に商法第二六六条の三による損害賠償請求として、金一五〇万九四九〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である被告会社については昭和五八年一〇月二八日から、被告Y3については同月二九日から、被告Y2については同年一一月一四日から、被告Y1については同月二九日から各支払済まで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告らの否認

請求原因一の事実中被告Y1、同Y2が被告会社の取締役であったことは認める。被告Y3は被告会社の取締役であったが、退任している。その余の事実は不知。同二1の事実中被告会社の営業員が原告宅に訪問し、原告から金員交付を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。同二2の事実中原告が被告会社に来社し、金員を交付したことは認めるがその余の事実は否認する。同二3、4の事実は否認する。同二5の事実中被告会社が原告に六二万五一〇円を送金したことは認めるが、その余の事実は否認する。同三ないし五の事実は否認する。

第四証拠

原告は、甲第一号証の一ないし五、第二号証、第三号証の一ないし四、第四号証、第五ないし第七号証の各一、二、第八号証、第九号証の一ないし二、第一〇号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用した。

理由

一  原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第五ないし第七号証の各一、二、第一〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第八号証、第九号証の一ないし三および甲第一号証の一ないし五、第二号証、第三号証の一ないし四、第四号証の各存在、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告は、会社員の夫とともに生活している主婦であり、被告は、海外商品取引所に上場された金、銀、プラチナ等の商品の現物および先物取引の国内における受託業務等を目的とする株式会社である。原告は、昭和五八年一月二〇日午前一〇時半ころ、被告会社の女性従業員から電話で、「金を買うことによってお金を上手にふやすことができます。ほんの少しの時間でいいから話だけでも聞いて下さい。」と勧誘され、同日午後三時ころ、原告宅に被告会社の営業担当者Aの訪問を受けた。Aは、原告に対し、「金は確実に値上りする。毎年二月・八月は値上りしていく時期なので、今買えば一ヵ月で三〇〇万円につき二〇〇万円は必ずもうかる。」ともちかけ、原告が夫に相談する旨答えると、「御主人に相談すると必ず反対される。皆主人に内緒で買っており、もうかった後でいうと喜んでくれる。」などといい、さらに、「一口三〇〇万円だが、一〇〇万円でも他の客と合わせて一口にできる。」旨を話し、一〇〇万円で金を買うことを強くすすめた。原告は、右勧誘に応ずることを決めて、その場でAから交付された「香港純金塊取引顧客承諾書」「香港純金塊取引同意書」「注文書」と題する各書面に署名捺印し、その際「香港純金塊取引システムについて」と題する書面の交付を受け、右各書面には実質的には金の清算取引に関する約定が印刷されていた。しかし、原告は、従来商品の信用取引をしたことはなかったし、その記載内容が複雑であったのに、Aが被告会社を介して行なう取引の方法や仕組、決済の方法、手数料額、損益の出る場合とその計算方法等について一切具体的な説明をしなかったので、原告は、右取引方法をほとんど理解できず、単に被告会社から金の現物を代金一〇〇万円で購入する取引であると考え、同日、Aに対し、右一〇〇万円の内金として五万円を支払った。

2  Aは、同月二一日午前九時ころ、原告宅に来て車で原告を被告会社の事務所に連れて行った。そこで、被告会社の大阪支店長Bは、原告に対し、「二〇〇万円で一四〇万円もうかる。一ヵ月でいい。責任をもつ。」と話したので、原告は、その場で二〇〇万円の買付注文書に署名捺印し、前日の注文書と差しかえた。原告は、同日午前一二時すぎころ、被告会社大阪支店営業部副主任のCにつきそわれて銀行に預金を引出しに行ったが、途中Cから、定期預金を解約するより預金担保の借入の方が得であることや銀行も金を売っているから金を買うことは銀行員に話さないようにとの注意を受けたので、これに従い、銀行から一九五万円を借入れ、同日午後一時半ころ原告宅でCに対し、右一九五万円を交付した。

3  原告は、その後同月末ころから同年二月中ころにかけて何度も被告会社に電話して金の売却を依頼したが、被告会社ではこれに応じようとしなかった。

4  被告会社の従業員は、同月二三日、原告宅に来て、原告に対し、同月一六日時点での二ユニットの売付注文書と買付注文書に署名捺印するよう求めたので、原告は、その指示に従って署名捺印した。

5  原告は、同月二四日、被告会社に電話して勝手に売買したことを抗議したところ、被告会社の管理課長Dから、「今なら四〇万円位しか手元に残らない。二月二三日に暴落し、今後まだまだ下るかも知れないから手持資金があればやり直しができるがどうするか。」といわれた。原告は、支店長のBに電話したところ、同人から「申し訳ない。奥さんの分については手数料をとらなくてもよい。」といわれた。原告は、やむなく、同月二四日の決済を依頼した。

6  原告は、同日被告会社の事務所でBの求めにより、同日付の二ユニットの売付注文書に署名捺印するとともに、Bから「御取引精算書」と題する同月二四日の売買結果が記載された書面の交付を受けたが、右書面によると売買による損失等を控除して二〇〇万円中残金は六二万五一〇円となっていた。

7  原告は、昭和五八年三月一七日、被告会社から六二万五一〇円の振込送金を受け、結局被告会社に交付した二〇〇万円中一三七万九四九〇円の損害を蒙った。

8  被告会社は、顧客より、必ずもうかるという利益誘導があること、相場が下ったときに決済させられること、無断売買を追認させられること、決済申入に応じないことなどの事由による苦情が多数通産省に申立てられており、その苦情件数は昭和五六年度が一〇二件、昭和五七年度が一二二件にも達したので、通産省は、昭和五八年三月二三日、被告会社の本部と銀座支店を立入検査し、その後被告会社に対し、三ヵ月の業務停止命令を出した。

以上の事実が認められ、右認定を左右できる証拠はない。

右事実によると、被告会社の従業員らは、家庭の主婦で、商品の清算取引について無知無経験な原告を、金を買えば必ずもうかると甘言を用いて被告会社を通して行なう金の実質的な清算取引に誘い込み、かつ原告に対する十分な取引方法の説明やその納得のないままに、時には事前の注文、承諾もなしに勝手に売買取引を行なうなどし、結局昭和五八年一月二〇日から同年二月二三日までのわずか一ヵ月の間に計算上多額の損失が生じたとして当初原告が交付していた二〇〇万円中六二万五一〇円しか返還しなかったものであって、かかる取引勧誘の方法、取引実行の仕方等を総合すると、被告会社の従業員らの行なった原告との右取引行為自体著しく公序良俗に反する違法な行為であり、かつ右行為は、被告会社の代表取締役、取締役らの指示、承認の下に被告会社の全社一体としての営業形態として行なわれていたものと推認することができるから、被告会社の原告に対する不法行為を構成するものと認めるのが相当である。

二  弁論の全趣旨によると、昭和五八年一月、二月当時、被告Y1、同Y2、同Y3は、いずれも被告会社の代表取締役であったことが認められ、右事実に前記一の事実を総合すると、被告Y1、同Y2、同Y3は、被告会社の代表取締役として従業員らに指示して前記の如き違法な被告会社の営業を企画、推進させたものと認められるから、いずれも原告に対する不法行為責任を免れないものというべきである。

三  前記一の事実によると、原告は、被告らの不法行為により一三七万九四九〇円の損害を蒙ったものであり、原告が被告らに対して右不法行為による損害として賠償を求めうる弁護士費用は、本件事案の性質、審理の経過、認容額に照らし、一三万円とするのが相当であると認められるから、原告の損害額は一五〇万九四九〇円となる。

四  そうすると、原告は、被告ら各自に対し、不法行為による損害賠償として、金一五〇万九四九〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが、本件記録上明らかな被告会社については昭和五八年一〇月二八日から、被告Y3については同月二九日から、被告Y2については同年二月一四日から、被告Y1については同月二九日から各支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めうるものというべきである。

よって原告の請求をいずれも認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本矩夫)

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