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大阪地方裁判所 昭和57年(行ウ)39号 判決 1987年4月15日

大阪市住之江区中加賀屋二丁目六番九号

ストークマンション住之江六〇一号

原告

山元忠光

右訴訟代理人弁護士

坂田宗彦

鈴木康隆

大阪市住吉区住吉二丁目一七番三七号

被告

住吉税務署長

中川光男

右指定代理人

岡本誠二

足立孝和

福本雄三

片岡英明

堀茂仁

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

(一)  被告が昭和五五年一〇月二二日付で原告の昭和五二年分ないし昭和五四年分の所得税についてした更正処分のうち、総所得金額が昭和五二年分につき八〇万円、昭和五三年分につき八〇万円、昭和五四年分につき九〇万円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

二  原告の請求原因

1  原告は主として高千穂鉄工株式会社の下請業者としてコンプレッサー等の修理を業とする者であるが、原告の昭和五二年分ないし昭和五四年分の事業所得にかかる所得税について、原告のした確定申告、これに対する被告の更正処分(以下「本件処分」という。)と過少申告加算税の賦課決定(以下「本件決定」という。)及び異議決定並びに国税不服審判所長がした裁決の経緯、内容は別表1記載のとおりである。

2  しかし、被告がした本件処分は原告の事業所得を過大に認定したものであるから違法であり、従つて、本件処分を前提としてされた本件決定も違法である。

よつて、本件処分及び決定の取消を求める。

三  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1の事実は認めるが、同2の事実は争う。

2  被告は原告の係争各年分の所得税調査のため、昭和五五年七月下旬から同年九月上旬にかけて被告部下職員を原告の事業所に臨場させ、原告に対し事業内容の説明を求めるとともに事業所得金額算定の基礎となる帳簿書類等の提示を求めたが、いずれも得られなかつた。従つて、被告は原告の事業所得金額の算定について、取引先等の調査結果に基づく推計の方法による必要があつた。

3  原告の総所得金額たる事業所得金額は、昭和五二年分が五一二万四七八五円、昭和五三年分が五六七万三一一九円、昭和五四年分が六一六万五九三八円であるから、いずれもその範囲内でされた本件処分及びこれを前提とする本件決定に違法はない。

4  原告の事業所得金額の内訳明細は別表2記載のとおり、各項目の算出根拠は次のとおりである。

(一)  売上金額

被告が原告の取引先等を調査して実額により把握した取引金額である。

(二)  算出所得金額

大阪国税局長は係争各年分ごとに、原告の事実上の事業所の所在地を管轄する西成税務署、原告住所地を管轄する住吉税務署及びこれらの隣接税務署管内で機械修理業を専業として営み、他署管内に事業所を有さず、青色申告書を提出し係争各年分につき不服申立又は訴訟を提起していず、年間の売上金額が原告の概ね五〇パーセント以上、二〇〇パーセント以下の範囲内にある個人事業者である同業者を抽出した。被告はその結果に基づき、各年分ごとに別表3の(一)ないし(三)記載のとおり右同業者の売上金額から売上原価(機械修理業務に従事する者の雇人費及び当該業務にかかる外注費を含む。)の金額及び一般経費の金額を控除した金額の売上金額に対する割合の平均値(以下「同業者所得率」という。)を求めた上、(一)の原告の各年分の売上金額に同業者所得率を乗じて各年分の事業所得金額を算定した。

(三)  特別経費

該当する経費支出はない。

四  被告の主張に対する原告の認否及び主張(一部実額)

1  被告の主張2の事実は認める。

2  同3の事実は争い、同4の事実中売上金額は認めるが、その余の事実は争う。原告は専属下請のため利益割合が低く、専門技術を有する労働者を常時雇用しているため賃金率が高く、材料無償支給のため利ざやがなく、出張が多いため経費がかさむという特色を有しており、被告主張の同業者は原告との類似性を欠くから、推計には合理性がないというべきである。なお、特別経費として後記のとおり地代家賃の支出がある。

3  原告の係争各年分の事業所得金額は、昭和五二年分が一五二万九七〇四円、昭和五三年分が一七三万六四一三円、昭和五四年分が一八一万九〇一〇円であり、その内訳は別表4の(一)、(二)記載のとおり、各項目の算出根拠は次のとおりである。

(一)  売上金額

被告主張金額と同一である。

(二)  昭和五四年分の必要経費

(1) 消耗品費、交通費、宿泊費

いずれも原告が高千穂鉄工に対し請求した金額であり(ただし、請求書の標題は見積書となつている。)、消耗品費は工事用備品、工具等の代金、交通費はガソリン代金及び高速道路通行料金、宿泊費は出張の従業員分を含む宿泊費である。なお、宿泊費中高千穂鉄工が立替払をしたのは、原告が実際に要した金額の一部にすぎない。

(2) 修理費

日興自動車に対し支払つた営業用車輌の修理代金である。

(3) 減価償却費

昭和五二年に八〇万円で購入した中古営業用車輌の減価償却費であり、耐用年数を三年として次のとおり定額法で算出した。

八〇万円×〇・九×1/3=二四万円

(4) 福利厚生費

従業員との飲食代金の一部である。

(5) 交際費

高千穂鉄工の担当者の接待に要した費用である。

(6) 通信費

事業所での電話料金に出張先からの電話料金を加算すると一か月一万円を下らない。

(7) 光熱費

原告は居住マンションの半分を事務所として使用し、従業員らが電気、ガスを使用してきたところ、事業関連分は総使用量の半分に達するから、月額二万円を下らない電気、ガス料金の半額である月額一万円が経費とされるべきである。

(8) 地代家賃

原告は賃借居住マンションの半分を事務所として使用し、かつ西成区内にて谷口昇から営業用倉庫を賃借しているところ、昭和五四年一年間の賃借料合計は前者が三九万二〇〇〇円、後者が二六万四〇〇〇円であるから、前者の賃借料の半額に後者の賃借料全額を加えた金額が昭和五四年分の地代家賃となる。

(9) 雑費

民主商工会費、新聞代、車検費用、保険料、作業服代金、タクシー代等である。

(10) 常雇人件費

原告は従業員九名を雇用し、別表5記載のとおり賃金を支払つた。

(11) アルバイト人件費

原告はアルバイトとして上田孝一及び岩本章を雇用し、同人らに合計六〇万円を支払つた。

(三)  事業所得金額

原告の昭和五四年分の事業所得金額は、(一)の売上金額から(二)の経費合計額三〇九九万五九九〇円を差し引いた一八一万九〇一〇円である。そして、同年分の事業所得金額の売上金額に対する割合(以下「本人所得率」という。)は〇・〇五五四となるところ、原告の昭和五二年及び昭和五三年の事業形態、事業内容等は昭和五四年のそれと異ならないから、昭和五二年分及び昭和五三年分の事業所得金額は各年分の売上金額に本人所得率を乗じて算出した。

五  原告の主張に対する被告の認否及び反論

1  原告出張の係争各年分の事業所得金額を争う。各項目に対する認否は以下のとおりである。

2  売上金額

否認する。被告主張の売上金額を援用するのみでは実額反証として不十分であり、原告は売掛帳、現金出納帳、銀行帳、原始記録等に基づき売上金額の全貌を立証するか、経費の出所を明確にして売上との対応関係を明らかにすべきである。

3  昭和五四年分の必要経費

(一)  消耗品費、交通費、宿泊費

否認する。原告作成の見積書が原告主張どおり請求書の代りであるとしても、これには右項目の金額が記載されているのみでその内容の具体的記載はなく、しかもその金額は毎回高千穂鉄工による大幅な減額査定を受けたにも拘らず、原告はこれに対する苦情を述べていないのであつて、右見積書は減額査定を見込んで水増しをしたものであるか、少なくとも原告には反論材料がないため素直に査定を受け入れたものとみられ、見積書の金額は信用できない。

(二)  修理費

認める。

(三)  減価償却費

否認する。

(四)  福利厚生費

知らない。

(五)  交際費

知らない。

(六)  通信費

知らない。

(七)  光熱費

否認する。原告の事業形態は高千穂鉄工の専属下請として専ら作業現場へ出向いて行うものであり、事務所は不要であるばかりか、住居は六畳と四畳半の二室のみで原告家族四人の居住にとつてすら手狭であり、事務所スペースの余地はない。従つて、原告主張額は仮に支出があつたとしてもすべて家事費であり、経費とは認められない。

(八)  地代家賃

否認する。居住マンションの賃料は光熱費と同様の理由によりすべて家事費であるし、営業用倉庫は高千穂鉄工が谷口昇から賃借し原告に無償で使用させているにすぎず、原告は賃料を支払つていないから、地代家賃は零である。

(九)  雑費

知らない。

(十)  常雇人件費

浜本忠に対する支払いを否認し、花岡武俊に対する支払は一七三万円の限度で認め、その余は認める。

(一一)  アルバイト人件費

知らない。

六  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実(本件処分等の経緯、内容)及び被告主張2の事実(推計の必要性)は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の事業所得金額につき検討するに、係争各年分の原告の売上金額は当事者間に争いがなく、証人片岡英明の証言並びにいずれもこれにより成立を認める乙第三一及び第三二号証の各一ないし八によると、大阪国税局長は係争各年分ごとに、原告の事実上の事業所たる倉庫の所在地を管轄する西成税務署、原告住所地を管轄する住吉税務署及びこれらに隣接する天王寺、阿倍野、堺、浪速、港、東住吉各税務署の管内で機械修理業を専業として営み、他署管内に事業所を有さず、青色申告書を提出し係争各年分につき不服申立又は訴訟を提起していず、年間の売上金額が原告の売上金額の概ね五〇パーセント以上、二〇〇パーセント以下の範囲内にある個人事業者をすべて抽出し、該当する一〇名の同業者につき売上金額、売上原価(差引原価、外注費、雇人給料賃金に区分される。)、一般経費及び青色事業専従者控除額を調査したこと、被告はその結果に基づき、各年分ごとに別表3の(一)ないし(三)記載のとおり同業者所得率を求めた上、原告の各年分の売上金額に同業者所得率を乗じて各年分の事業所得金額を算定したことが認められる。

そして、右同業者の抽出基準は立地条件や営業規模の類似性、資料の正確性等の点ですべて合理的であり、抽出された同業者数もその個別性の平均化するに足りるものということができるから、右のように同業者所得率によつて原告の事業所得金額を推計することは合理的というべきである。

原告は、専属下請であること、専門技術を有する労働者を常時雇用していること、材料が無償支給であること、出張が多いことを原告の特殊事情として挙げ、抽出された同業者は原告との類似性を欠くと主張する。しかしながら、仮に原告の業態が右主張のとおりであるとしても、右事情は程度の差はあれ一般に機械修理業者の特色として指摘しうるものと思料されるし、また、業態の類似性を非常に厳格に要求することはかえつて抽出同業者数や地域性に問題を生ぜしめることもあるから(証人片岡英明の証言によれば、被告は本件訴訟の初期の段階で原告主張に近似する条件を満たす同業者を選択したが、四件しか得られず、かつその中には吹田市内居住者のように原告の住所地又は事業所所在地から隔たつた税務署管内に居住する者がいたことが認められる。)、原告指摘の事情を斟酌してもなお、被告の採つた推計方法の合理性が左右されるものではない。

三  これに対し、原告は一部実額を主張して被告の推計課税を争つているので、以下判断する。なお、修理費及び常雇人件費中浜本忠以外の八名に対する支給(ただし、花岡武俊に対する支払額は一七三万円の限度で。)は、当事者間に争いがない。

いずれも原告本人尋問の結果により成立を認める甲第八号証の一ないし一〇九(第八号証の一一は原本の存在も認める。)、弁論の全趣旨により成立を認める乙第二七号証及び原告本人尋問の結果(一部)によると、原告は高千穂鉄工の専属下請であつた竹森工業の従業員としてコンプレッサー修理に携わつていたが、昭和四四年竹森工業が高千穂鉄工との関係を断つのを機に高千穂鉄工の専属下請となり今日に至つていること、高千穂鉄工はコンプレッサー修理業の下請を原告のみに頼つているため原告は常に従業員を待機させていなくてはならず、かつ高千穂鉄工以外の業者からの下請は同社からの受注が途切れた際に同社の了解を得て若干行うことはあつたが稀といつてよい程度であつたこと、原告の業務は主として現場へ赴いてなされるものであり、具体的には大阪市西成区南津守所在の高千穂鉄工所有倉庫に原告、その従業員及び高千穂鉄工の担当社員が集合した上、自動車に分乗して現場に赴くが、宿泊を伴う場合には、常に利用する宿泊施設の料金は請求を受けた高千穂鉄工が立替えて支払い、後日売上代金を原告に支払う際これと相殺し、右以外の宿泊施設の料金は原告がその場で支払つたこと、作業終了後原告は高千穂鉄工に見積書と題する書面を提出するが、これには作業一式の代金の他に、交通費、消耗品費、宿泊費(宿泊を伴う場合のみ。)諸経費が加算されていたものの、その明細書や領収書等は添付されていなかつたこと、高千穂鉄工は右見積書(実質的には請求書)を重視せず、原告への支払金額を独自に査定し、これから立替宿泊料、部品代等を差し引いた金額を原告に支払つたこと、その結果原告が受領する金額は請求額の通常七、八割となるが、原告が高千穂鉄工の査定に異議を申し立てたことはないこと、以上の事実が認められるれ。

以下、右事実を前提に、原告の実額主張の各項目につき順次判断する。

1  売上金額

原告は被告主張金額を援用しているところ、前記事情に照らせば、原告の売上金額の計上もれはないか、仮にあつたとしても僅少なものと思料されるから、売上金額は原告主張どおり認められる。

2  消耗品費

いずれも弁論の全趣旨により成立を認める甲第六号証、乙第二八号証によると、原告は昭和五四年中に手袋、ウエス(ぼろぎれ)、紙やすり等の代金として朝日溶材株式会社に三五万九六九六円を、部品代として高千穂鉄工に三七万二四四五円(乙第六号証四枚目の「部品」の合計金額)を支払つたことが認められる。原告本人尋問の結果中には、原告は他に工具購入代金を支払つた旨の供述があるが採用しない。

そうすると、昭和五四年分の消耗品費は七三万二一四一円となる。

3  交通費

弁論の全趣旨により成立を認める甲第五号証によれば、原告は昭和五四年中に太信産業株式会社住之江給油所にガソリン代金として一一二万七九五一円を支払つたことが認められる。なお、自動車に分乗しての現場への出張作業を主とする原告の事業形態に照らすと、出張先でのガソリン購入や高速道路通行料金の支払が必要であつことは理解できないではないが、右支出金額に関する見積書の記載は大ざつぱなものであり、右支出を証する領収書等も提出されていないから、右支出金額を明らかにすることはできないというべく、結局、証拠上認められる昭和五四年分の交通費は一一二万七九五一円にとどまる。

4  宿泊費

前出乙第二八号証によれば、原告は昭和五四年分の宿泊費中高千穂鉄工立替分として一三七万二〇六〇円(同号証四枚目の「宿泊費」の合計金額)を支出したことが認められる。しかし、原告が直接支払つた宿泊費の金額については、本件全証拠によるもこれを認めるに足りないというべきである。原告本人尋問の結果中には、一人当りの宿泊費を三〇〇〇円としてこれに現場に赴いた人数、宿泊日数を乗じた金額を見積書に記載した旨の供述があるが、見積書中には記載宿泊料が三〇〇〇円の整数倍とならないものがあるから、右供述は採用できないし、そもそも原告が領収書を添付せずに見積書(実質的には請求書)を提出すること自体、高千穂鉄工による減額査定を見込んでの水増し請求と疑われてもやむをえないところである。

5  減価償却費

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和五二年に八〇万円で事業用として中古自動車を購入したことが認められるところ、減価償却資産の耐用年数に関する省令別表第一によれば普通自動車の耐用年数が六年とされていることに照らすと、本件中古自動車につき残存耐用年数を三年とする原告の計算方法も首肯できないものではないから、昭和五四年分の減価償却費は原告主張どおり二四万円と認められる。

6  福利厚生費

原告は従業員の飲食代金の一部として年間少なくとも三〇万円を要する旨主張し、原告本人尋問の結果中には時間待ちの間や作業終了後従業員にコーヒーを飲ませることが多かつた旨の供述がある。しかし、右支出を裏付ける書証は存しないし、その回数も不明確であるから、右供述は採用せず、本件全証拠によるも原告主張事実を認めるに足りない。

7  交際費

原告は高千穂鉄工の担当者の接待に年間六〇万円を要する旨主張し、原告本人尋問の結果中には右に沿う供述がある。しかし、前記認定の原告と高千穂鉄工との関係に照らすと、原告が高千穂鉄工の担当者を接待する必要があるか疑問である。もつとも、原告本人尋問の結果中、出張先で高千穂鉄工の担当者を歓待するという点は、原告が高千穂鉄工から受領する金額の査定が同担当者の意見に左右されることが十分考えられることに照らして一概に排斥できないが、その支出金額は領収書等客観的資料により明確にされるべきであつて、年間六〇万円という金額には何ら根拠が見出されず、結局全証拠によるも原告主張の交際費を認めるに足りないというべきである。

8  通信費

原告本人尋問の結果によれば、原告の仕事は現場への出張を主とするものであるから、常に電話による連絡を必要とし、右費用は一か月一万円を下らないことが認められる。従つて、昭和五四年分の通信費は原告主張どおり一二万円となる。

9  光熱費

原告は自宅で使う電気、ガスの半分は事業関連分であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。なお、原告本人尋問の結果中には、原告が自宅で見積書の作成や従業員への給料支給をしたり、従業員が自宅に来た際茶を給する等の供述があるが、仮にそのような事実があるにしても、作成される見積書は一か月平均一〇枚に達しないことや給料支給日は原則として月一回であつたことが前出甲第八号証の一ないし一〇九及び原告本人尋問の結果によれば伺え、いまだ自宅の一部を事務所として使用していたことは評価し難いし、また、前記認定のとおり従業員の集合場所が別に存しないことに照らすと、自宅にて原告が従業員を頻繁に慰労したとも認め難いから、原告本人の供述は前記判断を左右するものではない。

10  地代家賃

原告は賃借居住マンションの半分を事務所として使用していた旨主張するが、前項で判断したとおり右主張はこれを認めるに足りない。次に、原告は西成区内にて谷口昇から倉庫を賃借していた旨主張し、原告本人尋問の結果中にはこれに沿う供述があるが、前出乙第二七号証、いずれも成立に争いのない乙第三四号証の二、第三五号証の一、二、第三六ないし第三八号証、谷口昇作成部分につき成立に争いがなくその余の部分につき弁論の全趣旨により成立を認める乙第三四号証の一によると、右倉庫は高千穂鉄工が谷口昇から昭和四三年以来賃借している土地上に建築したもので、原告はこれを集合場所として使用することを許されていたにすぎないことが認められるから、前記原告の供述は採用できず、結局地代家賃を認めるに足りる証拠はない。

11  雑費

原告主張の雑費の内容はいずれも領収書受領が決して困難でなく、各項目ごとに明確な金額を主張、立証することが可能なものであるから(原告本人尋問の結果をもつてしても不十分である。)、大雑把な把握に適さず、結局、主張立証が不十分というべきである。

12  常雇人件費

原告は係争年を通じて浜本忠を雇用し、かつ花岡武俊に昭和五四年一二月まで給料を支給した旨主張する(前記のとおり、その余の給料の点は、当事者間に争いがない。)。しかし、証人阿部逸雄の証言及びこれにより成立を認める乙第二五号証によると、浜本忠は昭和五二年中に、花岡武俊は昭和五四年九月末に退職したことが認められ、原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。なお、いずれも原告本人尋問の結果により成立を認めうる甲第一三号証の一、四の賃金台帳は、原告本人尋問の結果によると、いずれも原告が異議申立ないし審査請求段階で自己の記憶に基づいて作成したものであることが認められるから、その正確性については疑問があり、原告主張の裏付けとはなしえない。

そうすると、昭和五四年分の常雇人件費は当事者間に争いのない一九九四万円となる。

13  アルバイト人件費

いずれも弁論の全趣旨により成立を認める甲第一二号証の一、二及び原告本人尋問の結果によれば、原告は人手不足の際アルバイトを雇用し、一人当り一日一万円を支払い、年間合計六〇万円以上を支出したことが認められる。従つて、昭和五四年分のアルバイト人件費は原告主張のとおり六〇万円となる。

そうすると、昭和五四年分の経費合計額は二四一三万二一五二円となり、原告の同年分の事業所得金額は売上金額から右経費を差し引いた八六八万二八四八円と算定される。そして、同年分の本人所得率は〇・二六四五となるところ、原告の事業形態、事業内容等に係争各年を通じて特段の変化は認められないから、本人所得率を用いて昭和五二年分及び昭和五三年分の原告の事業所得金額を推計することには合理性があるというべく、従つて右各年分の売上金額に右本人所得率を乗じて算出した昭和五二年分につき七三〇万三三七一円、昭和五三年分につき八二九万〇二七六円が右各年分の原告の事業所得金額となる。

そうすると、右金額はいずれも本件処分の総所得金額を上まわるから、原告の実額反証は奏功せず、本件処分及び決定に違法は存しない。

四  よつて、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川口冨男 裁判官 古賀寛 裁判官 古財英明)

別表1

課税処分等経緯表

<省略>

別表二

原告の事業所得金額内訳表

<省略>

別表3の(一)

同業者率明細(昭和52年分)

<省略>

別表3の(二)

同業者率明細(昭和53年分)

<省略>

別表3の(三)

同業者率明細(昭和54年分)

<省略>

別表4

(一)原告の実額主張(昭和54年分)内訳表

<省略>

(二)原告の実額主張(昭和52、53年分)算定表

<省略>

別表5

原告の昭和54年分常雇人件費内訳表

<省略>

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