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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)9767号 判決 1988年12月23日

原告

角正機械工業株式会社

右代表者代表取締役

嶋 田 勝 治

右訴訟代理人弁護士

下 山 量 平

正 木 靖 子

被告

三恵商会こと

藤田進晤こと

米 本 武 二

右訴訟代理人弁護士

木 村 達 也

右訴訟復代理人弁護士

村 上 正 巳

尾 川 雅 清

主文

一  被告は、原告に対して、金三五八万〇〇三六円及びこれに対する昭和五七年五月五日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の主位的請求を棄却する。

三  本件予備的請求を却下する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

五  この判決は、原告において金一二〇万円の担保を供したときは、主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1(主位的請求)

被告は、原告に対し、金一五一七万三〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年五月五日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

(予備的請求)

被告は、原告に対し、金五四三万四三一三円及びこれに対する昭和六三年五月一四日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の主位的及び予備的請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、機械製造販売を業とする株式会社である。

2  原告は、昭和五五年五月一日、被告との間で、原告を請負人、被告を注文者として、日平産業製円筒研磨機(以下「本件機械」という。)を代金九〇〇万円で次のように改造する工事の請負契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

本件機械は、正面から見て下にベッドがあり、その上にワークテーブル、更にその上にスイベルテーブルがあり、スイベルテーブルの左側に主軸台が乗り、右側に心押台が乗り、その主軸台と心押台とに加工物を挟みワークテーブルを往復させ、ベッドの奥に据え付けている砥石台の砥石で加工物を研削して加工するものであるが、本件契約は、元のベッドの両側に継ぎベッドを継ぎ足し、ワークテーブル及びスイベルテーブルを作り直し、主軸台を新しいものに取り替え、砥石台と心押台をそれぞれかさ上げするために新たに作り直すというもの(以下「本件工事」という。)である。

3  本件契約においては、本件機械の改造に関して、次の約定がなされた。

(一) 改造工事設計図(以下「設計図」という。)は被告において作成する。但し、原告は設計図について検図のうえ、工事に着工しなければならない。

(二) 機械精度は、日本工業規格一級とする。

(三) 本件機械の改造工事完了並びにその引渡期限は、本件契約日後四・五か月以内とする。

なお、本件契約に際して、被告は、原告に対して、被告の設計通りに改造することを強く指示した。

4  原告は、本件契約において、被告との間で、請負代金は注文時に金三〇〇万円、本件機械の改造工事完成後において、原告の工場で試運転を完了し、かつ需要家工場で据付け試運転を完了した時に残金六〇〇万円をそれぞれ支払い、更に、被告の支給した有償支給費は原告において見積もりをして右請負残代金から差引く旨合意した。

5  原告は、昭和五六年四月一〇日ころ、本件機械の改造工事を完成し(以下、改造後の本件機械を「本件改造機械」という。)、同月二八日、原告の工場において、本件改造機械を被告から買い受けることになっていた豊里精密株式会社(以下「豊里」という。)立会のうえ試運転を完了した後、同日、豊里へ納入して据付け、試運転を完了し、もって、原告は被告に対して本件改造機械を引き渡した。

なお、本件改造機械の納入の遅れた原因は、原告が作業を遅らせたのではなく、被告の後記設計・指図の瑕疵により約定の研削精度が仲々出なかったことによるものである。

6  ところが、その後、本件改造機械の研削精度に次のような問題が生じた。

即ち、本件改造機械により加工物を研削加工したときに、砥石で切り込みを行っていない状態でも、ワークテーブルを数回往復させると、何回も火花が出て加工物が削れており、また、火花の出る個所即ち削れる個所がその都度異なり、そのため加工物の真円度は出ないし、加工物の主軸台に近いところに長手方向に平行のいわゆる「ビビリ」(筋模様)が何本も出て、加工物を研削する精度が不良となってしまったのである。

このような精度不良の原因は、研削中の加工物を保持し回転させている主軸台について、本体の剛性不足、心押台とのバランス不良、軸受部の構造不適切による主軸振れの発生等の欠陥があるため、加工物の保持が不安定となっていたためである。特に、主軸台の軸受(以下「ベアリング」という。)が二重構造になっているため、複雑な振動が生じ、精度が不良となるのである。したがって、研削精度の不良はベッドとワークテーブルの摺合せ加工不良によるものではなく、明らかに主軸台の設計不良によるものである。

そして、主軸台の設計を含む本件機械の改造の設計は被告が行い、かつ、被告が原告に対してその設計どおりに改造することを強く指示したものである。即ち、被告の設計指図の不良又は被告が指示した設計関係図自体の不足のため、本件改造機械の精度が不良となったのである。

なお、昭和五六年六月末ころ、原告と被告との間で本件機械の修理についてベアリングの二重構造を使用しないという合意はなされていない。そのころ、原告の代理人上川登と被告の代理人米本寛との間でなされた協議においては、二重構造方式を使用しても使用しなくてもよいから研削精度を良好にできればよいという合意がなされたに過ぎない。

7  原告は、本件改造機械を豊里に納入した後も、昭和五六年八月ころまでの間、可能な限り本件改造機械を修理した。

8  以上のように、原告は、本件機械の改造を完成し、さらに、右納入後も、本件改造機械を修理したが、右納入前に原告が改造のために支出した費用は金一八七三万九二一九円(内訳は、製造原価が金一六三一万九二五五円、4記載の被告の支給した有償支給費で原告が見積もりした額が金二四一万九九六四円である。)であり、納入後修理のために原告が支出した費用は金一八五万四二七七円であって、結局、原告が本件機械の改造及び修理に支出した費用は、合計金二〇五九万三四九六円である。

9  ところが、6記載のように、本件改造機械の瑕疵は被告の指示した設計不良によるものであるから、請負の目的物の瑕疵が注文者の与えた指図によって生じた場合に当たり、民法六三六条によって、原告には本件改造機械の修補義務はなかったものである。また、原告が本件機械を改造して納入するまでに支出した費用は前述のように請負代金の金九〇〇万円を超えているが、原告がこのように請負代金を超える費用を支出したのは、納入前にも本件機械の精度を良好にするために種々の工作を加えたためであり、このような工作が必要になったのは被告の設計指図不良に起因するのであるから、原告には請負代金を超える費用を支出してまで本件機械に工作を加える義務はなかったのである。

したがって、原告は、本件機械に請負代金を超える費用を要する工作を加え、さらに、本件改造機械を修理したことによって、義務なくして被告の事務の管理をしたものであるから、民法七〇二条一項に基づき、原告がこれらの工作及び修理のために支出した費用を有益費として被告に対して償還請求できるものというべきである。また、原告は、その義務に属さない右工作及び修理をしたことにより、原告が本件機械の改造及び修理に要した費用(8記載)から請負代金を除く金額相当の損失を被り、被告は自らなすべき右工作及び修理を免れたことによって同額の利得を得ているのであるから、原告は被告に対し右金額を民法七〇三条所定の不当利得として返還請求をなしうるというべきである。

10  原告は、昭和五五年五月一日、被告から、請負代金のうち金三〇〇万円を受領し、また、被告の支給した有償支給費で原告が見積もりした額は金二四一万九九六四円であり、これは4記載の約定により請負代金から差引くこととし、結局、被告が原告に支払うべき請負残代金は金三五八万〇〇三六円である。

11  原告は、昭和五七年四月二四日到達の書面で、被告に対して、8記載の製造原価及び納入後の修理費用並びに10記載の請負残代金合計金一五一七万三五三二円のうち、金一五一七万三〇〇〇円について、一〇日以内に支払うよう催告した。

12  よって、

(主位的請求)

原告は、被告に対して、請負代金請求権に基づく金三五八万〇〇三六円、及び事務管理者の費用償還請求権または不当利得返還請求権に基づく金一一五九万三四九六円の合計金一五一七万三五三二円を請求する権利を有するところ、これらの内金一五一七万三〇〇〇円の支払いを求め、併せて、これに対する本件改造機械の引渡の日の後であり、かつ、11記載の催告期間満了の日の翌日である昭和五七年五月五日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求める。

(予備的請求)

原告は、被告に対して、請負代金請求権に基づき金三五八万〇〇三六円、及び事務管理者の費用償還請求権または不当利得返還請求権に基づき本件改造機械の引渡後の修補費用相当の金一八五万四二七七円並びにこれらに対する本件改造機械の引渡の日の後であり、かつ、原告が被告に対して予備的請求をした本訴第二七回口頭弁論期日の翌日である昭和六三年五月一四日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は認める。なお、弁論の全趣旨によると、被告は本件契約の内容についても争っていないことは明らかである。

3  請求原因3の事実のうち、本件契約において、(一)ないし(三)の約定がなされた事実は認めるが、被告が原告に対して被告の設計通りに改造することを強く指示した事実は否認する。

4  請求原因4の事実は認める。

5  請求原因5の事実は否認する。

即ち、後記6のように、本件機械の改造は、原告の技術が未熟であったため日本工業規格一級の精度を達成することができなかったものであり、原告が本件機械の改造工事を完成させたとはいえない。また、豊里に本件機械を搬入したのは、原告の工場の地盤が軟弱であり試運転をすることが不可能であったので、試運転をするために豊里に一応納入して据付けを行ったものであり、原告が本件改造機械を被告に引渡したものではない。

なお、原告は本件改造機械の納期が昭和五五年九月一五日であったのに、徒らに本件機械の改造工事完了、その引渡しを遅らせ、既に七か月以上も遅滞した状態にある。

6  請求原因6の事実は否認する。

即ち、本件改造機械の精度は不良であったが、その精度不良の内容及びその原因は、原告の主張とは異なる。

本件改造機械で加工物を研削加工したときには、原告主張のような加工物長手方向に平行のいわゆる「ビビリ」が発生するが、これとともに、いわゆる「送り目」(加工物表面に螺旋状につく砥石の切削痕。フィードマークともいう。)も発生した。

そして、右「ビビリ」及び「送り目」の原因は、ベッドとワークテーブルとの摺動面の摺り合わせが悪いことと、砥石のメタルの調整が悪いことであった。そして、これらの欠陥原因は原告の技術の未熟によるものである。

なお、原告は、本件改造機械の研削精度の不良は被告が設計指図したベアリングの二重構造方式に起因する旨主張するが、この点については、昭和五六年六月末ころ、原告の代理人上川登、被告の代理人米本寛、及び豊里の代理人渡辺八郎が協議し、当初の設計図ではベアリングの二重構造になっているが、同構造では真円度が出ないという理由から、以後ベアリングの二重構造方式は使わないことに決定した。その後の原告の修理においてベアリングの二重構造を使っていないにもかかわらず本件改造機械の精度を日本工業規格一級のものにまで達成できなかったのは、原告の技術の未熟によるものである。

因に、本件改造機械は、昭和五六年一〇月ころ、大隅鉄工所の手によって、砥石軸のメタル調整をすることによりビビリは解消され、また、送り目はベッドとワークテーブルの摺動面の削り合わせを行うことにより解消され、こうして日本工業規格一級の精度が出ることとなった。

右のことからも、本件改造機械の精度不良は原告の技術未熟によるものであって被告の設計指図とは無関係であることは明らかである。

7  請求原因7の事実は否認する。

原告は、本件機械の納入後より昭和五六年八月ころまで、豊里の修理要請にもかかわらず本件改造機械を修理をすることなく放置し、あるいは、下請けの上川登らに本件改造機械の修理をさせるなど、全く誠意のない状態であった。

8  請求原因8の事実は否認する。

9  請求原因9は争う。

即ち、原告が被告から本件機械の改造工事を請負ったにもかかわらず契約どおりの改造ができなかったのは、原告の債務不履行であり、原告には、被告との請負契約に基づき、本件改造機械を修理する義務があったものである。また、原告は機械改造修理の専門家であり、その知識経験を踏まえて本件契約内容を吟味検討したうえ本件契約を締結したものであり、被告の設計指図に瑕疵があればその点を指摘し精度を出すように努めるべきである。事実、原告と被告間で昭和五六年六月末ころ、ベアリングの二重構造方式に固執せずに研削精度を良好なものにすることの協議合意がなされたのである。したがって、原告の本訴請求が民法七〇二条所定の事務管理に該当しないことは明らかである。

10  請求原因10の事実のうち、被告が、昭和五五年五月一日、原告に対して請負代金のうち金三〇〇万円を支払った事実は認め、また、被告が支出した有償支給費が二四一万九九六四円である事実は否認する。

11  請求原因11の事実は認める

三  抗弁

被告は、原告に対して、本件工事に関し、本件契約所定の有償支給費として、請負代金の内金三〇〇万を加えると合計金八八九万二三九九円を支出した。なお、請求原因10の有償支給費金二四一万九九六四円はこの内金である。したがって、右有償支給費は原告主張の右金額を超える部分についても控除されるべきである。

四  抗弁に対する認否

被告が支出した有償支給費のうち金二四一万九九六四円を超える部分については否認する。本件契約においては、被告の支出した有償支給費は原告において見積もりをすることになっており、被告が見積もりをすることはできない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因について

1  請求原因1、2の事実については当事者間に争いがない。

2  請求原因3の事実のうち、本件契約において(一)ないし(三)の約定がなされた事実については当事者間に争いがない。

次に、本件契約に際して、被告が原告に対して被告の設計通りに本件機械の改造をすることを強く指示したかについて判断する。まず、前記認定のように本件契約においては被告が設計図を作成する約定になっており、また、<証拠>を総合すると、被告の依頼を受けた米本寛及び大部某が設計図を作成し、これを被告が昭和五五年四月から一〇月にかけて順次原告に交付し、これに基づいて原告が本件機械の改造工事を進めていった事実、及び、被告が同年七月二二日ころ原告に対して設計図のうち大部某作成にかかる主軸台回転軸組立図(甲第一号証の六)を交付したが、右組立図は、その前に交付した主軸台回転軸組立図を原告の要請で書き直したものである事実、並びに、右甲第一号証の六の組立図についても、角正政一及び松本松信は同年八月ころ被告及びその息子である米本寛に対して、これに従って改造すると精度が達成できない旨伝えたところ、被告及び米本寛は、研磨機を作っている大隅鉄工でも同様にしているので右設計図に従えば精度は達成できると主張して、組立図のとおりに改造するよう角正政一及び松本松信に指示した事実がいずれも認められる。そして右事実によると、主軸台回転軸の組立に関する限りは、原告が専門家として有する見解よりも被告の設計図が優先したという意味で、被告が原告に対して、本件機械を被告の設計通りに改造することを強く指示していたものと解すべきである。但し、前記認定のように、本件契約においては原告は被告が作成する設計図を検図のうえ工事に着工することになっており、また、<証拠>を総合すると、被告が原告に交付した継足しベッドの設計図については、原告が被告に対して右設計図とおりではベッドが短いため目的を達成できない旨告げ、被告がこれに応じて設計図を作成し直したという事実も認められるので、結局、本件契約及びその施工においては、右主軸台回転軸の組立部分以外では、一般的に原告の見解と被告作成の設計図及び被告の指図間には優劣の約定はなく、個々の工事及び問題ごとに、原告と被告とが意見を出し合って協議し、その問題を解決しながら改造工事を進めて行ったものと解される。

3  請求原因4の事実については当事者間に争いがない。

4  請求原因5、6の事実について併せて判断する。

(一)  原告が昭和五六年四月一〇日ころ本件機械の改造工事を完成させたかどうかについて判断する。

(1)  まず、一般的に、請負契約においていかなる場合に仕事が完成したと認められるのかという点について検討する。

民法は、六三二条、六三三条で請負人が仕事を完成すれば注文主に対して報酬請求権が発生し、目的物引渡義務と報酬支払義務とが同時履行の関係に立つと規定する一方で、六三四条で目的物に瑕疵があるときの請負人の担保責任について定め、同条二項では目的物の瑕疵によって注文者に損害が生じたときには、注文者は請負人に損害賠償請求をなすことができ、右損害賠償義務と報酬支払義務とは同時履行の関係に立つと規定している。したがって、民法上は、請負の目的である仕事が完成した場合と、右完成した仕事の目的物に瑕疵がある場合とを、明確に区別しているものといえる。ところで、仕事が約束どおりになされていない場合に、請負の目的である仕事が未完成であるのか、或いは、仕事は完成されたがそれに瑕疵があるにすぎないのか、が問題となる。

この点については、民法の規定の趣旨に鑑みて、請負工事が途中で廃せられ、予定された最後の工程を終えない場合は、工事の未完成に該当し、請負工事が予定された最後の工程まで一応終了し、ただそれが不完全で補修を要するときは、仕事は完成したがその目的物に瑕疵があるときに該当するものと解するのが相当である。

(2) これを本件についてみるに、本件改造機械による研削について約定の精度に達していなかったことについては当事者間に争いがないので、原告が昭和五六年四月一〇日ころに本件機械の改造工事を完成したといえるか否かであるが、その前提として、まず本件改造機械による研削について、そのころいかなる精度不良の現象が発生したか、またそれがいかなる原因によって生じたかについて順次検討する。なお、本件契約所定の本件改造機械の精度は日本工業規格一級というものであるが、証人米本寛の証言中には当時本件改造機械のような工作機械には日本工業規格所定の等級は定められていなかった旨の供述部分があり、また、いかなる精度であれば本件契約所定の日本工業規格一級の精度といえるのかは本件証拠上も必ずしも明らかでないが、原告と被告とが本件契約で意図していた精度がある一定水準のものであること、及び昭和五六年四月ころの本件改造機械による研削の状態がその水準に達していなかったことについては当事者間にほぼ争いがなく、本訴で問題となるのは、むしろいかなる現象が生じたから精度が達成できていないといえるかということであるから、以下、必ずしも日本工業規格一級という定めには拘泥することなく、原告と被告とが本件契約で意図した本件改造機械の精度を前提にして検討することにする(以下、この前提に基づき、「精度が達成できた」「精度が達成できなかった」などと表現する。)。

(3) まず、いかなる現象が生じたから精度が達成できなかったかについて判断する。

<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。即ち、原告は、昭和五六年四月一〇日ころまでに、従業員の松本松信及び野々山某並びに下請業者である上川製作所の上川康継及び上川登らによって、本件機械について、元のベッドの両側にベッドを継ぎ足し、ワークテーブル及びスイベルテーブルを作り直し、主軸台を新たに組み立て、砥石台と心押台を新たに作り直す等本件契約上の作業工程を一応終了した。その後、同月二八日ころまでの間に原告方工場内において、原告側から代表者の角正政一、松本、野々山、上川康継及び上川登、豊里から渡部八郎及び東田美雄、被告側から被告とその息子である米本寛らが立ち会って、本件改造機械の試運転として加工物の研削を行ったところ、加工物に、いわゆる「ビビリ」と呼ばれる長手方向に平行の筋模様が何本も現れて、加工物が真円に削れず、精度が達成できなかった。そこで、右の者らの検討の結果、原告方工場の地盤が軟弱であるから精度が達成できない疑いがあるとして、地盤のしっかりした豊里の工場で本件改造機械の試運転をすることにし、原告は、同月二八日に本件改造機械を豊里の工場に搬入し据付けた。そして、同年五月上旬ころ、右の者らの立ち会いのもとで再度本件改造機械の試運転をしたが、以前として加工物に右「ビビリ」が現れ、精度が達成できなかった。また、この「ビビリ」は主軸台と心押台とに挟んだ加工物の主軸台に近い約半分の範囲の方が心押台に近い約半分の範囲よりも顕著に現れた。

そして右事実によると、本件改造機械の精度が達成できなかった現象のひとつに右「ビビリ」と呼ばれる筋模様があったが、右「ビビリ」は加工物の主軸台に近い約半分の範囲に現れていたものといえる。

他方、被告は、いわゆる「送り目」という加工物表面に螺旋状につく砥石の切削痕が生じたと主張するが、昭和五六年四月ころ本件改造機械に右「送り目」が生じていた事実を認めるに足りる証拠はなく、却って、<証拠>を総合すると、そのころ右「ビビリ」の外に特に見るべき現象は現れなかった事実が認められる。なお、証人東田美雄の証言中には「おくりめ」という現象がみられるが、右証言の趣旨からして、これは加工物の長手方向に平行の筋模様、即ち「ビビリ」のことを意味するものと解される。また、証人上川の証言(第二回)中に「フィードマーク」の存在を肯定したかのような供述部分もみられるが、これは、その尋問と証言の趣旨からして、必ずしも被告の主張する「送り目」の存在を肯定したものとは解されない。

(4) 次に、右「ビビリ」がいかなる原因によって生じたかという点について判断する。

この点について、原告は、主軸台について本体の剛性不足、心押台とのバランス不良、軸受部の構造不適切による主軸振れの発生、特に主軸台のベアリングの二重構造による複雑な振動が原因であると主張している。これに対して、被告は、ベッドとワークテーブルの摺動面の摺り合わせが悪いことと砥石のメタルの調整が悪いことを挙げている。

鑑定の結果及び証人落合登の証言によると、本件工事の設計図、特に甲第一号証の六の主軸台回転軸設計図を検討した結果では、同設計図自体に欠陥があること即ち、同設計図上からも右「ビビリ」は主軸系と加工物のたわみによる振動によるものであるが、その振動の原因として、主軸台の外側の軸(回転軸)と内側の軸(固定センタ軸)を支持しているベアリング関係が、ベアリングの取付方法が悪く、その公差が中間ばめである点、固定センタ軸に取り付けられる締付スリーブが長すぎる点、ベアリングが固定されている内側の軸と回転する外側の軸との間にも、外側の軸と主軸台本体との間にもあるという二重構造になっている点等欠陥不適切な点があるため、固定されている内側の軸(センタを介して加工物を支えている軸)が振動すること、また、センタで加工物を支持するということ自体も振動の原因であることが指摘されている。また、<証拠>では、同人らは主軸台のベアリングの二重構造が振動の直接の原因でありこれが精度を悪くしていると述べている。

また、前記(3)認定のように、「ビビリ」の発現個所が心押台よりは加工物の主軸台に近い約半分の範囲に顕著に現れていたのであるから、主軸台にその原因があるとみるのが自然である。

さらに、<証拠>を総合すると、原告が昭和五六年四月ころ本件改造機械を豊里に納入した後より同年八月ころまでの間に、野々山、上川康継、上川登、米本寛らが精度を達成するために本件改造機械の修理をしたが、その過程で右の者らの間には主軸台のベアリングの二重構造がビビリの原因ではないかという疑いを持ちその精度を達成するためにいわゆるチャッキング方式でベアリングの二重構造の機能を止めてみたが右「ビビリ」が解消しなかった事実が認められる。

しかし、<証拠>を総合すると、昭和六二年二月二七日の検証時、豊里では、本件改造機械は稼働中で精度も達成していたが、この時は、主軸台のベアリングの二重構造を機能させずに外側の軸と内側の軸とが共に回転するようにして使用していた事実が認められる。なお、証人東田の証言によると、本件改造機械の精度が達成されてからは、チャッキングで加工物を掴む方式で研削してもセンタで加工物を支持する方法で研削しても精度は達成されている事実、また、証人松本の証言(第二回)によると、チャッキングで加工物を掴む方式でも二重構造のままならば精度が達成できない事実がそれぞれ認められる。

以上の認定事実に「ビビリ」の後記のもう一つの原因をも合わせ考慮すると、主軸台のベアリングの二重構造が「ビビリ」の一因となっていることは優に肯認できる。なお、証人脇山功は、ベアリングを数多く使用すればそれだけ機械の精度も剛性も増す旨証言しているが、同証人は、本件改造機械の砥石ヘッドのみを修理した者であり、本件改造機械の主軸台やその設計図について直接検討したわけではなく、ただ一般論を証言したに過ぎないので、右証言は右認定を左右するに足りるものとはいえない。

しかし他方、以下に述べるとおり、本件改造機械のベッドとワークテーブルの摺り合わせの精度が不十分であったことも、加工物の振動の原因となり、研削の精度が達成できなかった一因であったことは否定できない。

まず、<証拠>を総合すると、原告が本件改造機械を豊里に納入した直後、豊里の代表取締役渡部八郎が、精度が達成できないのは本件改造機械のベッドとワークテーブルの摺動面の不良によるものと指摘したため、上川康継、上川登らが右摺動面を水準器やオートコリメーター(水平度を測定する一種の測定器)で測定したところ、水平度が不良だったので、その後、原告側の松本、野々山、上川康継、上川登らは、きさげ(シカラップともいう、鉄を精密に削る道具)を使用して右摺動面の改良を主とした修理をしていた事実が認められる。

また、<証拠>を総合すると、上記原告側の修理によっても本件改造機械は精度が達成できなかったので、豊里は、昭和五六年九月ころ、本件改造機械の修理を大隅鉄工及び清和工機株式会社に請負わせ、大隅鉄工及び清和工機は、本件改造機械のベッドとワークテーブルとの摺り合わせについて、治具(証人井上の証言により検乙第一一、第一二号証の撮影対象物であると認められる。)の上にオートコリメーターを載せて水平度を測定しながら、摺動面をきさげ(電動のスクレーパー)で削って改良していくという方法で修理を重ね、その結果同年一一月ころ、精度が達成できた事実が認められる。

即ち、本件改造機械には、右摺動面の摺り合わせにも問題点があった事実が推認できるのである。なお、鑑定の結果及び証人落合の証言では、「ビビリ」は摺り合わせ精度の問題ではないとされているが、鑑定事項は設計図の適否であって右事項は鑑定事項からは逸脱しているし、右摺り合わせの不良は設計図自体の不良というよりは、むしろ工事完成時の微調整の段階で行われる現実の作業工程に属するものなので、右鑑定の結果及び証人落合の証言は右認定を左右するに足りる証拠とはいえない。

さらに、「ビビリ」の原因として本件証拠上窺われるものとして、継ぎベッドの剛性不足と砥石軸のメタル調整不良とがある(後者については、被告が「ビビリ」の原因として主張している。)ので、これらについて検討する。

継ぎベッドの剛性不足については、鑑定の結果及び証人落合の証言によると、継ぎベッドを工夫しても設計関係図不足により一体化ベッドの機能が出ないということであるが、このことと本件改造機械の「ビビリ」との関係が明らかでなく、これをもって、直ちに本件「ビビリ」の原因であると認めるには足りない。

次に砥石軸のメタルの不良については、証人米本及び証人脇山の各証言を総合すると、昭和五九年一〇月ころ豊里で本件改造機械を使用中、砥石の軸受が焼き付いたため有限会社新唐機工に砥石のヘッドを修理させたところ、加工物に「ビビリ」が生じたため、これを砥石軸のメタルを調整することによって解消した事実及び加工物に「ビビリ」が生じる一般的な原因として砥石軸のメダルの調整不良があることが認められる。しかし、前記認定のとおり、豊里は本件改造機械を昭和五六年一一月ころ以降、加工物を研削するため使用してきており、昭和五九年一〇月ころまで、特に精度が問題になった事実も窺われないのであるから、右の「ビビリ」と昭和五六年四月ころの本件改造機械納入時の「ビビリ」との関係が明らかでなく、また、右脇山証言も新唐機工が砥石のヘッドを修理したことのみに基づく証言であるから、右各証拠によっても昭和五六年四月ころの本件改造機械の「ビビリ」の原因が砥石軸のメタルの調整不足である事実を認めるには足りない。

以上のとおり、本件改造機械の昭和五六年四月ころの「ビビリ」の原因として主軸台のベアリングの二重構造と、ベッドとワークテーブルとの摺り合わせの精度不良との双方が認められることになる。そしてこれらの二つの原因のどちらかを択一的にその原因として認定することは困難である。即ち、「ビビリ」が加工物の主軸台に近いところに顕著に現れたことは主軸台に問題があることを推認させるし、また、主軸台のベアリングの二重構造の機能を止めた後である同年九月ころから同年一一月ころまでの間に大隅鉄工及び清和工機によるベッドとワークテーブルの摺り合わせの調整により本件改造機械の精度が達成できたことからベッドとワークテーブルの摺り合わせにも問題があったといえる。更に、前記認定のように、原告や大隅鉄工、清和工機は、本件改造機械の精度を達成するために相当な期間にわたって種々の試みをしなければならなかったのであるが、これは、その原因が一つに割り切れるものではなかったことを推認させる。したがって、右「ビビリ」は、右二つの原因が競合し相乗的に作用して生じたものであると解することが相当である。

(5) 以上の認定に前記(1)の一般的基準を適用して、原告が昭和五六年四月一〇日ころ、本件機械の改造工事を完成させたかどうかを判断する。

前記(3)認定のように原告は、昭和五六年四月一〇日ころまでに、松本、野々山、上川康継及び上川登らによって、本件機械について、元のベッドの両側にベッドを継ぎ足し、ワークテーブル及びスイベルテーブルを作り直し、主軸台を新たに組み立て、砥石台と心押台を新たにかさ上げして作り直すという作業を一応終了した。しかし、本件改造機械は加工物に「ビビリ」が生じていて精度が達成できなかった。そうすると、本件改造機械には不完全な点があったことは明らかである。ところが、その原因は、前記(4)認定のように主軸台のベアリングの二重構造と、ベッドとワークテーブルの摺り合わせの精度不良との競合相乗作用である。他方、本件契約の内容は前記1、2認定のとおりであり、特に、主軸台回転軸組立図(甲第一号証の六)については、原告の見解よりも被告が提供した右組立図のほうが優先するという意味で、被告が右組立図のとおり主軸台を製造するよう原告に指示したものである。そして、証人松本の証言(第一、第二回)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件機械の改造工事中、右組立図に従ったうえで本件機械の精度を達成できるよう種々の工夫をし、昭和五六年四月一〇日ころにも本件機械の主軸台を右組立図の通りに製作していた事実が認められる。

そうすると、原告が本件改造機械の精度を達成できなかった原因の一つとして、被告の指図に従って右組立図のとおり主軸台を製作したことが挙げられることになる。換言すると、原告が右組立図に従ったことによって本件改造機械の精度が達成できなかったとしても、それは本件契約の趣旨に反して履行とはいえない。もちろん、請負契約一般においても、本件契約においても、工事の請負人は専門家としてその知識と経験に基づいて最善の努力と工夫をしなければならないことはいうまでもないところであるが、本件契約において、原告は、前記認定のように、右組立図では精度が達成できない可能性があることを被告に告げたにもかかわらず、被告が右組立図のとおり主軸台を製作するよう指示したため、原告はこれに従ったうえで種々の工夫と努力をしたのであるから、主軸台の製作に関する限り、原告は契約所定の義務を履行したものと解すべきである。

ところで、本件改造機械の精度が達成できなかった他の原因として、ベッドとワークテーブルの摺り合わせの精度が不良であったことが挙げられるが、これは、前記認定のように大隅鉄工と清和工機の修理によって改善されたのであるから、原告の技術に問題があったと解される。しかし、証人松本(第一、第二回)及び証人上川(第一、第二回)の証言によると、原告は昭和五六年五月から八月ころまで、治具(検甲第一号証の被写体であることは当事者間に争いがない)やオートコリメーターを使用して右摺り合わせの調整を行った事実が認められ、また、前記(4)認定のとおり大隅鉄工と清和工機は共に同年九月ころから一一月ころまで右摺り合わせの調整を続け、漸く精度を達成したのであるから、右摺り合わせは相当微妙な調整を必要とするものであると解される。そうすると、仕事の完成についての前記(1)の一般的な基準によると、右摺り合わせが不完全であったからといって、本件工事が予定された最後の工程を終了していない場合には当たらないというべきである。

即ち、原告は、前記のように、本件機械について、元のベッドの両側にベッドを継ぎ足し、ワークテーブル及びスイベルテーブルを作り直し、主軸台を新たに組み立て、砥石台と心押台を新たにかさ上げして新たに作り直すという作業を一応終了したのであり、本件改造機械が本件契約所定の精度を達成できなかったとしても、その原因の一つは原告が主軸台回転軸組立図のとおり主軸台を製作するという被告の指図に従ったことによるものであり、もう一つの原因である摺り合わせ不良の点は相当微妙な調整を要するものであるから、これは、工事を途中で中断して予定された最後の工程を終了しない場合ではなく、予定された最後の工程まで一応終了し、ただそれが不完全なために補修を加えなければ完全なものとならない場合に該当するといわなければならない。したがって、原告は、昭和五六年四月一〇日ころ、本件機械の改造工事を一応完成したものと解すべきである。

(二)  次に、原告が昭和五六年四月二八日本件改造機械を被告に引渡し、試運転を完了したかについて判断する。

前記(一)(3)認定のように、角正政一、松本松信、上川康継、上川登、渡部八郎、東田美雄、被告、及び米本寛は、昭和五六年四月一〇日ころから同月二八日の間に、原告方工場内において本件改造機械の試運転として加工物の研削を行ったが、「ビビリ」が現れたため、原告方工場の地盤が軟弱であるから精度が達成できないとの疑いから、地盤のしっかりした豊里の工場で試運転をすることにし、原告は、同月二八日に本件改造機械を豊里の工場に搬入し据付け、幾度か試運転をしたが、以前として「ビビリ」が現れ、精度が達成できなかった。

ところで、前記(一)認定のように、原告は同年四月一〇日ころ本件機械の改造工事を一応完成し、また、前記3認定の約定から、本件契約においては、原告の工場で試運転完了し、かつ需要家工場で据付け試運転完了した時に原告が被告に本件改造機械を引渡したこととする約定と解される。そうすると、試運転時に「ビビリ」が現れて精度が達成できなかったとしても、右のように原告が本件機械を原告の工場で試運転をし、需要家である豊里の工場に搬入し据え付け、試運転をしたという事実をもって、本件改造機械を被告に引渡したものと解すべきである。

この点に関し、<証拠>を総合すると、原告側も、右豊里の工場への搬入をもって引渡しに当たるとは必ずしも考えていなかった事実が窺われるが、これは、原告側が当時本件改造機械を精度が達成された状態で引渡したものではないことの認識を表したものに過ぎず、前記のように、精度が達成できなくとも本件機械の改造工事が一応完成していたと認められる以上、原告が被告に本件改造機械を引渡したと解する上で妨げとなるものではない。

なお、本件改造機械の引渡時期については、本件弁論の全趣旨からもこれが本件論点でない(被告もこの点に関し原告の責任を問うものではない)ことは明らかなので、ここでは論ずるまでもないところである。

5  請求原因7の事実について判断する。既に、前記4で認定したように、原告は、本件改造機械を豊里の工場に搬入後、昭和五六年五月ころから八月ころまでの間、従業員の野々山、松本、下請業者である上川製作所の上川康継、上川登らによって、本件改造機械の精度が達成できるよう、治具、オートコリメーター、きさげなどを使用してベッドとワークテーブルとの摺り合わせを調整する等の修理をした事実が認められる。

6  請求原因8、9について併せて判断する。

<証拠>によると、原告は、本件機械の改造及び修理のために昭和五五年六月から昭和五六年四月の間に金一六三一万九二五五円、同年五月から八月の間に金一八五万四二七七円の費用をそれぞれ支出した事実が認められる。

しかし、まず、右のうち昭和五五年六月から昭和五六年四月までの間の右費用のうち請負代金をこえる費用金七三一万九二五五円については、原告が請負った本件工事の完成に要した費用であるから、本来原告が負担すべき筋合いのものであって、これを総て被告の負担とすることに理由がないことはいうまでもないところである。しかし、被告の指示した設計不良により原告の本件工事費が本件契約時の予定額よりもかなり増加したことは否定できないので、右増加額の総てを原告に負担させることも信義・公平の原則上相当ではないともいえるが、右増加費用を加えたことにより本件改造機械が本件設計図以上の研削精度を達成したのであればともかくも、それが達成せず、しかも右増加費を本件契約に基づく義務の履行に要した費用と原告が主張するような被告の設計不良に起因する費用とに明確に特定区分する基準の認められず、かつ、原告自身も設計不良であっても被告の指図によりそれに従って本件工事を完成させることが債務の本旨に従った履行である旨を主張する本件においては、これを本件工事費用として原告の負担とする方が相当なので、原告の右増加費用の請求は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

次に、同年五月から八月までの間の右費用の請求について判断する。前記認定の事実によると、右期間における原告の修理は、完成した本件改造機械の瑕疵の修理といえるが、その瑕疵は、主軸台のベアリングの二重構造とベッドとワークテーブルの摺り合わせの精度不良であり、とりわけ、ベッドとワークテーブルとの摺り合わせは、被告の与えた指図によって生じた瑕疵とはいえない。そして、証人松本(第一、第二回)、証人東田、証人米本及び証人上川(第一、第二回)の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告は、右期間中は主軸台の修理については、ベアリングの二重構造の機能を止めて試運転したにすぎず、主として、ベッドとワークテーブルとの摺り合わせを調整し、それに右費用の殆んどを要した事実が認められるので、これに要した費用は原告の負担というべきである。そうすると、原告が右期間に支出した修理費用のうち、被告の設計指図の不良に起因する修理費は本来被告の負担と解すべきであるが、これは少額のうえ本件証拠上特定することも困難であり、また右修理によって本件改造機械の研削精度も達成するに至らなかった本件においては、たとえ右修理費用のみを特定して被告に請求することができるとしても、右部分的な修理費用を有益費として是認することは必ずしも相当とはいえないので、原告の右請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。

7  請求原因11の事実は当事者間に争いがない。

8  なお、原告の主張自体からも明らかなように、本訴予備的請求は、主位的請求と訴訟物を同じくし、主位的請求の一部請求(いわば主位的請求を一部減縮したもの)に過ぎないので、これが主位的請求とは別個の請求といえず不適法といわざるをえない。

二抗弁について

抗弁事実について判断するに、<証拠>によると本件請負工事に関し被告の支出した有償支給費で原告が見積もったものは、<中略>の合計金五四一万九九六四円であるが、他方、右のうち<中略>(合計金三〇〇万円)については、原告は、本件請負代金九〇〇万円の内金三〇〇万円で既に被告より支払を受けたとして本件請求において控除済のものである<中略>事実が認められる。

そうすると、原告は本訴請求において被告支払済の金三〇〇万円を既に控除しているので、本件請負工事残代金より控除すべき有償支給費として是認される金額は右金五四一万九九六四円より右金三〇〇万円を控除した金二四一万九九六四と解すべきである。

三結論

以上の次第で、原告は被告に対し本件請負代金六〇〇万円より前記有償支給費金二四一万九九六四円を控除した金三五八万〇〇三六円を請求することができるものといえる。また、原告の予備的請求は前述のとおり不適法といわざるをえない。

よって、原告の本訴主位的請求は、請負代金請求権に基づき金三五八万〇〇三六円及びこれに対する引渡の日の後である昭和五七年五月五日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による金員の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却し、本件予備的請求は不適法な訴えであるからこれを却下し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小林一好 裁判官小澤一郎 裁判官光本正俊)

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