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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)5566号 判決 1984年1月30日

高槻市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

松葉知幸

大阪市<以下省略>

被告

三洋交易株式会社

右代表者代表取締役

Y1

神戸市<以下省略>

被告

Y1

大阪市<以下省略>

被告

Y2

同所同番地

被告

Y3

同所同番地

被告

Y4

右被告ら五名訴訟代理人弁護士

張有忠

主文

(一)  被告らは原告に対し、連帯して、三三〇万円及び内三〇〇万円に対する昭和五七年七月二九日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は、被告らの負担とする。

(三)  この裁判は、仮に執行することができる。

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨

二  被告ら

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一) 当事者

被告三洋交易株式会社(以下「被告会社」という。)は、貴金属地金およびその加工品の売買並びに仲介業務、金融業等を目的とする会社であり、被告Y1は、被告会社の代表取締役、被告Y4は被告会社の取締役兼本店支配人、被告Y2及び同Y3は被告会社の取締役である。

(二) 原告と被告会社との取引

(1) 原告は、被告会社との間に、以下のとおり、金地金につき、香港純金塊取引と称する取引(以下「本件取引」という)の委託をした。

取引年月日

注文

数量(一ユニットは

三・七四二五Kg)

金額

第一

昭和五六年一一月七日

買い

一ユニット

一〇〇万円

第二

昭和五六年一一月九日

買い

一ユニット

一〇〇万円

第三

昭和五六年一一月一七日

売り

二ユニット

一〇〇万円

(2) 原告は、被告会社に対し、昭和五六年一一月九日に第一取引の代金として一〇〇万円を、同月一一日に第二取引の代金として一〇〇万円を、同月二〇日に第三取引の代金として一〇〇万円をそれぞれ支払った。

その後、被告会社は、買い注文にかかる金地金を売却して本件取引を清算し、受渡代金合計三〇〇万円を充当した結果として、二万二八〇七円のみを返済できるとしている。

(三) 被告らの責任

(1) 香港純金塊取引

香港純金塊取引というのは、被告会社が、顧客から金地金の取引の委託を受け、宝発金号の加盟する香港金銀業貿易場(以下「貿易場」という)において、宝発金号の日本における代理業務を担当する香港ゴールド・トレーニング・ユニオン(以下「ユニオン」という)を通じて、金地金に関する取引を行なっていると称されているものである。

貿易場における取引は、いわゆるザラ場取引類似の取引であって、売手と買手の個別的相対売買が継続的におこなわれ、取引時間内に多数の取引が個別的にそれぞれの値段で成立しているものであって、単一の取引値段は存在せず、貿易場としては対外的にオープニング価格とクロージング価格を発表しているだけのものである。香港純金塊取引は、このオープニング価格とクロージング価格とされているが、顧客から注文を受けた取引が右の価格でおこなわれることはあり得ないのである。

貿易場において行なわれる香港純金塊取引は、オーバーナイト取引と称されているが、その実態は先物取引にほかならない。

貿易場の仕組み、取引方法、取引価格の決定方法等については、日本においては解明されていない部分が多く、従前、国内に存在した金取引の私設市場以上にその取引の適正は期し難いものである。

(2) 本件取引の経過

(イ) 原告は、昭和五六年一一月五日ころ、被告会社より、数回にわたり、電話で金取引について勧誘を受けた。

さらに、原告は、同月六日夜九時半ころ、原告宅を訪れた被告会社従業員Aと被告Y3から、「この取引は保証金を必要としない。下がっても追加保証金を求めることはない。下がったら下がったで利子がつく。取引単位は一ユニットで確実に有利な投資にする。」など本件取引によって確実に利益の上がる有利さについて繰り返し説明を受け、金取引を強引に勧められ、同月七日に、買い注文書等に署名押印し、取引代金一〇〇万円を同月九日に支払うことを約し、第一取引を委託した。

(ロ) 原告の妻は、同年一一月九日、原告宅を訪ずれた被告Y3、Aに、原告名義の一〇〇万円の小切手を交付したが、その際、同人らから、本件取引が安全確実なものであるからもう一ユニットだけ取引をするように強く勧誘を受け、断りきれないまま買い注文書に署名した。

原告は、同日、帰宅後、妻から右事実を聞いたが、右取引を了解し、第二取引を委託することにし、同月一一日に、被告会社に対し、原告名義の一〇〇万円の小切手を交付した。

(ハ) 原告は、同年一一月一六日、被告会社取締役Bから、電話で「金の値段が暴落した。入金した金員はほとんどなくなってしまった。損を防ぐためにはすぐに売りを立てるべきです。売りを立てないと損害が益々大きくなる。遅くとも明日までに二ユニットの売りを出さないと全部損をしてしまう。」などといわれたことから、これに抗議をしたが、やむなく、一七日付で、金地金二ユニットの売り注文を出すことを約束した。

原告は、同月二〇日に、同月一七日付の売り注文書に署名押印し、被告Y3に対し、右取引代金一〇〇万円を支払い、第三取引を委託した。

(ニ) 原告は、昭和五七年一月一九日、被告Y3から、電話で「今、売りの分について利益が出ているので、これを買い戻すように。このままでは取引できない。」などといわれるままに、これを了解した。

ところが、原告は、被告会社従業員Cから、電話で「金が暴落したので買いの部分を処分するか、追い証を入れるかしないと困る。」といわれ、Cを原告宅に呼んで事情を聞いたが、同様の話を繰り返すのみであり、結局、先に買った金地金二ユニットのうち一ユニットを売り、残りの一ユニットについてはしばらく様子をみることにした。

原告は、同年三月三日、Cから、電話で「値が下がったので処分を考えてくれ。」といわれ、明日も引き続き値が下がっているようならば考えようと返事をしておいところ、同月四日に被告Y3から電話で「値が下がったので売った。」との連絡を受け、現在に至っている。

(3) 被告らの不法行為責任

被告らは、原告に対し、香港純金塊取引の内容がほとんど知られていないにもかかわらず、その説明も理解もさせようとせず、また、右取引の実態が多額の損失を生じさせる危険の大きい先物取引であるにもかかわらず、安全確実な取引である旨の虚偽の説明をし、さらに、香港における貿易場において金取引をする意思がないのに、これがあるように装って、本件取引に引込んだものである。

したがって、被告会社は、代表取締役である被告Y1の前記違法行為について商法二六一条三項、民法四四条、七〇九条により、被告Y1、同Y2、同Y3および同Y4はいずれも共謀の上前記違法行為をおこなったものとして民法七〇九条により、それぞれ原告の蒙った損害を賠償する責任がある。

(四) 原告の損害

(1) 原告は、被告らの不法行為により、前記のとおり本件取引の受渡代金として合計三〇〇万円を支払い、同額の損害を受けた。

(2) 原告は、被告らに対し、三〇〇万円の損害賠償請求権を有するところ、被告が任意の支払に応じないので、本件訴訟を原告訴訟代理人に依頼し、その弁護士費用を負担することになり、三〇万円の損害を受けた。

(五) 結論

よって、原告は、被告らに対し、連帯して、三三〇万円および内三〇〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年七月二九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告らの認否並びに主張

(一) 第(一)、第(二)項の(1)(2)の事実は認める。

第(三)項(1)のうち香港純金塊取引は、被告会社が顧客から金地金の取引の委託を受け、宝発金号の加盟する貿易場において、宝発金号の代理業務を担当するユニオンを通じて金地金に関する取引を行っていると称されているものであることは認め、その余の事実は否認する。同項(2)(3)の事実は否認する。

第四項(1)(2)の事実は否認する。

第(五)項の主張は争う。

(二) 原告は株式取引や商品取引をした経験を有し、現物取引との相違、先物取引の値動きの激しさ、金取引が株式取引や商品取引以上に投機性の強いものであることなどを十分に知悉しており、香港純金塊取引顧客承諾書、同意書を熟読した上、これに署名押印して本件取引をしたものである。

第三当事者の提出、援用した証拠

本件訴訟記録中、証拠関係目録記載のとおりであるからここにこれを引用する。

理由

一  当事者

被告会社は、貴金属地金及びその加工品の売買並びに仲介業務、金融業等を目的とする会社であり、被告Y1は被告会社の代表取締役、被告Y4は被告会社の取締役兼本店支配人、被告Y2及び同Y3は被告会社の取締役であることについては、当事者間に争いがない。

二  原告と被告会社間の取引

以下の事実は、当事者間に争いがない。

(一)  原告は、被告会社との間に以下のとおり、金地金につき、香港純金塊取引と称する取引の委託をした。

取引年月日

注文

数量(一ユニットは

三・七四二五Kg)

金額

第一

昭和五六年一一月七日

買い

一ユニット

一〇〇万円

第二

昭和五六年一一月九日

買い

一ユニット

一〇〇万円

第三

昭和五六年一一月一七日

売り

二ユニット

一〇〇万円

(二)  原告は 被告会社に対し、昭和五六年一一月九日に第一取引の代金として一〇〇万円を、同月一一日に第二取引の代金として一〇〇万円を、同月二〇日に第三取引の代金として一〇〇万円をそれぞれ支払った。

その後、被告会社は、買い注文にかかる金地金を売却して本件取引を清算し、受渡代金合計三〇〇万円を充当した結果として、二万二八〇七円のみを返済できるとしている。

三  被告らの責任

(一)  香港純金塊取引

(1)  香港純金塊取引というのは、被告会社が、顧客から金地金の取引の委託を受け、宝発金号の加盟する香港金銀業貿易場において、宝発金号の日本における代理業務を担当するユニオンを通じて、金地金に関する取引を行っていると称されているものであることについては、当事者間に争いがない。

そして、原本の存在と成立に争いのない甲第一七号証、弁論の全趣旨によれば、貿易場は中国金銀業貿易場ともいわれ、香港在住の中国人のみが加盟できる金取引の市場であり、海外商品先物取引に関する規整法では先物取引場として規定されていること、貿易場における取引は、いわゆるザラ場取引と類似の取引であって、売手と買手の個別的相対売買を継続的に行われ、取引時間内に多数の取引が個別的にそれぞれの値段で成立しているものであること、貿易場における香港純金塊取引は、オーバーナイト取引であって、現物の授受を将来に繰延べることができ、しかも、価格の変動に応じた反対売買によって差金決済により終了していること、被告会社は、従前、大阪金為替市場と称する金取引の私設市場で金の先物取引を行っていたが、昭和五六年九月二四日に金が商品取引所法の規制の対象となる商品に指定されたことから、香港の貿易場において金取引を開始するようになったことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(2)  以上認定した事実によれば、香港純金塊取引の実態は金の先物取引にほかならないものというべきであり、被告会社は国内における金の先物取引が規制されたことから、右規制を免がれるため海外の香港における貿易場における取引を利用して、金の先物取引を開始するに至ったものと認めることができる。

(二)  本件取引の経過

成立に争いのない甲第一ないし第一五号証、第一九号証、乙第一ないし第五号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができ、以下の認定に反する証拠はない。

(1)  原告は、昭和五六年一一月五日ころ、被告会社より、数回にわたり、電話で金取引について勧誘を受けた。

更に、原告は、同月六日夜九時半ころ、原告宅を訪れた被告会社従業員Aと被告Y3から、「この取引は保証金を必要としない、下がっても追加保証金を求めることはない。下がったら下がったで利子がつく。取引単位は一ユニットで確実に有利な投資になる。」など本件取引によって確実に利益の上がる有利さについて繰り返し説明を受け、金取引を強引に勧められ、同月七日に、買い注文書等に署名押印し、取引代金一〇〇万円を同月九日に支払うことを約し、第一取引を委託した。

(2)  原告の妻は同年一一月九日、原告宅を訪ずれた被告Y3、Aに、原告名義の一〇〇万円の小切手を交付したが、その際、同人らから、本件取引が安全確実なものであるからもう一ユニットだけ取引をするように強く勧誘を受け、断りきれないまま買い注文書に署名した。

原告は、同日、帰宅後、妻から右事実を聞いたが、右取引を了解し、第二取引を委託することとし、同月一一日に被告会社に対し、原告名義の一〇〇万円の小切手を交付した。

(3)  原告は、同年一一月一六日、被告会社取締役Bから、電話で「金の値段が暴落した。入金した金員はほとんどなくなってしまった。損を防ぐためにはすぐに売りを立てるべきです。売りを立てないと損害が益々大きくなる。遅くとも明日までに二ユニットの売りを出さないと全部損をしてしまう。」といわれたことから、これに抗議をしたが、やむなく、一七日付で、金地金二ユニットの売り注文を出すことを約束した。

原告は、同月二〇日に、同月一七日付の売り注文書に署名押印し、被告Y3に対し、右取引代金一〇〇万円を支払い、第三取引を委託した。

(4)  原告は、昭和五七年一月一九日、被告Y3から、電話で、「今、売りの分について利益が出ているので、これを買い戻すように。このままでは取引ができない。」などといわれるままに、これを了解した。

ところが、原告は、被告従業員Cから、電話で、「金が暴落したので買いの部分を処分するか、追い証を入れるかしないと困る。」といわれ、Cを原告宅へ呼んで事情を聞いたが、同様の話を繰り返すのみであり、結局、先に買った金地金の二ユニットのうち一ユニットを売り、残りの一ユニットについてはしばらく様子をみることにした。

原告は、同年三月三日、Cから、電話で、「値が下がったので処分を考えてくれ。」といわれ、明日も引き続き値が下がっているようならば考えようと返事をしておいたところ、同月四日に被告Y3から電話で「値が下がったので売った。」との連絡を受け、現在に至っている。

(三)  以上認定した事実によれば、被告Y1は被告会社の代表取締役として被告Y2、同Y3及び同Y4は被告会社の取締役として、商品取引の知識も経験も十分でない原告に対し、香港純金塊取引の内容について十分に理解させようとせず、又、その実態が先物取引であるにもかかわらず現物取引であるかのような説明をし、更に金の価格が騰貴するとの断定的判断を提供するなどして、射倖心を煽り、過当な投機に引き込んだものと認めることができるのであって、同被告らの行為は社会的にみて到底許容されない違法のものというべきである。

したがって、被告会社は代表取締役である被告Y1の前記違法行為について商法二六一条三項、民法四四条、七〇九条により被告Y1、同Y2、同Y3及び同Y4はいずれも共謀の上前記違法行為を行ったものとして民法七〇九条により、原告の蒙った損害を賠償する責任があるというべきである。

四  原告の損害

(一)  原告が、被告らの不法行為により、前記のとおり本件取引の受渡代金として合計三〇〇万円を支払ったことは先に認定したとおりであり、右事実によれば、原告は同額の損害を受けたものと認めることができる。

(二)  原告は、被告らに対し、三〇〇万円の損害賠償請求権を有することは先に認定したとおりであるが、本件弁論の全趣旨によれば、原告は、被告らが任意の支払に応じないので、本件訴訟を原告訴訟代理人に依頼し、その弁護士費用を負担したことが認められる。してみれば、本件不法行為と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害としては三〇万円を相当とする。

五  結論

以上の理由により、被告は、原告に対し、連帯して、三三〇万円及び内三〇〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年七月二九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるということができる。

よって、原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福永政彦)

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