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大阪地方裁判所 昭和55年(行ウ)35号 判決 1983年5月27日

原告

北村正治

原告

北村正幸

右両名訴訟代理人

友添郁夫

信清勝彦

被告

門真税務署長

公文幸雄

右指定代理人

高須要子

外三名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告が原告らに対し昭和五二年一一月一〇日付でした原告らの昭和五一年分所得税についての各更正処分(分離長期譲渡所得関係)及びこれに伴う各重加算税賦課決定処分(ただし、いずれも裁決で一部取消されたのちのもの)を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告正治の昭和五一年分所得税についての確定申告、被告のした更正処分及び重加算税賦課決定処分、異議決定、裁決に至る経過は別表1記載のとおりであり、原告正幸の昭和五一年分所得税についてのそれは別表2記載のとおりである。

2  しかし、被告のした右各更正処分には、原告らの係争年分の課税分離長期譲渡所得金額を過大に認定した違法があり、これに基づく各重加算税賦課決定処分も違法である。

3  よつて、原告らは被告に対し、右各更正処分及び各重加算税賦課決定処分(ただし、いずれも裁決で一部取消されたのちのもの)の取消を求める。

二  被告の答弁

1  請求の原因1は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張

1  原告らは昭和五一年一二月四日宗教法人金剛寺(以下単に金剛寺という)に対し、原告正治の持分三分の二、原告正幸の持分三分の一の共有にかかる別紙目録記載のAの土地(溜池、以下A物件という)及び同Bの土地(溜池、以下B物件という)を一括して譲渡した。

右譲渡による原告らの課税分離長期譲渡所得金額は、別表3の被告主張額欄記載のとおり、原告正治について金一億七〇六九万〇八〇〇円、原告正幸について金八四八四万五四〇〇円である。

2  A・B物件(以下これをあわせて本件溜池ともいう)の譲渡の経緯等は次のとおりである。

(一) 本件溜池は、登記簿上はA・B二筆に分かれているが、譲渡当時の状況は地続きの一個の溜池であつた。

(二) 本件溜池の売買については、訴外三木建設株式会社の仲介により昭和五一年四月ころから話が進められたが、同年一二月三日、原告らと金剛寺との間で、これを代金二億七九九九万六〇〇〇円で売買する旨最終合意に達し、翌四日原告らは金剛寺から別表4記載の各支払名目と支払方法によりその代金全額を受領し、同時に金剛寺に対しA・B両物件の各権利証等移転登記に必要な一切の書類を交付した。

(三) そして、金剛寺に対する登記手続として、昭和五二年一二月四日受付で、A物件について同年同月三日売買を原因とする共有者全員共有持分全部移転登記、B物件について右同日売買予約を原因とする共有者全員持分全部所有権移転請求権仮登記を了した。

(四) 以上の事実により、A・B物件は当事者間において一括して売買するとの合意に達したとみられ、原告らは本件溜池の所有権移転登記手続に要する一切の書類等と引き換に売買代金全額を一括して現実に受領したのであるから、その収受した昭和五一年一二月四日をもつて本件溜池の譲渡の時期(収益計上の時期)とするべきものである。

3  金剛寺から原告らに支払われた二億七九九九万六〇〇〇円は、別表4記載のとおり、名目上土地代金、示談損害金、埋立工事代金に区分されて支払われているが、以下のとおりすべて本件溜池の譲渡による所得にほかならない。

そして、右譲渡所得額を原告らの持分割合により按分すると、別表3の被告主張額欄の各原告の譲渡収入金額記載のとおりとなる。

(一) 土地代金名目の二億二〇〇〇万円

右が本件溜池の売買代金の一部であることはいうまでもない。

(二) 示談損害金名目の一五〇〇万円

後記原告らの主張のとおり、当時原告らは宗教法人念法真教と本件溜池をめぐつて係争中であつたが念法真教と金剛寺は別法人であり、金剛寺が原告らに示談損害金を支払う理由はない。

また、原告らの主張によるとB物件内に所在するか否かが争われていた念法真教所有地261.78坪が存在することを認め、その対価として支払われたことになるところ、別表4記載のとおり右一五〇〇万円がA・B両物件に按分されているが、その区分をなす合理的理由はない(区分自体かえつて不自然である)。

示談金は本件溜池売買代金の名目とされたものであるというほかない。

(三) 埋立工事代金名目の四四九九万六〇〇〇円

埋立工事代金額は埋立の施行条件により大きく左右されるものであるところ、原告主張の本件溜池埋立工事については、右条件等の具体的取り決めや、見積書も工事請負契約書もないままその工事代金名下に金員全額が支払われている。

そもそも本件溜池の売買契約当時、金剛寺には本件溜池を埋立てる計画はなく、原告らも埋立工事をする意思はなく、このことは当事者間で了解済みであつた。現に原告らは昭和五一年一二月三日付の念書<証拠>で、埋立てについては一切関係なく関与しない旨を明らかにしていたし、金剛寺も原告らに対する昭和五二年九月八日付回答書<証拠>でこれを明らかにしている。

なお、本件溜池は本訴提起後の昭和五五年一〇月から昭和五六年一二月にかけて埋立られたが、この工事を施行した高富興業は解体業者であり、残土の捨場として利用した関係上、無料で埋立をしている。

このように、埋立工事代金というのも名目上利用されたにすぎず、真実は本件溜池の売買代金である。

4  本件溜池譲渡の必要経費及び特別控除

(一) 取得費

原告らは、本件溜池譲渡所得の申告に際し、その取得費については租税特別措置法(ただし、昭和五四年法律第一五号による改正前のもの、以下同じ)三一条の三の長期譲渡所得の概算取得費控除の規定によつているので、本件各更正処分にあたつても右規定により、原告ら各自の譲渡収入金額の各五パーセントをもつて取得費とした。

(二) 譲渡に要した費用

原告らは、本件溜池譲渡に際し、六万円の収入印紙を貼用し、三木建設株式会社とT弁護士に仲介料として合計金八四〇万円を支払つたので、これを原告らの持分割合に按分し、必要経費とした。

(三) 特別控除

租税特別措置法三一条二項の規定により、原告らの長期譲渡所得の特別控除額はそれぞれ一〇〇万円である。

(四) なお、原告らはS、O両弁護士に支払つた報酬が本件溜池譲渡の必要経費にあたると主張するが(後記原告らの主張3)、右報酬は本件溜池をめぐる訴訟維持のための費用、すなわち本件溜池の維持又は管理のための費用であつて、本件溜池の譲渡のため直接要した費用にはあたらない。

5  重加算税賦課決定処分

原告らは昭和五一年一二月四日金剛寺に対し、A・B両物件を二億七九九九万六〇〇〇円で一括売渡し、同日代金全額を受領し、所有権移転登記に必要な書類一切を交付したにもかかわらず、これを意図的に年度を変えた二つの契約として売買契約書を作成し(A物件につき昭和五一年一二月三日付、B物件につき翌五二年一月四日付)、その際実質的には売買の対価である埋立工事代金及び示談損害金名目の金額を売買代金総額から除外したうえ、右各名目金額を名目どおりのものとして表示し(<証拠>)、更に領収証を作成するにあたり、一括売買代金の一部である一億六一一〇万円については昭和五二年一月四日付でB物件の代金として、同一五〇〇万円については同日付でA・B物件の埋立代金残金として受領した旨記載した(<証拠>)。

更に、原告らは右各契約書(<証拠>)のうち埋立工事代金、示談損害金名目の金員支払を約した条項(<証拠>)を切取つて、隠ぺいした契約書の写を作成し(<証拠>)、これらに基づき昭和五一年分の確定申告をした。

これらの原告らの行為は、国税通則法六八条一項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいしたところに基づいて納税申告書を提出した行為に該当する。

なお、原告正幸は、本件溜池の譲渡及びこれに関する確定申告に全く関与していないから同原告に対する重加算税賦課決定処分は違法であるとも主張するが(後記原告らの主張4の(二))、契約書等の表示によれば同原告は右譲渡及び確定申告に自ら関与しているし、また、仮に同原告が自ら直接にはこれに関与していなかつたとしても、同原告が原告正治に対し原告正幸の印章を預け、本件溜池の譲渡及び確定申告についての代理権を授与しており、原告正治は右代理権に基づいて譲渡及び確定申告をしたものである。

そして、右申告書を原告正治が原告正幸の印章を使用し、同原告に代つて作成提出した以上、その申告も原告正幸のした申告とみるべきものである。

6  以上のとおり、被告のした本件各更正処分(裁決により一部取消されたのちのもの)には原告らの係争年分の課税分離譲渡所得金額を過大に認定した違法はないし、また、これに伴う各重加算税賦課決定処分にも違法はない。

四  被告の主張に対する認容

1  被告の主張1のうち、原告正治がA・B物件の持分三分の二、原告正幸がA・B物件の持分三分の一を有していたこと及び原告らが昭和五一年一二月四日金剛寺にA物件を売渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

原告らが金剛寺にB物件を売渡した時期は昭和五二年一月四日である。

2  同2のうち、(一)(三)は認めるが、その余は争う

3  同3ないし6はすべて争う。

五  原告らの反論<以下、省略>

理由

一更正処分等の存在

請求の原因1(昭和五一年分の所得税の確定申告、更正処分等)の事実、原告正治がもとA・B物件の三分の二、原告正幸が同三分の一の各持分を有していたこと、原告らが昭和五一年一二月四日金剛寺に対しA物件を売渡し、同日受付同年同月三日売買を原因とする共有者全員持分全部移転登記手続をしたこと、B物件について同年同月四日受付同年同月三日売買予約を原因とする共有者全員持分全部所有権移転請求権仮登記がなされたこと、A・B物件が登記簿上二筆に分かれているが、当時の状況は地続きの一個の溜池であつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二本件溜池の譲渡

1  <証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  原告正治、母吉田や乃及び姉吉田縫子は昭和三八年二月一九日ころ念法真教を相手方として、吉田縫子が昭和三一年六月一五日念法真教にB物件を期間五年と定めて賃貸したが、既に期間を経過したとしてB物件の明渡しを求める訴を提起し(大阪地裁昭和三八年(ワ)第五七八号)、後に原告正幸が吉田縫子の権利義務を承継した。

(二)  右訴訟は原告ら側の訴訟代理人弁護士S及び同Oが溜池の境界等について十分な資料を得られなかつたこと、念法真教の訴訟代理人Tが次々と遷延策を講じた等の事情もあり一〇年以上係属したが、念法真教は昭和四九年五月七日原告らに対し、念法真教所有の田二反一四歩のうち池敷部分二六一坪がB物件と主張されている範囲に含まれているとしてその明渡しを求め(大阪地裁昭和四九年(ワ)第二〇五四号)、更にB物件に賃借権を有するがその引渡しがないとしてB物件の引渡しと損害金の支払を求める訴(同第二〇五五号)を提起し、既に終結間近であつた昭和三八年(ワ)第五七八号事件の早期解決も期待できなくなつた。

(三)  不動産仲介業を営む三木建設株式会社の代表者三木茂は、昭和五一年三月ころ本件溜池の売買の仲介をしようと考え、まず原告正治の意向を打診し、ついで金剛寺側とも折衝を開始した。金剛寺側は、基本的には買受を希望するが、一〇年来の係争物件でもあり訴訟代理人のT弁護士に任せているため、同弁護土と折衝してもらいたい旨述べた。

(四)  原告正治は、訴訟の相手方との取引でもあるし、多額の税負担を余儀なくされる関係から売買には乗気でなかつたが、昭和五一年七月ころ大阪不動産鑑定株式会社に対し本件溜池の鑑定を求め、同月五日時点でA・B物件の評価を三億五三二〇万二〇〇〇円(一平方メートル当り七万四〇〇〇円)とする鑑定結果<証拠>を得て(後に同会社において同年一一月一日時点でA・B物件の価額が二億五九六五万円である旨の同月一五日付鑑定書<証拠>が作成されている)、その価格が得られるならば譲渡してもよいと考えるに至り、三木茂は原告正治及び金剛寺側のT弁護士と折衝を重ねた。

(五)  金剛寺側は、前記三件の訴訟事件を解決するためには本件溜池を買取るほかないと考え、念法真教の訴訟代理人T弁護士の指示に従い、昭和五一年一一月一九日当時資産取得支出として、溜池買収につき土地代金名目で二億二〇〇〇万円、溜池買収につき埋立代金名目で四四九九万六〇〇〇円、溜池買収につき損害金支払名目で一五〇〇万円、合計二億七九九九万六〇〇〇円の支出命令書に許可の決済を受け、買受代金の準備をした。

(六)  T弁護士は、原告らが税負担が過大になるとの意向を示したため、二年度に分けて取引をするという方策をとることとし、昭和五一年一一月一八日ころ原告正治に対し、売買代金としてA物件を五八九〇万円、B物件を一億六一一〇万円、埋立料としてA物件分七六八万六〇〇〇円、B物件分二二三一万四〇〇〇円、示談金としてA物件分三八四万五〇〇〇円、B物件分一一一五万五〇〇〇円、埋立残金一五〇〇万円に振分ける案を示し、更に取引にあたり前記訴訟事件を解決する必要があり、原告ら側の訴訟代理人であるS、O弁護士を解任するよう求めた。

(七)  原告らは、T弁護士の案に従つて本件溜池を譲渡することとし、そのころS、O両弁護士に辞任してもらい、前記昭和三八年(ワ)第五七八号事件を取下げ昭和五一年一一月二四日念法真教との間で、前記昭和四九年(ワ)第二〇五四号、同第二〇五五号事件について裁判上の和解をし、原告らがB物件と主張した範囲のなかに念法真教所有地261.780坪が含まれていること、本件溜池のその余の部分について念法真教が賃借権を有することを認めた。

(八)  昭和五一年一二月三日本件溜池の売買をすることになり、原告ら及び金剛寺の関係者が大阪ロイヤルホテルに参集し、原告らと金剛寺との間で、原告らが金剛寺に対しA物件を代金五八九〇万円で同日売渡し、埋立料として七六八万六〇〇〇円、また示談金として三八四万五〇〇〇円を同日金剛寺が原告らに支払う旨の不動産売買契約証書(<証拠>)に調印し、次いで原告らが金剛寺に対しB物件を代金一億六一一〇万円で昭和五二年一月四日に売渡し、埋立料として二二三一万四〇〇〇円、また示談金として一一一五万五〇〇〇円を前同日支払う旨の前同日付不動産売買契約証書(<証拠>)に調印したが、昭和五一年一二月三日当時A・B物件に設定されていた根抵当権者株式会社富士銀行の根抵当権設定登記の抹消登記手続が未了であつたため、代金の授受は翌日に持越された。

(九)  昭和五一年一二月四日、原告ら及び金剛寺側の関係者が再びロイヤルホテルに参集し、原告らは、金剛寺に対しA・B物件の共有持分全部移転登記手続に必要な書類を引渡すのと引換えに、まずA物件の代金名目に当る五八九〇万円(小切手)、埋立料名目に当る七六八万六〇〇〇円(現金)、示談金名目に当る三八四万五〇〇〇円(小切手)を受取り、ついでB物件の代金名目に当る一億六一一〇万円(小切手)、埋立料名目に当る二二三一万円(現金、ただし、領収証は二二三一万四〇〇〇円)、示談金名目に当る一一一五万五〇〇〇円(小切手)及び埋立代金の残金分として金剛寺の株式会社住友銀行に対する一五〇〇万円の自動継続定期預金証書一通を受取り、金剛寺は同日前認定の各登記手続を了し、B物件について昭和五二年一月五日同年同月四日売買を原因とする共有者全員持分全部移転登記を了した。

なお、原告らは昭和五二年二月一八日右定期預金の解約を求め、元金一五〇〇万円は原告らが取得し、利息九万四五二〇円は金剛寺が取得した。

2 以上の事実に基づいて考えてみるに、A・B物件の昭和五一年当時の状況が一個の溜池であり、A・B物件を現地で特定し得ない状況にあつたこと、原告らも金剛寺側も長期間にわたる訴訟を解決するため本件溜池の売買に踏切つたもので、そのため一括売買をする必要があり、A・B物件を年度を変えて別個の取引とする合理的な事情は税務上の考慮以外に全くないこと、A・B物件の共有者全員持分全部移転登記手続に必要な関係書類は全部昭和五一年一二月四日金剛寺に交付され、代金もA・B物件とも当日受授されていること等の事情に鑑みると、B物件売買の時期はA物件の売買の時期(当事者間に争いがない)と同じ昭和五一年一二月四日と認めるべきもので、登記簿上の原因日付、契約書上の日付はいずれも税務対策上なされたもので、真の権利変動の時期を表示していないものというべきである。

三本件溜池譲渡の総収入金額

1  土地代金名目分

前認定の当事者間で土地代金とされたA物件分五八九〇万円、B物件分一億六一一〇万円が本件溜池の対価とみるべきものであることは明らかである。

2  埋立料名目分

前認定のとおり、本件溜池の売買契約に際し、金剛寺は原告らに対し埋立料名目で、A物件につき七六八万六〇〇〇円、B物件につき二二三一万円、埋立工事残金一五〇〇万円合計四四九九万六〇〇〇円の支払をしているが、<証拠>によれば、本件溜池の売買契約書を作成した昭和五一年一二月三日当時、原告らと金剛寺との間で本件溜池について埋立のための具体的条件の取決めや、見積書の作成等のなされたことがないばかりか、原告正治は同日付で金剛寺代理人T弁護士に対し、A・B物件の埋立につき原告らは何等関係なく、また一切関与しない旨の念書(<証拠>)を差入れており、その後昭和五二年六月一〇日ころ原告らに対する税務調査が開始されてから、原告正治は同年七月二〇日付で金剛寺に対し埋立の施行通知を発し(<証拠>)、金剛寺から同年九月八日付で原告らが本件溜池の埋立工事などする権利義務がない旨の回答がなされ(<証拠>)、その後同年一二月二二日になつて金剛寺と原告ら間で改めて原告らが溜池埋立工事を施行することとし、昭和五五年九月二七日になつてその工事施工方法及び追加金に関する契約書が作成され(<証拠>)、原告らは同年一〇月七日高富興業こと高木富海太に対し、本件溜池の埋立を無料で請負わせ、その工事を解体業のための残土の捨場として現に完了したことが認められ<る>。

右事実によれば、埋立料名目の金員は単に名目上のもので実質は本件溜池の対価であると認められる。

3  示談金名目分

前認定のとおり、本件溜池の売買に際し、金剛寺は原告らに対し示談金名目で、A物件につき三八四万五〇〇〇円、B物件につき一一一五万五〇〇〇円、合計一五〇〇万円の授受がなされている。ところで、本件溜池の売買は原告らと念法真教間の長年にわたる紛争解決のためになされたものではあるが、その売買の折衝は不動産仲介業者三木建設株式会社によつて進められ、売渡人である原告らにおいても物件の鑑定をするなど売買代金額が折衝の主対象であり、前認定の裁判上の和解成立前既に総額二億八〇〇〇万円という金額で売買による紛争解決の全容が合意されて、金剛寺側は昭和五一年一一月一九日当時資産取得費として二億七九九九万六〇〇〇円の支出を予定していたこと、同年同月二四日成立した念法真教と原告ら間の裁判上の和解調書(<証拠>)には念法真教側が原告らに対し和解金の支払をする条項が含まれていないこと(逆に本件溜池の売買契約書に示談金名目で記載されている)、示談金名目の金員の負担者が物件買受人と同じ金剛寺であること等前認定の事情に照らせば、示談金名目の一五〇〇万円も単に名目上のもので、その実質は本件溜池の対価と認めるべきものである。

<証拠判断略>

4  本件溜池の対価の合計

以上のとおり、本件溜池の譲渡代金は、土地代金名目の二億二〇〇〇万円、埋立料名目の四四九九万六〇〇〇円、示談金名目の一五〇〇万円の合計二億七九九九万六〇〇〇円となる。

5  原告ら各自の収入金額

(一)  原告正治分

右合計額の三分の二にあたる一億八六六六万四〇〇〇円と算出される。

(二)  原告正幸分

右合計額の三分の一にあたる九三三三万二〇〇〇円と算出される。

四必要経費

1  取得費(租税特別措置法三一条の三による長期譲渡所得の概算取得費)、譲渡に要した費用(収入印紙代、仲介料)の額が別表3の被告主張額欄記載のとおりであることは弁論の全趣旨により明らかである。

2  原告らはS、O両弁護士に支払つた報酬も本件溜池譲渡に関する必要経費である旨主張するが、原告らが右弁護士に訴訟事件を委任したのは本件溜池の明渡訴訟及び念法真教からの訴訟に対応するためのものであつて、その弁護士費用は本件溜池の権利確保のために要した費用とみるべきもので、譲渡に関する費用ということはできない。そして、本件では概算取得費合計一三九九万九八〇〇円を取得費としているから、右弁護士報酬を右概算取得費に加え別途必要経費額に加算することはできない。

五特別控除額

租税特別措置法三一条二項による長期譲渡所得の特別控除額は原告らそれぞれにつき一〇〇万円である。

六原告らの課税長期譲渡所得金額

したがつて、原告らの課税長期譲渡所得金額の計算関係は別表3の被告主張額欄記載のとおりとなる。

七本件更正処分の適否

原告らの課税分離長期譲渡所得金額を除く昭和五一年分の総所得金額、所得控除額、課税総所得金額及びこれに対する税額について、原告らの確定申告と被告の更正処分との間に食違いがないから、本件溜池譲渡による課税分離長期譲渡所得金額を前認定の金額の範囲内である原告正治について一億六九五二万三六五三円(ただし、裁決における認定)、原告正幸について八四六二万一八二七円(ただし、裁決における認定)としてなされた本件各更正処分には違法な点はなく、いずれも適法になされたものである。

八重加算税賦課決定処分の適否

1  原告らは、昭和五一年所得税の確定申告にあたり、本件溜池の譲渡に伴う長期譲渡所得金額として、さきに認定したA物件についての土地代金分のみの申告をし、被告から更正処分がなされ、過少申告加算税が課せられるべき場合にあたる。

2  <証拠>によれば、本件溜池の売買は前認定のとおり昭和五一年一二月四日成立し、その前日に売買契約書を作成したものであるにもかかわらず、原告らは、A物件の不動産売買契約証書は同年同月三日付、B物件のそれは昭和五二年一月四日付と区別し、更に譲渡の対価をいずれも昭和五一年一二月四日受領したにもかかわらず、A物件について同年同月三日付で土地代金、埋立代金及び損害金名目に区分した三通の領収証、B物件について昭和五二年一月四日付で土地代金、埋立代金、埋立残金及び損害金に区分した四通の領収証を作成するなどして税務申告に備えたこと、原告正治は、昭和五二年三月一五日門真税務署の職員に対し税務相談をしたが、その際A物件の売買契約書の写(前認定の原告らと金剛寺間で昭和五一年一二月三日作成された不動産売買契約証書「<証拠>」の第一〇条部分「埋立料及び示談金の支払が約されている部分」を切取つて、同条が存在しないような外形にして複写されたもの、<証拠>)を提出し、A物件についての埋立料及び示談金の授受がされたことや、同時にB物件の売買の話があつたことなどに全然触れず、その後右不動産売買契約証書の写(<証拠>)を添付して原告らの昭和五一年分所得税の確定申告をしたこと、原告正幸は原告正治の二男であるが、本件溜池の売買時及び昭和五一年分所得税の確定申告をした当時米国に留学中で本邦に在住していなかつたが、本件溜池の処分、所得税の確定申告等すべて父の原告正治に委ね、本件溜池の処分及び昭和五一年分所得税の確定申告はいずれも原告正幸の意思に基づくものであること、以上の事実が認められる。

3 右事実及びさきに認定した本件溜池の譲渡に関する事実を併せ考えると、原告らはその所得税の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づいて納税申告書を提出したものといわざるを得ず、過少申告加算税に代え重加算税を課した被告の処分に違法な点はない。

4  なお、原告らは、相手方代理人T弁護士の言葉を信じ、その指示どおり手続を進めたもので、故意に隠ぺい仮装する意図がなかつた旨主張するが、本件溜池の譲渡に際し分割・区分して取引をする形態をとることにより利益を受けるのは原告ら側であつて、相手方弁護士がそれに協力してくれたという事情はあるにしても、そのために原告側の意思が全く働かなかつたという事情は窺われず、むしろ、<証拠>の作成、<証拠>と<証拠>関係、<証拠>及び<証拠>との関係等を考慮すると、原告正治において租税を逋脱する意思のもとに積極的行為に及んだことが明らかであり、原告らの右主張は単なる弁解であつてこれを採用することができない。

また、原告正幸が本件溜池の譲渡及び昭和五一年分所得税の確定申告に直接関与していなかつたことは同原告の主張するとおりであるが、前認定のとおり原告正幸は本件溜池の処分及び所得税の確定申告の行為を父である原告正治に委ねていたのであるから、同原告の所得隠ぺい行為については、重加算税が刑罰としての罰金でないことはもちろん、行政罰でもなく、税の一種であることを考えると、原告正幸においてその一部の隠ぺい等の事実を知つていたと否とにかかわらず、納税義務者として正当な申告をしなかつたことによる重加算税の賦課決定を受けてもやむを得ないものといわねばならない。

八結語

以上の次第で、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条に従い主文のとおり判決する。

(志水義文 小島正夫 中川博之)

目録

A 大阪市鶴見区緑三丁目二四二番三溜池  一二二三平方メートル

B 大阪市鶴見区緑三丁目二一五番二溜池  三五五〇平方メートル

別表1〜5<省略>

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