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大阪地方裁判所 昭和55年(わ)4567号 判決 1980年12月15日

被告人 泰山忠義

(明四一・三・一一生) 日雇

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五五年九月一七日午前八時五〇分ころ、大阪市西成区○○△丁目○番○号○○荘一階甲野春子方において、かねて顔見知りの甲野夏子(当時一一年、昭和四三年一二月五日生)が精神薄弱で心神喪失の状態にあることを知りながら、これに乗じて同女にわいせつ行為をしようと企て、同女を全裸にして仰向けに寝かせたうえ、手指で同女の陰部を弄ぶなどし、もつて人の心神喪失に乗じわいせつの行為をしたものである。

(証拠の標目)(略)

(予備的訴因の準強制わいせつ罪を認めた理由)

一  検察官は、本位的訴因として、「被告人は、判示日時場所において、被害者甲野夏子が一三歳未満であることを知りながら、同女に対して判示のとおりのわいせつ行為をした」として、刑法一七六条後段の強制わいせつ罪の適用を主張する。

しかしながら、被告人は、当公判廷において、本件犯行前日に、被害者の実母甲野春子から被害者の年令が一三歳であると聞かされていたのであり、本件犯行当時被害者が一三歳未満であることは知らなかつた旨供述している。

よつて検討すると、右甲野春子は、本件犯行当日の昭和五五年九月一七日付告訴調書において、被害者の生年月日を昭和四二年二月五日とし、満一三歳と供述しているのであり、翌一八日付員面調書において、その年令を判示のとおりに訂正していることが認められる。右の経過からすると、被告人の法廷供述をあながち虚偽として排斥することはできない。なるほど、被告人は、捜査段階において、被害者が一三歳未満であることを知つていた旨自白しているが、その自白は、被告人が甲野春子から被害者の学年が小学校六年生であると聞かされていたという事実を根拠として得られたものであると認められるところ、被告人の当公判廷における供述によると、被告人が被害者を小学校六年生であると聞かされたのは、被害者の年令は一三歳であるが、知能が低いため中学校に入れず小学校六年生となつている旨の甲野春子の説明によるものであることが認められるのであり、そうだとすると、被告人の捜査段階における右自白は直ちに採用することができない。

以上のとおり、被告人が被害者を一三歳未満であると知つていたという事実は、未必的にしても、本件証拠上これを認定することは困難であり、検察官主張の本位的訴因の強制わいせつ罪はその故意要件の存在につき証明不十分といわざるをえない。

二  刑法一七六条後段に規定する一三歳未満の男女に対する強制わいせつ罪は、その手段方法の如何を問わないから、同法一七八条に規定する心神喪失状態に乗じるなどの方法を以てわいせつ行為に及んでも、同条の準強制わいせつ罪は成立せず、一七六条後段の強制わいせつ罪が成立するのであるが、右強制わいせつ罪は、被害者の年令が一三歳未満であることの認識の存在が故意要件となつているところから、これが認められない場合同罪は成立しないことになる。しかし、その場合において、犯行手段が一七八条に規定する方法によつていると認められる事案においては、同条の準強制わいせつ罪が成立すると考えるのが相当である。けだし、一七八条の準強制わいせつ罪は、被害者の年令を問わず、同条に規定する手段方法によるわいせつ行為をした場合に成立するのであり、一七六条の補充規定の性質をもつと解されるからである。

そこで、本件について検討すると、(証拠略)によれば、被害者甲野夏子は、身長一四三・八センチメートル、体重五三・六キログラム、胸囲九一センチメートル、座高七九・一センチメートルという体格ではあるが、言葉は満足に話すことができず、小学校一年生初期の数の計算もできない状態で、知能程度が三、四歳位の一見明白な精神薄弱児童であつて、小学校のいわゆる複式養護学級に在籍していたことが認められる。そうすると、被害者は当然性生活の意義について理解する能力もなかつたといわねばならず、刑法一七八条にいう「心神喪失」の状態にあつたものと考えられる。そして、右のような被害者に対し、その知能が低いことを知りながら本件のようなわいせつ行為に及んだ以上、被害者の右心神喪失に乗じたものと認めて差支えない。

三  以上の理由から、予備的訴因の準強制わいせつ罪を認めたものである。

(法令の適用)

一  判示所為

刑法一七八条、一七六条後段

一  執行猶予

刑法二五条一項

一  訴訟費用不負担

刑事訴訟法一八一条一項但書

(裁判官 逢坂芳雄)

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