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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)4294号 判決 1980年4月25日

原告 朝日火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 田中迪之亮

右訴訟代理人弁護士 藤田良昭

同 野村正義

同 和田誠一郎

被告 島谷清一郎

同 島谷商事株式会社

右代表者代表取締役 島谷清一郎

同 吉岡秀夫

同 株式会社ワールド

右代表者代表取締役 島谷清一郎

右被告ら訴訟代理人弁護士 野村清美

同 奥野信悟

同 後藤次宏

主文

一、別紙物件目録(一)記載の建物について、被告島谷清一郎と同島谷商事株式会社との間において成立した別紙賃貸借目録(イ)記載の停止条件付賃貸借契約及び同島谷清一郎と同株式会社ワールドとの間において成立した別紙賃貸借目録(ロ)記載の賃貸借契約をいずれも解除する。

二、別紙物件目録(二)記載の建物について、被告吉岡秀夫と同島谷商事株式会社との間において成立した別紙賃貸借目録(ハ)記載の停止条件付賃貸借契約及び同吉岡秀夫と同株式会社ワールドとの間において成立した別紙賃貸借目録(ニ)記載の賃貸借契約をいずれも解除する。

三、被告島谷商事株式会社は、右第一項前段の判決が確定することを条件として、別紙物件目録(一)記載の建物についてなされた別紙登記目録(イ)記載の停止条件付賃借権設定仮登記の抹消登記手続を、右第二項前段の判決が確定することを条件として、別紙物件目録(二)記載の建物についてなされた別紙登記目録(ハ)記載の停止条件付賃借権設定仮登記の抹消登記手続をそれぞれせよ。

四、被告株式会社ワールドは、右第一項後段の判決が確定することを条件として、別紙物件目録(一)記載の建物についてなされた別紙登記目録(ロ)記載の賃借権設定仮登記の抹消登記手続を、右第二項後段の判決が確定することを条件として、別紙物件目録(二)記載の建物についてなされた別紙登記目録(ニ)記載の賃借権設定仮登記の抹消登記手続をそれぞれせよ。

五、右第一項の判決が確定することを条件として、被告島谷商事株式会社及び同株式会社ワールドは、同島谷清一郎に対して、別紙物件目録(一)記載の建物をそれぞれ明渡せ。

六、右第二項の判決が確定することを条件として、被告島谷商事株式会社及び同株式会社ワールドは、同吉岡秀夫に対して、別紙物件目録(二)記載の建物をそれぞれ明渡せ。

七、被告島谷清一郎は、原告に対し、金八三二万八七一三円及び内金七八七万六一二七円に対する昭和五三年一一月九日から支払ずみに至るまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

八、被告吉岡秀夫は、原告に対し、金八四一万五九四六円及び内金七九五万九七〇四円に対する昭和五三年一一月九日から支払ずみに至るまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

九、原告のその余の請求をいずれも棄却する。

一〇、訴訟費用は被告らの負担とする。

一一、この判決は、第七、八項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、申立

一、原告

主文と同旨(ただし、第三ないし六項につき、条件の附加及び第九項を除く。)。

二、被告

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、主張

(請求の原因)

一、日本ハウジングローン株式会社(以下、日本ハウジングという。)は、昭和五二年九月七日、被告島谷清一郎(以下、被告島谷という。)及び同吉岡秀夫(以下、被告吉岡という。)各人に対し、それぞれ左の約定で各金八〇〇万円を貸し渡した。

利率 月〇・八三パーセント

損害金 支払うべき金額に対し年一四パーセント

弁済方法 昭和五二年一一月以降毎月七日限り

イ 被告島谷につき金八万五七七二円宛

ロ 被告吉岡につき金七万二四七〇円宛

遅滞約款 支払を遅滞したときは当然に期限の利益を失い、直ちに残債務全額を支払う。

二、1. 原告は、前同日、被告島谷、同吉岡との間に、それぞれ同被告らが日本ハウジングに対する前記債務を履行しない場合に同社の蒙むる損害をてん補する旨の左記住宅ローン保証保険契約を結んだ。

被保険者 日本ハウジング

保険金額 各金八百万円

保険期間 前同日より

イ被告島谷につき昭和六七年九月二三日まで

ロ同吉岡につき昭和七七年九月二三日まで

2. 被告島谷、同吉岡は、原告が右保険契約に基づき、日本ハウジングに対し、保険金を支払った場合、被告島谷、同吉岡が原告に対し負担する求償債務について、右同日弁済契約を締結すると同時に、これを担保するためその所有する別紙物件目録(一)及び(二)記載の建物(以下、右(一)記載の建物を第一建物、右(二)記載の建物を第二建物という。)に左のとおり抵当権(以下、被告島谷にかかる抵当権を第一抵当権、同吉岡にかかる抵当権を第二抵当権という。)を設定し、その登記を了した。

債権額 金八百万円

損害金 年一四パーセント

設定登記日 昭和五二年九月二〇日

法務局 大阪法務局北出張所

受付番号 イ被告島谷につき第四四八八六号

ロ同吉岡につき第四四八八八号

三、1. しかるところ、被告島谷及び同吉岡は、日本ハウジングに対し、第一項記載の分割弁済金をいずれも昭和五三年四月七日分まで弁済したにとどまり、それ以後は支払わない。

よって、被告島谷、同吉岡は、前記遅滞約款により同年五月七日、期限の利益を喪失したが、日本ハウジングはその後である同年一一月七日を待って債務全額につき遅滞に付した。

右同日現在における元本残高は、被告島谷につき金七八七万六一二七円、同吉岡につき金七九五万九七〇四円である。

2. そこで、原告は、前記保険契約に基づき、日本ハウジングに対し、同月八日、既経過利息・遅延損害金をも含めて被告島谷分につき金八三二万八七一三円、同吉岡分につき金八四一万五九五六円を支払い、もって同被告らに対する右同額の求償債権を取得した。

四、1. 原告は、被告島谷、同吉岡に対する前記抵当権に基づき、大阪地方裁判所に対し任意競売の申立をし(大阪地裁昭和五四年(ケ)第二八〇号、第二八一号)、現に係属中である。

2. ところが、被告島谷は、第一建物につき、被告島谷商事株式会社(以下、被告島谷商事という。)と別紙賃貸借目録(イ)記載の停止条件付賃貸借契約(以下、第一(イ)賃貸借という。)を、被告株式会社ワールド(以下、被告ワールドという。)と同目録(ロ)記載の賃貸借契約(以下、第一(ロ)賃貸借という。)をいずれも締結し、別紙登記目録(イ)、(ロ)記載の各登記を了し、かつ、被告島谷商事・同ワールドに対し、右建物を引渡した。

3. 被告吉岡は、第二建物につき、被告島谷商事と別紙賃貸借目録(ハ)記載の停止条件付賃貸借契約(以下、第二(ハ)賃貸借という。)を、被告ワールドと同目録(ニ)記載の賃貸借契約(以下、第二(ニ)賃貸借という。)をいずれも締結し、別紙登記目録(ハ)、(ニ)記載の各登記を了し、かつ、被告島谷商事、同ワールドに対し、右建物を引渡した。

五、右賃貸借は、いずれも民法三九五条所定の短期賃貸借と解されるべきものであるが、これにより第一、第二建物の価額は著しく下落し、原告に損害を及ぼすものである。

すなわち、賃借権の存在は、競売目的物の価額を二ないし三割下落させるというのが一般的鑑定評価であるのに、本件では被告らによる意図的妨害が付加されている。被告島谷商事も、同ワールドも、代表者は被告島谷であるばかりか、前記割賦代金を数回分支払っただけで遅滞し、原告会社関係人に対し抵当権を実行するなら賃借権をふるに利用して妨害してやるとうそぶいているのである。

第一、第二建物は、いずれも各金八五〇万円程度で売買されているが、時価はそれよりやや下り、金六五〇万円程度である。そのうえ、右各賃借権は、いずれも賃料が一か月金五〇〇円、金一〇〇〇円と異常に低廉であり、かつ、譲渡、転貸ができるとの特約があり、さらに、登記がなされているなど賃貸人にとって不利な内容となっていることからすると、原告の有する債権は、半分も回収できないことは明らかである。

六、よって、原告は、民法三九五条但書により、第一建物につきなされた第一(イ)、(ロ)賃貸借の解除、第二建物につきなされた第二(ハ)、(ニ)賃貸借の解除及び抵当権に基づき、第一建物についてなされた別紙登記目録(イ)、(ロ)記載の仮登記の各抹消登記手続、第二建物についてなされた別紙登記目録(ハ)、(ニ)記載の仮登記の各抹消登記手続並びに被告島谷商事及び同ワールドが同島谷に対して第一建物を明渡すこと、同島谷商事及び同ワールドが同吉岡に対して第二建物を明渡すこと及び被告島谷に対し、求償債権金八三二万八七一三円及び内金七八七万六一二七円に対する昭和五三年一一月九日から支払ずみに至るまで年一四パーセントの割合による遅延損害金の支払、被告吉岡に対し、求償債権金八四一万五九四六円及び内金七九五万九七〇四円に対する昭和五三年一一月九日から支払ずみに至るまで年一四パーセントの割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

(請求原因に対する認否)

一、請求原因一、二は認める。

二、同三のうち、被告島谷、同吉岡の日本ハウジングに対する元本残金及び原告が日本ハウジングに対して支払った金員が原告主張のとおりであることは認め、その余は争う。

三、同四は認める。

四、同五のうち、被告らが原告会社関係人に対し、その主張にかかる発言をしたとの点は否認し、その余は争う。

(被告らの主張)

原告が被告島谷、同吉岡に対して有する抵当権を理由になす本訴請求は、権利の濫用であり許されない。すなわち、

1. 原告、丸善建設株式会社(以下、丸善建設という。)及び日本ハウジングは、第一、第二建物の存在する分譲マンション新大阪ダイヤモンドビジネス(以下、本件マンションという。)販売のための住宅金融に関し提携関係にある。

2. 被告島谷、同吉岡は、丸善建設から第一、第二建物を買入れたのであるが、右買入に際し、丸善建設大阪支店営業部長津吉修から、右建物が賃貸マンションとしても、また、投資の対象としても最適である旨の説明を受けたので、右建物を賃貸用マンションとして買入れた。

原告は、第一、第二建物のある本件マンションが投資又は賃貸の目的に供されるマンションであることを熟知しており、また、被告島谷、同吉岡において第一、第二建物を賃貸し、その旨の仮登記を経由することは当然予測されたところである。

しかるに、原告が第一、第二建物についてなされた賃貸借契約の解除を求め、その仮登記の抹消登記手続を求めることは、当初、丸善建設が示した第一、第二建物の使用方法と相反する行為であり許されない。

3. 本件マンションの地下駐車場は、構造上、当然に共用部分を構成し、よって、本件マンションの区分所有者全員の共有に帰するものである(建物の区分所有等に関する法律(以下、建物区分所有法という。)三条、四条。本件不動産売買契約書一一条)。しかるに、丸善建設は、右駐車場につき同社の所有権保存登記をなし、その利用者から徴収した駐車料金についても利用者に還元せず、丸善建設において取込み、被告島谷、同吉岡の再三の請求にもかかわらず、その使途を明らかにしない。そればかりでなく、丸善建設は、右駐車場を大阪府中小企業信用保証協会の担保に供している。

さらに、丸善建設は、本件マンションの表示広告に共用部分として、レストラン、スナック、コーヒーショップ、レストラン厨房、店舗付と明記しているにもかかわらず、右共用部分を第三者に売却し、又は賃貸しており、右売買代金、賃料の使途について、被告島谷、同吉岡から再三要求があるにもかかわらず、明らかにしない。

以上のように、丸善建設は、各区分所有者に帰属すべき本件マンションの共用部分からの収益を、不法に領得し、被告島谷、同吉岡を含む本件マンションの各区分所有者の区分所有権を侵害している。

4. ところで、分譲会社と提携関係にある金融機関及び保証会社との三者間には、通常、「クレーム処理」の約定があり、借入者(マンションの買入者)が保証会社に対し、担保として差入れた物件につき、借入者と分譲者又は第三者との間に紛議が生じた場合、分譲者は自らの責任においてその紛争を解決し、保証会社の担保権行使に支障のない状態にしなければならない義務を負っており、また、保証会社はその権利を有している。

原告は、第一、第二建物について、抵当権を実行し、また、本訴に及ぶ以前に丸善建設に対し、本件マンションの共用部分に対する前記不法な行為を除去せしめる手段をとるべきであり、その措置を怠り、被告島谷、同吉岡が丸善建設に対し、前記不法な行為の除去を請求するため、已むなく日本ハウジングに対するローンの支払を停止するや、直ちに抵当権の実行を申立て、また、被告島谷、同吉岡が原告と提携関係にある丸善建設から、前記のごとくその区分所有権について損害を与えられている事実を無視し、本訴に及ぶことは社会的妥当性を欠く行為といわなければならない。

(被告らの主張に対する原告の認否等)

一、被告らの主張は争う。

二、本件マンションの地下駐車場は、丸善建設と被告島谷、同吉岡との各売買契約の対象となっておらず、また、共用部分ともなっていない。

原告は、被告島谷、同吉岡との抵当権設定契約において、同被告らが第一、第二建物を賃貸借することを認めておらず、むしろ、契約書上明文をもって禁止している。

第三、証拠<省略>

理由

一、<証拠>及び弁論の全趣旨を総合すると、請求原因三1.2記載の事実を認めることができ(ただし、被告島谷、同吉岡の日本ハウジングに対する元本残金額及び原告の日本ハウジングに対する支払金額が原告主張のとおりであることについては当事者間に争いがない。)、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によると、原告は、被告島谷に対し、第一抵当権の被担保債権として、求償債権金八三二万八七一三円と内金七八七万六一二七円に対する昭和五三年一一月九日から支払ずみまで年一四パーセントの割合による遅延損害金債権を、同吉岡に対し、第二抵当権の被担保債権として、求償債権金八四一万五九四六円と内金七九五万九七〇四円に対する右同日から支払ずみまで年一四パーセントの割合による遅延損害金債権を有するものということができる。

二、請求原因四1ないし3記載の事実は当事者間に争いがない。

右事実によると、第一(イ)、(ロ)賃貸借は、第一抵当権の設定登記の後に、また、第二(ハ)、(ニ)賃貸借は、第二抵当権の設定登記の後にそれぞれ登記されたものであるが、いずれも、期間の定めがなく、第一(イ)賃貸借、第二(ハ)賃貸借については、いずれも停止条件付賃借権設定仮登記が、第一(ロ)賃貸借、第二(ニ)賃貸借については、いずれも賃借権設定仮登記を了していることが明らかである。

ところで、右のような建物賃貸借が民法三九五条の短期賃貸借に該当するかどうかについて考察するに、まず、右各賃貸借は、期間の定のない点において右法条の規定の明文に反するのであるが、期間の定めのない建物賃貸借は、借家法の適用のある場合にも、同法一条の二所定の正当事由が存在する限り、何時にても解約申入によりこれを終了させることができるのであるから、右各賃貸借は、民法三九五条の短期賃貸借に該当すると解するのが相当であり(大判昭和一二年七月一〇日民集一六巻一二〇九頁、最判昭和三九年六月一九日民集一八巻五号七九五頁、同昭和四三年九月二七日民集二二巻九号二〇七四頁参照)、また、右各賃貸借は、仮登記を了しているにすぎず、この点からすると第一、第二建物に対する差押の効力が生ずる前に対抗力を具備するに至っていないといわなければならないが、前記当事者間に争いのない事実から明らかなごとく、被告島谷商事、同ワールドは、被告島谷、同吉岡から第一第二建物の引渡を受け、もって抵当権者である原告及び競落人に対抗することができるに至ったものということができる(大判昭和一二年七月九日民集一六巻一七号一六三頁、最判昭和三九年六月一九日民集一八巻五号七九五頁参照)から、民法三九五条但書所定の解除請求の対象たる短期賃貸借に該当するものというべきである。

三、すすんで、第一(イ)、(ロ)賃貸借及び第二(ハ)、(ニ)賃貸借が抵当権者である原告に損害を及ぼすかどうか(請求原因五)について検討する。

<証拠>及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の被告島谷に対する第一抵当権は、第一建物及び本件マンションの敷地である大阪市淀川区西中島町五丁目一二四番宅地九二三平方メートル九九に対する同被告の共有持分権一万分の五六(以下、第一共有持分権という。)の上に設定されたものであり、原告の被告吉岡に対する第二抵当権は、第二建物及び本件マンションの敷地である右土地に対する同被告の共有持分権一万分の五六(以下、第二共有持分権という。)の上に設定されたものであること(ただし、第一抵当権が第一建物の上に、第二抵当権が第二建物の上に設定されたものであることは当事者間に争いがない。)、原告は、大阪地方裁判所に、第一建物及び第一共有持分権について第一抵当権の実行による競売申立(同裁判所昭和五四年(ケ)第二八〇号)を、また、第二建物及び第二共有持分権について第二抵当権の実行による競売申立(同裁判所昭和五四年(ケ)第二八一号)をそれぞれし(ただし、右競売申立をしたことについては当事者間に争いがない。)、同裁判所から第一建物及び第一共有持分権の評価を命ぜられた不動産鑑定士杉田正昭は、右両物件について賃借権等の負担のないことを前提とし、一括競売する場合の右両物件の価格を金五四六万八〇〇〇円と評価し、個別競売する場合の価格を、第一建物について金四五二万二八〇五円、第一共有持分権について金三六万九三五二円と評価し、他方、短期賃貸借に基づく占有があることを前提とし、一括競売する場合の右両物件の価格を右負担のない場合の価格金五四六万八〇〇〇円から金一〇九万三五四一円減額した額(金四三七万四四五九円)と評価し、個別競売する場合の価格を、第一建物について、右負担のない場合の価格金四五二万二八〇五円から金九七万八四三一円減額した額(金三五四万四三七四円)と評価し、また、同裁判所から第二建物及び第二共有持分権の評価を命ぜられた鑑定人荒木久三は、右両物件について賃借権等の負担のないことを前提とし、第二建物の価格を金四四二万四〇〇〇円、第二共有持分権の価格を金一四九万円と評価し、他方、正権原を有する占有者がいる場合の右両物件の価格を金二九五万七〇〇〇円と評価したこと、被告島谷は、同島谷商事に対し、第一建物について別紙登記目録(イ)記載のごとく停止条件付賃借権設定仮登記を了したのであるが、昭和五二年九月七日、同被告との間で右建物につき賃貸借契約をしたものとして、同被告から消費貸借金名下に敷金九〇〇万円を受領し、昭和五三年三月六日、同被告に右建物を引渡し、これと共に、被告島谷は、同ワールドに対し、昭和五一年一〇月七日、右建物を賃借し、同被告から消費貸借金名下に敷金九〇〇万円を受領し、昭和五三年一月一日、同被告に右建物を引渡したこと、被告島谷商事は、昭和五三年一一月二日、田中義雄に対し、賃貸期間二年、賃料一か月金六万六〇〇〇円、敷金五〇万円の約定で右建物を転貸していること、被告吉岡は、同島谷商事に対し、第二建物について別紙登記目録(ハ)記載のごとく停止条件付賃借権設定仮登記を了したのであるが、昭和五二年九月五日、同被告との間で右建物につき賃貸借契約をしたものとして、同被告から敷金九〇〇万円を受領し、昭和五三年頃、同被告に右建物を引渡し、これと共に、被告吉岡は、同ワールドに対し、昭和五二年一〇月七日、右建物を賃借し、同被告から敷金九〇〇万円を受領し、その頃、同被告に右建物を引渡したこと、被告島谷商事は、昭和五四年一月一日、ライオン油脂株式会社に対し、賃貸期間昭和五五年一二月三一日まで、賃料一か月金八万三二〇〇円、敷金五〇万円の約定で右建物を転貸していること、被告ワールドは、第一、第二建物に対する田中義雄及びライオン油脂株式会社の現実の占有と衝突しない範囲において右各建物を使用していること、被告島谷は、原告が第一建物について競売申立手続をとった場合、第一(イ)、(ロ)賃貸借を理由に居住者をおいてあくまでも原告に対抗する意思を有している旨言明していること、第一、二建物等に対する前記競売手続は、賃貸借の取調及び鑑定評価の各手続を終了し、第一回競売期日を指定する段階に至っているが、原告は、競売裁判所に対し、本訴を提起していることを理由に右訴訟が終了するまで右手続の延期を上申していること、以上の事実を認めることができ、被告島谷本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によると、賃借権等の負担のない場合の評価額は、第一建物及び第一共有持分権については金五四六万八〇〇〇円(一括競売の場合。個別競売の場合は第一建物・金四五二万二八〇五円)、第二建物については金四四二万四〇〇〇円、第二共有持分権については金一四九万円(合計金五九一万四〇〇〇円)であるのに対し、抵当権者及び競落人に対抗しうる短期賃貸借等の負担がある場合の評価額は、第一建物及び第一共有持分権については金四三七万四四五九円、第二建物及び第二共有持分権については金二九五万七〇〇〇円であるところ、前記説示のごとく、第一(イ)、(ロ)賃貸借及び第二(ハ)、(ニ)賃貸借は、いずれも短期賃貸借であって、抵当権者及び競落人に対抗し得るものであることからすると、第一、第二建物の価格は、第一(イ)、(ロ)、第二(ハ)、(ニ)各賃貸借が存在することによって、相当額の低下をきたすことは明らかであり、また、競売裁判所は、第一、第二建物及び第一、第二共有持分権を競売に付す場合、右物件が区分所有の建物とその敷地に対する共有持分権であることを考慮し、第一建物と第一共有持分権、第二建物と第二共有持分権をそれぞれ一括して競売に付すであろうこと及び第一建物、第一共有持分権と第二建物、第二共有持分権の間に特段の差異がないことから、競売裁判所は、右物件価格を対比のうえ、おおむね金二九五万七〇〇〇円ないし四三七万四四五九円の範囲において最低競売価額を決定し、競売に付すであろうことを容易に推認することができる。そうすると、右物件がいずれも右最低競売価額のうちの最高額(金四三七万四四五九円)をもって競落された(右物件について、後記のごとく短期賃借権が設定されているなどの理由で、競買の申出が容易になされないことからすると、右価額以上で競落されることはまずあるまいと推測される。)としても、原告の被告島谷に対する前記求償債権は、元本金五三七万七一三四円(ただし、執行費用及び優先債権の存在は考慮せず、また本件口頭弁論終結時までの遅延損害金に充当するものとして計算した。)を、同吉岡に対する前記求償債権は、元本金五四七万九四六六円(右同)を残すこととなることは明らかである。

また、第一(イ)、(ロ)賃貸借及び第二(ハ)、(ニ)賃貸借は、いずれも仮登記を了しているにすぎないが、前記説示のごとく、被告島谷商事及び同ワールドにおいて、第一建物及び第二建物の引渡を受けたことによって現に対抗力を有し(借家法一条一項)、さらに右各賃貸借は、いずれも高額の敷金が差入れられており、右各賃貸借が抵当権者及び競落人に対抗し得る結果、競落人は右敷金返還義務を承継することとなること、右各賃貸借は、いずれも賃料が著しく低額(第一(イ)及び第二(ハ)各賃貸借について、一か月各金五〇〇円、第一(ロ)及び第二(ニ)各賃貸借について、一か月各金一〇〇〇円)であり(ちなみに、被告島谷商事が転貸している田中の賃料は一か月金六万六〇〇〇円、ライオン油脂株式会社の賃料は一か月金八万三二〇〇円である。)、さらに第一(イ)、(ロ)賃貸借及び第二(ハ)、(ニ)賃貸借とも譲渡、転貸ができるとの特約がなされており、現に田中及びライオン油脂株式会社に転貸されていることからすると、第一(イ)、(ロ)、第二(ハ)、(ニ)賃貸借は、いずれも競売によって所有権を取得しようとする者にとって著しく不利益な条件の賃貸借であり、それ故に、容易に競買申出をする者が現れず、競売価額は低くならざるを得ないものと考えられる。

以上の諸点だけを総合勘案しても、第一(イ)、(ロ)賃貸借及び第二(ハ)、(ニ)賃貸借は、抵当権者である原告を害する結果を生じているものとの結論に到達するのであるが、さらに被告島谷は、第一、第二建物の売主である丸善建設との紛争を理由に、原告が抵当権の実行を申立てた場合には抗争するとの構を示していること、被告島谷商事、同ワールドは同島谷の個人会社であり、同吉岡は同島谷商事の従業員であること(被告島谷清一郎本人尋問の結果)からすると、第一(イ)、(ロ)、第二(ハ)、(ニ)賃貸借は、原告に対し損害を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。

四、次に、被告らの主張について検討する。

1. 証人織田篤の証言、同証書により真正に成立したことが認められる甲第九ないし一一号証及び弁論の全趣旨を総合すると、被告らの主張1記載の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2. 被告らの主張2記載の事実について考察するに、成立に争いのない乙第一号証によると、丸善建設は、本件マンションを賃貸用施設としても、投資の対象としても大変価値のあるものである旨の文言を用いて宣伝販売したことを認めることができるが、他方、成立に争いのない甲第八号証の一、二によると、被告島谷、同吉岡は、第一、第二抵当権を設定するに際し、原告の承諾なく、担保物である第一、第二建物を他に譲渡、賃貸若くは担保に提供し又はその現状を変更するなど原告に損害を及ぼす一切の行為をしない旨合意したことを認めることができ、右事実を併せ考えると、被告島谷、同吉岡は、第一、第二建物の購入目的如何にかかわらず、同被告らが原告との間で抵当権設定契約を締結し、その契約上の債務として第一、第二建物を賃貸してはならないという義務を負う以上、これに反することができないのは当然であり(被告島谷、同吉岡は、第一(イ)、(ロ)及び第二(ハ)、(ニ)賃貸借について、その締結日をいずれも昭和五二年九月又は一〇月であるとしながら、その仮登記をいずれも丸善建設との紛争が生じ、被告島谷、同吉岡が日本ハウジングに対する分割金の支払を遅滞するに至った昭和五三年五月以降になしていること及び被告島谷、同吉岡は不動産賃貸業務に従事するものであること(被告島谷清一郎本人尋問の結果)からすると、被告島谷、同吉岡は、原告との右約定の存在を十分承知したうえで、丸善建設ひいては原告との紛争に対する対抗措置として右仮登記をなしたものとさえ考えられるのである。)、被告島谷、同吉岡が右約定に反し、原告に損害を及ぼすこととなった以上、原告が民法三九五条但書に則り、本訴を提起することは、至極当然といわなければならず、これをもって権利を濫用するものであるとの指摘は失当である。

3. 次に被告らの主張3、4記載の事実について考察する。

建物区分所有法に規定する共有部分とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び同法三条二項所定のいわゆる規約共用部分であり(二条四項)、専有部分とは、区分所有権の目的たる建物の部分(二条三項)、すなわち、一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものをいうものである(一条)ところ、被告ら主張の地下駐車場は、独立した建物の部分としての用途に供されていることを窺うことができる(成立に争いのない乙第七号証)ものの、建物の構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき、いわゆる法定共用部分にあたることを認めるに足る証拠はなく、また、規約により共用部分としたものでないことも明らかであるから、右駐車場が共用部分であるとの被告らの主張は認めることができない。

また、成立に争いのない甲第七号証の一、二(売買契約書)によるも、被告ら主張にかかる地下駐車場、レストラン、スナック、コーヒーショップ、レストラン厨房、店舗は、右物件に対する何らかの権利を含めて、丸善建設と被告島谷、同吉岡との間の第一、第二建物の売買契約において、売買の対象とされておらず、被告らがその主張の根拠とする前掲乙第一号証をもって未だ右事実を認めることができず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

さらに、被告ら主張の「クレーム処理」の約定が丸善建設、日本ハウジング及び原告間においてなされていることを認めるべき証拠はないから、丸善建設の右駐車場等に対する不法行為及び右約定の存在を前提とする被告らの主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

よって、被告らの権利濫用の主張は採用することができない。

五、しかして、第一(イ)、(ロ)賃貸借、第二(ハ)、(ニ)賃貸借は、いずれも抵当権者である原告に損害を及ぼすものとして、民法三九五条但書により解除を命ずるのが相当であるから、原告の右各賃貸借契約の解除請求は理由がある。

また、原告の第一、第二抵当権に基づく物権的請求権としての、被告島谷商事に対する第一建物についての別紙登記目録(イ)記載の仮登記、同被告に対する第二建物についての別紙登記目録(ハ)記載の仮登記、被告ワールドに対する第一建物についての別紙登記目録(ロ)記載の仮登記、同被告に対する第二建物についての別紙登記目録(ニ)記載の仮登記の各抹消登記手続請求は、第一(イ)、(ロ)賃貸借、第二(ハ)、(ニ)賃貸借の解除を命ずる右判決が確定することを条件とする限度で理由がある。

次に、原告の第一、第二抵当権に基づく物権的請求権としての、被告島谷商事、同ワールドに対する同島谷への第一建物の明渡及び被告島谷商事、同ワールドに対する同吉岡への第二建物の明渡の各請求について考察するに、抵当権は、本来、担保物に対する使用収益を抵当権設定者に委ね、債務が弁済されない場合にその物の価額によって優先弁済を受けることのできる担保物権であるが、これに加えて、抵当権者は、抵当権の目的物に対する侵害(滅失、毀損)行為に対し、これを排除させる物権的請求権を有するものであるところ、右のような抵当権の効力からすると、担保物の上に設定された短期賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすものとして解除された場合には、右賃貸借の存在自体抵当権に対する侵害行為であったということができるのであり、また、右解除によって消滅した賃貸借に基づき占有していた賃借人は、右解除後は何らの占有権原を有することなく占有し、もって抵当権を侵害しているものということができ、さらに、競売時において、右不法占有者を排除しておくことが抵当権者に競売の実をあげさせる結果となることを考え併せると、抵当権者は、右のような占有者に対し、その占有を排除し、所有権者又は正当な用益権者に明渡すことを求めることができると解するのが相当である。そうすると、原告の第一(イ)、(ロ)賃貸借及び第二(ハ)、(ニ)賃貸借の解除請求が理由のあることは前記説示のとおりであるから、原告の被告島谷商事、同ワールドに対する同島谷及び同吉岡への第一、第二建物の各明渡請求は、右各賃貸借の解除を命ずる右判決が確定することを条件とする限度で理由がある。

さらに、原告は、被告島谷に対し、求償債権金八三二万八七一三円と内金七八七万六一二七円に対する昭和五三年一一月九日から支払ずみまで年一四パーセントの割合による遅延損害金債権を、同吉岡に対し、求償債権金八四一万五九四六円と内金七九五万九七〇四円に対する右同日から支払ずみに至るまで年一四パーセントの割合による遅延損害金債権を有することは前記説示のとおりであるから、原告の右金員請求はいずれも理由がある。

六、以上の次第で、原告の被告らに対する請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松山恒昭)

<以下省略>

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