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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)1347号 判決 1979年6月29日

原告 石井光夫

右訴訟代理人弁護士 森島忠三

被告 同和火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 辻野知宜

右訴訟代理人弁護士 原田正雄

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金五五万円および内金五〇万円に対する昭和四八年一一月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二請求原因

一  保険契約の締結

被告は、訴外米島治夫(加害車の所有者)との間に、保険の目的を加害車、被保険者を訴外米島とする、自賠法所定の自動車損害賠償責任保険契約(証明書番号、G三〇〇九〇五号)を締結していた。

二  保険事故の発生

1  日時 昭和四八年一一月一九日午後〇時一〇分頃

2  場所 大東市諸福八丁目一六番二号先道路上

3  加害車 普通乗用自動車(大阪五五ち四、四二八号)

右運転者 訴外米島

右所有者 同人

4  被害車 普通乗用自動車(タクシー)

右運転者 原告

5  態様 信号待ちのため停車中の被害車に加害車が追突し、原告が受傷した。

三  保険事故に対する責任原因

1  訴外米島の運行供用者責任(自賠法三条)

訴外米島は加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

2  訴外新栄建設株式会社の民法上の責任

訴外米島は、訴外新栄建設株式会社の代表取締役として、その業務を行った帰途、本件事故を発生させた。

四  原告の損害

1  受傷等 頸椎捻挫にて、昭和四八年一一月一九日より同四九年八月一七日まで、実日数九八日間通院。

2  損害費目

(イ) 逸失利益 金一一六万二三二三円

(ロ) 賞与額 金二二万五七八九円

(ハ) 慰藉料 金四五万円

(ニ) 弁護士費用 金一一万円

(ホ) 合計 金一九四万八一一二円

3  損害の填補  労災より金六八万一二九四円を受領したので、残損害額は、金一二六万六八一八円となる。

五  原告による訴外米島らに対する提訴と和解の成立

1  原告は、訴外米島らを被告として、「金一二六万六八一八円および内金一一五万六八一八円に対する昭和四八年一一月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員」を上回る金員の支払を求めて、当庁昭和五〇年(ワ)第二、五六九号損害賠償請求事件として提訴し、右「 」記載のとおり判決を得たが、被告ら(訴外米島ら)より、大阪高裁昭和五一年(ネ)第一、七八六号事件として控訴され、同庁において同五二年六月二〇日、次のとおり、和解が成立した。

一 訴外米島らは、原告に対し、右「 」内の金員の支払義務を認める。

二 訴外米島らは、原告に対し、前項の金員中金一〇〇万円につき、昭和五二年九月末日限り金四万円、同年一〇月以降支払済まで毎月末日限り金三万円宛を各支払う。

三 訴外米島らは、前項の割賦金の支払を二回以上怠ったときには期限の利益を喪失し、未払残額全部を一時に支払う。

等。

2  然るに、訴外米島らは、現在に至るまで、右割賦金につき、一回の支払もしない。

六  原告の被告に対する保険金請求権

1  被告は、訴外米島との間に、前記保険契約を締結していたのであるから、原告は、被告に対し、第一次的に、自賠法一六条に基き、保険金額の限度において、損害賠償額の支払を求める。

2  仮に、右1が失当の時には、訴外米島らは無資力であるから、原告は、訴外米島に対する前記損害賠償請求権を保全するため訴外米島に代位して、被告に対し第二次的に、訴外米島の被告に対する保険金請求権(自賠法一五条に基くもの)を、本件事故当時の傷害の保険金限度額、金五〇万円およびこれに対する弁護士費用、金五万円、合計金五五万円および右金五五万円に対する遅延損害金(起算点は、保険事故の発生の翌日)につき、行使し、その支払を求める。

七  本訴請求

よって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

第三請求原因に対する被告の答弁

請求原因一項および五項の2を認める。同二ないし四項および五項の1は不知である。同六項は否認ないし争う。

第四被告の主張

一  原告の第一次的主張に対する消滅時効の抗弁

(一)  原告の本訴提起は、本件事故より五年余を経過した後のことである(因に、原告は、その間に、自賠法一六条のいわゆる被害者請求権を行使したことは一度もない。)。そこで、被告は、本訴において右被害者請求権の消滅時効を援用する。

(二)  なお、原告が、訴外米島らに対し本件事故後速やかに訴を提起し、前記和解を成立させていたとしても、訴外米島らに対する消滅時効期間が民法一七四条の二により一〇年間に延長されこそすれ、被告に対する前記被害者請求権の消滅時効期間が二年を超えて延長されることはない。

二  原告の第二次的主張に対し

訴外米島の被告に対する自賠法一五条に基く保険金請求権は、被保険者である訴外米島が被害者である原告に対し損害賠償額(本件においては、前記和解金)について支払をした時に、はじめて発生する(同条参照)ところ、原告主張のとおり、訴外米島が原告に対し現在までに支払をした事実は、全くない。したがって、訴外米島の被告に対する保険金請求権は、いまだ発生しておらず、原告は、存在していない右保険金請求権を代位行使することは、できない。

第五被告の主張に対する原告の答弁

一  被告の主張一項の(一)を認める。

二  被告の主張二項については、そのような説もあるが、原告としては、保険関係における請求権の行使は、その損害賠償額の確定をもって足り、その請求権の発生や履行期の到来等を要件とはしないもの、と考えている。

第六証拠《省略》

理由

一  原告の第一次的主張(いわゆる被害者請求権)について

請求原因一項および五項の2の各事実は、いずれも、当事者間に争いがなく、同二ないし四項および五項の2の各事実は、いずれも、《証拠省略》により認めることができ、これに反する証拠はない。しかるに、被告の主張一項の(一)の事実もまた当事者間に争いがない。そうすると、原告の右被害者請求権については、消滅時効の抗弁が成立することとなり、結局、原告の第一次的主張は、理由がないことになる。

因に、「被害者である原告の訴外米島らに対する自賠法三条ないし民法に基く損害賠償請求権と原告の被告に対する自賠法一六条に基く損害賠償請求権(右被害者請求権)とは、別個独立のものとして併存」(最高裁判所昭和三九年五月一二日判決、民集一八巻四号五八三頁参照)しているので、消滅時効期間についても別途に考えるのが相当であるから、原告の訴外米島らに対する損害賠償請求権の消滅時効期間が、裁判上の和解の成立により、民法一七四条の二により一〇年間に延長されたとしても、そのことが、右被害者請求権の消滅時効期間(二年)の消長になんら影響を及ぼすものではない、と考える。

二  原告の第二次的主張(いわゆる加害者請求権)について

原告の主張を総合すると、訴外米島が、原告に対し、現在までになんらの支払をしたことがないにも拘らず、訴外米島の被告に対する自賠法一五条所定の保険金請求権(右加害者請求権)が既に発生していることを前提として、原告は、右加害者請求権を代位行使していることが、明らかであるところ、右加害者請求権は、加害者(被保険者)である訴外米島が、被害者である原告に対し、その損害賠償額について支払をした時はじめて、しかもその支払額の限度においてのみ、発生するものと解するのが、同条の文理からも、また、その立法趣旨(悪意の被保険者による保険金の着服防止等)からも、妥当である、と考える。そうすると、原告の右主張は、右支払の事実がないことを前提としつゝ、加害者請求権は既に発生しているものとしている点において、その主張自体理由がないもの(原告の、「被告の主張に対する原告の答弁」欄二項記載の主張は、独自の見解というべきであるから、当裁判所はこれを採用しない。)といわざるを得ない。しかして、存在していない加害者請求権について代位行使することができないことは、いうまでもない(千葉地裁昭和四八年七月二六日判決、判例時報七三一号、七三頁参照)から、結局、原告の第二次的主張も、理由がないことになる。

三  よって、原告の本訴請求はすべて理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柳澤昇)

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