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大阪地方裁判所 昭和53年(行ウ)80号 判決 1979年6月26日

大阪市東成区大今里西二丁目一三番二一号

原告

末松正行

訴訟代理人弁護士

船越孜

磯川正明

大阪市東成区東小橋二丁目一番七号

被告

東成税務署長

砂本寿夫

指定代理人検事

坂本由喜子

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

被告が昭和五一年七月八日付でした原告の昭和四九年分所得税の決定及び無申告加算税の賦課決定処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  被告は、昭和五一年七月八日付で原告に対し、原告の昭和四九年分所得税の決定及び無申告加算税の賦課決定(以下この両決定を本件決定という)をした。

国税不服審判所長は、原告の審査請求に対し昭和五三年七月二一日付で本件決定の一部を取り消す裁決(以下本件裁決という)をした。

本件決定及び本件裁決の内容は、別表に記載のとおりである。

(二)  本件決定は、原告が昭和四九年中にその所有の奈良県北葛城郡香芝町大字上中ツクモ一二六八番五四雑種地三〇〇平方メートル(原告の持分二分の一)及び同所一二六八番七七雑種地三七三平方メートル(原告の持分四分の一)(以下この両土地をあわせて本件譲渡土地という)を、訴外共栄建設株式会社(以下共栄建設という)所有の同所一二六六番四八雑種地四三八平方メートル(原告の取得持分二分の一、以下本件取得土地という)とを交換したことにより譲渡所得があったとの理由によるものである。

(三)  しかし、本件決定は、誤って本件譲渡土地につき所得税法三三条の資産の譲渡があると認めた点で重大かつ明白な瑕疵があるから、無効である。すなわち、

1 原告は、昭和四一年から本件譲渡土地を前記持分の割合で所有していた。

2 共栄建設は、本件譲渡土地を含む数十名所有の数千平方メートルの山林を、平担にし、道路を配して、一団の宅地(香芝団地)を造成した。その造成費用は各土地所有者から提供を受ける若干の土地の処分代金で賄われた。右宅地造成工事完了後、協議のうえ、各土地所有者には減歩をして各自の所有部分を特定した。

3 原告もこれに協力して、共栄建設と協議をして、造成工事完了後に本件取得土地の指定を受け、本件譲渡土地については昭和四九年九月一八日共栄建設に対し、昭和四六年九月八日交換を原因とする所有権移転登記手続をした。なお、本件取得土地の面積(原告の持分部分)は本件譲渡土地の九〇パーセントであり、この両者の土地の場所は異っている。

4 右のように、多数人の多数土地を一団として造成するため境界が不明となることと、造成手続上全土地を共栄建設名義にしていたことが理由となって、造成された一団地から本件譲渡土地部分を確定し、登記手続上は交換を原因として登記がされたものである。

5 本件譲渡土地と本件取得土地とは、場所面積等は異なるが、実質的には同一である。したがって、形式的には交換であっても、実質的には換地であって交換ではない。また、原告には実質的には何の譲渡益も発生していない。

仮に、形式上交換に該当するとしても、所得税法三三条の趣旨から、同条の資産の譲渡には該当しない。

(四)  本件決定は、平等原則に違反する点で重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。すなわち、

1 訴外末松力は、本件譲渡土地のうち一二六八番五四の土地の二分の一の持分権者であり、訴外木村富士雄は、本件譲渡土地の隣地の所有者であり、両名とも香芝団地造成に当り共栄建設との間で、原告と同様の趣旨の契約を締結してそれぞれの土地を形式上交換した。

2 ところが、末松力及び木村富士雄に対しては、右を原因とする所得税が課せられていない。

3 このような不公平課税は、平等原則に違反するもので当然に無効である。

(五)  結論

原告は、本件決定の無効確認を求める。

二  被告の認否と主張

(一)  請求原因(一)、(二)の各事実は認める。

(二)  同(三)1の事実は認める。

(三)  同(三)2ないし4の各事実について

(1) 共栄建設は、事業主、工事施行者として、本件譲渡土地を含む周辺地を一団として宅地として造成したが、原告は、本件譲渡土地を共栄建設に移転し、その代りに本件取得土地を共栄建設より取得し、本件取得土地につき請求原因(三)3の移転登記をした事実は認め、その余の事実は不知。

(2) 原告は、本件譲渡土地を共栄建設に移転し、その対価として、造成工事が完了した別個の宅地である本件取得土地を共栄建設から取得したものであるが、この行為は交換であって、所得税法三三条の資産の譲渡に該当することは明らかである。

(四)  同(四)の主張は争う。ただし、木村富士雄に課税されていないことは認めるが、目下調査中であり、末松力よりは既に申告がある。

第三証拠

一  原告

甲第一ないし第四号証を提出、乙第一号証の一ないし五の成立は不知、その余の同号各証の成立を認める。

二  被告

乙第一、二号証の各一ないし五、同第三号証を提出、甲号各証の成立を認める。

理由

一  当事者間に争いがない事実

請求原因(一)のとおり本件決定、本件裁決があったこと、本件決定の理由は請求原因(二)のとおり原告が本件譲渡土地と本件取得土地とを交換したことにより譲渡所得があったとする点にあること、以上のことは、当事者間に争いがない。

二  資産の譲渡の有無について

(一)  原告が本件譲渡土地を所有していたこと、共栄建設が本件譲渡土地を含む土地を一団の宅地として造成する工事をしたこと、以上のことは、当事者間に争いがない。

(二)  成立に争いがない甲第四号証、乙第二号証の一ないし五、及び同第三号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第一号証の四や弁論の全趣旨によると、原告と共栄建設とは協議のうえ、共栄建設は原告から本件譲渡土地を取得することとし、その代りに、原告は共栄建設から造成された一団の宅地のうち本件取得土地を取得することとしたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(三)  そうすると、原告は、本件譲渡土地の所有権(持分権)を共栄建設に移転する対価として、共栄建設から本件取得土地の所有権(持分権)を取得したのであるから、これは、民法上の交換に該当し、税法上は所得税法三三条の「資産の譲渡」に該当することは明らかである。

(四)  原告は、本件譲渡土地と本件取得土地とは実質的には同一であるから、交換にはならないと主張する。しかし、本件譲渡土地と本件取得土地とは場所が異なることは原告の自認するところであるから、両土地は別個の土地であるとするほかはない。原告が主張するように、広い、所有者多数の山林を平担にし、道路をつけるなどして一団の宅地に造成したため、各筆の境界が不明確になり、また造成手続上範囲内の全土地を共栄建設の名義にしていた等の事情があったとしても、原告所有の本件譲渡土地は造成された宅地中にある筈であって、その代りに別の場所にある土地を取得することは、当事者の意識はともかくとして、法律上は交換であることは多言を必要としない。

(五)  原告は仮に交換であったとしても、それは所得税法三三条の資産の譲渡に該当しないと主張する。しかし、所得税法三三条一項にいう「資産の譲渡」とは、「資産を移転させるいっさいの行為をいう」(最高裁判所昭和四七年(行ツ)第四号同五〇年五月二七日第三小法廷判決、民集二九巻五号六四一頁)のであって非宅地であった本件譲渡土地と造成された宅地である本件取得土地とを交換した行為は同項にいう譲渡に含まれることは当然の理である。

原告の主張によると、本件の宅地造成と土地交換は、土地区画整理法による工事と換地に類した行為を同法によらず私的契約にもとづいて行ったことになる。ところで、租税特別措置法三三条の三第一項は土地区画整理法による換地処分により土地を取得したときは所得税法三三条の規定の適用については換地処分により譲渡した土地の譲渡がなかったものとみなすこととしている。したがって、このことから、土地区画整理法等の規定によらずに宅地造成、土地交換がされた場合は、当然に所得税法三三条による譲渡があったとすることを前提としているものと解することができるのである。

(六)  以上の次第で、本件決定が本件譲渡土地と本件取得土地との交換により所得税法三三条の資産の譲渡があったとした点には原告が主張するような瑕疵はないとしなければならない。

三  不公平課税の主張について

(一)  原告は、類似の関係にあった二名の者には課税されていないのに、原告に対し本件決定によって課税するのは平等原則に反すると主張する。

(二)  しかしながら、全国的に原告のような事例について課税しない取扱いがされているならばともかく、類似の二名の者だけに課税されていない事実が仮にあったとしても、そのことのために、正当な本件決定が平等原則に反し、無効になる理由はない。

四  むすび

本件決定には原告の主張する瑕疵はないから、本件決定の無効確認を求める原告の請求を棄却することとし、訴訟費用は行政事件訴訟法七条、民訴法八九条により原告の負担とすることとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 井関正裕 裁判官 小佐田潔)

別表 本件決定及び本件裁決の内容

<省略>

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