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大阪地方裁判所 昭和53年(わ)4299号 判決

主文

被告人を懲役二年に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、衣料品販売業を営むものであるが、法定の除外事由がないのに、昭和五三年三月二三日ころから同年八月二二日ころまでの間、別表(一)〈省略〉記載のとおり、大阪府貝塚市半田二三二番地の一所在、サクラ産業株式会社ほか一か所においてほしいままに東映動画株式会社(代表取締役今田智憲)が著作権を有する漫画映画「キヤンデイ・キヤンデイ」の主人公である「キヤンデイ・キヤンデイ」の姿態を子供用シヤツ合計二三万七、三三一枚に捺染して複製した上、同年三月三一日ころから同年七月二八日ころまでの間別表(二)〈省略〉記載のとおり、名古屋市中区錦二丁目九番九号森信莫大小株式会社など衣料品販売業者一七か所において、同社代表取締役森信一など一七名に対し、右子供用シヤツ合計二二万二、三四七枚を販売して頒布し、もつて右東映映画株式会社の著作権を侵害したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、(一)本件漫画映画「キヤンデイ・キヤンデイ」は月刊雑誌「なかよし」に連載の水木杏子、いがらしゆみ子原作にかかる漫画「キヤンデイ・キヤンデイ」を単にテレビ放映用に動画化したいわば原作漫画の複製物にすぎず、第二次著作物としての独自の創作性を全く欠いているから、東映動画株式会社は右映画について著作権を有していない。(二)仮に、右映画が全体としてなんらかの独創性を有し、第二次著作物として著作権の対象になるとしても、右動画の一コマ一コマそのものは前記原作漫画の単なる複製物にすぎないから、その一コマの中に描かれた主人公の静止した姿態を複製頒布するが如き態様の行為は、原著作物たる原作漫画の著作権を侵害するだけで、第二次著作物たる本件映画の著作権を侵害しない旨主張する。

前掲の各証拠によると、本件映画は、原作者の創作した漫画及びストーリーをもとにして、独自の脚本を作り、登場人物毎に声の出演者による音声を配し、さらには場面毎に適切な音楽を付加し、独自の写真撮影技術や録音技術を駆使して動画化したものであることが認められ、したがつて原作漫画の単なる複製物ではなく、右の如き点において第二次著作物としての創作性を有することが明らかであるから、東映動画株式会社は本件映画について著作権を有する。

また、本件映画に登場する主人公「キヤンデイ・キヤンデイ」なる女の子に付与されているその人物としての性格、役割、動作、容ぼうその他の特徴(いわゆるキヤラクター)の原型は、もともと原作漫画において創出されたものではあるが、前記の如き種々の独創性を付加して創作された本件映画によつて、現実に特定の肉声を発し連続的に動作するなど、そのキヤラクターは原作漫画によつて作出されたもの以上に、より生き生きと実在性を帯び、鮮明、活発かつ身近かなものに変化成長させられている。いわば、「キヤンデイ・キヤンデイ」なる女の子のキヤラクターの「産みの親」が原作漫画であるとすれば、本件映画はその「育ての親」ともいうべきものであり、そのキヤラクターについては、その産みの親である原作者とその育ての親である本件映画製作者の双方に、それぞれ独自の創作性を認めるべきである。被告人の本件所為は、本件映画を映画そのものとして複製利用したものではなく、その一コマに含まれる「キヤンデイ・キヤンデイ」の静止した姿態、すなわち原作漫画の一場面に含まれると同様な姿態を複製頒布したにすぎないのであるが、その実質は右姿態によって表象される「キヤンデイ・キヤンデイ」のキヤラクターを利用したものにほかならないというべきところ、その姿態によって表象されるキヤラクターの作出については本件映画の製作者にも前記のとおり独自の創作性があり、その創作性が本件映画の創作性のひとつの内容をなしているのであるから、被告人の判示所為は、原著作物たる原作漫画の著作権を侵害することはもちろん、第二次著作物たる本件映画の著作権をも侵害する。

(法令の適用)

一  判示行為   包括して著作権法一一九条

一  刑の選択 所定刑中懲役刑選択

一  刑の執行猶予 刑法二五条一項

一  訴訟費用負担 刑事訴訟法一八一条一項本文

(渡辺忠嗣)

別表(一)、(二)

〈省略〉

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