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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)6881号 判決 1979年7月10日

原告

畠中通夫

被告

福間恭治

主文

一  被告は原告に対し金一七万一、八〇〇円およびこれに対する昭和五二年一二月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

「(一) 被告は原告に対し金三七万五、四〇四円およびこれに対する昭和五二年一二月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。(二) 訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告

「(一) 原告の請求を棄却する。(二) 訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  事故の発生

昭和五二年一一月一三日午後五時三〇分ころ大阪市平野区長吉長原東一丁目一番一五号先道路(中央環状線長吉交差点北側手前)上において北から南に向かつて進行中の原告運転の普通乗用自動車(泉五六み六二五六号、以下原告車という。)の右前部と同一方向に進行し、原告車線上に進路を変更し、同車の前で停車した被告運転の普通乗用自動車(奈五五ね七〇二四号、以下被告車という。)の後部が衝突した。

(二)  被告の責任

本件道路は南行の三車線になつているが、被告は第三車線目を走行している原告車の直前で右折の合図もせずに突然第二車線から第三車線に被告車の走行車線を変更して停車したものである。原告と被告とは同日午後八時ころ平野警察署内において被告が原告に対し同人が右事故により被つた損害額の六割を支払う旨の示談が成立した。よつて原告は被告に対し主位的に右示談に基づく請求をなし、仮に右主張が理由がないときは本件事故は前記のとおり被告の急な割り込みによる被告車運転上の過失により発生したものであり、かつ、被告は当時同車を所有し、自己のために運行の用に供していた者であるから、予備的に不法行為責任ないし運行供用者責任に基づく請求をする。

(三)  原告が被つた損害

1 内容 原告所有の原告車の破損(破損個所 バンパー、フロントグリル、ボンネツト、フエインダー、ラジエーターグリル)

2 損害額

(1) 修理費用 一八万八、〇〇〇円

(2) 評価損 九万円

(3) 営業損害 八万円

原告は電子計算機のシステムデザイナーを自営し一日当り二万円の収入があつたが、本件事故処理のため警察署に出頭したり、原告車の査定のため日本自動車査定協会大阪府支所に行つたりして四日間休業し、その間の収入を失い、標記の金額の損害を被つた。

(4) 修理期間中のレンタカー代 六万五、〇〇〇円

(5) 事務処理のための通信費、交通費、駐車料、事故証明書受理の手数料 一万五、〇〇〇円

(6) 同車加入の自動車保険料の来期の増額分 四、三四〇円

(7) 慰藉料 一〇万円

同車は昭和五二年九月三〇日納入を受けた新車であり、本件事故による損傷の結果修理をしても完全に元の状態に復することは難しく、原告は愛車の損傷により精神的苦痛を受けたので、それに対する慰藉料は標記の金額が相当である。

(四)  よつて、右の損害額の合計は五四万二、三四〇円になるので、原告は被告に対し、前記の示談に従つてその六〇%の三二万五、四〇四円に弁護士費用五万円を付加した金三七万五、四〇四円およびこれに対する本訴状送達日の翌日である昭和五二年一二月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の答弁

(一)  請求原因(一)は認める。同(二)は否認する。同(三)の1は不知、2は否認する。同(四)は争う。

(二)  被告車は約六〇キロメートル毎時の速度で南行第二車線を走行していたが、本件道路車側のシエル石油の給油所から右斜めに長吉交差点に進入する車両が一台あつたので、被告は右後方の安全を確認して減速してゆつくりと第三車線に被告車を移行し、交差点の対面信号が黄色に変つたので、その手前の停止線上に停車していたところ、しばらくして前方注視を怠つた原告が原告車を被告車の後部に追突させ、本件事故が発生したものである。

(三)  原告車の修理費用は工賃五万七、五〇〇円、取替部品代三万一、二二〇円合計八万八、七二〇円程度のものであり、そのほかの慰藉料、営業損害その他の損害は右事故と相当因果関係がない。

三  被告の抗弁

仮に原告主張の示談が原、被告間で締結されたとしても、右は、原告は事故直後被告の胸倉をつかんで警笛が聞こえなかつたかと怒鳴り、その後「免許証を出せ。」と言つて被告からそれを取り上げ、「やくざならいくらでも知り合いにおる。」などと申し向けて、自分で誓約書(甲第一号証)の全文を書き、被告に対しその末尾に署名、指印することを求め、その要求に応じなければ、免許証を返還しない旨の気勢を示して、同人を畏怖困惑させ、その要求に応じさせたものであるから、被告の右示談締結の意思表示は原告の強迫行為によりなされたかしがあるから、被告は原告に対し昭和五三年一月三〇日の本件第一回口頭弁論期日において右意思表示を取消す旨意思表示する。

四  原告の答弁

被告の前記の抗弁は否認する。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  次に、同(二)の事実について検討するに、成立に争いがない甲第一号証および原告本人尋問の結果によれば、原告主張の日時、場所においてその主張の内容の示談契約が、原、被告間で締結されたことが認められ、被告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に対比してたやすく措信することができない。そこで、被告の抗弁についてみてみるに、原告および被告(一部)各本人尋問の結果によると、原告は本件事故発生直後、右事故現場東方のシエル石油給油所付近で双方が降車したのち、原告は被告の胸倉をつかんで「どこを向いて走つてんのや。」と怒鳴つたこと。その後双方が出頭した平野警察署の庁舎内やその屋外で原告は被告からその運転免許証を交付させて、早く示談をするよう要求し、それまでは免許証を返還しないと言つたことは認められるが、しかし、被告も同署内から電話で勤務先の大工の棟梁などに事故処理について相談し、誓約書(前掲甲第一号証)に署名、指印する前には警察官の勧めにより原告は被告に対し免許証を返還していること、右誓約書の前記の署名、指印以外の部分は原告がその全文を書いたものではあるが、被告の要求も容れて原告は「畠中氏は私の損害を保険で責任を取ることを誓う」旨の文言を書き加えていること。原、被告間の交渉の時間は、同署内での警察官による取調時間も含めて午後六時ころから同八時ころまでの二時間であり、被告はその交渉の当初から自分に過失があることは認め、ただ双方の過失割合は五分五分であると主張したこと、本件事故の発生状況はほぼ次のとおりのものであること。すなわち、

本件事故発生現場は南北に通ずる中央環状線の南行車線の第三車線目の長吉交差点北側手前の停止線付近であり、原告は約五〇キロメートル毎時の速度で同車線を北から南に向かつて原告車を運転し進行していたところ、第二車線を先行しほぼ同速度で南進中の被告運転の被告車が、同交差点北東角にあるシエル石油給油所から出て来て同交差点に進入し、西方に向かおうとする他の車両が被告車の前方を右斜めにその進路を遮ぎるようにして右折したので、それを避けて減速しながら、右折の合図はせずに原告車の直前に割り込むようにして第三車線に入つて来たのち停車したので、原告は急制動の措置を採つたが間に合わず、被告車の後部に原告車の右前部が追突したこと。他方、原告は被告車や前記の給油所から出て来た車両の動向は事前に一応は確認していたこと。

が認められ、被告本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に対比してたやすく措信することができない。そうだとすると、本件示談の締結に当り、原告に多少の行き過ぎた粗暴な言動はあつたとはいえるが、被告を畏怖困惑させた結果示談に応じる旨意思表示させたという程の強迫行為を原告がなしたとはいまだ首肯するに十分でなく、また、前記の事故発生状況からすれば、双方の過失割合を被告を六とし、原告を四として、被告が原告の被害額の六〇%を賠償する旨の示談内容も相当であると考えられる。したがつて、その余の判断をなすまでもなく、被告の抗弁は理由がないので、被告は原告に対し、右示談に従つて原告が本件事故により被つた相当因果関係のある損害額の六〇%を賠償すべき債務があるというべきである。

三  そとで、原告が被つた損害について検討する。

(一)  原告本人尋問の結果により成立を認めうる甲第二号証の一ないし三、成立に争いがない検甲第一ないし一七号証および右本人尋問の結果によれば、請求原因(三)の1に主張のとおり原告所有の原告車が本件事故により破損したことが認められる。

(二)  次に、原告の損害額の明細についてみてみる。

1  修理費用

前掲甲第二号証の一ないし三によれば原告車の修理費用に一八万八、〇〇〇円を要することが認められ、これに反する証人鎌田正の証言により成立を認めうる乙第一号証の一、二、被告本人尋問の結果により成立を認めうる同第二号証ならびに右証言および右本人尋問の結果は右認定を覆すに十分でない。

2  評価額

原告本人尋問の結果により成立を認めうる甲第三号証の一、二、前掲検甲第一ないし一七号証、および右本人尋問の結果によれば、同車は原告が代金一一五万円位で購入した昭和五二年九月二六日初度登録の新車であり、本件事故直前の推定評価額が九二万二、〇〇〇円であり、昭和五三年一月二三日現在の現状のままの評価額は七一万一、〇〇〇円であるが、右は同車を修理しないままの評価額であり、同車は未修理の状態でもボンネツトの前部に隙間が生じているが走行機能には格別の支障はないことが認められ、もし、前記の修理費用をかけて部品の取替などをして修理をしたのちの評価額がいくらになるかは証拠上はつきりしないので、標記の損害はこれを肯認するに足りる的確な証拠がないのでこれを認めることができない。

3  営業損害

原告本人は標記の損害について、その主張に副う旨の供述をしているが、原告が本件事故により被つた直接の損害はいわゆる物損である原告車の破損だけであるので、標記の損害は右事故と相当因果関係があるとはいえないので、これを肯認することはできない。

4  同車の修理期間中のレンタカー代

前掲甲第二号証の一、鎌田証言、原告本人尋問の結果によれば、同車の修理期間に一週間を要し、原告は電子計算機のシステムデザイナーを自営しているので、その業務上自動車の使用を必要とするので右修理期間中レンタカーを賃借する必要があり、その一日当りの賃借料は一万円であることが認められるので、原告主張の六万五、〇〇〇円の標記の損害の計上は相当であると認められる。

5  その他の損害について

原告主張の請求原因(三)の2の(5)ないし(7)の損害は本件事故と相当因果関係があるとはいえないうえ、原告車は原告の主観にとつてはともかくとして、客観的には代替性のある物件であるから、同車の損傷により原告が精神的苦痛を被つたとしても、公平の見地から、右苦痛を金銭的に評価して被告に賠償を求めることは相当であるとは考えられないので、証拠による認定に立入るまでもなく、その主張自体失当であるといわざるをえない。

四  したがつて、肯認しうる原告の損害額は二五万三、〇〇〇円になるので、前記の示談契約に従つてその六〇%の一五万一、八〇〇円が原告の被告に対する債権額となり、本件事案の内容、訴訟経過、その難易度、前記認容額等を勘案すると弁護士費用は二万円が相当であると認められる。

五  以上の次第で、被告は原告に対し示談金債務および弁護士費用合計金一七万一、八〇〇円およびこれに対する本訴状送達日の翌日である昭和五二年一二月九日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので、右の限度で原告の被告に対する本訴請求を正当として認容し、その余の請求は理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担および仮執行の宣言につき民訴法八九条、九二条本文、一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 片岡安夫)

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