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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)1690号 判決 1978年6月05日

原告

原田信子

被告

田中孝夫

主文

一  被告は原告原田信子に対し金一九五万三、五三九円およびこれに対する昭和五二年四月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告原田信子のその余の請求および原告原田勝および同原田マツ子の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告原田信子と被告との間に生じた分はこれを七分し、その二を被告の、その余を同原告の負担とし、原告原田勝および同原田マツ子と被告との間に生じた分はこれを全部同原告らの負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

「被告は原告原田信子に対し金六八七万円、原告原田勝および同原田マツ子に対しそれぞれ金二二万円および右各金員に対する昭和五二年四月一四日から完済までの年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告

「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

(一)  事故の発生

昭和五一年四月二〇日午前一〇時四〇分ころ大阪市平野区長吉長原町三七番地の二先(長原西第三住宅一〇号棟前)道路上において、被告運転の普通乗用自動車(泉五五と四六八五号、以下被告車という。)が路上で遊んでいた原告原田信子(昭和四七年一〇月三一日生まれ)を跳ね飛ばした。

(二)  被告の責任

被告は被告車を使用し、本件事故当時同車を自己のために運行の用に供していた者である。

(三)  原告らの損害

1 原告信子の受傷

頭頂部前頭部挫創、下歯齦部剥離創、開放性頭蓋骨骨折、頭蓋内出血の疑い。

2 治療経過

入院

昭和五一年四月二〇日から同月二八日まで大阪赤十字病院

通院

同月二〇日および同月三〇日から同年六月二九日まで長吉総合病院に(うち治療実日数一五日)

3 後遺症

頭部に長さ六センチメートル、前額部に長さ五・五センチメートルと同六センチメートルの二個の瘢痕醜状(同年六月二九日症状固定、女子の外貌に著しい醜状を残すものとして自賠法施行令別表後遺障害別等級表第七級該当。)

4 損害額

(1) 原告信子の損害額

イ 慰藉料 六七七万円

本件事故の態様、同原告の受傷、治療経過、後遺症の部位、程度その他諸般の事情に照らすと同原告が本件事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉料は標記の金額が相当である。

ロ 弁護士費用 六〇万円

(2) 原告原田勝および同原田マツ子の損害額

イ 慰藉料 各二〇万円

同原告らは原告信子の父母であるが、同原告がふつてわいたような本件事故により当初は生死をさまよい死亡するかも知れないような重傷であつたので、原告勝および同マツ子は多大な精神的苦痛を被つたので、それに対する同原告らに対する慰藉料は標記の金額が相当である。

ロ 弁護士費用 各二万円

(四)  損害の填補

原告信子は自賠責保険から五〇万円の支払を受け同額の損害は填補された。

(五)  よつて、被告に対し原告信子は残損害額金六八七万円、原告勝および同マツ子はそれぞれ金二二万円および右各金員に対する訴状送達の翌日である昭和五二年四月一四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の答弁

(一)  請求原因(一)のうち原告ら主張の日時、場所において被告運転の被告車と原告信子が接触したことは認めるが、同車が同原告を跳ね飛ばしたことは否認する。同(二)は否認。同(三)の1ないし3は不知(ただし、同原告の後遺症の程度は否認。)、4のうち、(1)および(2)の各イは否認、各ロは不知。同(四)は認める。(ただし、原告ら主張の五〇万円は自賠責保険金ではなく、被告が加入している自動車(任意)保険金の内金である。同(五)は争う。

(二)  原告信子の後遺症の程度は著しい醜状痕とはいえず女子の外貌の醜状を残すものとして原告ら主張の等級表第一二級該当のものである。

三  被告の抗弁

(一)  本件事故は原告信子が路上でござの下にもぐつて遊んでいたため発生したものであり、被告にも被告車運転上の過失があるとしても、同原告の過失またはその両親である原告勝および同マツ子の監護義務け怠の過失もその原因として競合しているので、仮に被告に原告らに対する損害賠償義務があるとしても、その賠償額の算定に当り相応の過失相殺がなされるべきである。

(二)  被告は原告らが自認しているもののほかに、原告信子に対し次の金員を支払つている。

1 治療費 一三万二、三〇五円

(1) 長吉総合病院関係 一万八、九五〇円

(2) 大阪赤十字病院関係 一一万三、三五五円

2 その他の損害金の内金 一〇万円

四  右抗弁に対する原告らの抗弁

前記の被告の答弁のうち、(一)は否認するが、(二)は認める。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因(一)のうち、原告ら主張の日時、場所において被告運転の被告車と原告原田信子とが接触したことは当事者間に争いがないが、本件事故発生の態様につき当事者間に争いがあり、かつ、被告は過失相殺の主張をするので、まず右事故発生の状況について検討する。

(一)  成立に争いがない乙第一ないし第五号証、同第七ないし第一〇号証および被告本人尋問の結果を総合すると次の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

1  本件事故現場は長吉長原西第三住宅一〇号棟東側の歩車道の区分のないアスフアルト舗装の平坦な幅員約五メートルの道路のほぼ中央部分であり、右の団地内の道路は西から東に通じ、本件事故現場のすぐ北側でほぼ直角の鍵形に右に折れて北から南に通じ、右事故現場はその曲り角の南端から南に向かつて約七メートルの地点であり、その北側および東側にはそれぞれ自動車置場および車庫があるが、通勤時は別にして昼間は車両の通行量はごく少く、一〇ないし一五分間に一、二台であること。鍵形の道路の内(南西)側には鉄筋ブロツク建築の前記のアパートが立つているが、その北側には約六メートル、東側には約二・八メートルの入り込みがあつて、曲り角付近の見通しはかなり良いこと。

2  被告は被告車を約一五キロメートル毎時の速度で運転し、東西に通じている道路中央を東進し、曲り角を右折して南進しようとしたが、曲り角の東隅あたりに幼児が三輪車に乗つて遊んでいたので、少し速度を落として右折し終つた付近で再度約一五キロメートル毎時に速度を戻して数メートル南進したところ、被告車の下部が何かに接触した感じがあつたので、ブレーキを踏んで停車したが、その間約六メートル進行したこと。

3  原告信子は本件事故現場でござを敷き、その下にもぐつて遊んでいたところ、そのござの上を被告車が通過し、その下部中央のエンジンカバー、ガソリンタンク等が同原告の頭部と接触したこと。その際、同原告の頭部はござから外に出ていたと窺われること。

4  被告は接触するまで、三輪車に乗つている幼児のみに注意を奪われて、路上にふくらんで敷いてあるござにまつたく気付いていないこと。

5  同原告の居宅は右事故現場西横の前記アパートの五階にあるが、その母親である原告マツ子は当時自宅で家事をしており、原告信子が戸外に出たことは知つていたが、路上でござで遊んでいることは知らなかつたこと。

(二)  右事実によれば、本件事故現場は団地内の道路であるから原告信子のような幼児が路上で遊んでいることは十分予測しうることであり、前方注視を厳にしていれば、路上に敷かれ、しかもふくらんでいるござにすぐ気付き、直ちに停車して右事故の発生を回避することができたのにもかかわらず、被告は右の注意義務を怠り、曲り角東隅で三輪車に乗つている幼児のみに注意を奪われて曲り角南方の本件事故現場附近路上への注視が散漫なまま右折進行した過失により右事故を発生させたというべきであるが、同原告の母原告マツ子にも同路上は車両の通行量が閑散であるとはいえ、まつたくない訳ではないのであり、また原告信子は三歳の幼児であるから、同女が戸外に出たときは目を離さず、ことに路上にござを敷きその下にもぐるような遊びはただちにそれに気付いてやめさせるように監護すべき義務があるのにもかかわらず、不注意にもこれに気付かないで漫然放置していた点に過失があり、その過失も右事故発生の原因として寄与していると認められ、右事故は双方の過失が原因として競合して発生したものといえ、その寄与の割合は被告の過失を八とすれば、原告マツ子のそれは二とみるのが相当であり、同原告の過失は監護義務者の過失であるから被害者側の過失として原告信子の被告に対する損害賠償債権額の算定に当つても過失相殺の対象として考慮すべきものと思料される。

二  次に、請求原因(二)の事実については、成立に争いがない乙第三、八号証によれば、被告車の登録上の使用者名義は被告の父になつているが、同車は被告が営んでいる洋服仕立業の業務のため日常運転して使用し、本件事故当時もこれを運転してその下請をし、団地内に居住している古森方に右業務のために行こうとしていたことが認められるので、被告は同車を右事故当時自己のために運行の用に供していた者であるといえる。

三  そこで原告らが本件事故により被つた損害について検討する。

(一)  成立に争いがない甲第二ないし第四号証、検甲第一ないし第四号証および原告原田勝本人尋問の結果によれば、原告信子は請求原因(三)の1、2に主張のとおり本件事故により受傷し、その治療経過を経たことが認められる。

(二)  そして、その後遺症については、前掲各証拠によれば脳波検査では異常はなく、数か月に一度頭痛があり、膝が時折痛む程度で神経学的検査による所見も異常がなく特にとりたてて配慮する程の神経症状は残つていないと一応認められるが、頭頂部、前額部挫創、開放性頭蓋骨骨折の治療のために1頭頂部の頭蓋骨外板がわずかではあるが一部除去され、頭頂部に横に長さ六センチメートルの線状の縫合痕があつて、毛髪が長さ五センチメートル、幅一・二センチメートルに亘つて欠損し、さらに2前頭部から額の両側面にかけていずれも弓状に(1)左前額部のものは長さ六センチメートル、(2)右前額部のものは長さ約五・五センチメートルの線状の縫合痕があり、1の縫合痕および頭蓋骨外板の除去部分は毛髪にかくれて外観上一見しては判らないが2の(1)、(2)の縫合痕はいずれもその一部は毛髪の中にかくれているが、その生え際から額にかけての部分はかなり白ぼくなつて浮き出ており、一見してそれとして判別され、(1)のものは眉毛の少し上までその下端が及んでいるため、毛髪を垂らしてもその部分が若干人目につくことが認められる。

(三)  してみると、2の(1)、(2)の縫合痕は女子の外貌に残つた醜状痕といえ、その程度は著しいとはいえないまでも将来成長するにつれてその長さ等が拡大することなども考えられるので、普通の醜状痕よりは幾分高度なものと認めるのが相当であると思料される。

(四)  そこで右事実を前提として損害額の明細についてみてみる。

1  原告信子の損害額

本件事故の態様、原告信子の受傷、治療経過、後遺症の部位、程度その他諸般の事情をしん酌すると同原告が右事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉料は三〇〇万円が相当であると認められる。そのほかに、同原告の受傷の治療費に一三万二、三〇五円を要したことは当事者間に争いがないので、同原告の損害額は合計三一三万二、三〇五円となる。

2  原告勝、同マツ子の損害額

前掲各証拠によれば、原告勝および同マツ子は原告信子の父母であり、同原告の本件事故による受傷は最初から意識喪失こそなかつたが、頭蓋内出血の疑いやおそれがあつたかなりの重傷であり、受傷直後数日間は病状の推移は予断が許されなかつたことやいたいけない同原告に前認定のような醜状痕が残存したことなどから原告勝および同マツ子の心労はかなりのものであることは認められるが、しかしその精神的苦痛は、被害者である子が生命を害された場合にも比肩すべき、または右場合に比して著しく劣らない程度の精神的苦痛にまではいまだに至つていないので、同原告らは原告信子の受傷に伴う自己の権利としての慰藉料を被告に対して請求できない筋合であるから、その余の判断をするまでもなく、原告勝および同マツ子の被告らに対する本訴請求は、弁護士費用の請求も含めて失当であるといわざるをえない。

四  そこで叙上の認定、説示に基づき原告信子の損害額三一三万二、三〇五円につき前記一の(二)に説示の被告と同原告の親権者母マツ子の過失割合などをしん酌して過失相殺し、その二〇%を減じた二五〇万五、八四四円が原告信子の被告に対する損害賠償債権額と認めるが相当である。そして、そのうち五〇万円が填補(ただし、弁論の全趣旨によれば右金員は被告加入の自動車保険から支払われたことが認められる。)されたことは同原告の自認するところであり、さらにそのほかに同原告が被告から二三万二、三〇五円の支払を受けたことは当事者間に争いがないので弁済額は合計七三万二、三〇五円となり、これを控除すると同原告の残債権額は一七七万三、五三九円となり、本件事案の内容訴訟経過、その難易度、認容額等を勘案すると弁護士費用は一八万円が相当であると認められる。

五  以上の次第で被告は自賠法三条により原告信子に対し残債権額および弁護士費用合計金一九五万三、五三九円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五二年四月一四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるので同原告の本訴請求を右の限度で正当として認容し、その余の請求は理由がないので失当として棄却し、原告勝および同マツ子の本訴請求はいずれも全部理由がないので失当として棄却し、訴訟費用の負担および仮執行の宣言につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項、一九六条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 片岡安夫)

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