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大阪地方裁判所 昭和50年(行ウ)21号 判決 1979年7月20日

羽曳野市島泉八丁目三一五番地

原告

森下荘二郎

右訴訟代理人弁護士

杉山彬

松尾直嗣

富田林市若松町西二丁目一六九七の一

被告

富田林税務署長

近藤武市

右指定代理人

大敢

山中忠男

吉田周一

中村武雄

主文

被告が昭和四九年三月一三日付で、原告の昭和四七年分の所得税についてなした更正処分および過少申告加算税の賦課決定(ただし、異議決定により一部取消されたのちのもの)のうち、総所得金額一六七万〇、一一四円を超える部分ならびに過少申告加算税額八〇〇円を超える部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その二を原告の、その一を被告の負担とする。

事実

第一当時者双方の申立

原告は、「被告が昭和四九年三月一三日付で、原告の昭和四五年ないし昭和四七年分の所得税についてなした更正処分および過少申告加算税の賦課決定(ただし、異議決定により一部取消されたのちのもの)を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二原告の請求の原因

一  原告は、材木販売業を営む者であるが、昭和四五年ないし昭和四七年分の所得税につき被告に対し、白色申告により総所得金額を別表(一)の申告額欄記載のとおりとする確定申告をしたところ、被告は、昭和四九年三月一三日付で右総所得金額に関し同表の更正額欄記載のとおりとする更正処分および過少申告加算税の賦課決定(以下、本件更正処分という)をした。

そこで原告は、これを不服として被告に対し、異議申立をしたところ、被告は、昭和四九年七月九日付で本件更正処分の一部を取消し、同表の異議申立決定額欄記載のとおりとした。

二  しかしながら、原告の昭和四五年ないし昭和四七年分の総所得金額は確定申告のとおりであり、本件更正処分(ただし、異議決定により一部取消がなされたのちのもの。以下、同じ。)には原告の所得を過大に認定した違法があるから、その取消を求める。

第三被告の答弁

請求の原因一記載の事実は認めるが、同二記載の事実は争う。

第四被告の主張

原告の係争各年分の総所得金額およびその明細は別表(二)のA欄記載のとおりであり、所得控除の金額は、昭和四五年分については六三万五、一七八円、昭和四六年分については七三万三、五〇〇円、昭和四七年分については七六万四、〇五〇円であるから、本件更正処分に違法はない。

一  収入金額の推計

1  原告は係争各年分の所得税調査に際し、事業に関する帳簿書類等を提示しなかったため、帳簿に基づいて収入金額を算出することは不可能であったから推計を行なう必要があった。

2  そして、被告は、実額により把握した原告の仕入金額を基礎として、当初別表(三)記載の同業者の平均的差益率を適用して原告の係争各年分の収入金額を推計していたが、その差益率の数値をより合理的ならしめるために、比準同業者数(前記同業者も含む)の増加とともに個別的類似性を捨象しうる悉皆調査をなして別表(四)記載の同業者の平均的差益率をえ、これを適用して原告の係争各年分の収入金額を推計したのであるが、右推計方法は次のとおり合理性を有するものである。

すなわち、右平均的差益率算定の基礎とした同業者は、富田林税務署管内において個人で原告と同種の一般木材販売業を営む納税者のうち、本件係争各年分の所得税について被告に青色申告書を提出した者全員(但し、事業中途廃業者、不服申立もしくは訴訟係属中の者を除く)を抽出したものであって、その抽出選定の過程において被告の恣意は何ら介在していない。そして、右選定対象者を青色申告者に限定した理由は、そもそも同業者から差益率を求めるためには、各同業者の収入金額、仕入金額等について個々の具体的数値を基とすることが必要であるところ、これらの数値は、原始記録および帳簿書類に基づいて適正に作成し、提出された青色申告者の申告決算書によることがより合理的であると認められたからである。さらに、不服申立中の者を除くのは、右数値の変動可能性を除去するためであり、その合理性は顕著である。また右被選定同業者が原告と同じ富田林税務署管内の個人の納税者で、同一地域内で営業しているものであることは調査による被選定同業者の多数性とあいまって、右方法によって得られた平均値が個々の同業者の個別的差異を捨象するに足りるものであることを基礎づける。さらに、納税者の個別的営業条件のいかんは、それが当該平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度の顕著なものでない限り、これを斟酌することを要しないというべきところ、原告は同一地域で係争各年度まで四年数カ月以上営業を継続しているのであるから、原告には斟酌するに足りる個別的営業条件は認められない。

二  一般経費

昭和四五、四六年分については、昭和四七年分における収入金額に対する一般経費(減価償却費-建物以外-を除く)の割合を求め、右割合(四・六パーセント)を昭和四五、四六年分の各収入金額に乗じて当該年分の一般経費(前同)を計算し、これに各減価償却費(建物以外)を加えて算定した。

三  雇人費

昭和四七年分は原告の申立額であり、その余の年分は昭和四七年分と同額と推計したものである。

四  貸倒金

昭和四五年分は、三基建設株式会社分、昭和四七年分は佐々木工務店分である。

第五被告の主張に対する原告の答弁および反論

原告の係争各年分の各総所得金額およびその明細は別表(二)のB欄記載のとおりであり、各所得控除の金額は被告主張のとおりである。

一  収入金額の推計について

1  昭和四七年分については、三月、五月、六月、七月、分の各請求書、領収書等原始資料があり、これによるとその四カ月分の売上げ合計は九四三万四、九四六円となる。これを基礎に昭和四七年分の収入金額を推計すると、その金額は別表(二)の昭和四七年分B欄収入金額の項記載のとおりとなり、差益率は〇・一五七となる。これを昭和四五、四六年分の各仕入金額にあてはめると、各年分の収金額はそれぞれ同表の昭和四五、四六年分のB欄収入金額の項記載のとおりとなる。

2  原告は従前藤井寺市に居住し、文房具小売商を営んでいたものであるが、昭和四〇年九月頃肩書住所地に転居し、材木の小売を細々と始めたものである。しかし、周辺には古くから材木販売業を手広く営んでいる地元の専門業者が相当数存在しており、そのため原告は顧客を獲得するのに多大の困難に逢着し、零細個人業者を相手に他の業者より廉価に販売する経営を続けてきた。

しかるに、被告は原告の右営業形態を無視し、原告と異なる営業年数および実績を有する業者の差益率を適用して原告の収入金額を算出し、しかも、右差益率算出の基礎として同業者を課税処分につき不服申立をしていない者に限定しているが、原告は課税処分に不服を主張している者であって、不服のない者を不服のある者の収入金額算出についての基礎資料として選択することは誤りであるから、被告の推計方法は合理性を欠くものといわなければならない。加えるに、被告は、当初原告に類似する業者の差益率を適用するとして別表(三)記載の平均的差益率を適用していたが、その後差益率をより高率の別表(四)記載の平均的差益率に変更しているが、右変更には何の合理的根拠もないから許されるべきではない。

二  雇人費について

昭和四五、四六年分について、それぞれ吉村功の雇人費 四二万円および三五万円を認めるべきである。

三  貸倒金について

1  昭和四五年分については、池田満男(大工)に対する一〇四万九、四八七円を加算すべきである。同人はそれまで居住していた藤井寺市津堂二丁目の住所地から転居したが、転居先不明のため貸金の回収は不能となった。

2  昭和四六年分については松永敏勝(大工手伝)に対する九万四、九五〇円を認めるべきである。同人については所在不明のため回収できなかった。

3  昭和四七年分については坂本政勝(大工)に対する七二万六、五〇九円を加算すべきである。同人は同年中に倒産したため、やむなく原告は同人に対し二〇万円の支払を受けて、その残金七二万六、五〇九円の債務を免除したものである。

第六証拠関係

原告は、甲第一ないし第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇ないし第二四号証を提出し、証人林政信の証言、原告本人尋問の結果(第一、第二回)を援用し、「乙第四号証の一、二、第六、第七号証、第九ないし第一一号証の成立は認める。第八号証のうち森下荘二郎の署名捺印部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。その余の乙号証の成立は知らない。」と述べ、被告は、乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二、第五ないし第一一号証を提出し、証人仲村義哉、同坂本政勝の各証言を援用し、「甲第一号証、第一四ないし第一七号証の成立は認めるがその余の甲号証の成立は知らない。」と述べた。

理由

一  請求の原因一記載の事実については当事者間に争いがない。

二  そこで、本件更正処分には原告の所得を過大に認定した違法があるか否かについて判断する。

本件更正処分の基礎となった原告の昭和四五ないし四七年分の収入金額、仕入金額、一般経費、雇人費、貸倒金、支払利子、減価償却費(建物)の各項目について、被告の主張する金額は別表(二)のA欄記載のとおりであり、これに対する原告の主張する金額は同表B欄記載のとおりである。

(一)  収入金額について

1  推計の必要性

証人仲村義哉の証言により真正に成立したと認められる乙第八号証(原告に対する質問応答書。ただし、原告の署名捺印部分の成立については争いがない)および原告本人尋問の結果(第一回)によれば、原告の昭和四五ないし四七年分の所得税の調査に際し、原告が被告に対し会計帳簿等を提示しなかったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、被告において、原告の収入金額等を実額で把握することができなかったから、推計によってこれを算出するほかはなかったというべきである。

2  推計の合理性

被告は、当初富田林税務署管内において個人で原告と同種の一般木材販売業を営む納税者のうち、本件係争各年分の所得税について被告に青色申告書を提出した六名(ただし、事業中途廃業者、不服申立もしくは訴訟係属中の者を除く)の平均的差益率別表(三)を用いていたが、その後右差益率の主張を変更し、右同様の同業者全員一四名(前記六名の者を含む)の平均的差益率別表(四)(従前の別表(三)の差益率より高率のもの)を用いるべき旨主張する。

よって、右の点について検討するに、成立について争いがない甲第一号証、第一五ないし第一七号証、証人仲村義哉の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証、第二号証の一、二によれば、右各平均的差益率が被告主張にかかる経過で算出されたものであること、ならびに、別表(三)の平均的差益率がなかでも原告と業態の類似した同業者の差益率を基にしていることが認められ、右認定を左右する証拠はない。

右事実によれば、右各平均的差益率は、原告の収入金額を推計するものとして、いずれも一応合理性を有するものと認められるが、当初用いられた別表(三)の平均的差益率が特に原告と業態の類似した同業者のものを基礎にしている点において、別表(四)の平均的差益率に比べ、より合理性を有するものといえる。したがって、別表(三)の平均的差者率を用いて原告の収入金額を算出すべきである。

なお、原告は、原告の手許には昭和四七年分の三月、五月、六月、七月の各請求書、領収書等の原始資料があり、これを基礎に差益率を算出すると〇・一五七となるから、これを用いて原告の係争各年分の収入金額を算出すべきであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

3  収入金額

別表(三)の平均的差益率を当事者間に争いがない別表(二)記載の係争各年分の各仕入金額にあてはめると、係争各年分の各収入金額は、同表C欄の収入金額の項記載の各金額となる。

(二)  一般経費

昭和四七年分の一般経費および係争各年分の一般経費のうち減価償却費(建物以外)については別表(二)A欄記載のとおりであることについては当事者間に争いがないから、前認定の昭和四七年分の収入金額に対する一般経費(減価償却費-建物以外-を除いたもの)の割合は四・六パーセントとなる。この一般経費率を昭和四五年、四六年分についてあてはめ、右各減価償却費(建物以外)を加算すると、右係争各年分の一般経費は別表(二)C欄一般経費の項記載の各金額となる。

(三)  雇人費

昭和四七年分についての雇人費が一〇万五、〇〇〇円であることについては当事者間に争いがなく、これに基づき昭和四五、四六年分の雇人費をそれぞれ右金額と同額とした被告の推計は、特段の事情の変化も認められない本件においては妥当なものというべきである。

この点に関し、原告は、吉村功に対し賃金を支払っていたもので、昭和四五年分については四二万円、昭和四六年分については三五万円を認めるべきであると主張し、これに副うかのような原告本人尋問の結果(第一回)があるが、他にこれを補強する証拠もなく、にわかに採用し難いだけでなく、かえって、証人仲村義哉の証言により真正に成立したと認められる乙第三号証によれば、当時原告の下で吉村功が稼働してはいなかったことが窺える。

したがって、原告の右主張は容れることはできない。

(四)  貸倒金

原告は、貸倒金として、被告が主張する金額のほかに、(1) 昭和四五年分については池田満男に対する一〇四万九、四八七円を加算すべきである、(2) 昭和四五年分については松永敏勝に対する九万四、九五〇円を認めるべきである、(3) 昭和四七年分については坂本政勝に対する七二万六、五〇九円を加算すべきである、と主張するので、これらの点について判断する。

1  昭和四五年分について

原告の右主張に副うかの如き証拠として甲第二ないし第八号証(池田満男振出の約束手形七通、支払期日は昭和四三年七月二〇日から昭和四四年二月二五日までのもの)および原告本人尋問の結果(第一回)があるが、証人仲村義哉の証言および前掲乙第三号証(池田満男に対する質問てん末書)の記載に照らして採用できないものであり、かえって、右証言等によれば、池田満男が原告に対し振出した約束手形は全て決済されていることが認められる。

したがって、原告の右主張は容れることはできないから、昭和四五年分の貸倒金は被告主張のとおりとなる。

2  昭和四六年分について

回収ができないことが明らかとなった債権であっても特段の事情のない限り、債権放棄又は免除をせずに法律上の請求権を留保し、これを取立てる意思のある以上、貸倒金として必要経費に算入することはできないものと解すべきである。

これを本件についてみると、証人仲村義哉の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証(松永敏勝に対する質問てん末書)によれば、昭和四四、五年頃松永敏勝が原告より総額一二、三万円の材木を買入れ、昭和四六、七年頃にその一部を支払い、残代金九万円程について支払を猶予してもらっていたところ、その後一年程請求書が来ていたが、そのうち原告から何の請求も来なくなったことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果(第一回)は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定の事実によれば、原告が昭和四六年分の所得税の確定申告書の提出期限である昭和四七年三月一五日までに債権放棄等の損金処理をして所得申告をしたということはできないし、他に特段の事情も認められない。

したがって、原告の右主張は容れることはできないから、昭和四六年分の貸倒金は被告主張のとおりとなる。

3  昭和四七年分について

原告本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したと認められる甲第一八号証(請求書のコピー。原本が存したことも認められる)、成立に争いのない乙第七号証(坂本政勝に対する質問てん末書)、証人坂本政勝の証言、原告本人尋問の結果(第一、第二回)によれば、

(イ) 昭和四六年一一月二六日当時原告は坂本政勝に対し九二万六、五〇九円の材木売掛代金債権を有していたこと

(ロ) 坂本は建築工事請負業をしていたところ、昭和四七年頃事業に行きづまり、三〇〇万円程の赤字を出して廃業したこと

(ハ) その頃、坂本が二人の大工に対し仕事を依頼し、前渡金二〇万円を支払っていたところ、原告は坂本から、同人の右大工に対する前渡金二〇万円の返還請求権を譲り受け、これを前記売掛代金の一部に充当し、その余の七二万六、五〇九円を免除する旨申込み、坂本はこれを承諾したこと

(ニ) 坂本には、当時の借金約一五〇万円程が未だ残っていることが認められ、右認定を左右する証拠はない。

右事実によれば、昭和四七年当時坂本政勝が債務支払不能の状態に陥っていたことは明らかであり、原告において、坂本に対する材木売掛代金七二万六、五〇九円の債務免除をしているのであるから、右免除にかかる金額は貸倒金として被告主張の金額に加算されるべきである。

そうすると、昭和四七年分の貸倒金は一三二万四、二一四円となる。

(五)  総所得金額

以上の認定を基にして係争各年分の原告の総所得金額を算出すること、昭和四五年分については二一二万七、五五三円、昭和四六年分については二二〇万三、五二五円、昭和四七年分については一六七万〇、一一四円となる。

そうすると、本件更正処分のうち、昭和四五、四六年分の更正処分(これに伴う過少申告加算税賦課決定も)は正当であり、昭和四七年分についての総所得金額一六七万〇、一一四円を超える部分ならびにこれに伴う過少申告加算税賦課決定は違法たるを免れない。

三  そして、原告の昭和四七年分についての所得控除の金額が七六万四、〇五〇円であることについては当事者間に争いがないから、前叙の、原告の申告総所得金額、当裁判所の認定した原告の総所得金額に基づいて、原告の同年分の過少申告加算税額を算出すると、八〇〇円となる。

そうすると、本件更正処分のうち、昭和四七年分の過少申告加算税賦課決定については八〇〇円を超える部分が違法となる。

四  以上の次第で、主文一項掲記の範囲で原告の請求を正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九二条本文により、その三分の二を原告の、その三分の一を被告の負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判管 荻田健治郎 裁判管 井深泰夫 裁判管 市川正巳)

別表(一)

<省略>

別表(二)

<省略>

別表(三)

<省略>

別表(四)

<省略>

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