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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)5907号 判決 1977年6月03日

原告

西村繁和

ほか一名

被告

高原自動車工業株式会社

主文

被告高原自動車工業株式会社は、原告西村繁和に対し、金二四万七二二四円およびうち金二二万七二二四円に対する昭和四七年一〇月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告西村真由美に対し、金三三万一一一〇円およびうち金三〇万一一一〇円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を各支払え。

原告らの被告新純一郎に対する請求および被告高原自動車工業株式会社に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らと被告新純一郎との間に生じた分はこれを原告らの負担とし、原告らと被告高原自動車工業株式会社との間に生じた分はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その一を被告高原自動車工業株式会社の負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは各自、原告西村繁和に対し、金三一万四〇三〇円およびうち金二八万四〇三〇円に対する昭和四七年一〇月二一日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告西村真由美に対し、金三一〇万三六一五円およびうち金二八二万三六一五円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四七年一〇月二〇日午前八時三〇分頃

2  場所 大阪府堺市櫛屋町東一丁一六番地交差点

3  加害車 乗用自動車(登録番号泉五ひ七七〇〇号)

右運転者 訴外小園常明

4  被害者 原告両名

5  態様 原告西村繁和が乗用自動車(泉五五ふ五二〇)を運転して幅員約一六メートルの道路を走行中、道路左側の幅約四メートルの路地から加害車が突然とびだしてきたため衝突し、原告繁和所有車両が破損し、右車両に同乗していた原告西村真由美が負傷した。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告新純一郎は、加害車を所有し、日常自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告高原自動車工業株式会社(被告会社という)は、訴外小園常明を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

即ち、訴外小園は狭い路地から広路に出るにあたり、一旦停止して交通の安全を確認すべき義務があるのにこれを怠り、従前の速度のまま広路にでて、右方より広路を進行中であつた原告西村繁和運転車両の前方にでたもので、同人には進路前方、側方不注視、一時停止義務違反、交差点における広路優先通行権無視の過失がある。

三  損害

1  原告真由美の受傷、治療経過等

(一) 受傷

前頭部、頬部、下顎部挫創、頸部挫傷

(二) 治療経過

入院

昭和四七年一〇月二〇日から昭和四七年一一月一七日まで二九日

通院

昭和四七年一一月二八日から昭和四八年二月六日まで(実通院日数五日)

(三) 後遺症

イ 前額部に九センチメートル以上

ロ 右顔面に四センチメートル

ハ ロの上部に二・五センチメートルの各線状痕

ニ 右顔面に一・五センチメートル×一センチメートルの組織凸損

ホ 頸部に五センチメートルの縫合線状痕の各顔面醜状

2  治療関係費

(一) 治療費

原告真由美

阪堺整形外科 一万二二四〇円

市立堺病院 二五万三二九〇円

(二) 入院雑費 一万一六〇〇円

入院中一日四〇〇円の割合による二九日分

3  逸失利益

休業損害

原告は本件事故により、昭和四七年一〇月二〇日から昭和四七年一二月二八日まで休業を余儀なくされ、その間三万五三九五円の収入を失つた。

4  原告真由美は当時二〇歳で未婚であつた。この原告にとつて顔面醜状は大きな精神的苦痛となつており、これを慰藉するには金三一四万円(自賠責七級の一・五倍)が相当であり、さらに治療中のこともあわせ考えると慰藉料は三九〇万円

5  原告西村繁和の車両修理費 二八万四〇三〇円

6  弁護士費用 西村繁和 三万円

西村真由美 二八万円

四  損害の填補

原告西村真由美は次のとおり支払を受けた。

自賠責保険金 一三八万八九一〇円

五  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。ただし弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一の1ないし4は認める。

5については交差している両道路の幅員および事故車(加害車)がとびだしたとの点は争い、その余は認める。

二の1は争う。

本件事故について被告新には損害賠償責任はない。

なぜなら被告新は被告高原自動車工業株式会社に事故車(加害車)を修理のため引渡してあつたところ、同会社において修理が完了したので、小園をして納車に行かしめていた途中、本件事故となつたものであるからである。

二の2は過失の点を除き認める。

三は不知。

第四被告の主張

一  免責

本件事故は原告西村繁和の一方的過失によつて発生したものであり、訴外小園および被告会社には何ら過失がなかつたから、被告会社には損害賠償責任がない。

すなわち、原告の運転する自動車(原告車という)はPR九〇四一年式いすゞベレツトで、空車重量が九四〇キログラム(予備タイヤ、燃料等の重量を含むとそれ以上)、原告二名の着衣重量合計は一一〇キログラム、そこで、原告車の制動直前の速度(制動初速度)が時速六〇キロメートルとした場合、自動車整備振興会で用いられている制動距離と停止との関係を示す公式

によれば、二六・四メートル以下である。

S=停止距離

V=制動初速度

W=計測時の車両重量

F=各車両制動力の総和で普通乗用自動車では0.6W

Wf=自動車の回転部分相当重量で同0.05Wとされるのが一般

ところで、本件事故においては原告車完全停止予定位置の手前六・三八メートルのところで衝突している。

そうだとすると、原告車の速度は極めて低速である筈で、かゝる場合当然衝撃は小さく双方車両の損傷も人の負傷程度も軽微であらねばならない。しかるに、原告車は概ね自車の進行方向に対して右二〇度の方向に一八・四メートルも被告車をはねとばしている。これに平行四辺形の法則を参照すれば、被告車は殆んど前進力を有していなかつたことが認められる。

然るにこれに反し、原告車は大破し(甲第二号証)、被告車も修理代三七万六〇円を要する損壊を生ずる程の大衝撃が存した次第であるから、原告車の暴走はすさまじく、このことからしても制動時初速が時速六〇キロメートルであつたということはなく、それは時速七〇~八〇キロメートルにも達していたと推認され、原告繁和の右所為に原告らの損害の原因は帰せられるべきものである。

二  過失相殺

仮りに免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については原告繁和にも前記のとおりの過失があるから、原告らの損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

証拠〔略〕

理由

第一事故の発生

請求原因一の1ないし4の事実は、当事者間に争がなく、同5の事故の態様については後記第二の二で認定するとおりである。

第二責任原因

一  運行供用者責任

成立に争いのない乙第一三、第一四号証、証人小園常明の証言、被告新純一郎本人尋問の結果を総合すると、つぎの事実が認められる。

被告新は、昭和四七年一〇月一六日ころ、自己の勤務会社である堺市諏訪の森所在、大阪トヨタ自動車諏訪の森営業所において、同社従業員でフロント担当の吉川という者に修理並びに車検受けをしてもらうため、自己所有にかゝる本件加害自動車を引渡しておいたところ、同会社の扱う修理は被告会社が下請しており、そのため右諏訪の森営業所には被告会社従業員も配属されており、本件加害自動車も下請として修理および車検受けをなすため、被告会社従業員において諏訪の森営業所から被告会社に引取つて帰つた。

その後被告会社で修理し、かつ車検受けが完了し、被告会社の従業員小園常明が被告会社の指示で前記諏訪の森営業所において本件自動車を引渡すべく運転していく途中本件事故が発生した。

右事実からすれば、被告会社において右諏訪の森営業所まで車を運搬していくことまでもが被告会社が修理の下請をする際の被告会社の債務の内容となつているものと推認され、いまだ被告新においては事故発生当時本件加害自動車の運行支配、運行利益を有しておらず、従つて自賠法三条にいう自己のために本件自動車を運行の用に供していた者とみることができない。

従つて、被告新に対する本訴請求は、その余について別断に及ぶまでもなく、理由がないので、失当として棄却を免れない。

二  使用者責任

請求原因二の2の事実は、過失の点を除き当事者間に争がなく、過失の点については後記認定のとおりであるから、被告会社は民法七一五条一項により、本件事故による原告らの損害の賠償する責任がある。

(一)  即ち、成立に争いのない乙第四、乙第六、乙第一二ないし乙第一八号証に、証人小園常明の証言、原告両名本人尋問の結果を総合すると、

1 事故現場は、幅員八メートルの東西に通ずる道路と幅員三三・六メートル(もつともこのうち中央に六メートルの阪堺線軌道、その両側に一・八メートル宛の分離帯、さらにその両側に南進、北進とも一二メートル宛の車道となつている)の南北に通ずる道路が交差している交差点内であつて、右南北一二メートル宛の道路の両側に三・五メートル宛の自転車道、四・五メートル宛の歩道が併設されている。

なお右交差点は信号その他によつて交通整理が行なわれておらず、みとおしは前方はよいものの、左右はわるい、路面はコンクリート舗装され、平坦で、事故当時乾燥しており、車両走行制限速度は時速五〇キロメートルに制限されている。

2 訴外小園は、加害自動車を運転して、前記幅員八メートルの東西道路を西進してきて、本件交差点に進入する前に前記自転車道にさしかゝる手前で一旦停車して右の方を一べつしたのであるが、同所からは自転車道と南行幅員一二メートルの車道境寄りに街路樹が植えられておる外、駐車車両があつてそのみとおしは十分でなかつたが、右方からは車両が走行してきていないように思えたのでそれ以上に安全確認をなさず、時速二〇キロメートルくらいで交差点内に進入したところ、南行道路(幅員一二メートル)中央分離帯寄りを直進してきた原告車とブレーキがきく間もなく衝突した。

3 一方原告繁和においても格別減速等の措置をとることもなく制限速度(時速五〇キロメートル)を超える時速六〇キロメートルくらいのまゝで漫然本件事故発生交差点を直進通過しようとしていたため、自車左前方約二一メートル先に交差点内に進入してくる前記加害車を発見し、衝突の危険を感じすぐさまブレーキ操作をなしたが及ばず衝突したこと

が認定できる。

(二)  右認定事実によれば、前記停止した地点では前記のとおりみとおしが十分きかなかつたのであるから、さらに自転車道と原告車が走行してきた一二メートルの車道との境界線あたりまで進出したうえで一旦停車し、右方(北方)からの交通の安全を十分確認したのち発進進行すべき注意義務があつたのに、この措置を怠り、右方の安全確認が十分でない状態のままで進行した過失によつて、広路優先権のある車道を走行してきていた原告車と衝突する本件事故が発生したことは明らかである。

第三損害

1  受傷、治療経過等

成立に争いのない甲第三ないし甲第七号証、甲第一六号証、検甲第一ないし第四号証(原告真由美の傷痕部位の写真)と原告両名本人尋問の結果によれば、つぎの事実が認められる。

原告西村真由美は本件事故により、前頭部、頬部(二ケ所)、下顎部挫創、頭部挫傷の傷害を負い、昭和四七年一〇月二〇日阪堺整形外科外科病院で縫合手術をうけた後、同日から同年一一月一七日まで二九日間市立堺病院に顔面挫創、左肩胛部挫傷、頭部挫傷、左足骨折、左手中手骨々折の傷病内容で入院、さらに翌日から昭和四八年二月六日までに経過観察のため四日間同病院に通院して治療をうけた。

その結果以下の状態で治癒した。

即ち、顔面、頭部挫創瘢痕残存、この傷痕は前額部(頭髪の生えぎわ)に横に半月形の長さ九センチメートル以上の線状痕、うち中央三センチメートルが前額部に出ている。

右頬部に四センチメートル鉤型の線状痕、その上部に二・五センチメートルの線状痕、右頬部二か所の間に一センチメートル×一・五センチメートルの創部組織突出あり、頸部に四・五センチメートルの線状痕、なお頭部瘢痕の頭頂側に五センチメートル×五センチメートルくらいの広さに知覚鈍麻部がある。

2  治療関係費

(一)  治療費

成立に争いのない甲第八、第九号証によれば、原告西村真由美はその主張どおりの治療費(合計二六万五五三〇円)を要したことが認められる。

(二)  入院雑費

原告西村真由美が二九日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日四〇〇円の割合による合計一万一六〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

3  逸失利益

休業損害

原告西村真由美本人尋問の結果と成立に争いのない甲第一一号証によれば、同原告は事故当時、堺市宿院町西二丁目所在市立堺病院に看護婦として勤務していたが、本件事故により、昭和四七年一〇月二〇日から昭和四七年一二月二八日まで休業を余儀なくされ、その間少くとも同原告主張のとおり合計三万五三九五円の収入を失つたことが認められる。

4  慰藉料

本件事故の態様、原告西村真由美の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度(女子の外貌に著しい醜状を残すものとまでは認められない)年齢(昭和二七年一〇月二七日生)前額部の傷痕をなるだけ隠すためにはいつも髪を下げるように気を配るなどその他諸般の事情を考えあわせると、同原告の慰藉料額は一八〇万円とするのが相当であると認められる。

5  物損

本件事故によつて原告繁和所有車両が破損した事実は当事者間に争いがなく成立に争いのない甲第二号証によれば右修理費として二八万四〇三〇円を要することが認められる。

第四過失相殺

前記第二の二認定の事実によれば、本件事故の発生については広路通行車で優先通行権があるとはいえ原告繁和にも時速三〇ないし四〇キロメートルまで減速して交差点を通過すべき義務があるのにこれを怠つた過失が認められるところ、前記認定の訴外小園常明の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告らの損害の二割を減ずるのが相当と認められる。なお真由美については以下の理由による。

民法七二二条二項の法意は、不法行為によつて発生した損害を加害者と被害者との間において、公平に分担させるという公平の理念に基づくものであると考えられるから、右被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失、即ちいわゆる被害者側の過失をも包含するものと解される。

従って、夫が妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが、右第三者と夫との双方の過失の競合により衝突したため、傷害を蒙つた妻が右第三者に対し損害賠償を請求する場合の損害額を算定するについては、右夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情のない限り、夫の過失を被害者側の過失として斟酌することができるものと解するのが相当であり、この理は内縁の夫婦の間についても妥当するものと考える(このように解するときは、加害者が一たん被害者である妻に対して全損害を賠償した後、夫にその過失に応じた負担部分を求償するという求償関係をも一挙に解決し、紛争を一回で処理することができるという合理性もある)。

ところで、これを本件についてみるに、成立に争いのない乙第一五、乙第一八号証、原告両名本人尋問の結果、ならびに弁論の全趣旨を総合すると、事故当時原告両名は社会観念上夫婦共同生活と認められるような関係を成立させようとする合意によつて、同一住居(大阪市住吉区千躰町七七、しきしま荘三〇号室)に居住して、共同生活していたものであり(因みに両名はその後婚姻して法律上も夫婦となつた)、その生活実体は内縁の夫婦と認められる生活関係にあつたことが推認できるので、妻真由美の損害額算定にあたり、夫繁和の前記過失を被害者側の過失として斟酌し、二割の過失相殺をする。

第五損害の填補

請求原因四の事実は、原告真由美において自認するところである。

よつて原告らの前記損害額から右填補分を差引くと、残損害額は原告繁和につき二二万七二二四円、同真由美につき三〇万一一一〇円となる。

第六弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告らが被告会社に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は原告繁和は二万円、原告真由美は三万円とするのが相当であると認められる。

第七結論

よつて被告高原自動車工業株式会社は、原告西村繁和に対し、二四万七二二四円、およびうち弁護士費用を除く二二万七二二四円に対する本件不法行為の翌日である昭和四七年一〇月二一日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告西村真由美に対し、三三万一一一〇円、およびうち弁護士費用を除く三〇万一一一〇円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、原告らの被告新純一郎に対する請求および被告高原自動車工業株式会社に対するその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

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