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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)2017号 判決 1977年2月15日

原告

原公一こと厳柱逸

被告

三和交通株式会社

主文

被告は、原告に対し、金二〇一万三〇八二円およびこれに対する昭和四六年五月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その二を被告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、原告に対し、金六九五万八二二〇円およびこれに対する昭和四六年五月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四六年五月九日午前一時一五分頃

2  場所 大阪市都島区高倉町三丁目一一の一四先交差点内

3  加害車 普通乗用自動車(泉五あ七七五八号)

右運転者 訴外石川賢市

4  被害者 原告

5  態様 中舎勝己運転の車両(原告がタクシー乗客として後部座席に同乗)が車より西に向つて進行し、本件事故現場たる交差点にて右折進行していたとき、おりから北から南に向つて進行してきた石川賢市運転の車両がその前部を中舎運転車両右側部分に衝突させた。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)

被告は、加害車を所有し、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告は、タクシー業を営むものであるが、訴外石川賢市を雇用し、同人が被告の旅客運送業務の執行として加害車を運転中、左記過失により本件事故を発生させた。

訴外石川は本件交差点手前で東から右交差点に進入し、右折進行中の中舎運転の車両を認めたが、これに注意せず、又右交差点手前で一旦停止、徐行せず、制限速度四〇キロメートルをはるかに超える速度のままに通過しようとした過失がある。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷

頭部打撲、頸部捻挫、左肩関節挫傷、右前胸部挫傷、腰部捻挫、右下腿挫傷並びに挫創、左膝挫創、両眼性疲労

(二) 治療経過

入院

昭和四六年五月九日から同年同月二六日まで水野外科病院

通院

昭和四六年五月二七日から昭和四八年一月三〇日まで同病院に通院

昭和四八年一月一〇日から昭和四九年二月二七日まで高橋衣雄

昭和四六年七月頃から同年八月二五日まで平川整骨院

昭和四八年五月頃から昭和四九年三月一五日まで俊成鍼灸接骨院

昭和四六年六月三日から昭和四七年三月一六日まで田島療院

昭和四七年一月二四日から同年五月一五日まで竹尾式イオン滲透

綜合治療所

昭和四八年九月頃から柔道整復師、鍼灸師阪井文雄方に現在通院中

昭和四八年九月一七日から昭和四九年一二月二三日まで築山宗平

鍼灸師に、

昭和四八年八月一四日から昭和四九年一二月一五日まで花山温泉会館

昭和四七年四月頃から同年六月一日まで株式会社嵯峨酵素

昭和四六年一〇月二八日から昭和四七年一月一五日まで韋炳竜医院

昭和四七年六月一日から元眼科医院に、現在通院中

昭和四八年四月二一日から同年五月二〇日まで白岩温泉観光

昭和四八年二月一日から同年同月二三日まで漢医郭正吉

2  治療関係費

(一) 治療費

後記別表(一)、(二)のとおり合計二二〇万八八三〇円

(二) 通院交通費

別表(一)記載のとおり合計五万七八三〇円

別表(一)

治療費および通院交通費

(単位円)

<省略>

別表(二)

薬代、治療器機代

打撲薬を朴桂錫より購入 三万六〇〇〇円

生蝮を二宮薬品より購入 二万五〇〇〇円

むちうち治療薬を左記より購入

大阪衛材薬品株式会社より 二万三〇〇〇円

富士松工業株式会社より 四六万三五〇〇円

森本薬局より 六一〇〇円

株式会社日本理工大阪医研よりむちうち治療器購入 六万三〇〇〇円

3  逸失利益

(一) 休業損害

原告は事故当時、土木請負業山本組に勤務し、土木現場所長として一か月平均一一万九九三七円の収入を得ていたが、本件事故により、事故後丸三年休業を余儀なくされ、その間少くとも四三〇万円を下らない収入を失つた。

(二) 将来の逸失利益

原告は前記後遺障害のため、少くとも今後五年間にわたり、その労働能力を三五%喪失したものと考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利益を控除して算定すると、二一九万七七八六円となる。

(一一九九三七円×〇・三五×一二×四・三六四三)

而して右のうち金一〇九万円を請求する。

4  慰藉料 二八一万円

(右のうち後遺障害分 一三一万円)

原告は前記受傷治療のため事故発生日より昭和四六年五月二六日まで水野外科病院に入院して治療をうけ、退院後は同病院にて通院治療をうけた。

その間整骨院にて通院治療もうけたが、現在に至るも治愈せず、上腕骨頭部の諸筋付着部の損傷のため疼痛激甚の症状呈し、その他頸部、左上肢、腰部、下肢の神経刺激症状、神経麻卑症状が顕著に残つていて、現在なおはり治療や温泉療法を続けている。

このためかつて屈強であつた身体も右受傷、後遺症に悩まされ、もはや肉体的労働はおろか、精神的にも全く耐えられなくなつた。

そのため受傷前は土木請負業を営む山本組の現場所長の職にあり、また宅地建物取引業者免許を有していたので、不動産取引仲介もしていたが、右事故後は全く右職業に従事できず、また現在の症状からみて将来果してまともに稼働できるようになるのかその見通しもつかず、妻子ある身として将来の一家の生活不安は計りしれない。

5  弁護士費用 五五万円

四  損害の填補

原告は次のとおり支払を受けた。

1  自賠責保険金 二二五万八四四〇円

2  訴外天理タクシー株式会社から一八〇万円

五  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する被告の答弁

一の1ないし5は認める。

二の1は認める。

二の2は過失の点を除き認める。

三は本件事故により原告が受傷したことは認めるが、損害の部位、程度の詳細は不知。後遺症の程度についても争う。

原告は多額の治療関係費を主張しているが、その全てが本件事故と相当因果関係があるかどうか疑わしく、多額の休業損害、将来の逸失利益、慰藉料を主張し、その基礎として後遺症九級を主張しているようであるが、これも否認する。

原告の治療については、事故翌年の昭和四七年一一月四日症状固定の診断がなされており、後遺症の程度についても自賠責一一級の認定が査定事務所においてなされているようである。

さらに鑑定結果によれば、原告の症状について、(一)左椎骨動脈血流不全の疑いと、(二)頸部レントゲン線像における異常所見以外には全く異常がないことが判明した。

而して、右(一)の症状についても結局異常所見として取り上げ難いこと(二)の症状についても「頸椎症そのものは原則として外傷に起因するものではないから、原告が受傷前から有していたと思われる。」

「この骨化像は過去の外傷の既往をかなりの確率で肯定するものであり、現在の愁訴を説明しうるものではないということを明らかにしておく。」

「原告は基本的に精神的な面に問題があり、身体的な異常に普通以上に大きな関心をもち、逃避的、萎縮的な傾向がこれに拍車をかけていると思われる。これが症状が遷延し、現在に至るも愁訴が絶えず、かつ医学的に不合理な愁訴を形成している大きな原因であると思われる」と診断せられ、結果「原告の後遺症は第一二級、労働には通常差支えないが、医学的に証明しうる精神、神経障害を残すものに該当するとするのが妥当である」とされている。

第四被告の主張

損害の填補

本件事故による損害については、原告が自認している分を含め、次のとおり損害の填補がなされている。

1  訴外東京海上、富士火災よりそれぞれ自賠責保険金一二五万円宛、合計二五〇万円

2  訴外天理タクシー株式会社から三〇五万三〇八四円

証拠〔略〕

理由

第一事故の発生

請求原因一の1ないし5の事実は、当事者間に争いがない。

第二責任原因

一  運行供用者責任

請求原因二の1の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告は自動車損害賠償保障法三条により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

第三損害

1  受傷、治療経過等

原告本人尋問の結果によつて、いずれも真正に成立したものと認められる甲第二、第三、第五、第七、第八、第九号証によれば、原告は、本件事故により、

1頭部打撲、2頸部捻挫、3左肩関節部挫傷、4右前胸部挫傷、5腰部捻挫、6右下腿挫傷並びに挫創、7左膝挫創の傷害をうけ、

このうち、1、6、7は軽症、

2は側頸筋緊張亢進、頸椎運動軽度不安定、左上肢筋力低下を伴う。

3は肩関節周囲圧痛、

4は左第五、六、七肋骨圧痛、

5は傍腰椎筋圧痛、運動痛あり

ということで、事故当日たる昭和四六年五月九日より同月二六日まで水野外科病院に入院、さらに翌日たる昭和四六年五月二七日から同病院に通院して治療を受けたこと、而して通院実治療二三一日の後、昭和四七年一一月四日症状固定と診断され、後遺症としては以下のような症状が固定した旨の記載がある事実即ち、

(一)  自覚症状としては、頸部痛、痛みを伴なう肩こり、左上肢のしびれ、筋力低下、左肩運動制限並びに運動痛、左下肢の筋力低下、

(二)  他覚症状、検査結果としては、

頸部、左上肢については、頸椎には運動制限(但し、いずれも左、自動………前屈136度。後屈121度。右側屈112度。左側屈120度。右回旋61度、左回旋52度)と運動痛あり、第四、五頸椎棘突起に圧痛、左側頸筋、左項部筋、左肩甲部筋には緊張亢進を明瞭に触れ、圧痛がある。

左肩甲上神経、左上腕神経叢、撓骨神経、正中神経、尺骨神経にそれぞれ圧痛あり。

上肢筋萎縮、筋力低下(肩関節いずれも自動………左前挙4、側挙4、後挙4、内旋4、外旋4、肘関節屈曲4、伸展3、手関節 背屈4、掌屈4、前腕 回内4、回外4、右は以上いずれも5)、知覚障害あり。

上腕周径 左24.5センチメートル、右25.5センチメートル

前腕周径 左24.8センチメートル、右26センチメートル

以上のように明らかに左神経根症状を呈している。

左肩運動制限(他動左前挙135度、側挙100度、後挙40度、内旋80度、外旋5度)あり、運動痛を伴ない、上腕骨大結筋部、上腕二頭筋長頭腱部、三角筋部に圧痛あり。関節造影で大結筋部の関節のう、不規則像(損傷像)を認める。

腰部、下肢

腰椎運動は略平滑で制限は殆んどないか、左下肢に筋萎縮、筋力低下(下肢筋力………いずれも自動左………股関節伸展3、屈曲4、内転4、外転5、内旋4、外旋3、膝関節 屈曲4、伸展3、足関節 背屈4、底屈4、足指 背屈4、底屈4、右自動は以上いずれも5)

知覚障害あり。

殊に筋力低下の存在は重大である。

なお大腿周径 左45、右45.5、下腿周径 左35.2、右35.4(いずれもセンチメートル)

而して、右内容の後遺障害の程度については診断をした医師圓井一示氏は左肩障害については上腕骨頭部の諸筋付着部の損傷ゆえ疼痛激甚。

手術的療法でも全治は困難で疼痛は恒存するもので一〇級九号該当。

頸部、左上肢については、神経刺戟症状(運動制限、筋および神経圧痛)と神経麻卑症状(筋力低下、知覚障害、筋萎縮)が明瞭に臨床的に証明され、かつ明らかに根性で非恢復性とみられる以上九級一四号該当。

腰部、下肢については、

明らかに神経刺戟症状と麻卑症状の混在を臨床的に証明しており、中でも神経障害による筋力低下、知覚障害が存続していることが医学的に最も重大である。

このため立業的職務には就労困難で、最も妥当な等級としては一〇級相当というべきであろうが、神経障害にはこの等級に直接該当するものがないので、一二級相当と申述べるしかないとの意見が付されている事実がそれぞれひとまず認められるところである。

また昭和五〇年三月一八日施行された原告本人尋問のおりに、原告は当時の後遺症について、後頭部から後首にかけ、針金が入つているように重たい感じがし、首から右肩、腰から膝にかけ、しびれ、左膝がはれる。

両足の甲がしびれ、右手もしびれて上にあがらない。

左手は辛抱すればあげられる。さらに水野外科で症状固定と診断された昭和四七年一一月ころと右原告本人尋問時と較べて余り変らない。気分的に現在の方が一寸まし、左手が全く上らなかつたのが上るようになつている。

しかし右手はよくなつていない。上らなくなつているし、余り変らない。

色々の治療も結果的には余り効いていないということになると供述している。

しかしながらこれらは、鑑定人である大阪大学医学部付属病院特殊救急部医師田原一郎において、昭和五一年四月一六日から同年五月一三日まで原告に対し診察と検査を行なつた結果、原告には右時点においても、なお頭痛、眼痛、眼性疲労、悪心、耳鳴、難聴、耳閉塞感、頸部痛、項部痛、肩痛、肩こり、背部痛、右上肢痛、脱力、腰痛、睡眠障害、易疲労性、記銘障害、根気なさ等の多彩な愁訴あり、これらは天候等の気象条件によりかなりその強さに変化があると述べていた。そこで鑑定人において、諸科の協力を得て各科の診察と検査を行なつたところでは、

イ 整形外科所見

知覚障害、特に痛覚鈍麻を顔面を含め、体全体に訴えるが、その分布は医学的に全く非合理的であり、脳神経症状も認められない。

頸部、肩腕の疼痛や頭部愁訴あるいは右側頸筋の緊張あり、これらの運動に際して疼痛を訴えるが、運動制限は客観的に確認し難く、筋緊張をとるように指示すると動く。衣服の着脱時にも円滑に動く。また巧緻性などは全く正常である。椎骨症状も全く認められない。

胸、腰部は変形なく運動障害もない。圧痛なし。

握力の左右差があるが、上肢の萎縮なく、上肢周径は相等しい。

頸椎レントゲン線像にて骨折、脱臼の所見なく、頸椎症の所見も殆んど認められない。

第四、六頸椎後面に後縦鞭帯の骨化像を認める。

ロ 耳鼻咽喉科所見

聴力障害なく、平衡機能検査でも中枢性、末梢性ともに異常なし。

耳鼻科的には問題なし。

ハ 眼科所見

視野、調節力、眼圧ともに異常なし。眼圧に著変なく眼科的には正常。

ニ 精神々経科所見

超音波血流検査で左側椎骨動脈血流不全の疑いがある。反応性も悪い。

右側椎骨動脈、両側頸動脈は正常範囲。

精神医学的には、自分に苦手で困難な事柄には正面から解決する意欲、努力を欠き、逃避的、萎縮的態度をとる。

そして抑うつ的で意欲性、活発性の低下した状態を示しているが、本来想像力が乏しいこと。小心、怠惰で積極性の乏しい回避的傾向が影響していると思われる。心気症的傾向も示されている。

ホ 放射線科所見

頭蓋骨には全撮影とも著変はみられない。

頸椎に頸椎症を認める。

異所性の骨増殖など骨癒合像あり、年齢性の変化と思われる。

第四、第六頸椎後面の骨化像は病的とは考えられない。以上の所見を基に綜合的に診断してみるとき、その愁訴が極めて多彩であるが、それらの愁訴が医学的に系統的なものが少なく、他覚的所見と一致しないものが多いなど医学的に極めて不合理なのが特徴的である。

身体的な面からは超音波血流検査における左椎骨動脈血流不全の疑いと頸椎レ線像における異常所見が問題であるが、左椎骨動脈血流不全の疑いについては本検査法による正常、異常の区別がかなりの頻度において、偽陽性あるいは偽陰性の所見を呈しやすいこと、実際に原告が臨床的な検査で椎骨動脈症状を呈していない点から異常所見としてはとり上げ難い。頸部レ線像における頸椎症の存在と第四、第六頸椎後面における後縦鞭帯の骨化像についてみるに頸椎症そのものは原則として外傷に起因するものではないから原告において本件受傷前から有していたと思われる。右骨化像は必ずしも病的とはいえないが、外傷に起因する鞭帯の損傷を強く疑わせる。しかしこれが今回の外傷に起因するか否かは断定できないが、以前に大きな頸部への外傷の既往がないとするとその因果関係を認めざるを得ない。ただし、この骨化像は過去の外傷の既往をかなりの確率で肯定するものであり、現在の愁訴を説明しうるものではない。

換言すれば、この骨化そのものによつて頸部への自覚的、他覚的変化を起こすものではない。

このように原告に認められる身体的な唯一の他覚的所見としては頸椎症の存在である。

ところで現在の頸部を主とする愁訴が本来頸椎症に由来するものか、あるいは本件外傷がなければ愁訴が出現しなかつたか否かの分析は不可能である。

この程度の頸椎症が存在すればある程度の愁訴が存在しても不思議ではないが、逆に殆んど愁訴のない場合もあり得るので原告が本件事故当時全く健康であつたとすれば、頸椎症によつて痛みを主とする多彩な愁訴が遷延持続していることは事実としても、やはり外傷の加わつた事実を重視せざるを得ないであろうこと。

さらに、本件の場合、基本的には精神的な面に問題があり、身体的な異常に普通以上に大きな関心をもち、逃避的萎縮的な傾向がこれに拍車をかけていると思われ、これが症状が遷延し、現在に至るも愁訴が絶えず、かつ医学的に不合理な愁訴を形成している大きな原因であると思われる。

以上により、その程度を労災後遺障害等級にあてはめれば第一二級程度、労働には通常差支えないが、医学的に証明しうる精神、神経障害を残すものに該当するとの鑑定結果に徴してみるとき、たやすく全幅の信を措き難く、結局右鑑定結果のとおり原告の本件受傷による後遺障害の内容、程度は前記一二級程度と認められる。

なお原告本人尋問の結果およびこれによつていずれも真正に成立したものと認められる括弧内の各甲号証によると、原告は水野外科以外にもつぎのとおり加療していることが認められる。

イ  平川整骨院、平川清に昭和四六年八月中に七回(甲第一二号証による)

ロ  指圧整体、田島療院に昭和四六年六月三日から昭和四七年三月一六日までに二九回(甲第一四号証による)

ハ  俊成鍼灸接骨院、俊成昭郎に一一〇回(甲第一三号証による)

ニ  柔道整復、鍼灸師阪井文雄方に昭和四六年九月一日から同年一〇月六日までに一四回(甲第一六号証の一ないし一四による)

ホ  竹尾式イオン滲透綜合治療所に昭和四七年一月二四日から三月一六日までに四回(甲第一五号証による)

ヘ  昭和四七年四月から六月にかけて株式会社嵯峨酵素に(ぬか風呂)(甲第一九号証による)

ト  整骨治療、高橋衣雄方に昭和四八年中に七〇回(甲第一一号証による)

チ  鍼灸師築山宗平方に昭和四八年九月一七日から昭和四九年二月一三日までに五回(すいたま療法)(甲第一七号証による)

リ  和歌山市内花山温泉会館に昭和四八年八月一四日から昭和四九年二月一一日までに三五回(甲第一八号証による)

ヌ  昭和四六年一〇月二八日から一二月五日までと翌四七年一月二日から一五日にかけて韋炳竜漢医院にて打撲薬投与と鍼治療(甲第二〇号証による)

ル  昭和四八年四月二一日から五月二〇日にかけて大韓民国内白巌温泉観光に三〇日(甲第二二号証による)

ヲ  昭和四八年二月ころから大韓民国内漢医郭正方にて、金針、注射(甲第二三号証による)

ワ  昭和四七年六月から昭和四九年一月まで元眼科医院に(甲第二一号証による)

2 治療関係費

(一)  治療費

原告本人尋問の結果およびこれによつてその成立を認めうる前記治療経過の個所に掲記の各括弧内の甲号証によると、

イ  平川整骨に一万五〇〇円

ロ  田島療院に二万九五〇〇円

ハ  俊成整骨に五万五〇〇〇円

ニ  阪井文雄に一万六八〇〇円

ホ  竹尾式イオンに四三〇〇円

ヘ  嵯峨酵素に一万七〇〇〇円

ト  高橋衣雄に一〇万五〇〇〇円

チ  築山宗平に三八〇〇円

リ  花山温泉に一万七五〇〇円

ヌ  韋炳竜医院に八万九五〇〇円

ル  白巌温泉に一四万四〇〇〇円

(うち宿泊料 九万円 食事 五万四〇〇〇円)

ヲ  郭正に一二万五〇〇〇円

ワ  元医院に六三二〇円

さらに原告本人尋問の結果とこれによつて真正に成立したものと認めることができる甲第一〇号証によると、

カ  水野外科病院に

昭和四六年五月九日から昭和四七年一〇月三一日までに一〇三万二九三〇円

同年一一月一日から昭和四八年一月末までに一万九〇八〇円の各治療のための費用を支弁していることが認められるところ、これらのうち、白巌温泉滞在中の食事代五万四〇〇〇円についてはにわかにその相当性を肯定し難いが、その他は受傷原因即ち事故発生自体には原告に責むべき事由なく、受治療態度についても、原告本人尋問の結果によれば、医者は半年以上入院しなければといつたが、仕事のことを含め、自分の側の都合で無理に退院したと述べている点から、症状遷延につき若干問題がないわけではないが、治療内容そのものには重複、過剰診療とみられるものもないこと。また後遺障害の内容からみて、症状固定後の対症治療もある程度これを認める必要があること等の事情を考慮し、原告本人尋問の結果によると鍼と温泉治療については医師の指示があつたとのことであるが、上記、五万四〇〇〇円を除いては全て(即ち一六二万二二三〇円につき)本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

さらに薬代等として、

ヨ  薬師朴柱錫より昭和四八年一一月より昭和四九年三月までの分として打撲薬購入費 五万四〇〇〇円(甲第二四号証による………以下括弧内の甲号証はいずれも原告本人尋問の結果によつて成立を認める)

タ  昭和四七年六月一二日に千葉県習志野市内、富士松工業株式会社からふるえ、まひ、関節痛のための漢薬剤九か月分として二八万三五〇〇円(甲第二七号証による)

レ  富田林市内、森本薬局から黄れん、白しやくやく、ばしよう根購入費 四五〇〇円(甲第二八号証の一ないし四による)

ソ  昭和四八年九月に大阪市都島区、二宮薬品株式会社から生蝮一〇本、二万五〇〇〇円(甲第二五号証による)

ツ  昭和四七年五月一日に摂津市、大阪衛材薬局株式会社に二万五〇〇〇円(甲第二六号証による)

ネ  昭和四八年一月二七日に電子治療器、温熱アンポを株式会社日本理工大阪医研より六万三〇〇〇円で購入(甲第四五号証による)を支払つていることが認められるところこのうち生蝮代 二万五〇〇〇円と、大阪衛材薬局関係の二万五〇〇〇円(これについては購入物の内容が明らかでないため)についてはいずれも本件事故との間に相当因果関係を認め難いが、その他は全て本件事故による損害と認める。そうすると以上の治療費損害合計は二〇二万七二三〇円となる。

(二) 通院交通費

原告本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、原告は前記平川整骨院、高橋衣雄、俊成鍼灸、田島治療院、竹尾式イオン、阪井文雄、築山治療院へ各通院のためそれぞれ原告主張のとおりの通院交通費(但し平川整骨院については一八〇円の七日分のみ合計三万九二九〇円)を要したことが認められる。右金額を超える分についてはこれを認めるに足る証拠がない。

3 逸失利益

(一)  休業損害

証人 山本高明こと崔玉渕の証言

原告本人尋問の結果およびこれらによつて真正に成立したものと認められる甲第二九号証によれば、原告は事故当時大阪市旭区所在の土建業山本組こと崔玉渕方において土木工事の現場監督として、一か月平均二四日程度稼働し、日給五〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和四六年五月九日から少くとも症状固定と診断された昭和四七年一一月四日までは全く休業を余儀なくされ、その間合計二一四万八〇〇〇円の収入を失つたことが認められる。(日給 五〇〇〇円×休業月数一七、九か月×月当り稼働日数二四日=二一四万八〇〇〇円)

なお原告本人尋問の結果によれば、右山本組での収入の他にも会社役員や宅地建物取引業等を兼務していて総額で月三〇万ないし四〇万円の収入を得ていた旨を供述するが、単に右供述以外にその信用性の裏付けとなる具体的資料もないのでにわかにこれを採用することはできない。

(二)  将来の逸失利益

原告本人尋問の結果および前記認定の受傷並びに鑑定人田原一郎による鑑定の結果から認めうる後遺障害の部位程度(証人田頭実の証言および弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、二によれば自賠責査定の関係では頸部に頑固な神経症状を残す(一二級一二号)と造影により受傷像が認められるとして左肩関節に機能障害を残す(一二級六号)(左肩関節 前方挙上 自動一八〇度、他動一三五度、側方挙上 自動一八〇度、他動一〇〇度)を認め、併号繰上げ処理の結果一一級を認定しているが、前記鑑定の結果からみて、労働能力喪失の観点からは一二級程度とみるのが相当である)によれば、原告は前記後遺障害のため、昭和四七年一一月五日から少くとも四年間、その労働能力を一四%喪失するものと認められるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、七一万八五六二円となる。

(月額 一二万円×一二×〇・一四×三・五六四三=七一八五六二円)

これを超える分については前記鑑定の結果からしても最早や本件事故による受傷との相当因果関係を認め難い。

4 慰藉料

成立に争いのない甲第三二ないし第三七号証によつて認めうる訴外石川賢市運転にかゝる天理タクシーの車と中舎運転にかゝる被告会社の車(いずれも小型乗用自動車)が共に車道幅員八・一メートルの進路左右に人家があつて、互いに見とおしのきかない交差点を通過するにあたり徐行せず、それぞれ時速約五〇キロメートルくらいで交差点内に進入したため、交差点内で出合頭に衝突し、天理タクシーの乗客で後部座席に乗つていた原告が負傷したという本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、年齢、その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は一二〇万円とするのが相当であると認められる。

第四損害の填補

証人田頭実の証言およびこれと弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、二、乙第五号証の一、二によれば原告は訴外天理タクシー株式会社と被告会社加入の各自賠責保険からそれぞれ一二五万円宛(合計金二五〇万円)を受領していることが認められ、さらにこれとは別に右天理タクシーから一八〇万円の支払を受けていることは原告が自認するところである。

これを超える金額についてはその事実を認めるに足る証拠がない。

よつて原告の前記損害額六一三万三〇八二円から右填補分四三〇万円を差引くと、残損害額は一八三万三〇八二円となる。

第五弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一八万円とするのが相当であると認められる。

第六結論

よつて被告は、原告に対し、二〇一万三〇八二円、およびこれに対する本件不法行為の日である昭和四六年五月九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

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