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大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)3336号 判決 1974年10月29日

原告

森永虎雄

被告

平山清志

ほか三名

主文

被告らは各自、原告に対し、金四、九九一、六一三円およびうち金四、六九一、六一三円に対する昭和四五年一一月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは、各自、原告に対し、金六、五二一、七六三円およびうち金六、二二一、七六三円に対する昭和四五年一一月一八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二  請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四五年一一月一七日午前一〇時三〇分頃

2  場所 大阪市東成区深江北二の八の二番地先交差点(以下本件交差点という)

3  加害車 大型貨物自動車(無登録)

右運転者 被告平山清志(以下被告清志という)

4  被害者 原告

5  態様 本件交差点において、南進中の加害車と、西進中の被害者運転の普通貨物自動車(以下被害車という)とが衝突した。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告会社は、加害車を所有し、かつ、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、被告清志を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、後記過失により本件事故を発生させた。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告清志は、本件交差点を赤信号を無視して進行した過失により、本件事故を発生させた。

4  代理監督者責任(民法七一五条二項)

被告博志、同繁子は、夫婦であり被告清志の両親であるところ、従業員数名の零細企業である被告会社を共同して経営し、被告清志ら従業員を現実に指揮、監督していたから、代理監督者として民法七一五条二項にもとづく責任を負う。

三  損害

1  受傷、治療経過等

原告は、本件事故により頭部打撲傷、頸部捻挫、右肘部打撲傷、右肩、背部、左大腿部打撲傷等の傷害を受け、その治療のため九九日間入院し、七四日間通院した。

後遺症

神経系統の機能に障害を残し、服することのできる労務が相当程度に制限されている。

2  逸失利益

(一) 休業損害 三、二二五、〇〇〇円

原告は事故当時四九才で、繊維加工業を経営し、一か月平均一五〇、〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和四五年一一月一七日から昭和四七年九月二日まで二一・五か月間休業を余儀なくされ、その間三、二二五、〇〇〇円の収入を失つた。

(二) 将来の逸失利益 三、一四一、七六三円

原告は前記後遺障害のため、その労働能力を昭和四七年九月三日から六年間三五%喪失したものであるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、三、一四一、七六三円となる。

3  慰藉料 一、九一〇、〇〇〇円

4  弁護士費用 三〇〇、〇〇〇円

四  損害の填補

原告は政府の自動車損害賠償保障事業から二、〇八〇、〇〇〇円の支払を受けた。

五  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。ただし、弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

第三  請求原因に対する被告らの答弁

一の1ないし5は認める。

二の1ないし4は争う。

三は不知。

第四  被告博志、同繁子、被告会社の主張

(過失相殺)

本件事故の発生については原告にも過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

第五 被告博志、同繁子、被告会社の主張に対する原告の答弁争う。

理由

第一事故発生

請求原因一の1ないし5の事実は、当事者間に争がない。

第二責任原因

一  運行供用者責任

〔証拠略〕によれば、被告会社は、建築資材販売業を営んでいたところ、被告博志所有にかかる加害車を商品運搬用車両として日常業務用に使用し、自己のために運行の用に供していたことが認められる。従つて、被告会社は自賠法三条により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

二  一般不法行為責任

〔証拠略〕によれば、被告博志は、加害車を運転して北から南に向け進行し、信号機による交通整理の行なわれている本件交差点にさしかかつたが、自己の進行方向にある信号機が赤を表示しているのにかかわらず、これを無視して右交差点に進入したため、折から、同交差点を東から西に向け通過しようとしていた被害車の右側部に、加害車の前部を衝突させたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定の事実によれば、道路を通行する車両の運転者は、信号機の表示する信号に従つて進行すべき注意義務があるのにかかわらず、被告清志は、自己の進行方向にある信号機が赤を表示しているのを無視して本件交差点に進入した過失により、本件事故を発生させたものと認められる。

他方、原告は、その進行方向にある信号機が青を表示しているのに従つて本件交差点を通過しようとしたものであつて、過失相殺の対象とすべき過失は本件証拠上認められないから、前記過失相殺の主張は理由がない。

三  代理監督者責任

〔証拠略〕を総合すれば、本件事故は、被告会社の従業員であつた被告清志が、被告会社の業務の執行中に発生させたものであること、被告会社は、昭和三九年ころ、被告博志、同繁子により、花月商事株式会社の同号で各種建築材料の販売を目的として資本金三、〇〇〇、〇〇〇円で設立されたこと、右被告らは右設立当時から夫婦として肩書地に同居しており、被告会社の営業所も右被告らの住居と同一場所であること、右設立当初は被告博志が代表取締役であつたが、その後被告会社が不渡手形を出して銀行取引が困難になつたため、昭和四三年五月被告会社の商号を豊栄商事株式会社に変更したうえ、代表取締役には被告博志に代つて被告繁子が就任したこと、本件事故後代表取締役は、再び被告繁子から被告博志に変更されたこと、本件事故当時、被告会社の業務に従事していた者は、被告ら夫婦のほか息子の被告清志や、住込みの従業員二名と日雇いの使用人数名に過ぎず被告博志、同繁子は被告会社の日常の業務を全般にわたり直接指揮監督し、これを統括していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、本件事故当時被告繁子は被告会社の代表取締役として、被告博志は被告会社の実質上の共同経営者として被告会社の経営に参画し、ともに被告会社の業務全般にわたり直接指揮監督していたものであるから、民法七一五条二項の代理監督者として本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  受傷、治療経過等

〔証拠略〕によれば、請求原因三―記載の受傷の事実が認められまた同受傷の治療のために、済生会御所病院ほか二ケ所の病院に合計一〇〇日間入院し、右病院に合計七四日間通院したことが認められ、かつ後遺症として右肩、右上腕痛、右肩関節の運動痛、運動制限、右上肢および右下肢のしびれ感と倦怠感、筋力低下、右手指巧緻運動障害、頸椎の運動制限等の症状が固定(昭和四七年九月二日頃固定)したことが認められる。

2  逸失利益

(一) 休業損害 二、四一七、一三七円

〔証拠略〕によれば、原告は事故当時四九才で、繊維加工業を経営していたが、本件事故により、少なくとも昭和四五年一一月一七日から昭和四七年九月二日までの二一・五ケ月間休業を余儀なくされたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、原告は、右営業による月平均一五万円の収入があつた旨主張するが、右主張を認めるに足りる客観的な証拠はない。そこで同人の収入額は、他の資料によつて認定すべきところ、同人は少なくとも労働省労働統計調査部発表の昭和四五年度賃金センサス第一巻第一表の同人と同年令の男子労働者産業計企業規模計学歴計の平均収入統計によつて認められる平均月収一一二、四二五円(平均年収一、三四九、一〇〇円を一二で除した金額)を下らない収入はあげることができたものと推認するのが相当である。

そこで、原告は前記休業期間に二、四一七、一三七円の収入を失つた。

算式 一一二、四二五×二一・五=二、四一七、一三七

(二) 将来の逸失利益 二、三五四、四七六円

右に認定した原告の年令、職種および前記認定の受傷並びに後遺障害の部位程度によれば、原告は前記後遺障害のため、昭和四七年九月三日から少くとも六年間、その労働能力を三五%喪失するものと認められるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると。

二、三五四、四七六円となる。

算式 一一二、四二五×一二×〇・三四×五・一三三=二、三五四、四七六

3 慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、原告の年令その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は二、〇〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

第四損害の填補

請求原因四の事実は、原告の自認するところである。よつて原告の前記損害額から右填補分二、〇八〇、〇〇〇円を差引くと、損害額は四、六九一、六一三円となる。

第五弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は三〇〇、〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

第六結論

よつて被告らは各自、原告に対し、四、九九一、六一三円、およびうち弁護士費用を除く四、六九一、六一三円に対する本件不法行為の後である昭和四五年一一月一八日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村正策 二井矢敏朗 柳田幸三)

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