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大阪地方裁判所 昭和47年(行ウ)85号 判決 1976年9月30日

大阪市阿倍野区阿倍野元町一七番二号

原告

興亜コンクリート工業株式会社

右代表者代表取締役

石井秋平

右訴訟代理人弁護士

藤原光一

池尾隆良

高階貞男

大阪市阿倍野区三明町二丁目一〇番地

被告

阿倍野税務署長

後藤兼道

右指定代理人

服部勝彦

外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

(原告)

1  被告が、昭和四六年一月二一日付で原告に対してなした、原告の昭和四四年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という)分の法人税につき所得金額を四八、六二一、一九八円、法人税額を一六、四三六、一〇〇円とする旨の更正処分(以下本件更正処分という)のうち所得金額二二、〇三五、〇〇〇円、法人税額七、七一二、二〇〇円の部分、および過少申告加算税三一二、二〇〇円、重加算税二、三一三、六〇〇円の賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨

第二当事者双方の陳述

一  原告は、コンクリート製品の製造販売を目的とする会社であるが、昭和四五年二月二八日、被告に対し、本件事業年度分の法人税につき、所得金額を八、七四五、七九九円とする確定申告をなしたところ、被告は昭和四六年一月二一日原告に対し本件更正処分および過少申告加算税三一二、二〇〇円、重加算税二、三一三、六〇〇円の賦課決定処分をなした。原告は、これを不服として同年三月一九日国税不服審判所長に対し審査請求をなしたところ、同所長は、昭和四七年七月六日審査請求を棄却する旨の裁決をなした。

二  しかし、本件更正処分は原告の所得を過大に認定した違法があり、また本件重加算税賦課決定処分は法定の要件を欠き違法である。

三  よって原告は被告に対し、本件更正処分のうち所得金額二二、〇三五、〇〇〇円、法人税額七、七一二、二〇〇円の部分および本件過少申告加算税、重加算税の賦課決定処分の取消を求める。

(被告の答弁および主張)

一  請求原因一項の事実は認め、二項は否認する。

二  所得金額について

原告の本件事業年度の法人税についての申告は別紙所得計算表A欄記載のとおりであるが、原告の本件事業年度の所得金額は同表B欄のとおり四八、七四四、六〇二円であり、これは同表A欄の原告の申告に対し、同表(7)及至(10)を加算し、同表(5)を減額したものである。

1  雑損失否認 二一、七一五、〇〇〇円

(1) 原告は、昭和三九年一〇月二二日、訴外木下産商株式会社(昭和四〇年四月一日三井物産株式会社に吸収合併)(以下訴外会社という)との間で、訴外会社からコンクリート二次製品製造プラント(以下本件プラントという)を、代金七七、〇〇〇、〇〇〇円で買受ける旨の契約をなした。ところが原告は、昭和四四年一〇月一七日、本件プラントのうち別紙物件目録記載の二二、〇三五、〇〇〇円相当の物件(以下本件係争物件という)を他に三二〇、〇〇〇円で売却したのでその差額二一、七一五、〇〇〇円の雑損失が生じたとしてそれを損失に計上している。

(2) しかし原告が本件係争物件を他に売却した事実はない。このことは以下の事由により明らかである。

(イ) 原告と訴外会社との売買契約では、本件プラントの所有権は、原告が代金を完済したときに原告へ移転し機械の引渡し以降代金完済までは無償で使用収益させるため原告に貸与する旨定められている。そして昭和四五年三月一六日に原告と訴外会社との間に成立した契約条件の変更契約では、本契約により契約金額が確定し受渡しが完了したとされている。これらの事実からすれば、右同日、代金が完済され本件プラントの所有権が原告に移転したものといわねばならない。そうすれば、原告が本件係争物件を売却したと主張する昭和四四年一〇月一七日当時はもちろん本件事業年度の決算確定日においてすら本件プラントの所有権は原告に移転しておらず、したがって原告が本件係争物件を他に売却したとは認めがたい。

(ロ) 原告の金銭出納簿には、売却代金三二〇、〇〇〇円の現金入金の記帳がない。昭和四四年一〇月三一日の振替伝票では大隅組に外注費として金三二〇、〇〇〇円を現金で支払ったことになっているが、これは前記入金に対応してつじつまを合わせるための処理である。また原告の帳簿上売却先が明らかでない。

(ハ) 原告は、本件係争物件の売却先につき、当初国税不服審判所長に対し、松本鉄工株式会社である旨主張していたが、後になり松本鉄工株式会社の代表者松本正である旨変更している。

(ニ) 売却したとする本件係争物件には、原告が使用中のものと使用不能で原告が保管中のものとがあったが、原告の確定申告書添付の決算明細書には、台風被害にて使用不能スクラップ値と記載されている。

2  架空外註費 三二〇、〇〇〇円

原告は、昭和四四年一〇月三一日、大隅組に対し、外註費として、金三二〇、〇〇〇円を支払ったとしている。

しかし、右外註の事実はなく、前2(ロ)記載のとおり本件係争物件の売却代金入金のつじつまを合わせるため仮空の振替伝票を作成したものである。

3  売上計上洩 一二、四六七、二八三円

本件係争年度中に出荷された桜井建設株式会社に対する二、八六一、四〇〇円、尼崎コークス工業株式会社に対する一、〇三五、三八〇円、中筋建工株式会社に対する八三六、六一〇円、大阪市水道局に対する七〇〇、〇〇〇円、徳島第一株式会社に対する一一二、三二七円および株式会社富士コンクリート工業所に対する六、九二一、五六六円合計一二、四六七、二八三円の売上金があるにもかかわらず計上されていない。

4  棚卸計上洩 五、五八四、一八一円

本件係争年度の期末に原告の徳島工場に、三、九〇二、六〇〇円相当のコンクリート製品製造の材料である骨材(川砂、砂利)が存したにもかかわらず同工場の期末棚卸の在庫は皆無とされていた。また右の外期末在庫のうち一、六七六、九〇一円相当の製品が計上されていなかった。また原告の期末棚卸の集計に違算があり、四、六八〇円少く計算されていた。これらを合計すれば五、五八四、一八一円となる。

5  仮払法人税 八七、六六一円

原告は、仮払法人税八七、六六一円を決算利益に加算しているが、これは決算利益に加算する必要のないものである。

6  評価損について

原告は、本件プラントにつき評価損が生じたのでそれを損金の額に算入すべき旨主張するが、本件プラントに関しては法人税法三三条二項、同法施行令六八条の適用はない。

(イ) 原告が本件プラントを訴外会社から取得したのは、昭和四五年三月一六日であり、またその日まで引渡を受けていなかった。したがって本件事業年度の終了日である昭和四四年一二月三一日現在において評価損が発生する余地はない。仮に原告主張の如く昭和四四年九月に、原告と訟外会社との間に代金について合意が成立し、原告が本件プランントを取得し引渡を受けたものとしても、本件事業年度の終了日まで一年を経過していない。したがって法人税法施行令六八条三号ロに該当せず、また同号の他の要件に該当する事由もない。

(ロ) 損金に算入される評価損の額は、評価換え直前の当該資産の帳簿価額と評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額であるから、法人が当該資産の評価換えをして損害経理によりその帳簿価額を減額しなければならない。

本件プラントが一部所期の機能を果さなかったため、原告と訴外会社との間で代金減額の交渉がなされ、昭和四五年三月一六日、原告と訴外会社との間で、本件プラントの代金を二三、〇〇〇、〇〇〇円とする旨等の合意が成立した。即ち本件プラントの取得価額が確定したのは昭和四五年三月一六日であり、本件事業年度中にはその価額は確定していなかったのであり、換言すれば評価換えの基礎となる評価換え直前の帳簿価額が確定していなかったことになる。このことは原告が本件プラントの代金支払額を建設仮勘定として処理していたことからも明らかである。このように本件プラントの取得価額が確定していなかった以上評価損の額を算定することは不可能である。

評価損として損金に算入するためには、評価損の経理処理をしなければならないのに、原告は売却損の経理処理をしている。したがって評価損を主張することはできない。

原告は、本件係争物件につき当初の契約金額を基礎とした二二、〇三五、〇〇〇円をもとに損失の算定をしている。したがって本件プラントのうち本件係争物件以外の機械の価額は確定代金額二三、〇〇〇、〇〇〇円から右価額を差引いた九六五、〇〇〇円となる。そして原告は、後記のとおり、本件係争物件の価額は二六九、〇三九円、鉄筋伸線機等五種の機械の価額は、一、五八九、四五一円で他は四散しまたは無価値である旨主張している。右主張は原告の経理処理と著しく異っており、また二二、〇三五、〇〇〇円の本件係争物件が二六九、〇三九円となり、九六五、〇〇〇円の残りの機械が一、五八九、四五一円となり、価額が不合理である。

(ハ) 昭和四五年九月当時、本件プラントのうち簡易バツチヤプラント一基、自家用変電所、動力設備、電灯設備、蒸気噴務設備等は、原告の事業用に供されており、これらの機械の価額は二三、〇〇〇、〇〇〇円を超えている。

二  重加算税について

原告は、前記のように、本件係争物件を他に売却していないのにもかかわらず、これを松本鉄工株式会社へ三二〇、〇〇〇円で売却した如く仮装し、昭和四四年一〇月一七日付の仮装の振替伝票で売却代金三二〇、〇〇〇円の現金入金があった如く処理し、その価額二二、〇三五、〇〇〇円との差額二一、七一五、〇〇〇円の架空の売却損を計上し、さらに外註の事実がないのにもかかわらず、同月三一日付の仮装の振替伝票で大隅組に対する外註費として前記現金入金に対応する三二〇、〇〇〇円の支出がなされた如く仮装して架空の外註費三二〇、〇〇〇円を計上し、合計二二、〇三五、〇〇〇円の所得を故意に穏ぺいまたは仮装し、それに基づき確定申告書を提出したものである。

したがって原告は、国税通則法六八条一項により、重加算税を負担すべき義務があるところ、原告は資本の金額五〇、〇〇〇、〇〇〇円の法人であるのでその額は別紙重加算税計算表のとおり二、三一三、六〇〇円となる。

(被告の主張に対する原告の答弁および主張)

一  所得金額について

1  雑損失否認について

(イ) 原告は、昭和三九年一〇月二二日、訴外会社との間で、訴外会社から本件プラントを七七、〇〇〇、〇〇〇円で買受ける旨の契約をなした。

そして原告は、昭和四〇年三月三一日までに本件プラントの引渡を受けたが、再三にわたり試運転を行うもその機能を果さず、昭和四四年になり、コンクリート二次製品の製造は不可能であることが確認された。そのため原告は訴外会社と交渉し、昭和四四年九月原告と訴外会社との間において、機械は現状有姿の状況のままで受渡を終了したものとし、代金は、原告が訴外会社に対し既に支払済の二三、〇〇〇、〇〇〇円に減額し、右既払分をもって全額決済したものとする旨の合意が成立した。このように本件プラントが稼動しないため原告は、帳簿上これを機械勘定に振替えずに建設仮勘定のままとし、減価償却も行っていなかった。

(ロ) 原告は、昭和四四年一〇月一七日、本件プラントのうちスクラップに等しくなった本件係争物件(契約時の価額二二、〇三五、〇〇〇)を、三二〇、〇〇〇円で、松本鉄工株式会社の代表者である松本正に売却した。したがってその差額二一、七一五、〇〇〇円の売却損が生じた。

2  架空外註費について

原告は、大隅組にコンクリート製品の製造を下請させていたので、その下請代金として三二〇、〇〇〇円を支払ったものである。

3  売上計上洩、棚卸計上洩について

売上計上洩、棚卸計上洩についての主張は認める。

4  評価損について

仮に本件係争物件を売却した事実が認められないとしても、本件プラントにつき二一、一四一、五一〇円の評価損が生じたのでこれを損金に算入すべきである。

(イ) 前記のとおり原告は、昭和四〇年三月三一日までに本件プラントの引渡を受けていた。なお前記のとおり、本件プラントがその機能を果さなかったため、原告が契約に適合すると認め契約の目的物として受領するいわゆる受渡は遅れ、昭和四四年九月に受渡を終了した。そして前記のとおり、引渡を受けた本件プラントは、その機能を果さず、これを使用することができなかった。このように本件プラントは、引渡を受けた昭和四〇年三月三一日以降一年以上にわたり遊休状態にあったので法人税法三三条二項、同法施行令六八条三号ロにより評価損を損金に算入することができる。

昭和四四年当時、本件プラントのうち、本件係争物件は機械としての価値はなく鉄屑としての価値を残すのみでその価額は二六九、〇三九円であった。本件プラントのうち鉄筋伸線機、鉄筋曲げ機、鉄筋編成機、ポータブルスポットウエルダー、鉄筋切断機は手直しをすれば単体で使用し得る状態であったが、本件プラントから取外し、手直しのうえ単体で使用するのであるから当然その価値は減少する。そしてこれら鉄筋伸線機等の売買契約当時の価額は五、三四〇、〇〇〇円であったが、本件プラントの代金が当初七七、二七〇、〇〇〇円であったのがその〇・二九七六五に当る二三、〇〇〇、〇〇〇円に減額されたのであるから、鉄筋伸線機等についても同じ割合で減額すべきであるので、その価額は一、五八九、四五一円となる。本件プラントのうち右以外のものは四散したりまたは無価値の状態であった。したがって本件プラントの価値は以上の合計額一、八五八、四九〇円となっていた。そうすれば、本件プラントについては前記取得価額二三、〇〇〇、〇〇〇円と右現価との差額二一、一四一、五一〇円の評価損が生じたこととなる。

(ロ) なお、本件プラントの売買契約においては、代金の支払方法が割賦払となっており、そのため代金を完済するまで本件プラントの所有権は訴外会社に留保する旨の特約がなされていた。しかし右特約は債権担保を目的とするものであり、その実質は担保権というべきである。したがって本件プラントの実質上の所有権は原告である。また法人税法施行令六八条三号ロでは完全な所有権の取得を要件としていない。よって所有権留保の特約は評価損計上の妨げとなるものではない。

被告は、本件プラントにつき、評価損を計上するための帳簿価額が確定していないので評価損を計上し得ない旨主張する。しかし当該資産が貸借対照表上資産として価額を付して計上されていれば足りるのである。

また被告は、本件プラントにつき原告が売却損の経理処理をしているので評価損の主張はできない旨主張する。しかし、原告は、売却損の事実が認められない場合に仮定的に評価損の損金計上を認めるべきである旨主張しているものである。そして法人税法三三条二項は、評価損以外の経理処理をした場合には評価損の主張を一切認めないとするものではない。実質課税または租税負担の公平の観念から経理処理の方法如何を重視すべきではない。実質的に資産の価額が減少し損失が生じたときは、経理処理の方法如何にかかわらず、減少した価額については損金の処理としての評価を受けるべきである。

二  重加算税について

売買および外註費の支出を仮装したとの事実は争う。

理由

一  請求原因一項の事実は当事者間で争いがない。

二  所得金額について

原告の本件事業年度の法人税についての申告が別紙所得計算表A欄記載のとおりであることは原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなされる。被告の売上計上洩および棚卸計上洩についての主張事実は当事者間で争いがなく、仮払法人税八七、六六一円を会社決算利益に加算する必要がないことは被告において自認するところである。そこで争いのある項目につき判断する。

1  雑損失否認について

(イ)  原告が、昭和三九年一〇月二二日、訴外会社との間で、訴外会社から本件プラントを七七、〇〇〇、〇〇〇円で買受ける旨の契約を締結したことは当事者間で争いがない。成立に争いのない甲第二号証によれば、右契約において、代金のうち二〇、〇〇〇、〇〇〇円を昭和四〇年三月一〇日までに支払い、残金は、同年四月から昭和四一年一月まで毎月末日限り五、七〇〇、〇〇〇円宛支払う、本件プラントは据付試運転完了後昭和四〇年三月三一日までに引渡すこととし、本件プラントの所有権は、原告が代金を完済したときに訴外会社から原告に移転する旨の約定がなされていたことが認められる。

いずれも成立に争いのない甲第六ないし第一一号証、証人藤岡正雄の証言および原告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第五号証、証人藤岡正雄の証言(ただしその一部)、原告代表者本人尋問の結果(前同)ならびに弁論の全趣旨によれば、本件プラントは昭和四〇年三月末項、徳島県那賀郡那賀川町所在の原告の徳島工場に設置され、完成したこと、ところが、試運転を行ったところ、その機能を充分に発揮せず、その後再三にわたり調製や改良のうえ試運転を行ったが、結局所期の機能を果さなかったこと、そのため原告は、契約代金のうち二三、〇〇〇円を支払っただけでその余の支払を拒絶していたこと、その間原告と訴外会社との間で善後策につき種々交渉が続けられてきたが、昭和四四年春頃に至り、これ以上手直ししても所期の稼働は到底不可能であることが判明したので、原告は訴外会社と代金減額の交渉を始め、再三折衝を重ねた結果、昭和四五年三月一六日、原告と訴外会社との間で、代金を二三、〇〇〇、〇〇〇円に減額し、既払分をもって全額決済ずみとする、本件プラントは現存有姿のまま引渡済とする旨の合意が成立したことが認められ、右認定に反する証人藤岡正雄、原告代表者本人の供述部分、特に代金減額の合意が昭和四四年九月に成立したとの原告の主張にそう部分は、前掲甲第一一号証、乙第五号証に照らしたやすく採用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(ロ)  原告が、昭和四四年一〇月一七日に本件プラントのうち二二、〇三五、〇〇〇円に相当する本件係争物件を、三二〇、〇〇〇円で他に売却したとし、その差額二一、七一五、〇〇〇円の雑損失が生じたとしてそれを損金に算人し、本件事業年度の法人税の申告をなしたことは、原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなされる。そして原告は、昭和四四年一〇月一七日に、本件係争物件を松本鉄工株式会社の代表者である松本正に対し三二〇、〇〇〇円で売却したものである旨主張する。

しかし右主張にそう原告代表者本人尋問の結果は、本件係争物件を売ったと聞いている旨の供述であって、売却先、代金の授受についても不明確であり、原告会社の誰の指示により誰が担当して売却したかも明らかでなく、かつ証人伊藤安次の証言と、これにより真正に成立したものと認められる乙第四号証に照らし、たやすく採用できない。また振替伝票の写部分については原本の存在およびその成立につき争いがなくその余の部分については証人伊藤安次の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、証人伊藤安次の証言によれば、原告方には昭和四四年一〇月一七日付の借方欄に現金三二〇、〇〇〇円雑損失二一、七一五、〇〇〇円、貸方欄に機械器具二二、〇三五、〇〇〇円と記載された振替伝票が存在することが認められるが、後記事情に照らし右伝票の存在によっても原告の主張事実を認めることはできず、他に原告の主張事実を認めるに足る証拠はない。

一方証人伊藤安次の証言によれば、原告方の金銭出納簿には現金三二〇、〇〇〇円の入金の記載がなく、又前記伝票以外に本件係争物件の売却に関する資料が存在しないことが認められ、同証言および前掲乙第四号証によれば、昭和四五年九月二五日に大阪国税局国税調査官伊藤安次らが、原告の本件事業年度の所得金額の調査のため、原告の徳島工場へ赴いた際、原告の徳島工場常駐の常務取締役後藤一路が同調査官らに対し、本件係争物件は他に売却していない旨述べたことが認められ、また証人伊藤安次の証言、原告代表者本人尋問の結果、検証の結果によれば、本件係争物件は昭和四九年五月二五日頃までは他人に引渡されず原告の徳島工場に保管されていたことが認められる。これらの事実に前記(ロ)の事実特に昭和四四年一〇月当時、代金の減額につき交渉中であり、引渡は終っておらず原告がその所有権を取得していない本件プラントの一部を他に売却することは通常考えられないこと、および原告が本訴において売却の主張事実につき、前記の如き不明確な原告本人尋問の結果のみで他に的確な立証活動をなさないことを総合すれば、原告は本件係争物件を他に売却していないものと認められる。

(ハ)  以上によれば、原告の本件事業年度の所得額の算定につき、本件係争物件を売却したとして雑損失二一、七一五、〇〇〇円を計上することは容認できない。

2  架空外註費について

原告が本件事業年度の所得金額の算定にあたり、昭和四四年一〇月三一日、外註費として大隅組に対し、三二〇、〇〇〇円を支払ったとしてそれを計上申告したことは、原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなされる。そして原告は、コンクリート製品製造の下請代金として、大隅組に対し、三二〇、〇〇〇円を支払ったものである旨主張する。

しかし右主張にそう原告代表者本人尋問の結果は、右三二〇、〇〇〇円がどのような性質のものか不明確であり、しかも右供述によれば、大隅組こと大隅某は原告の従業員であったことが認められたやすく採用できず、甲第一二号証もその成立が定かでない。そして前掲乙第一号証、証人伊藤安次の証言によれば、原告方に昭和四四年一〇月三一日付の借方欄に外註費三二〇、〇〇〇円、貸方欄に現金三二〇、〇〇〇円と記載された振替伝票が存在することが認められる。ところで証人伊藤安次の証言によれば、大阪国税局において本件係争物件の売却の事実につき調査中、原告が依頼した税理士から、本件係争物件の売却代金として現金で入金した三二〇、〇〇〇円は、大隅組に対し外註費として支払ったもので、その資料であるとして前記振替伝票が大阪国税局へ提出されたことが認められる。しかし前記のとおり原告が本件係争物件を売却した事実はなくしたがって売却代金三二〇、〇〇〇円が入金になることもあり得ない。結局前記振替伝票は本件係争物件の売却代金として入金したとする三二〇、〇〇〇円に対し、支出としてつじつまを合わせるため作成されたもので、大隅組に対する外註費三二〇、〇〇〇円の支出は存在しなかったものと認められる。

よって原告の本件事業年度の所得金額の算定につき、大隅組に対する外註費として三二〇、〇〇〇円を支払ったものとしてそれを計上することは容認できない。

3  評価損について

原告は予備的に本件プラントにつき二一、一四一、五一〇円の評価損が先じたのでこれを損金に算入すべき旨主張するのでこの点につき判断する。

法人において固定資産の評価損を損金に算入することができるのは法人税法施行令六八条三号にかかげる事由が生じた場合で、その額は、評価換え直前の当該資産の帳簿価額と評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額である(法人税法三三条二項)

そして本件プラントが所期の機能を果し原告の事業の用に供するようになれば固定資産のうちの減価償却資産となることは法人税法二条二四号、同法施行令一三条により明らかであるところ、右評価換直前の帳簿価額とは、減価償却資産にあっては取得価額ないしは減価償却後の価額である。ところで前記1(2)掲記の事実によれば、本件プラントの取得価額が最終的に確定したのは昭和四五年三月一六日である。したがって本件事業年度終了の時においては、本件プラントの取得価額換言すれば法人税法三三条二項に定める評価換え直前の帳簿価額はいまだ確定していなかったことになる。このように評価損算出の前提となるべき取得価額が確定していなかった以上、本件事業年度終了の時点において評価損の額を算定することは不可能である。そうすれば、本件事業年度の所得金額の算定にあたり、本件プラントにつき評価損を損金に算入することはできない。なおこの点につき原告は、当該資産が貸借対照表上資産として価額を付して計上されていれば足りる旨主張するが、右主張は具体性に欠けるのみならず、仮に原告が本件プラントにつき建設仮勘定科目に計上していたことを指すのであれば、主張自体により本件プラントが固定資産としてその価額がいまだ確定していなかったことが明らかであり、原告の右主張は採用し得ない。

以上によれば、原告の本件事業年度の所得金額は、別紙所得計算表B欄記載のとおり、原告の申告に対し、雑損失二一、七一五、〇〇〇円、外註費三二〇、〇〇〇円を否認しその合計額二二、〇三五、〇〇〇円、売上計上洩一二、四六七、二八三円および棚卸計上洩五、五八四、一八一円総合計四〇、〇八六、四六四円を益金の額に加算し、仮払法人税八七、六六一円を益金の額から減算した四八、七四四、六〇二円となる。

そして本件更正処分の所得金額四八、六二一、一九八円は、右金額の範囲内であるから、結局被告のなした本件更正処分には所得過大認定の違法はない。

二  重加算税について

原告方に、昭和四四年一〇月一七日付の借方欄に現金三二〇、〇〇〇円、雑損失二一、七一五、〇〇〇円、貸方欄に機械器具二二、〇三五、〇〇〇円と記載された振替伝票が存在することは前記認定のとおりであり、右振替伝票によれば、原告が二二、〇三五、〇〇〇円の機械器具を三二〇、〇〇〇円で売却し、その差額二一、七一五、〇〇〇円の損失が生じたかの如く認められ、証人伊藤安次の証言によれば、原告が本件係争物件を売却したとする資料が右振替伝票であったことが認められる。しかし前記認定のとおり原告が本件係争物件を売却した事実がないのであるから右振替伝票は仮装のものといわねばならない。また原告方に昭和四四年一〇月三一日付の借方欄に外註費三二〇、〇〇〇円借方欄に現金三二〇、〇〇〇円と記載された振替伝票が存在し、原告が右振替伝票を大隅組に対し外註費として三二〇、〇〇〇円を支払ったとする資料としていることは前記認定のとおりである。しかし前記認定のとおり原告が大隅組に対し、外註費として三二〇、〇〇〇円を支払った事実はないのであるから右振替伝票も仮装のものといわねばならない。以上の事実と、前記認定の昭和四四年一〇月三一日付の振替伝票が大阪国税局へ提出された際の事情および弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、仮装の右昭和四四年一〇月一七日付の振替伝票を作成して、二二、〇三五、〇〇〇円の本件係争物件を三二〇、〇〇〇円で売却し二一、七一五、〇〇〇円の雑損失が生じた如く仮装し、さらに仮装の右同月三一日付の振替伝票を作成して、右売却代金につじつまを合わせた三二〇、〇〇〇円を外註費として支払った如く仮装し、合計二二、〇三五、〇〇〇円の所得を穏ぺいし、それに基づき本件事業年度の法人税につき申告書を提出したものと認められる。

右事実によれば、原告は、国税通則法六八条一項により重加算税を課せられるべき者に該当するところ、原告は資本の金額五〇、〇〇〇、〇〇〇円の法人であり(この事実は原告において明らかに争わないので自白したものとみなされる)、原告の本件事業年度の申告所得の金額が八、七四五、七九九円であることは当事者間で争いがないので、昭和四九年法律第一六号による改正前の法人税法六六条一、二項、国税通則法六八条一項、同法施行令二八条に基き算定すれば重加算税の額は別紙重加算税計算表のとおり二、三一三、六〇〇円となり、また過少申告加算税は別紙過少申告加算税計算表のとおり三一二、二〇〇円となる。

三  以上の理由により被告のなした本件更正処分、過少申告加算税および重加算税賦課決定処分には何らの違法はない。よって原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村正策 裁判官 寺崎次郎 裁判官 山崎恒)

物件目録

品名 数量 金額

コンクリートブロックマシン 四組 一一、二〇〇、〇〇〇円

コンクリート輸送モノレールバケット 一式 一、八八〇、〇〇〇円

鉄筋送りホイストグレーン 一式 二、六七五、〇〇〇円

ブロック送りベルトコンベア 五台 一、〇五〇、〇〇〇円

ジブクレーン 一式 三、七三〇、〇〇〇円

附帯経費 一、五〇〇、〇〇〇円

合計 二二、〇三五、〇〇〇円

所得計算表

<省略>

重加算税計算表

<省略>

過少申告加算税計算表

<省略>

(注)端数計算………国税通則法第118条により課税標準について1,000円未満、確定税額について100未満はいづれも切捨てて計算した。

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