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大阪地方裁判所 昭和47年(手ワ)755号 判決 1973年6月28日

原告 長瀬農業協同組合

右訴訟代理人弁護士 上坂明

同 丸山哲男

被告 旭礦油株式会社

右訴訟代理人弁護士 田畑源一

被告 小西龍太郎

主文

被告らは原告に対し各自金八五〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四七年七月二〇日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮りに執行できる。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

一、原告

(一)第一次請求「被告らは原告に対し各自次の金員を支払え。

金八五〇、〇〇〇円とこれに対する昭和47年7月20日から完済まで年六分の割合による金員。

訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行宣言。

(二)予備的請求「被告旭礦油株式会社は原告に対し次の金員を支払え。

金八二七、九四一円とこれに対する昭和47年7月20日から完済まで年五分の割合による金員。訴訟費用は同被告の負担とする。」との判決および仮執行宣言。

二、被告旭礦油「原告の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二、当事者双方の主張

一、原告(請求原因)

(一)第一次請求

1原告は末尾目録表示のとおりの約束手形一通を所持している。

2被告旭礦油は右手形を振り出した。

すなわち

(1)本件約束手形は被告株式会社の使用人橋口融が振出したものである。

(2)右橋口は、被告株式会社の商品の仕入、販売、商品代金の支払、そのための手形、小切手の振出とその経理、他の従業員の指揮につき包括的な委任を受けた番頭であって、同人は右包括的権限に基づき本件約束手形を振出したものである。

3.被告小西龍太郎は拒絶証書作成義務を免除して右手形を裏書した。

4.よって、原告は被告らに対し、各自次の金員の支払を求める。

本件約束手形金およびこれに対する本件最終訴状送達の翌日から支払ずみまで商法所定率による遅延損害金。

(二)予備的請求(被告株式会社関係に限る)

1.被告株式会社はガソリンスタンドを営む株式会社であって橋口融の使用者であり、橋口融は前記第一次請求原因2(2)記載の如き職務を担当する被用者である。

2.仮りに本件約束手形が、右橋口が被告会社代表取締役に無断で権限なく偽造し振出されたものであるとしても、この手形の偽造振出は同人が被告会社の「事業ノ執行」につきなされたものである。

3.原告は被告の被用者橋口融の右手形の偽造により次の損害を蒙った。

すなわち、原告は昭和四七年三月一日被告小西に本件約束手形を担保として、割引金相当額二二、〇五九円を差引いた八二七、九四一円を貸付けたが、同人は右金員を支払わず逃走し右の貸金は回収不能となった。よって、原告は右貸付金相当額金八二七、九四一円の損害を蒙った。

4.よって、原告は被告旭礦油株式会社に対し民法七一五条一項に基づく使用者責任およびその本件最終訴状送達の翌日から支払ずみまで民法所定率による遅延損害金として、予備的請求の趣旨記載の金員の支払を求める。

二、被告旭礦油株式会社(答弁・抗弁)

(一)答弁

1.第一次請求原因に対する答弁

(1)原告主張の右請求原因事実のうち(1)の事実は認める。

(2)同事実2(1)は認めるが、2.(2)は否認する。

なお、本件約束手形は被告会社の従業員橋口融と被告小西が共謀して偽造したものである。また、右橋口は手形作成準備事務を担当する単なる事務担当者に過ぎない。

2.予備的請求原因に対する答弁

(1)原告主張の右請求原因事実1のうち橋口融が商品仕入販売、経理その他につき包括的な代理権限を有していた点は否認し、その余は認める。

(2)同事実2のうち橋口が本件約束手形を偽造したことは認めるが、その余は否認する。

(3)同事実3は認める。

(二)抗弁

1.第一次請求原因に対する抗弁

(1)仮りに橋口が番頭として一般に約束手形の振出権限を有していたとしても、被告会社では代表取締役伊藤喜代隆の承認押印を得て振出すこととされており、本件約束手形はこの制限違反の振出であって、原告はこの事情を知悉した悪意者である。

(2)原告の被告小西に対する本件手形貸付は、同小西が原告組合の非組合員でありいわゆる員外貸付として無効である。したがってこの担保たる本件約束手形は原因関係が無効となり被告に支払義務はない。なお、この場合担保物たる本件約束手形は貸金請求に代る不当利得返還請求権を担保するものではない。

2.予備的請求原因に対する抗弁

原告は本件約束手形が橋口融により権限外で振出されたことにつき悪意であったから、被告会社に支払義務はない。

すなわち、原告組合長瀬支店長松田啓は被告小西に対し、「旭礦油の手形はブツクものだから、橋口に巻きあげさせてこい」といって偽造をそそのかしたものであって、原告は本件約束手形の悪意取得者である。

三、被告小西龍太郎(答弁なし)

被告小西龍太郎は公示送達による呼出を受けた。

四、原告(抗弁に対する答弁)

被告主張の抗弁事実はいずれもこれを否認する。

なお、原告組合の定款五六条によれば、員外貸付を認めており、これは農業協同組合法一〇条六項により有効である。かりに無効としても、原告は被告小西に対し貸金に代る不当利得返還請求権を有するにいたるのであって本件約束手形はこれをも担保するから、原因関係は消滅しない。

第三、証拠<省略>

理由

第一、第一次請求原因の検討

一、原告主張の第一次請求原因事実中、原因が本件約束手形一通を所持していること、本件約束手形は被告会社の使用人橋口融が振出したものであることは原告、被告会社間に争いがない。

二、そこで、右橋口が原告主張の如く被告会社の番頭として本件約束手形の振出権限を有するか否かにつき検討するに<証拠>を総合すると、被告株式会社は、昭和三三年六月設立されガソリンスタンド業を営む会社であるが、当初より伊藤喜代隆が代表取締役をしている従業員一〇名程度の小規模会社で、橋口融は昭和三四年二月一一日頃から被告会社に入社以来継続勤務する最古参の使用人であって、昭和三八年頃からは最古参の従業員として他の事務員の指示をし、ガソリンの注油、決算書の作成、金銭貸借融資申込、代金支払、商品の注文の職務権限を与えられていたこと、商品代金の支払は一部現金で大半は手形でなしていたが、手形の振出は手形用紙を橋口が保管し金額欄、振出日、支払期日振出地、振出人欄等所要事項一切を同人が記載し代表取締役伊藤に決裁を求めてその押印を受けて支払先へ交付するという手続をとっていたこと、橋口は自己が処理した被告株式会社の納税に関し脱税が発覚し税務署から調査を受けることになったので、その対策を被告小西に依頼したところ、同被告が橋口に被告会社の約束手形を作成し原告農協に二、三日預ける必要がある旨申向けられ、これに応じて橋口は本件約束手形を含む数通の約束手形を代表取締役伊藤に無断で振出したことを認めることができ、これらの各事実を併せ考えると橋口融は被告会社の最古参の使用人として被告会社の営業、経理に関する包括的な代理権限を付与された番頭であることが推認でき、この認定に反する<証拠>は前記各証拠に照らし遽かに信用できないし他に右認定を覆すに足る証拠はない。

そして、商法四三条の番頭にあたる使用人は、その委任を受けた事項につき「一切ノ裁判外ノ行為ヲ為ス権限」を有するのであって、手形の抽象的手段的性質に鑑みれば番頭として部分的包括的代理権を有するものは、商法四三条一項により当然その営業その他の委任事項につき手形の振出裏書等の権限をも有するものと解さねばならない。そうすると、橋口は自己の受任事項である会計経理に関する脱税問題の善後策を講ずるため本件約束手形を振出したものであることは前認定のとおりであるから、本件約束手形の振出は番頭たる右橋口の法定された権限内の行為であって被告会社における手形の振出につき代表取締役伊藤喜代隆の決裁押印を要求していた点は、商法四三条二項、三八条三項の右部分的包括代理権に加えた制限にあたるものと考える。

三、<証拠>によると、原告が本件約束手形一通を所持していること、被告小西が本件約束手形を拒絶証書免除のうえ裏書したことの被告小西に対する原告主張の請求原因事実全部を認定することができる。

第二、被告会社主張の抗弁に対する判断

一、被告会社主張の第一次請求原因に対する抗弁(1)のうち、被告会社においては、前記橋口が手形振出にあたり代表取締役伊藤喜代隆の承認、押印を得ることを必要としていたことは前認定のとおりであるが、本件約束手形がこの制限違反の振出であることにつき、原告が悪意の第三者であるとの被告会社主張に副う<証拠>はいずれも<他の証拠>に照らしたやすく採用できないし、他にこれを認めるに足る証拠はない。

二、被告会社主張同抗弁(2)につき検討するに、<証拠>によると、本件手形は原告農業協同組合がその組合員でない小西龍太郎の依頼により同人に貸し付けた貸金の担保のため同小西から裏書譲渡を受けたものであること、原告組合の定款によると、主として組合員のための事業を行うものとしながらも(長瀬農業協同組合定款二条)、組合員の利用に差支えのない限り組合員以外の者に対する貸付もなし得る旨定めていること(同定款五六条)が認められ、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

そして、農業協同組合が主として組合員に対する事業を目的としながらこれに付帯して副次的に組合員の利用に差支えない限りいわゆる員外貸付を認める定款は農業協同組合法一〇条一項一二号に照らし有効であるから、このような定款の定めに従った原告の組合の非組合員小西龍太郎に対するいわゆる員外貸付は無効でなく、そのまま効力を有するものである。したがって、員外貸付が無効であることを前提とする被告会社主張の前記抗弁(2)は採用することができない。

第三、結論

以上のとおりであるから、その余の判断をするまでもなく、被告らは各自原告に対し本件約束手形金およびこれに対する本件最終訴状送達の翌日たることが記録上明らかな昭和四七年七月二一日から支払ずみまで商法所定率による遅延損害金として主文一項記載の金員を支払うべき義務があることが明らかである。よって、被告らに対し各自その支払を求める原告の第一次請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条本文、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川義春)

<以下省略>

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