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大阪地方裁判所 昭和45年(手ワ)551号 判決 1971年5月27日

原告 林俊弘商店こと 林俊弘

右訴訟代理人弁護士 村林隆一

同 今中利昭

同 片山俊一

同 高田勇

被告 三協鋳工所こと 高橋勉

右訴訟代理人弁護士 鈴木健弥

同 北川新治

主文

被告は原告に対し、金一、一八四万四、八八六円およびこれに対する昭和四五年六月一四日から支払いずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮にこれを執行することができる。

事実

<全部省略>

理由

一、二<省略>

三、つぎに、原告は、いわゆる名板貸の法理によって被告は本件各手形振出人としての責任を免れることができないと主張するので、この点につき判断する。<証拠>を総合すると、つぎの事実を認めることができる。

(1)被告は昭和三五年ころから自己が代表者となって弟の高橋勲とともに三協合金所という商号で鋳造業を営み、大阪中央信用金庫今里支店との当座勘定取引にあたっても「三協合金所高橋勉」の名称を用いていたが、その後商号を三協鋳工所と変更し、右支店との当座勘定取引をするにあたって「三協鋳工所高橋勉」の名称を用い、甲第一ないし第一五号証(本件各手形)の各振出人らに押されている「三協鋳工所高橋勉」の記名印および「高橋勉」と刻した印章を取引印として届け出ていたこと、被告の姉大森澄子、兄の高橋清、弟の高橋浩らが順次右の営業に加ったが、被告は依然としてその経営にあたり、経理面は主として被告の母高橋林が被告の指示にもとづいてこれを担当し、営業面は主として被告、大森澄子、高橋勲の三名がこれを担当していたこと。

(2)原告は、非鉄金属商を営み、昭和四一年ころからその得意先の紹介で被告と取引を始めるようになり原材料を販売してきたが、その代金の支払いのため前記「三協鋳工所高橋勉」の記名印および「高橋勉」と刻した印章が押されている約束手形の振出を受けていたこと、原告からの納品を主として担当していたのは大森澄子および高橋勲の両名であったこと。

(3)三協鋳工所においては、被告を除くその余の兄弟や母および姉の間で日立造船所に勤務していた二男の高橋順を退職させて三協鋳工所の代表者にしようとする企てがあったところ、たまたま被告が昭和四三年七月一日ころ交通事故のため約一か月半ばかり右鋳工所の営業から遠ざかっていた間、その余の兄弟らで右営業を続けることができたことから、被告を除外しても右鋳工所の営業を維持することができるとの確信を深めたので、本格的に被告を排斥しはじめたこと、そこで、被告はやむなく同年八月中旬ころ右鋳工所の経営から手を引き、知人の援助で光合金鋳工所という商号で鋳造業を始めたが、極めて親しい取引先についてのみ三協鋳工所から手を引いて新たに光合金鋳工所を経営するとの挨拶をしただけで、広告等によって営業主が交替したことを一般に知らせる方法をとらなかったことはもとより、その他の知れた得意先に対しても高橋順らにおいてその旨の通知をするものと軽信して自らその旨を周知徹底させることをしなかったこと。

(4)高橋順は、被告が三協鋳工所を退いた後は、自ら代表者となって被告を除くその余の兄弟らとともに右鋳工所を経営し、前記「三協鋳工所高橋勉」の記名印および「高橋勉」と刻した印章を用いて「三協鋳工所高橋勉」名義で前記大阪中央信用金庫今里支店との当座勘定取引を続け、また手形取引にもこの名義を使用していたが、被告は、右の事実を知りながら、単に「高橋勉」と刻した印章の返還を求めるだけで、積極的に右名義の使用を防止する措置を講ぜず、そのまま放置していたこと。

(5)原告は、被告が三協鋳工所を退いたことを知らされず、かつその余の兄弟らがそのまま「三協鋳工所高橋勉」の名称で営業を続けていたので、被告が依然として右鋳工所を経営しているものと考えて、三協鋳工所に原材料を売り渡し、その代金の支払のため高橋順が振り出した「三協鋳工所高橋勉」名義の本件各手形の交付を受けたこと。

以上の事実を認めることができ、被告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、<証拠>に照らし容易に信用することができない。もっとも、郵便官署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については<証拠>により真正に成立したものと認められる乙第一号証によると、高橋順は、昭和四四年八月一四日ころ得意先へ暑中見舞状を株式会社三協合金鋳工所高橋順名義で出していることがうかがわれるけれども、これと同種の暑中見舞状が原告にも出されたことを認めしめる証拠がなく、他に右認定を覆えすに足りる的確な証拠がない。そうだとすると、被告は、高橋順に対し自己の氏名および商号である三協鋳工所こと高橋勉名義の使用を黙示的に承認していたものであり、被告は、営業主の交替を一般に知らせる方法をとることもなく、また知れた得意先等に対してもその旨を周知徹底させなかったのであるから、営業主が高橋順に交替していたにせよ、同人のした取引行為について被告をその営業主であると誤認した原告に対し、商法第二三条の規定にもとづく名板貸の責任を免れることができないというべきである。そして、被告が高橋順の行為について右法条による責任を負わねばならない以上、被告は、高橋順が右営業に関して被告の意思にもとづかずに被告名義をもって振り出した本件各手形につき善意の第三者である原告に対しその支払いの責に任じなければならぬものと解するのが相当である。<以下省略>。

(裁判官 辻忠雄)

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