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大阪地方裁判所 昭和44年(行ウ)103号 判決 1974年10月25日

原告 清水ゆり江

被告 日本専売公社関西支社長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和四四年二月二八日付でなした、原告の昭和四三年八月二〇日付たばこ小売人指定申請に対する不指定処分は、これを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和四三年八月二〇日被告に対して、大阪市西区川口町一二番地の二所在の川口ビルの一階正面入口横および地下店舗において、たばこの販売を行う(一階正面入口横では自動販売機を設置して販売する)ため、小売人の指定申請をしたが、これに対して被告は、昭和四四年二月二八日付で不指定の処分(以下本件不指定処分という)をなし、そのころその旨を原告に通知した。

そこで原告は、同年三月二六日日本専売公社総裁に対して審査請求をなしたが、これも棄却され、その裁決書謄本は同年九月八日原告に到達した。

2  ところで被告の右不指定処分の理由は、原告のたばこの取扱の予定額が、日本専売公社(以下公社という)の定める標準である月額一五万円に達しないというにある。

しかし川口ビルの利用者および居住者数から判断すると、優に月額三〇万円をこえる売上が見込まれ、現に、原告が昭和四二年一月から同年一〇月まで、公社の出張販売担当職員の許可を得て同ビルでたばこの出張販売をした際には、月額平均二〇万円をこえる売上があつたのであり、被告の右判断は誤つている。

3  よつて原告は、被告に対し、本件不指定処分の取消を求める。

二  被告の請求原因に対する認否と主張

(認否)

請求原因1項の事実中、原告が川口ビルの地下店舗を予定営業所と定めて申請したという点は否認するが、その余の事実は認める。同2項の事実中、不指定処分の理由の一つが原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事は争う。なお原告主張の出張販売は、許可を得てなされたものではなく、適法な販売ではない。

(主張)

1 たばこ小売人の指定は、いわゆる形成的行為(特許または設権行為)に属し、いわゆる許可とはその性格を異にする。たばこ専売法(以下単に法という)第二条、第三条、第二九条の規定によれば、たばこの製造、販売等の事業は、積極的に国家独占事業とされていることが明らかで、たばこ小売人の指定は、本来国家に独占され、国民の行ないえない事業の一部を、特に、特定の場合に国民に行なわせるもので、それは特定人のためにあらたに権利もしくは資格を設定する性質の行為である。このようにたばこ小売人の指定が、国家の独占事業に淵源する設権行為であり、かつ、その目的がより多くのたばこの販売という優れて企業政策的考慮にもとずいてなされるべきものである以上、いつ、いかなる場合に、何人に対して指定をするか、しないかについては、公社にその企業政策的見地からする自由な裁量が許されているといわなければならない。法第三一条は、公社が指定業務を取扱うにあたつての訓示的な規定であり、右のように解する妨げとはならない。そして本件不指定処分は、次項以下において詳述するような事情を考慮してなされたもので、裁量権の濫用をうかがわせるような事実は全くない。

2 原告が指定申請を行なつた予定営業所の場所は、市バス川口町停留所南方の大阪市住宅供給公社川口ビル内の一階北東側の廊下のみで、その供給先はビルの利用者を対象とするもので、販売方法は自動販売機を設置して行ない、その申請は、「たばこ小売人指定関係規程」(昭和四二年総裁達第六八号、以下単に規程という)第五条第一項第二号ただし書後段に規定されている特定小売人の指定申請に該当する。

3 ところで、たばこ小売人の指定処分をなすについては、法第三一条に指定制限の定めがあり、申請人の取扱予定高が公社の定める標準(標準取扱高)に達しない場合には、指定をしないことができるとされている。この規定を受けて、公社は規程および「たばこ小売人指定関係規程適用要領」(以下単に要領という)において、財政収入の確保と消費者の利便とを調和的に調整するとの観点から、たばこの需要量の多寡、小売人の設置される地域の環境特性、既設小売人の実績等を綜合勘案して、小売人が販売しなければならない最低限度の標準取扱高を、環境区分毎に段階的に差異を設けて定めているが、特定小売人については、劇場、駅、旅館、ビルデイング、その他これに準ずる特殊な施設内のたばこ消費者は、街路に面して店舗が設置されている普通小売人を利用する消費者とは質的、量的に異なつており、必ずしも容易に普通小売人を利用できるとはかぎらないので、このような特定施設内において集団的に固定している需要に対応すべく、零細化による不利益はある程度受忍して、普通小売人の取扱高より標準を下げ(規程第五条第一項第五号ただし書)、さらに既設小売人との距離制限を排除して、消費者の利便をはかることとしている。

これを具体的に本件についてみると、本件地区は指定都市(人口五〇万人以上)の準市街地であるから、規程第四条、要領2・3によれば五等地(その標準取扱高は三〇万円である)に該当するが、本件申請は施設内の特定小売人の指定申請であるから、それより二等地下の七等地として、その標準取扱高は一五万円である。

しかるに、一般通行者ならびに周辺の事業所の従業員、居住者等の利用を考慮せず、川口ビルの利用者を主たる販売対象者とした場合の原告の取扱予定額は、一五万円に達しない。

すなわち

(一) 川口ビルにおいては、大阪市住宅協会会長中井光次が昭和三七年七月一日特定小売人の指定を受け、以後昭和四一年末ころまでたばこを販売し、その後は訴外貞岡綾子が昭和四二年九月二五日小売人指定を受け、同年一〇月からたばこの販売をしているが、右中井がたばこ販売をしていた期間における同人の月平均取扱高は二二万一、〇〇〇円であり、右貞岡の昭和四二年一〇月から昭和四三年八月までの間の取扱高は、別表のとおりで、月平均取扱高は二六万三、〇〇〇円であった。よつて、原告申請当時の同ビル利用者の一か月当り平均総需要量は、後者と同額の二六万三、〇〇〇円と推定され、川口ビルにおいて、特定小売人を二店(標準取扱高は合計三〇万円となる)も設置するほどのたばこ需要量がないことは明らかである(なお、原告の昭和四二年一月から一〇月までの出張販売期間中の売上高が月額平均二〇万円をこえていたとの主張が仮に真実であつたとしても、右の期間は、中井が事実上販売をやめ、貞岡がそれを開始するまでの空白期間であつたから、右の結論に相違はない)。しかも、前記貞岡の取扱高の内容をみると、同人は特定小売人であるから、本来販売対象者としては川口ビル利用者のみを予定しているのに、同ビル外の一般通行人等をも対象としており、かつその割合が著しく大きい(昭和四七年二月の調査ではビル内利用者五七に対しビル外利用者四三の割合、同年四月の調査では前者五九、後者四一の割合)。これからの一般通行者等の需要は、将来ビル外の適当な位置に普通小売人が配置された場合には、当然その普通小売人の供給対象となるものである。

(二) 右の総需要量月額二六万三、〇〇〇円を右貞岡と原告がいかなる比率で分け合い、原告の取扱予定高をいくらと認定するかについては、両者の営業場所の優劣比、兼業等からみた利用度、販売方法を考慮することになるが、川口ビルの一階正面入口横を予定営業所とし、たばこのみを販売する原告よりも、地下一階の商店街に位置し、菓子その他の販売を兼業とする貞岡の方が、たばこの販売に有利であつて、これだけでも原告の取扱予定高は多く見込んでも川口ビルの総需要量を折半する程度しか見込めないが、さらに原告の販売方法は自動販売機によるものであるから、対面販売してその売上は三〇パーセント程低下し、原告の取扱予定高は右により算定した額よりさらに三〇パーセント程度低下することになる。

よつて、原告の取扱予定高が一五万円の前記要件を充たさないことは明らかである。

4 つぎに、法律三一条第一項第六号は、経営の基礎が著しく薄弱であると認められる場合には、小売人の指定をしないことができると定め、規程第五条第一項第九号はそれを受けて、申請人が予定営業所の利用について正当な権利を有しない場合には、小売人の指定をしてはならないと定めている。

ところで、昭和四五年四月一日川口ビル管理規約が施行される以前は、同ビルの床面積の過半数を所有する大阪市住宅供給公社(以下供給公社という)が、原告の自動販売機設置予定場所である一階正面玄関等共有部分の管理にあたり、その専用使用については、供給公社の承認を要するものとされていた。しかるに原告は、右場所の使用について供給公社の承認を得ていなかつたから、その使用権を有していないことは明らかである。ちなみに右管理規約施行後は、前記場所は同ビル区分所有者の共有に属し、その用法に従つて使用することとされているが、その専用使用権の設定は、区分所有者に限つて管理者(供給公社)と個別契約を締結することによつてのみ可能とされ、しかもその譲渡転貸は禁止されている。したがつて同ビルの区分所有者でない原告は、申請当時に限らず、それ以後も、右予定営業所の専用使用権を取得することはできない。よつて原告は、この要件も欠くことになる。

以上のとおりで、本件不指定処分は適法になされている。

三  原告の右主張に対する認否と反論

1  被告の主張1は否認する。たばこ小売人の指定は、命令的行為に属し、いわゆる許可の性質を有するものである。たばこの小売販売は、本来国民が有する営業の自由の範囲に属するが、国家の財政目的等により一般的に禁止しているにすぎず、たばこ小売人の指定は、この禁止を解除することによつて、その本来の自由を回復させ、適法にこれができるようにするものである。よつて被告は、原告が法第三一条第一項の各号に該当しない限り、たばこ小売人に指定しなければならないものである。

2  同2の事実中、原告が指定申請をしたのが、川口ビル一階の自動販売機による販売のみであることは否認する。原告は地下店舗における対面販売についても指定申請をしていた。

3  同3の(一)、(二)の事実は争う。原告と貞岡を比較すると、貞岡は地下店舗のみであるのに対し、原告の申請では一階正面玄関と地下店舗であり、貞岡の兼業が子供相手の菓子屋で、たばこに湿気を与えるので好ましくないのに反し、原告は地下店舗では文具、薬品、印紙切手類の販売をしてそのような事情はなく、さらに販売方法についても、原告は地下店舗での対面販売のほかに一階での自動販売機による販売を予定しているのであって、いずれの点からみても、原告の方が優位である。右のような事情を考慮すると、原告が小売人に指定されれば、評判の悪い貞岡の店舗で購入するのを差控えていた購入者層を吸収し、さらに一階正面玄関の自動販売機では、川口ビルの利用者でない購入者をも販売対象とすることができるから、供給対象に変化がもたらされることは明らかで、従来の貞岡の売上を両名で分け合う結果に止まるとは、到底考えられない。

4  同4は否認する。原告が自動販売機の設置を予定していた場所は、川口ビル居住者の共有に属していたが、共有部分の利用については、従来から関係者の三分の二以上の承認があればよく、原告はその承認を得てその使用権原を有していた。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1項の事実については、原告が指定申請をした予定営業所に川口ビルの地下店舗が含まれているか否かの点を除き、当事者間に争いがなく、右の点については、成立に争いのない乙第二号証、同第一三号証(本件の小売人指定申請書およびその申請書用紙)、証人松下紀生の証言によれば、原告は予定営業所としては同ビルの一階正面入口横のみを申請しており、右地下店舗は予定営業所に含まれていないことが認められ、右認定に反する証人清水左久子の証言は前掲各証拠に照らして信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  まず被告は、たばこ小売人の指定はいわゆる形成的行為(特許または設権行為)に属し、小売人に指定するか否かは、法第三一条第一項の規定にかかわらず、被告の自由裁量にまかされていると主張するので考える。

法第二条によれば、たばこの製造、販売等の権能は国に専属するとされ、法第三条では、この事業は日本専売公社が行なうとされており、たばこの製造、販売等に関しては専売制を採用することが明らかにされているが、これは国の財政上必要な収入確保を目的とするものと解される。このようにたばこの製造、販売等について、公社の公的独占を認めている法律の規定からすれば、小売人の指定が国民の有する営業の自由の一般的制限を解除する行政行為にすぎないとするのは正当でなく、それは申請人に、同人が当然には有していないたばこ販売の権利もしくは資格を、あらたに付与する行為といわざるをえない。しかしそうであるからといつて、被告のいうように直ちに、小売人の指定が公社の自由裁量にまかされているとすべき理由はなく、むしろ、公社の小売人指定が行政の一環としてなされるものである以上、それは公正、平等になされなければならず、そのよるべき基準を定めたのが法第三一条第一項の規定であると解するのが相当である。要するに、小売人の指定は、法規裁量に属するものというべく、公社は、申請人が法第三一条第一項各号のいずれかに該当するときは、小売人に指定しないことができるが、右各号のいずれにも該当しない場合には、必ず小売人に指定すべきであり、もし不指定の処分をしたときには、右処分は違法な処分といわざるをえない。

よつて、この点に関する被告の主張は失当である。

三  つぎに、法第三一条第一項に規定するたばこ小売人指定の要件のうち、原告の取扱予定高が公社の定める標準取扱高に達するか否かについて当事者間に争いがあるが、その点の判断はとりあえず措き、まず、規程第五条第一項第九号の定める要件すなわち原告が予定営業所の利用について正当な権利を有するか否かの点について判断する。

原告の申請によると、原告は川口ビルの一階正面横に自動販売機を設置して、たばこの販売を行なうというものであるが、成立に争いのない乙第一四号証、同第一五号証の一・二、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、右ビルには事務所、店舗併存共同住宅等があり、区分所有の対象となつているが、右の自動販売機設置を予定した場所は、本件不指定処分がなされた当時、区分所有者全員の共有に属するものとされ、供給公社がその管理にあたり、専売使用については、供給公社の承認を得ることが必要とされていたこと、しかるに原告は、その当時供給公社の使用承認は得ていなかったこと、なおその後も原告は、右の場所について専用使用権は取得していないことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、甲第三号証(同意書と題する書面)によつて、その使用権原を立証しようとするごとくであるが、その記載、これに関する証人清水左久子の証言、原告本人尋問の結果によつても、同ビルの一部居住者、利用者等において、原告が前記の場所に自動販売機を設置してたばこを販売することを、希望していることが認められるにとどまり、それ以上にすすんで使用権原を認めることは不可能である。

すると原告は、予定営業所の利用について権利を有しないといわざるをえず、かくては、そこに自動販売機を設置してたばこを販売することはできないから、法第三一条第一項第六号の「経営の基礎が著しく薄弱であると認められる場合」に当然該当することになり、ほかの点について判断するまでもなく、被告の本件不指定処分は適法であり、取消すべき事由はない。

四  よつて、原告の被告に対する本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川恭 鴨井孝之 大谷禎男)

別紙<省略>

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