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大阪地方裁判所 昭和42年(行ウ)49号 判決 1974年10月15日

大阪市東住吉区桑津町六丁目八五番地

原告

尾崎菅一

右訴訟代理人弁護士

香川公一

東中光雄

荒木宏

東垣内清

太田隆徳

片山善夫

大錦義昭

大阪市東住吉区中野町一三三番地

被告

東住吉税務署長

佐竹三千雄

大阪市東区大手前之町

被告

大阪国税局長

山内宏

右両名指定代理人

藤原照生

金原義憲

東本洋一

永松徳喜

黒木等

伊藤勝晧

井上修

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(一)  被告署長が原告に対し昭和四〇年一〇月五日付でした、原告の昭和三九年分所得税の更正処分および過少申告加算税賦課処分を取消す。

(二)  被告局長が原告に対し昭和四二年一月一八日付でした、右更正処分についての審査請求を棄却した裁決を取消す。

(三)  訴訟費用は被告らの負担とする。

2  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  原告は鉄工業を営む者であるが、昭和三九年分所得税につき総所得金額を金四二二、五七七円とする確定申告をしたところ、被告署長は昭和四〇年一〇月五日付で総所得金額を金一、〇九六、五六〇円に更正し、過少申告加算税六、〇五〇円を賦課する処分をした。原告は被告署長に対し右処分につき異議を申立てたところ、被告署長は原処分を一部取消し、総所得金額を金八七一、五六〇円に、過少申告加算税を金三、六五〇円にそれぞれ減額する決定をした。原告はなおこれを不服として被告局長に審査請求をしたが、被告局長は昭和四二年一月一八日付でこれを棄却した。

(二)  原告の昭和三九年分の総所得金額は確定申告のとおりであり、被告署長の本件処分は原告の所得を過大に認定した違法がある。

(三)  さらに被告署長の本件処分にはつぎのような手続上の違法がある。

(1) 被告署長は原告の加入する東住吉商工会の組織破壊、弾圧を目的として、従前の合理的課税慣行を無視し、原告の申告を一方的に否定して本件課税処分に及んだものである。

(2) 本件課税処分は国税通則法二四条にいう調査なくして行なわれたものであり、憲法一三条、三一条に違反する。

2  請求原因に対する被告らの認否

請求原因(一)の事実を認め、(二)(三)の主張を争う。

3  被告署長の主張

原告の昭和三九年分の総所得金額は金九七一、一一七円で、その収支の明細は別紙収支計算表の被告主張額欄記載のとおりである。以下これを詳説する。

(一)  火災保険料と地代について

原告は火災保険料および地代としてそれぞれ金一〇、二〇〇円、金一八、〇〇〇円を計上していたが、そのうち事業の用に供する部分の割合を五〇パーセントと認め、原告計上額の半分を経費として容認した。

(二)  消耗品費について

原告の主張するステンレス流し台は事業用に供していないものであるから、経費に算入できない。

(三)  福利厚生費について

原告の計上額一〇九、六三〇円中には入浴代二五、九九〇円が含まれているが、原告の雇人は一月から三月までは三人、四月と五月は二人、六月と七月は一人、八月以後は〇であり(原告の長男加藤武一、チエ子夫婦は原告と生計を一にする親族であるから除外する)、一回の入浴料金は二三円、一か月の入浴日数は一、二月が各二〇日、三月から七月までは各二六日であるので、これにより計算すると金八、一四二円となる。したがつて残りの金一七、八四八円は原告と生計を一にする親族の分と認められるから、これを差引かねばならない。

(四)  雇人費と事業専従者控除について

加藤武一、チエ子は前述のように原告の長男夫婦で、原告と生計を一にする親族であるから、かりに原告がこの両名に給料を支給していたとしても、それを必要経費に算入することはできない。そこで雇人費のうち右両名の分を認めず、これに代えて事業専従者控除として右両名分一七二、六〇〇円を加えたのである。

4  被告署長の主張に対する原告の認否

原告の認否と主張額は別紙収支計算表の原告認否・主張額欄記載のとおりである。これを補足すると

(一)  消耗品費について

製品を油で洗う用に供するため事業所に備えつけたステンレス流し台の購入代金二一、三〇〇円を加えるべきである。

(二)  福利厚生費について

原告が福利厚生費中に計上した入浴代二五、九九〇円は、原告夫婦を除く全員の分であり、その全額を経費とすべきである。なお一回の入浴料金が二三円であることは認める。

(三)  雇人費について

加藤武一、チエ子夫婦は以前から原告と生計を別にしていたもので、この両名に支給した給料は雇人費として認められるべきである。

三  証拠

1  原告

甲第一号証の一ないし一二を提供し、証人芳賀勝、加藤武一の各証言を援用し、乙第六号証の一ないし三、第七号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める、と述べた。

2  被告ら

乙第一ないし第五号証、第六号証の一ないし三、第七ないし第一〇号証を提出し、証人五味功の証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

一  請求原因(一)の事実(本件処分および裁決の存在)は当事者間に争いがない。

二  まず原告の所得金額について判断する。

1  別紙収支計算表のうち、一の収入金額および二の必要経費中2ないし6、9、11、12、14、の各項の金額は当事者間に争いがない。

2  仕入金額

(一)  成立に争いのない乙第四号証は原告が被告署長に対して提出した諸経費の月別一覧表であつて、これには花本鋳造所および株式会社共立金属熱処理工業所からの仕入金額として、被告署長の主張に副う数額の記載がある。しかし証人加藤武一の証言によると、原告方においては仕入代金については毎月二〇日締切で翌月一〇日払いを原則としていた関係上、右乙第四号証は昭和三八年一二月二一日から同三九年一二月二〇日までの仕入高を表示したものであり、このうちから昭和三八年一二月三一日以前の仕入を差引き、同三九年一二月二一日以降同月三一日までの仕入を加算すると、花本鋳造所分は金七一四、四一二円、共立金属熱処理工業所分は金八八、六三九円となるというのであつて、この供述は弁論の全趣旨に照らし信用するに値すると認められる(後出乙第一号証の各葉に付記されている「花本支払い」の合計額はおおむね原告の主張額に合致する)から、右両者からの仕入金額は原告主張のとおり認定するのが相当である。

(二)  成立に争いのない乙第一号証によると、サンエス紡機株式会社からの仕入金額は原告主張のとおり金二三三、七一一円であると認められる(乙第一号証の各葉に赤字で記載されたものの合計額は金二三一、五一一円であるが、同号証の五枚目末段に記載されている金二、二〇〇円を加算すべきである)。

(三)  吉永久男からの仕入金額については当事者間に争いがない。

(四)  よつて仕入金額の合計は金一、一八六、六四二円となる。

3  火災保険料、地代

証人五味功の証言によると、原告方は住居と工場が一体をなしていて、工場部分は家屋全体の二分の一をこえないと認められるので、原告の計上した右家屋の火災保険料一〇、二〇〇円および敷地の地代一八、〇〇〇円の各半分を事業に関する経費と認めるのが相当である。

4  消耗品費

被告署長は原告の計上額中ステンレス流し台の購入費二一、三〇〇円を家事関連費として否認したのであるが、証人加藤武一の証言によると、右流し台は製品を流うため工場に備え付けたものであると認められるので、これを経費に加算し原告主張を容認すべきである。

5  福利厚生費

福利厚生費については、原告計上額一〇九、六三〇円のうち入浴代が争点である。

前項乙第四号証には入浴代として計金二五、九九〇円の記載があり、証人加藤武一、芳賀勝は、これは原告夫婦を除く雇人全員の入浴代だという。そして右乙第四号証によると、原告の雇人としては、一月から三月までは加藤武一、チエ子夫婦ほか三名、四月と五月は加藤夫婦ほか二名、六月と七月は加藤夫婦ほか一名、八月以降は加藤夫婦のみが挙げられている。そうすると、当時の一回の入浴料金は二三円(当事者間に争いがない)であるから、これにもとづき一か月の入浴日数を計算すれば、一、二月は各二〇日、三、四、五月は各二六日となる(六月以降は三〇日をこえる計算になり、不可解である)。しかるところ、加藤武一、チエ子は後に認定するように原告の長男夫婦で原告と生計を一にする親族と認められる者であるから、その入浴代は必要経費とならないのでこれを除外し、その余の雇人(一、二、三月は三名、四、五月は二名、六、七月は一名)につき、入浴日数を一、二月は各二〇日、三月から七月までは各二六日として入浴代を計算すると、計金八、一四二円となる。したがつて残りの金一七、八四八円は原告と生計を一にする親族の分と認めてこれを差引くべきであり、結局福利厚生費として必要経費に算入できるのは金九一、七八二円となる。

6  雇人費

雇人費のうち加藤武一、チエ子以外の分二二一、〇〇〇円については当事者間に争いがない。

原告はこのほかに加藤武一に金四九四、〇〇〇円、加藤チエ子に金一七八、〇〇〇円を支給したとして、これを雇人費に加えるべきであると主張する。しかしながら、原告が右両名に給料を支給していたことを示す賃金台帳等の帳簿はなく、わずかに前記乙第四号証にそのような記載があるとはいうものの、証人加藤武一の証言から明らかなように、原告が所得税の源泉徴収をした事実はないし、加藤夫婦が給与所得につき確定申告をした形跡もない。のみならず、成立に争いのない乙第五号証と加藤証人の証言によれば、加藤武一、チエ子は原告の長男夫婦で、かねてよりさして広くない一軒の家屋に原告夫婦と同居し、同一世帯として登録していた者であつて、右家屋は加藤武一の所有でその一部を工場として原告の事業の用に供しているが、もちろん家賃等を徴しているわけではないことが認められ、また成立に争いのない乙第八、第九号証によれば、原告の事業による収入金のかなりの部分が加藤武一名義の普通預金口座に入金されていて、親子の間柄でもあることとて、両者は金銭面で明確に区分されていない状況にあつたことすら窺われるのであり、加藤証人の証言中、日常の家事につき原告夫婦と加藤夫婦との間で截然とこれを区別し、共通の消費にかかる水道光熱費なども負担を分けていたという部分は、世上ありえないことではないとはいえ、前示の事情のもとではたやすく信用しがたい。もつとも成立に争いのない甲第一号証の一ないし一二によれば、加藤武一は昭和三九年度において自己を世帯主として国民健康保険に加入し保険料を納付していたことが認められるが、この一事だけから加藤夫婦が原告夫婦と家計を分け全く別世帯を営んでいたものと判断することはできない。

これを要するに、原告主張のように原告が加藤夫婦に給料を支給していたとは容易に認めがたく、またかりに給料支払の事実があつたとしても、加藤夫婦は原告と生計を一にする親族で事業に専従する者と認めるのが相当であるから、その給料を必要経費に算入することはできず、結局雇人費に計上できるのは当事者間に争いのない金二二一、〇〇〇円にとどまるものといわざるをえない。

7  事業専従者控除

原告は事業専従者控除額として金八六、三〇〇〇円を計上するのみであるが、前項で認定したように加藤夫婦も事業専従者と認めるべきであるから、この両名分として金一七二、六〇〇円を加え、金二五八、九〇〇円とすべきである。

8  総所得金額

以上によれば、原告の昭和三九年分総所得金額(事業所得の金額)は、収入金額三、二九六、八〇一円から必要経費の合計額二、四〇五、〇九八円を差引いて金八九一、七〇三円となり、これは被告署長の更正処分額(異議決定により減額されたもの)を上まわる。

三  つぎに原告は処分の手続的違法を主張するが、証人加藤武一、芳賀勝の各証言によれば、被告署長は本件更正処分に先立ち原告から必要経費に関する書類を提出させてその検討を行なつていることが認められ、処分が調査なしに行なわれたという非難はあたらない。また本件処分が東住吉商工会の組織破壊、弾圧等の目的をもつて不正に行なわれたと認むべき証拠もない。

したがつて手続的違法の主張は採用できない。

四  被告局長の裁決については、原告は裁決固有の違法事由につき何らの主張もしない。

五  よつて原告の被告らに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下出義明 裁判官 藤井正雄 裁判官 石井彦寿)

収支計算表

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