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大阪地方裁判所 昭和42年(手ワ)123号 判決 1968年9月24日

原告 大山浩こと

大道義信

右訴訟代理人弁護士 中元兼一

同 増田淳久

同 渡辺慶治

被告 白浜建設工業株式会社

右訴訟代理人弁護士 竹林節治

同 吉村修

主文

被告は原告に対し金二〇万円とこれに対する昭和四一年一二月一〇日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

(申立)

原告は主文と同趣旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。

被告は、「請求棄却、訴訟費用原告負担」の判決を求めた。

<中略>

(被告の主張)

一、被告は、昭和四一年一一月二九日、牧方市大垣町二丁目、訴外太田鎮大方において、偶々第三者に交付すべく所持していた本件小切手を窃取されたものである。従って、本件小切手については交付行為が存しないから振出行為があったということができない。

二、小切手法二一条は、小切手債権がすでに有効に成立していることを前提として適用されるものであるから、振出がなされたといえない本件小切手については、少くとも被告との関係において同条の適用がない。

三、仮に右法条の適用があるとしても、原告は、本件小切手が窃取されたものであることを知りながら本件小切手を取得したものであるから、被告には本件小切手金を支払う義務がない。

(原告の主張)

一、原告は、昭和四一年一二月二日頃、訴外野村敏一から本件小切手の割引依頼を受けてこれを割引いた上、右小切手の交付を受けたものであるが、その際右訴外人からは勿論、何人からも本件小切手が窃取された事実をきいていない。

二、従って、仮に本件小切手が何者かによって窃取されたものであったとしても、原告はこれにつき善意の第三者であり、かつ、これにつき重大な過失もないから、いずれにしても被告の抗弁は理由がない。

理由

一、原告が、その主張にかかる被告が作成した小切手一通の所持人として、右小切手振出日の翌日たる昭和四一年一二月一〇日、これを支払人に呈示したところ支払を拒絶されたので、支払人をして右小切手面に呈示の日を記載し、かつ、日付を付した支払拒絶宣言をさせたことは当事者間に争いがない。

二、被告は、本件小切手は何者かに窃取されたもので、被告において他人に交付することにより流通に置いたものではないから、振出人としての責任がないと主張するので考えてみる。

およそ、手形行為について契約説を採るにせよ創造説を採るにせよ、手形行為者によって作成された手形若しくは小切手が、第三者の手中に帰しその者について裏書の連続等手形法一六条一項ないし小切手法一九条等の形式的要件を具備する場合には、その者が適法な所持人と推定されることはいうまでもないが、それのみにとどまらず、該手形若しくは小切手が手形行為者によって任意に相手方に交付されたという事実上の推定がなされ、これを否定する者に右推定を覆えすべき訴訟法上の責任があると解すべきである。けだし、適法に作成された手形若しくは小切手が、作成者の意思に反し窃取、或いは紛失によりその占有を離れるというようなことは、異例の事態であるというべく、通常起こり得べからざることと考えられるからである。従って、前示のような場合には、作成者においてその意思に反し手形若しくは小切手の占有を喪失した事実を立証する必要があるといわねばならない。

これを本件についてみるに、持参人払式小切手の所持人たる原告が適法に本件小切手を所持しているとみなされることはいうまでもないところであり、従って、これが作成者たる被告によって第三者に交付されたと推定さるべきであることも前説示により明らかであるところ、右推定事実に副わない被告代表者本人尋問の結果は、証人野村敏一、松尾幸雄及び太田鎮大の証言、ならびに、原告本人尋問の結果と対比して信用することができず、他に右推定事実を左右するに足る証拠がない。

三、そうすると、その余の点について判断するまでもなく、被告は本件小切手の振出人として、原告に対し、本件小切手金二〇万円、及び、これに対する呈示日から完済まで、小切手法所定年六分の利息金を支払う義務があるわけであるから、これが支払を求める原告の本訴請求を正当として認容し、民訴法八九条、一九六条二項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下出義明)

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