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大阪地方裁判所 昭和42年(保モ)2673号 判決 1967年10月12日

申立人 久保田鉄工株式会社

右代表者代表取締役 小田原大造

右代理人弁護士 加藤澄蔵

同 田中正雄

同 金光邦三

同 小長谷国男

被申立人 福元一夫

主文

被申立人を仮処分債権者申立人を仮処分債務者とする当庁昭和三七年(ヨ)第四八三号仮処分申請事件について、昭和四一年七月八日当裁判所がなした仮処分判決を取消す。

申立費用は被申立人の負担とする。

この判決は第一項に限り仮りにこれを執行することができる。

事実および理由

申立代理人らは主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、その理由として次のとおりのべた。

(一)、被申立人は、昭和三七年二月二六日申立人を被申請人として当裁判所に従業員地位保全等の仮処分を申請し、同庁昭和三七年(ヨ)第四八三号仮処分事件として審理を受けた結果、同四一年七月八日付で「申請人が、被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位を仮に定める。被申請人は、申請人に対し昭和三七年二月一七日以降一ヶ月金一六、三七〇円の割合による金員を毎月二八日限り支払わなければならない。申請費用は被申請人の負担とする。」との仮処分判決をえた。

右仮処分は被申立人は申立会社に雇用され尼崎工場において昭和三七年一月二六日迄旋盤工として、同日以後は雑役工として勤務していたところ、申立会社は同年二月一六日被申立人を懲戒解雇の意思表示をなした、しかし右懲戒解雇の意思表示はその効力を生ぜず被申立人は引続き申立人会社の従業員たる地位を有するものとしそれを保全するためなされたものであるが、これが当否はしばらくおき

(二)、被申立人は、右仮処分判決後の同四二年四月奈良県立医科大学医学部の入学試験を受験してこれに合格し、入学金、授業料などの所定の諸費用を納入するなど同学部に入学するに必要な一切の手続を了し同学部学生となった。

ところで、右大学には第二部(いわゆる夜間部)は存在せず同学部学生と申立人会社の従業員たる地位とは相容れないところであるから、被申立人が同学部学生となっていることはひっきょう申立人の従業員たる地位を自ら放棄してしまったものといわざるを得ない。

(三)、したがって、右事実によれば前記仮処分判決はもはやその効力を維持させる必要は失われ前記判決後の事情に変更を来すものであり、取消されるべきものである。よって本件申立におよぶ。

被申立人は適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、かつ、答弁書その他の準備書面を提出しないから、民事訴訟法第一四〇条三項により申立人主張事実をすべて自白したものとみなされる。

右事実によれば前記仮処分判決はもはやその効力を維持させる必要がなくなったと認められるからこれを取消し得る事情変更があったものということができる。よって同判決はこれを取消すこととし、申立費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条一項第七五六条の二をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 近藤寿夫 谷口敬一)

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