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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)4710号 判決 1975年2月19日

主文

一  被告中野ヒデノは、原告に対し、別紙第一の物件目録記載(二)の(1)ないし(3)の建物の各<ロ>の部分を収去して同目録記載(三)の(1)ないし(3)の土地の各<ロ>の部分を明渡し、かつ、金四七八万三、五七六円および昭和四九年一月一日より右明渡し済みに至るまで一か月金四万三、五六〇円の割合による金員を支払え。

二  被告山本久子は、原告に対し、別紙第一の物件目録記載(二)の(1)の建物の<ロ>の部分から退去して同目録記載(三)の(1)の土地の<ロ>の部分を明渡せ。

三  被告杉原け以および同島田慶男は、原告に対し、別紙第一の物件目録記載(二)の(2)の建物の<ロ>の部分から退去して同目録記載(三)の(2)の土地の<ロ>の部分を明渡せ。

四  被告金子多良は、原告に対し、別紙第一の物件目録記載(二)の(3)の建物の<ロ>の部分から退去して同目録記載(三)の(3)の土地の<ロ>の部分を明渡せ。

五  原告の被告金子哲子、同金子弘に対する各第一次請求、および、原告の被告中野ヒデノ、同山本久子、同杉原け以、同島田慶男、同金子多良に対するその余の第一次請求は、いずれもこれを棄却する。

六  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を被告中野ヒデノ、同山本久子、同杉原け以、同島田慶男および金子多良の負担、残余の一を原告の各負担とする。

七  この判決は、主文第一項ないし第四項および第六項について、仮に執行することができる。

八  被告中野ヒデノは、金一〇〇万円の担保を供して、主文第一項の建物収去・土地明渡の仮執行を免れることができる。被告山本久子は、金二〇万円の担保を供して、主文第二項の建物退去土地明渡の仮執行を免れることができる。

被告杉原け以および同島田慶男は、それぞれ金三〇万円の担保を供して、主文第三項の建物退去土地明渡の仮執行を免れることができる。

被告金子多良は、金三〇万円の担保を供して、主文第四項の建物退去土地明渡の仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  第一次請求

(一) 被告中野ヒデノは、原告に対し、別紙第一の物件目録記載(二)の(1)ないし(3)の建物(以下「本件(1)ないし(3)の建物」という。)の各<イ>の部分を収去して同目録記載(三)の(1)ないし(3)の土地(以下「本件(1)ないし(3)の土地」という。)の各<イ>の部分を明渡し、かつ、金四八七万四、〇四〇円および昭和四九年一月一日より右明渡し済みに至るまで一か月金四万四、三八四円の割合による金員を支払え。

(二) 被告山本久子は、原告に対し、本件(1)の建物の<イ>の部分から退去して本件(1)の土地の<イ>の部分を明渡せ。

(三) 被告島田慶男は、原告に対し、本件(1)(2)の建物の各<イ>の部分から退去して本件(1)(2)の土地の各<イ>の部分を明渡せ。

(四) 被告杉原け以は、原告に対し、本件(2)の建物の<イ>の部分から退去して本件(2)の土地の<イ>の部分を明渡せ。

(五) 被告金子哲子、同金子多良、同金子弘は、原告に対し、本件(3)の建物の<イ>の部分から退去して本件(3)の土地の<イ>の部分を明渡せ。

(六) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(七) この判決は仮に執行することができる。

2  第二次請求(但し、被告中野ヒデノ、同山本久子、同杉原け以、同金子哲子についてのみ、以下同じ)

(一) 被告山本久子と同中野ヒデノは、原告に対し、共同して、本件(1)の建物の<イ>の部分のうち各所有部分を収去して本件(1)の土地の<イ>の部分を明渡し、かつ、被告山本久子は、金四四万三、八〇五円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡しに至るまで一か月金四、〇四一円の割合による金員を、被告中野ヒデノは、金五六万六、七七四円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡済みに至るまで月額金五、一六一円の割合による金員を、それぞれ支払え。

(二) 被告杉原け以と同中野ヒデノは、原告に対し、共同して、本件(2)の建物の<イ>の部分のうち各所有部分を収去して本件(2)の土地の<イ>の部分を明渡し、かつ、被告杉原け以は、金七二万七、七五二円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡しに至るまで一か月金六、六二七円の割合による金員を、被告中野ヒデノは、金一一一万四、五四五円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡しに至るまで一か月一万〇、一四九円の割合による金員を、それぞれ支払え。

(三) 被告金子哲子および同中野ヒデノは、原告に対し、共同して、本件(3)の建物の<イ>の部分のうち各所有部分を収去して本件(3)の土地の<イ>の部分を明渡し、かつ、被告金子哲子は、金九〇万六、六一六円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡しに至るまで一か月金八、二五五円の割合による金員を、被告中野ヒデノは、金一一一万四、五四五円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡しに至るまで一か月金一万〇、一四九円の割合による金員を、それぞれ支払え。

3  第三次請求(但し、前記第二次請求の被告らについてのみ。以下同じ)

(一) 被告山本久子は、原告に対し、本件(1)の建物の<イ>の部分より退去し、別紙第一の物件目録記載(二)の(4)の建物(以下「本件(4)の建物」という。)の<イ>の部分を収去して同目録記載(三)の(4)の土地(以下「本件(4)の土地」という。)の<イ>の部分を明渡し、かつ、金四四万三、八〇五円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡しに至るまで一か月金四、〇四一円の割合による金員を支払え。

被告中野ヒデノは、原告に対し、金五六万六、七七四円および昭和四九年一月一日以降別紙第一の物件目録記載(三)の(7)の土地(以下「本件(7)の土地」という。)の<イ>の部分明渡済みに至るまで一か月金五、一六一円の割合による金員を支払え。

(二) 被告杉原け以は、原告に対し、本件(2)の建物の<イ>の部分より退去し、別紙第一の物件目録記載(二)の(5)の建物(以下「本件(5)の建物」という。)の<イ>の部分を収去して同目録記載(三)の(5)の土地(以下「本件(5)の土地」という。)の<イ>の部分を明渡し、かつ、金七二万七、七五二円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡しに至るまで一か月金六、六二七円の割合による金員を支払え。

被告中野ヒデノは、原告に対し、金一一一万四、五四五円および昭和四九年一月一日以降別紙第一の物件目録記載(三)の(8)の土地(以下「本件(8)の土地」という。)の<イ>の部分明渡済みに至るまで一か月金一万〇、一四九円の割合による金員を支払え。

(三) 被告金子哲子は、原告に対し、本件(3)の建物の<イ>の部分より退去し、別紙第一の物件目録記載(二)の(6)の建物(以下「本件(6)の建物」という。)の<イ>の部分を収去して同目録記載(三)の(6)の土地(以下「本件(6)の土地」という。)の<イ>の部分を明渡し、かつ、金九〇万六、六一六円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡済みに至るまで一か月金八、二五五円の割合による金員を支払え。

被告中野ヒデノは、原告に対し、金一一一万四、五四五円および昭和四九年一月一日以降別紙第一の物件目録記載(二)の(9)の土地(以下「本件(9)の土地」という。)の<イ>の部分明渡済みに至るまで一か月金一万〇、一四九円の割合による金員を支払え。

4  第四次請求(但し、被告山本久子、同杉原け以、同金子哲子についてのみ、以下同じ)

(一) 被告山本久子は、原告に対し、本件(1)の建物の<イ>の部分を収去して本件(1)の土地の<イ>の部分を明渡し、かつ、金一〇一万〇、五八〇円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡済みに至るまで一か月九、二〇二円の割合による金員を支払え。

(二) 被告杉原け以は、原告に対し、本件(2)の建物の<イ>の部分を収去して本件(2)の土地の<イ>の部分を明渡し、かつ、金一八四万二、二九七円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡済みに至るまで一か月金一万六、七七六円の割合による金員を支払え。

(三) 被告金子哲子は、原告に対し、本件(3)の建物の<イ>の部分を収去して本件(3)の土地の<イ>の部分を明渡し、かつ、金二〇二万一、一六一円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡済みに至るまで一か月金一万八、四〇五円の割合による金員を支払え。

二  被告ら

1  原告の被告らに対する各請求は、いずれもこれを棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  第一次請求の原因

(一) 原告は、従前より、別紙第一の物件目録記載(一)の土地(以下「本件一一番地の三の土地」という。)を所有している。

(二) 被告中野ヒデノは、少なくとも昭和三一年一月一日以降、本件(1)ないし(3)の建物の各<イ>の部分を所有して、本件(1)ないし(3)の土地の各<イ>の部分を占有している(以下、請求原因欄に記載の本件(1)ないし(6)の土地・建物については、いずれも、別紙第一の物件目録記載(二)(三)の(1)ないし(6)の土地・建物のうち、各<イ>の部分をいうものとする)。

(三) 被告山本久子は本件(1)の建物を占有使用して本件(1)の土地を占有し、被告島田慶男は本件(1)(2)の建物を占有使用して本件(1)(2)の土地を占有し、被告杉原け以は本件(2)の建物を占有使用して本件(2)の土地を占有し、被告金子哲子、同金子多良および同金子弘は本件(3)の建物を占有使用して本件(3)の土地を占有している。

(四) 本件(1)ないし(3)の土地の昭和三一年一月一日以降の賃料相当損害金は、別紙第五の賃料相当損害金一覧表記載の賃料相当損害金(1)欄の金額が相当である。

(五) よつて、原告は、第一次請求として、所有権に基づき、被告らに対して、第一次請求の趣旨記載の建物収去・退去・土地明渡および賃料相当損害金の支払を求める。

2  第二次請求の原因

第一次請求の原因(二)が認められないとしても、

(一) 被告中野ヒデノは、昭和三一年一月一日以降、別紙第一の物件目録記載(7)ないし(9)の建物(以下「本件(7)ないし(9)の建物」という。)を所有して、本件(7)ないし(9)の土地を占有している。

(二)被告山本久子は、昭和三一年一月一日以降、本件(1)の建物に居住し、かつ、本件(4)の建物を所有して本件(4)の土地を占有し、被告杉原け以は、右同日以降、本件(2)の建物に居住し、かつ、本件(5)の建物を所有して本件(5)の土地を占有し、被告金子哲子は、右同日以降、本件(3)の建物に居住し、かつ、本件(6)の建物を所有して本件(6)の土地を占有している。

(三) 本件(4)ないし(9)の土地の昭和三一年一月一日以降の賃料相当損害金の坪当り単価(月額)は、別紙第五の賃料相当損害金一覧表記載の坪当り単価(月額)欄のとおりであるので、右各土地の昭和三一年一月一日以降の賃料相当損害金は、別紙第六の賃料相当損害金算出式記載(四)ないし(八)の各金額になる。

(四) よつて、原告は、第二次請求として、所有権に基づき、被告らに対して、第二次請求の趣旨記載の建物収去・退去・土地明渡および賃料相当損害金の支払を求める。

3  被告らの再訴禁止の主張に対する原告の反論

原告は、さきに、被告中野ヒデノに対して、別紙第一の物件目録記載(三)の(10)の土地(以下「本件(10)の土地」という。)上にある同目録記載(二)の(10)の建物(以下「本件(10)の建物」という。)を収去して右土地を明渡すべき旨の訴えを提起し、第一審で勝訴したが、被告中野ヒデノが控訴し、その控訴審において、本件(10)の建物は消滅した旨主張したので、原告は、請求の趣旨を変更して、別紙第一の物件目録記載(三)の(11)の土地(以下「本件(11)の土地」という。)の賃借権不存在の確認を求めたのである。

けれども、そもそも、控訴審における訴えの交換的変更が旧訴につき訴えの取下となるかどうか疑問であるうえ、仮に、これが旧訴につき訴えの取下となるとしても、再訴禁止の規定の趣旨からして、本件原告の被告中野ヒデノに対する建物収去土地明渡の請求は、これに該らないものというべきである。即ち、再訴禁止の規定は、本案判決後に訴えを取下げ、判決にいたるまでの裁判所の努力を徒労に帰せしめたことに対する制裁として同一紛争のむし返しを禁止するものであり、いたずらに裁判所をもて遊ぶという不当な結果を防止せんがための規定である。したがつて、これを厳格に解すると、事後の原告の司法的救済の道を閉ざすことになるため、右立法趣旨に照らして合理的に判断すべきである。

これを本件原告の被告中野ヒデノに対する建物収去土地明渡請求についてみた場合、何よりも留意すべきことは、前訴の控訴審において、被告中野ヒデノは、原告の本件(10)の建物収去土地明渡の請求に対し、本件(10)の建物が消滅した旨主張したため、原告が調査したところ、一審終結後に、本件(10)の建物の各居住者らが、本件(10)の建物に増改築を施したうえ、増築建物について保存登記をなし、また、本件(10)の建物も原形を留めていなかつたことから、原告は、被告中野ヒデノに対する建物収去土地明渡の訴えを賃借権不存在確認の訴えに変更したということである。右時点において、原告が本件(10)の建物は消滅したと考え、訴えの変更をなしたのは、至極当然であり、それが裁判所をもて遊ぶ意図にでたものでないことは明白である。したがつて、原告が、前訴の控訴審において、本件(10)の建物収去土地明渡の訴えを取下げたとしても、それは、被告中野ヒデノらの不当な行為に起因するものであつて、原告が、再び本訴において、被告中野ヒデノに対して建物収去土地明渡の訴えを提起したからといつて、再訴禁止には該らないというべきであろう。

4  第三次請求の原因

なお、仮に、被告中野ヒデノに対する第二次請求のうち、建物収去・土地明渡の部分が民事訴訟法第二三七条第二項の再訴禁止の規定に触れるとすれば、原告は、第三次請求として、所有権に基づき、被告らに対して、第三次請求の趣旨記載の建物収去・退去・土地明渡および賃料相当損害金の支払を求める。

5  第四次請求の原因

仮に、本件(7)ないし(8)の建物について被告中野ヒデノの所有が認められないとすれば、

(一) 被告山本久子は、昭和三一年一月一日以降、本件(1)の建物を所有して本件(1)の土地を占有し、被告杉原け以は、右同日以降、本件(2)の建物を所有して本件(2)の土地を占有し、被告金子哲子は、右同日以降、本件(3)の建物を所有して本件(3)の土地を占有している。

(二) 本件(1)ないし(3)の土地の昭和三一年一月一日以降の賃料相当損害金の坪当り単価(月額)は、別紙第五の賃料相当損害金一覧表記載の坪当り単価(月額)欄のとおりであるから、右各土地の昭和三一年一月一日以降の賃料相当損害金は、別紙第六の賃料相当損害金算出式記載の(一)ないし(三)の各金額となる。

(三) よつて、原告は、第四次請求として、所有権に基づき、被告中野ヒデノを除く各被告ら(以下「被告山本久子ら六名」という。)に対して、第四次請求の趣旨記載の建物収去・退去・土地明渡および賃料相当損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告中野ヒデノの認否および主張

1  再訴禁止の主張

原告は、さきに、被告中野ヒデノに対して、本件(10)の土地上にある本件(10)の建物を収去して右土地を明渡すべき旨の訴えを提起し、第一審で勝訴したが、控訴審で請求の趣旨を訂正して、本件(11)の土地の賃借権不存在確認の請求に変更し、前記建物収去土地明渡の訴えを取下げた。

従つて、原告は、民事訴訟法第二三七条第二項の再訴禁止の規定により、再び、被告中野ヒデノに対して、同一請求である本訴第一次および第二次請求の趣旨記載の建物収去・土地明渡を求めることはできないのである。

2  第一次請求について

(一) 第一次請求の原因(一)記載の事実は認める。

(二) 同(二)記載の事実は否認する。被告中野ヒデノは、本件(1)ないし(3)の建物のうち本件(7)ないし(9)の建物を所有しているにすぎず、残りの本件(4)ないし(6)の建物は、相被告らが所有している。なお、本件(1)ないし(6)の土地建物の範囲は、原告が主張する範囲と異なつている。

(三) 同(三)記載の事実は認める。

(四) 同(四)記載の事実は否認する。

3  第二次請求について

(一) 第二次請求の原因(一)記載の事実は認める。

(二) 同(二)記載の事実中、相被告らが本件(4)ないし(6)の建物を所有していることは認めるが、その余の事実は否認する。

(三) 同(三)記載の事実は否認する。

4  第四次請求について

(一) 第四次請求の原因(一)記載の事実は否認する。相被告らは、本件(1)ないし(3)の建物のうち本件(4)ないし(6)の建物を所有しているにすぎず、残りの本件(7)ないし(9)の建物は、被告中野ヒデノが所有している。

(二) 同(二)記載の事実は否認する。

三  請求原因に対する被告中野ヒデノを除く全被告(以下「被告山本久子ら六名」という。)らの認否および主張

1  被告中野ヒデノの再訴禁止の主張を援用する。

2  第一次請求について

(一) 第一次請求の原因(一)記載の事実中、原告が、昭和四七年三月頃まで本件一一番地の三の土地を所有していたことは認める。

(二) 同(二)記載の事実中、本件(1)ないし(3)の土地建物の範囲については否認し、その余の事実は認める。

(三) 同(三)記載の事実中、被告山本久子が本件(1)の建物を使用して本件(1)の土地を占有していること、被告島田慶男および同杉原け以が本件(2)の建物を使用して本件(2)の土地を占有していること、被告金子多良が本件(3)の建物を使用して本件(3)の土地を占有していること、以上の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(四) 同(四)記載の事実は否認する。

3  第二次請求について

(一) 第二次請求の原因(一)記載の事実は認める。

(二) 同(二)記載の事実中、被告山本久子が昭和三一年一月一日以降本件(1)の建物に居住し、被告杉原け以が右同日以降本件(2)の建物に居住していることは認めるが、その余の事実は否認する。本件(4)ないし(6)の建物は、いずれも被告中野ヒデノの所有に属する。

(三) 同(三)記載の事実は否認する。

4  第四次請求について

第四次請求の原因記載の事実は否認する。

四  被告山本久子ら六名の抗弁

1  原告は、昭和四七年三月頃、本件一一番地の三の土地を訴外中尾清一に譲渡した。

2  被告山本久子は昭和二六年頃本件(1)の建物の一階部分を、被告杉原け以・同島田慶男は昭和二一年本件(8)の建物を、被告金子多良は昭和二一年本件(9)の建物を、いずれも、右各建物の所有者で本件一一番地の三の土地の管理人である被告中野ヒデノから賃借した。

被告山本久子の前借主訴外坪井幸子が本件(4)の建物の一階部分を、被告杉原け以・同島田慶男が本件(5)の建物の一階部分を、被告金子多良が本件(6)の建物の一階部分を、いずれも、被告中野ヒデノの承諾を得て、昭和二三年二月に増築した。

被告山本久子が本件(4)の建物の二階部分を、被告杉原け以・同島田慶男が本件(5)の建物の二階部分を、いずれも、被告中野ヒデノの承諾をえて、昭和二八年に増築した。

五  抗弁に対する認否

抗弁記載の事実は否認する。

第三  証拠(省略)

理由

一  本件一一番地の三の土地の所有権者について

原告が本件一一番地の三の土地の所有権者であることについては、原告と被告中野ヒデノとの間で争いがなく、原告と被告山本久子ら六名との間では、原告が昭和四七年三月頃まで右土地を所有していたことは争いがない。

ところで、被告山本久子ら六名は、原告が昭和四七年三月頃本件一一番地の三の土地を訴外中尾清一に譲渡したと主張するので考えてみるに、成立に争のない甲第六〇号証、証人中尾清一の証言および原告本人尋問の結果を総合すれば、中尾清一は、昭和二七年頃より、原告より頼まれて本件一一番地の三の土地の管理をするとともに固定資産税の納税管理人になつており、また、昭和三九年頃より、右土地のうち別紙第四の土地実測図面(2)の(ツ)(ウ)線より西側の部分の一部を資材等の置場として使用しているが、右使用は右土地の管理をしているものであつて、原告に対して使用料は支払つていないことが認められるが、それ以上に、中尾清一が原告から本件一一番地の三の土地を譲受けたことを認定するに足りる証拠はない。してみれば、原告が本件一一番地の三の土地の所有権者というべく、被告山本久子ら六名の主張する抗弁1は理由がないといわなければならない。

二  本件(1)ないし(3)の建物の所有権者について

本件(1)ないし(3)の建物が被告中野ヒデノの所有であることについては、原告と被告山本久子ら六名との間では争がないが、原告と被告中野ヒデノとの間では争いのあるところである。即ち、原告は、第一次的には、本件(1)ないし(3)の建物の所有権が被告中野ヒデノに帰属するとし、第二次的に、右建物のうち、本件(7)ないし(9)の建物の部分が被告中野ヒデノに、本件(4)ないし(6)の建物の部分が被告山本久子らに帰属するとし、第四次的に、本件(1)ないし(3)の建物の所有権が被告山本久子らに帰属すると主張するのに対し、被告中野ヒデノは、原告の右第二次的主張のとおり、本件(1)ないし(3)の建物のうち、本件(7)ないし(9)の建物の部分が同被告に、本件(4)ないし(6)の建物の部分が被告山本久子らに帰属すると主張し、被告山本久子ら六名は、原告の第一次的主張のとおり、本件(1)ないし(3)の建物の所有権は被告中野ヒデノに帰属すると主張する。このように、本訴では、本件(1)ないし(9)の建物の所有権が被告中野ヒデノに帰属するのか、それとも被告山本久子らに帰属するのかについて、民法第二四二条の附合の規定の解釈とも絡んで重要な争点の一つとなつている。

思うに、旧建物について増改築等が施された場合、右建物増築部分の従前の建物への附合の成否については、当該増築部分の構造・利用方法を考察し、右部分が従前の建物に接して築造され、構造上建物としての独立性を欠き、従前の建物と一体となつて利用され取引されるべき状態にあるときは、右部分は従前の建物に附合したものというべく、たとえ新築部分について新たな登記がなされていたとしても、このことから直ちに附合の成立を否定することは、許されないものといわなければならない。

これを本件についてみるに、成立に争いのない甲第二号証、同第五号証、同第七号証、同第九号証、同第四八号証、同第四九号証の一・二、同第六〇号証、検甲第一号証の一ないし三、検甲第二号証の一・二、検甲第三号証の一・二、検甲第四号証の一ないし六、原告と被告山本久子ら六名との間では成立に争いがなく、被告中野ヒデノとの間では、被告金子多良の本人尋問の結果より真正に成立したものと認められる乙第一号証の二、被告金子多良本人の尋問結果より真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、鑑定人木口勝彦の鑑定結果、検証の結果、証人坂上登の証言、原告および被告金子多良の各本人尋問の結果、および弁論の全趣旨を総合すれば、被告中野ヒデノは、昭和二一年頃、本件(10)の土地上に本件(10)の建物を建築所有し、そのうち、当時いずれも平家建であつた本件(7)の建物を訴外坪井幸子に(その後、昭和二六年頃、坪井幸子に変わつて被告山本久子に)、本件(8)の建物を被告杉原け以・同島田慶男の両名に、本件(9)の建物を被告金子多良にそれぞれ賃貸したが、その後昭和二三年二月頃、いずれも被告中野ヒデノの承諾を得て、坪井幸子が、本件(7)の建物の西側に本件(4)の建物の一階部分、ついで(昭和二六年頃)二階部分をそれぞれ増築して本件(1)の建物となし、被告杉原け以・同島田慶男両名が、本件(8)の建物の西側に本件(5)の建物の一階部分、ついで(昭和二六年頃)二階部分をそれぞれ増築して本件(2)の建物となし、被告金子多良が、本件(9)の建物の西側に本件(6)の建物を増築して本件(3)の建物となしたこと、被告中野ヒデノは昭和二四年一一月一二日本件(10)の建物について、被告杉原け以は昭和三〇年一二月一四日本件(5)の建物について、それぞれ保存登記手続をなしたこと、本件(4)の建物については所有者が被告山本久子として、また本件(6)の建物については所有者が被告金子哲子として、それぞれ家屋補充課税台帳に登録されていること、本件(4)ないし(6)の各建物の一階部分は、それぞれ本件(7)ないし(9)の各建物に接着して建築され、また本件(1)(2)の建物の二階部分は同建物の一階部分の上に増築されたものであつて、本件(4)ないし(6)の建物部分はいずれも居間もしくは店舗・作業場の一部として使用され、同部分から外部への出入はいずれも店舗作業場として使用されている本件(7)ないし(9)の建物部分を通過するよりほかなく、本件(4)ないし(6)の建物と本件(7)ないし(9)の建物が一体として店舗兼居宅として利用されていて、建物の構造上からいつてもまた機能上からいつても、本件(4)の建物と(7)の建物、本件(5)の建物と(8)の建物、本件(6)の建物と(9)の建物は、その一つ一つが建物としての独立性を欠き不可分の状態にあること、以上の事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、本件(4)ないし(6)の各建物は、本件(7)ないし(9)の各建物に接して築造され、構造上も建物としての独立性を欠き、従前の建物と一体となつて利用され取引されるべき状態にあつて、それ自体としては取引上の独立性を有せず、建物の区分所有権の対象たる部分にはあたらないといわなければならない。してみれば、本件(4)ないし(6)の建物部分は、民法第二四二条本文の規定により本件(7)ないし(9)の建物の従としてこれに附合したものであつて、その所有権は増築のつど従前の建物の所有者である被告中野ヒデノに帰属したものというべく、たとえ、被告山本久子らが本件(4)ないし(6)の建物を増築するについて賃貸人である被告中野ヒデノの承諾を得ており、また、本件(5)の建物について所有者が被告杉原け以として建物登記簿に登記され、本件(4)および(6)の建物についてはそれぞれ所有者が被告山本久子および被告金子哲子として家屋補充課税台帳に登録されているとしても、民法第二四二条但書の適用はないものと解するのが相当である。そうだとすれば、本件(1)ないし(3)の建物は、被告中野ヒデノの所有に属するものといわなければならない。

三  被告らの再訴禁止の主張について

1  被告らは、原告の被告中野ヒデノに対する本件(1)ないし(3)の建物収去土地明渡請求は、民事訴訟法第二三七条第二項の再訴禁止の規定により許されないと主張するところ、成立に争のない甲第三号証の一ないし三、同第一二号証の一、同五一号証、同第五四号証、同第五五号証(丙第一号と同旨)によれば、原告は、昭和二九年、被告中野ヒデノを相手方として、本件(10)の土地の上にある本件(10)の建物を収去して右土地を明渡すべき旨の訴えを大阪地方裁判所に提起し(同庁同年(ワ)第二四三四号事件)、昭和三〇年一〇月一七日同裁判所は原告の右請求を認容する旨の判決をなしたが、被告中野ヒデノはこれに対し控訴し(大阪高等裁判所同年(ネ)第一三二一号事件)、右控訴審において、原告は、当初の請求を変更して本件(11)の土地の賃借権不存在確認の請求となし、結局右請求の範囲で認容され、最高裁判所の判決もこれを容れたことが認められる。原告は、被告らの右主張に対し、そもそも、控訴審における訴えの交換的変更が旧訴につき訴えの取下となるかどうか疑問であるうえ、仮に、これが旧訴につき訴えの取下となるとしても、再訴禁止の規定の趣旨からして、原告の被告中野ヒデノに対する右請求は、これに該らないものというべきであると反論する。

けれども、本案の終局判決後に控訴審で訴えの交換的変更があつた場合には、旧請求については終局判決後の訴の取下に該当するものと解すべきであるから、原告の被告中野ヒデノに対する右請求は、民事訴訟法第二三七条第二項の再訴禁止の規定との関係で、一応、問題が生じるものといわなければならない。

2  そこで、再訴禁止の規定との関係につき検討するに、そもそも、再訴禁止の規定は、裁判所がせつかく本案判決をしたのに、その後に原告が訴の取下をして判決の効力を失なわせたことにより、判決に至るまでの裁判所の努力を徒労に帰せしめたことに対する制裁として、同一紛争のむしかえしを禁止するためのものであり、いたずらに裁判所をもて遊ぶという不当な結果を防止せんがための規定である。このように、再訴禁止の規定は、正当の理由なしに訴を取下げるという取下権の濫用を防止するための規定であり、国家的制裁として訴権を奪うものであるから、これを厳格に解すると事後の原告の司法的救済の道を閉ざすことになるため、右立法趣旨に照らして再訴禁止の及ぶ範囲も合理的に定める必要があり、再訴禁止の要件としての「同一の訴」についても、訴訟物が同一であるだけでは足りず、訴の利益・必要の点についても同一であることを要するというべく、新に「同一の訴」を提起することを正当ならしめるに足る事情の存するときには、再訴禁止の規定は適用さるべきではないと解すべきである。

3  右のような再訴禁止の規定の立法趣旨からみて、原告の被告中野ヒデノに対する本件(1)ないし(3)の建物収去土地明渡の請求が許されないものであるかどうかについて判断するに、前掲甲第三号証の一ないし三、同第七号証、同第一二号証の一、同第四八号証、同第四九号証の一・二、同第五一号証、同第五四号証、同第五五号証、同第六〇号証、成立に争いのない甲第一一号証、同第一五号証、同第四三号証、同第四六号証、および弁論の全趣旨とこれによつて成立の認められる甲第四七号証を総合すれば、原告は、第一審で、被告中野ヒデノが本件(10)の建物の所有権者であると主張し、被告中野ヒデノもこれを認めていて、控訴審でも、最初の頃は被告中野ヒデノが本件(10)の建物の所有権者であることについて当事者間で何ら争いがなく、被告中野ヒデノが本件(10)の土地について賃借権を有することを主張して、専ら右賃借権の有無が争われていたこと、ところが、原告は、昭和三三年になつて、本件(10)の建物の各賃借人によつて右建物の裏側(西側)に増築がなされ、かつ、殆んどの建物が二階建となつていて、そのうえ、右増改築建物について各賃借人の保存登記または家屋台帳に登録までなされていることを知つて(右は当裁判所に顕著な事実である)、同年七月一九日付で、被告中野ヒデノの旧建物はどの程度に現存するか、右各賃借人増築建物はいかなる状態において存在するか、被告中野ヒデノ所有建物と右各賃借人増築建物とは区別されうるか等を明らかにするために、検証および鑑定の申し出をなし、右申出によつて昭和三四年三月一八日付でなされた検証では、被告中野ヒデノ所有建物と右各賃借人の所有建物とは密着して建てられてあり、右両建物の境界を明確に判別することができないことが判明し、また同年五月一四日付小久保鑑定でも、右両建物は一応同体のもので不可分の状態にあるという鑑定がなされたこと、そこで、被告中野ヒデノは、昭和三四年四月九日付準備書面の第五項で、「被告中野ヒデノの旧建物の各賃借人が、被告中野ヒデノに無断で、右建物に増改築を加え、平家建を二階建に、杉皮葺屋根を瓦葺に改造したことにより、右建物の現状が著しく変更せられたにも拘わらず、原判決は、如何なる建物が現存するかも確かめずに、単に登記簿上の記載のみを基礎として、実在せざる建物の収去を認めたものであつて違法である。」と主張するに至つたこと、そこで、原告としても、被告中野ヒデノの旧建物の現状が著しく変更せられ、右建物の収去を求めることは不可能であると判断して、昭和三四年一〇月二一日付請求の趣旨訂正の申立書で、本件(10)の建物収去土地明渡の請求を本件一一番地の三の土地のうち六五坪九合三勺の土地(後に本件(11)の土地と訂正)についての賃借権不存在確認の請求へと訴を変更し、結局、昭和三九年二月一四日に言渡された最高裁判所の判決によつて、被告中野ヒデノが右土地につき賃借権を有しないことに確定したこと、以上の事実が認められ、被告中野ヒデノが、本訴において従前の主張を変え、被告中野ヒデノは本件(6)ないし(9)の建物を所有していると主張するとともに、原告より被告中野ヒデノに対する建物収去土地明渡の請求は再訴禁止の規定より許されないと主張し、また、被告山本久子ら六名も、被告中野ヒデノが本件(1)ないし(3)の建物を所有していると主張するとともに、被告中野ヒデノの再訴禁止の主張を援用するに至つたことは、本件記録に徴し明らかなところである。

4  ところで、前記二の認定事実によれば、被告中野ヒデノの旧建物は現存し、各賃借人によつて増改築を加えられた部分についても民法第二四二条によつて被告中野ヒデノの旧建物に附合したものと認められるにかかわらず、原告が、前訴の控訴審において、被告中野ヒデノの旧建物がもはや現存しなくなつたものと判断して建物収去土地明渡の訴えを賃借権不存在確認の訴えに変更したのは、その前提となる状況の判断に誤りがあつたものということができる。けれども、旧建物に加えられた増改築部分について独立して各賃借人の保存登記や家屋台帳に登録までなされていたことと、右増改築の程度・範囲にかんがみ、民法第二四二条の附合の規定の適用があるかどうかは頗る微妙な法律判断であるうえ、被告中野ヒデノ自ら自己の旧建物は実在しないと主張する以上は、原告が、前訴の控訴審において、被告中野ヒデノに対して建物収去土地明渡を請求する利益はもはや消滅したと判断して賃借権不存在確認に訴えを変更したとしても、無理からぬところである。むしろ、前訴における原告の建物収去土地明渡の請求に対して、自己の旧建物は消滅したと主張して原告に訴え変更の縁由を与えておきながら、本訴においては、自己の旧建物は依然として存続するとなし、原告の被告中野ヒデノに対する建物収去土地明渡の請求は再訴禁止の規定より許されないとする被告中野ヒデノの主張こそ、民事訴訟法第二三七条二項の再訴禁止の規定の趣旨から離れるものである。まして、最高裁判所の確定判決によつて、現在では、被告中野ヒデノが本件(11)の土地について賃借権を有しないことに確定している事実を考慮すれば、尚更のことである。結局、以上のような点に鑑みれば、被告中野ヒデノが、前訴の控訴審において、自己の旧建物の存在を否定し、旧建物に対する収去と土地明渡請求の必要性がなくなつたと解されるような主張をなしながら、本訴においては、前言を翻えしてその存在を肯定し、それは自己の所有であると主張して再び紛争をむしかえしてきたため、原告が、被告中野ヒデノに対して、建物収去土地明渡を求める新たな必要が生じてきたというべきである。してみれば、原告が、前訴の控訴審において、被告中野ヒデノに対する建物収去土地明渡の訴を取下げたからといつて、前訴における一審判決に至るまでの裁判所の努力を徒労に帰せしめ、いたずらに裁判所をもて遊んだものとはいえず、前記三の2の再訴禁止の規定の趣旨からみて、本訴における原告の被告中野ヒデノに対する建物収去土地明渡の請求は許されるものというべきである。

四  本件(1)ないし(3)の土地建物の占有について

1  被告山本久子が本件(1)の土地建物を、同島田慶男・同杉原け以が本件(2)の土地建物を、また被告金子多良が本件(3)の土地建物をそれぞれ占有していることは、当事者間に争がない。そうして、前記二の認定事実、および被告金子多良の本人尋問の結果、ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、被告杉原け以は被告島田慶男の実姉であり、被告金子哲子は被告金子多良の二女で昭和三三年頃結婚して本件(3)の建物に居住していないこと、被告金子弘は被告金子多良の長男であつて本件(3)の建物を独立して占有しているものではないことが認められる。なお、前掲甲第九号証の家屋補充課税台帳には、本件(3)の建物の所有者が金子哲子と登録されていることが認められるが、被告金子多良の本人尋問の結果によれば、当該区役所の係員が本件(3)の建物の現況について調べに来たとき、被告金子多良の娘である被告金子哲子が応対したところ、右哲子名義の登録がなされたことが認められるので、甲第九号証も前記認定の妨げとはならず、他に右認定事実を覆すに足りる証拠はない。

2  原告は、本件(1)ないし(6)の土地建物の範囲は、別紙第三の建物実測図面(1)および同第四の土地実測図面(1)記載のとおりであると主張する。

けれども、前掲甲第四六号証、同第四七号証、鑑定人木口勝彦の鑑定結果、検証の結果および証人中尾清一の証言によれば、本件一一番地の三の土地のうち国道二六号線に面して建てられている八戸一棟の建物(本件(11)の建物)の各賃借人らが、右建物の裏側(西側)に工作物等を設けていたので、昭和三五年頃までは、別紙第三の建物実測図面(1)記載のように、右建物の裏側(西側)が凸凹の状態であつたこと、そこで、前記中尾清一は、昭和三五年頃、原告より頼まれて、右建物の各賃借人らの同意を得て、右建物の裏側のうち出つぱつている部分を取り除いて直線の塀を設置したこと、右各建物の奥行はいずれも七間で、そのうち、被告中野ヒデノの旧建物部分が四間で、各賃借人らが増築した部分が三間であること、以上の事実が認められる。

右事実によれば、本件(1)ないし(6)の土地建物の範囲は、別紙第一物件目録記載(二)の(1)ないし(6)の建物の各<ロ>の部分および同目録記載(三)の(1)ないし(6)の土地の各<ロ>の部分(以下いずれも「<ロ>の部分」との記載を省略する、別紙第三の建物実測図面(2)および同第四の土地実測図面(2)記載のとおり)であることが認められる。

3  被告中野ヒデノは、同人の昭和四九年一〇月二日付準備書面においても、結局、本件(10)の土地について賃借権の存しないことを自認しておる(同書面第二項参照)ものと解され、その外、本件(1)ないし(3)の土地の占有権原については、なんら主張・立証をなさない。

被告山本久子ら六名は、本件(1)ないし(3)の土地の管理人であり、かつ本件(1)ないし(3)の建物の所有者である被告中野ヒデノより、被告山本久子は本件(1)の建物を、被告杉原け以・同島田慶男は本件(2)の建物を、被告金子多良は本件(3)の建物を、それぞれ賃借していると主張する。けれども、そもそも、本件(1)ないし(3)の土地の管理人とは法律的に何を意味するのか明らかでないが、仮に、原告のために本件(1)ないし(3)の土地について何等かの処分をなす権限を有するものという意味と解するにしても、被告山本久子ら六名はこの点について何らの立証もなさないばかりか、却つて、被告中野ヒデノは本訴において本件(1)ないし(3)の土地について賃借権を有しないことを自認しており、また、前掲甲第三号証の一ないし三によれば、被告中野ヒデノが本件(11)の土地について賃借権を有しないことが最高裁判所の判決で確定していることが認められる。その他、被告山本久子ら六名は、本件(1)ないし(3)の土地の占有権原について、なんら主張・立証をなさない。

4  以上のとおりであるとすれば、原告に対し、

(一)  被告中野ヒデノは、本件(1)ないし(3)の建物を収去して本件(1)ないし(3)の土地を明渡し、かつ本件(1)ないし(3)の土地の占有期間中の賃料相当の損害金の支払をなすべき義務、

(二)  被告山本久子、同杉原け以、同島田慶男、同金子多良は、それぞれ前記占有建物から退去して該敷地を明渡すべき義務をいずれも免れない。

五  本件(1)ないし(3)の土地の賃料相当損害金について

本件(1)ないし(3)の土地の範囲についての前記四の認定事実によれば、本件(1)の土地の面積は一〇・二三坪、本件(2)の土地の面積は一六・二八坪、本件(3)の土地の面積は一六・二八坪であり、本件(1)ないし(3)の土地の面積は四二・七九坪であることが認められ、また前記二および四で認定・判断したところによれば、被告中野ヒデノは遅くとも昭和三一年一月一日以降本件(1)ないし(3)の土地を占拠しているものといわざるをえないので、そこで右土地の昭和三一年一月一日以降の賃料相当損害金について判断する。

成立に争いのない甲第五九号証(小野鑑定)、弁論の全趣旨より真正に成立したものと認められる甲第四号証の一・二(侮鑑定)、前掲甲第四九号証(小久保鑑定)は、いずれも、本件一一番地の三の土地の適正賃料額は、別紙第五の賃料相当損害金一覧表記載の坪当り単価(月額)欄の各金額以上の金額が相当であると鑑定している。また、鑑定人木口勝彦の鑑定の結果では、本件一一番地の三の土地の適正賃料額について、別紙第五の賃料相当損害金一覧表記載の坪当り単価(月額)欄の各金額以下の金額が相当であると鑑定している年度分もあるが、同鑑定では、右適正賃料額を算出するに際して、建付減価相当額(更地価額の一割)や借地権相当額(六割)を控除したうえで、積算式評価法によつて、継続賃貸借契約における適正賃料額を算定していることが明らかであり、本件一一番地の三の土地の不法占拠の場合における損害金として新規に賃貸する場合の賃料相当額を算出するならば、同鑑定によつても、別紙第五の賃料相当損害金一覧表記載の坪当り単価(月額)欄の各金額以上の金額であることが認められる。

以上の各鑑定結果よりすれば、本件(1)ないし(3)の土地の月額賃料相当損害金についても、少なくとも、同表記載の賃料相当損害金(2)欄の各金額を下回らないことが認められる。

六  結論

以上の鑑定・判断したところによれば、原告の被告らに対する本訴第一次請求中、

1  被告中野ヒデノに対する請求については、別紙第一の物件目録記載(二)(三)の(1)ないし(3)の土地建物の各<ロ>の部分の建物収去土地明渡、ならびに、昭和三一年一月一日以降昭和四八年一二月三一日までの賃料相当損害金四七八万三、五七六円および昭和四九年一月一日以降右土地明渡済みに至るまで月額金四万三、五六〇円の割合の賃料相当損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、

2  被告山本久子、同杉原け以、同金子多良に対する各請求については、別紙第一の物件目録記載(二)(三)の(1)ないし(3)の土地建物の各<ロ>の部分の建物退去土地明渡を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の部分の建物退去土地明渡を求める請求は理由がないのでこれを棄却することとし、

3  被告島田慶男に対する請求については、別紙第一の物件目録記載(二)(三)の(2)の土地建物の各<ロ>の部分の建物退去土地明渡を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、

4  被告金子哲子および金子弘に対する各請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、

訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項および第三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

第一、物件目録

(一) 大阪市西成区西萩町一一番地の三

宅地(登記簿上)一七二・二三坪

(実測)  一七五・〇三坪

但し、別紙第二の図面の(イ)(ヘ)(チ)(ロ)(イ)の各点を順次直線で結んだ部分。

(二) 右(一)の土地上に存する

(1) 木造瓦葺二階建店舗 一棟

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第三の建物実測図面(1)の(ヌ)(ラ)(ム)(ル)(ヌ)の各点および(ノ)(ヤ)(マ)(オ)(ノ)の各点を順次直線で結んだ部分

(一階   八・〇五坪 二階   六・六三坪)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第三の建物実測図面(2)の(ヌ)(ラ)(ム)(ル)(ヌ)の各点および(ノ)(ヤ)(マ)(オ)(ノ)の各点を順次直線で結んだ部分

(2) 木造瓦葺二階建店舗 一棟

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第三の建物実測図面(1)の(リ)(ナ)(ラ)(ヌ)(リ)の各点および(ヰ)(ク)(ヤ)(ノ)(ヰ)の各点を順次直線で結んだ部分

(一階  一四・九一坪 二階  一〇・七一坪)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第三の建物実測図面(2)の(リ)(ナ)(ラ)(ヌ)(リ)の各点および(ヰ)(ク)(ヤ)(ノ)(ヰ)の各点を順次直線で結んだ部分

(3) 木造瓦葺平家建店舗 一棟

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第三の建物実測図面(1)の(チ)(ケ)(フ)(コ)(ナ)(リ)(チ)の各点を順次直線で結んだ部分

(床面積  一六・五一坪)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第三の建物実測図面(2)の(チ)(ネ)(ナ)(リ)(チ)の各点を順次直線で結んだ部分

(4) 前記(二)の(1)の建物のうち、

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第三の建物実測図面(1)の(タ)(ラ)(ム)(レ)(タ)の各点および(ノ)(ヤ)(マ)(オ)(ノ)の各点を順次直線で結んだ部分

(一階   三・九七坪 二階   六・六三坪)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第三の建物実測図面(2)の(タ)(ラ)(ム)(レ)(タ)および(ノ)(ヤ)(マ)(オ)(ノ)の各点を順次直線で結んだ部分

(5) 前記(二)の(2)の建物のうち、

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第三の建物実測図面(1)の(ヨ)(ナ)(ラ)(タ)(ヨ)の各点および(ヰ)(ク)(ヤ)(ノ)(ヰ)の各点を順次直線で結んだ部分

(一階   六・五一坪 二階  一〇・七一坪)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第三の建物実測図面(2)の(ヨ)(ナ)(ラ)(タ)(ヨ)の各点および(ヰ)(ク)(ヤ)(ノ)(ヰ)の各点を順次直線で結んだ部分

(6) 前記(二)の(3)の建物のうち、

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第三の建物実測図面(1)の(カ)(ケ)(フ)(コ)(ナ)(ヨ)(カ)の各点を順次直線で結んだ部分

(床面積   八・一一坪)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第三の建物実測図面(2)の(カ)(ネ)(ナ)(ヨ)(カ)の各点を順次直線で結んだ部分

(7) 前記(二)の(1)の建物のうち、

別紙第三の建物実測図面(2)の(ヌ)(タ)(レ)(ル)(ヌ)の各点を順次直線で結んだ部分

(一階   四・〇八坪)

(8) 前記(二)の(2)の建物のうち、

別紙第三の建物実測図面(2)の(リ)(ヨ)(タ)(ヌ)(リ)の各点を順次直線で結んだ部分

(一階   八・四〇坪)

(9) 前記(二)の(3)の建物のうち、

別紙第三の建物実測図面(2)の(チ)(カ)(ヨ)(リ)(チ)の各点を順次直線で結んだ部分

(床面積   八・四〇坪)

(10) 木造杉皮葺平家建店舗  一棟

家屋番号西萩町第一五四番の二

別紙第三の建物実測図面(2)の(ト)(ワ)(ソ)(オ)(ト)の各点を順次直線で結んだ部分

(建坪   六三・二八坪)

(三) 前記(一)の土地のうち、

(1) 前記(二)の(1)の建物の敷地等の部分

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第四の土地実測図面(1)の(ニ)(ラ)(ム)(ホ)(ニ)の各点を順次直線で結んだ部分

(二九・八八平方メートル〔九・〇四坪〕)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第四の土地実測図面(2)の(ニ)(ラ)(ム)(ホ)(ニ)の各点を順次直線で結んだ部分

(一〇・二三坪)

(2) 前記(二)の(2)の建物の敷地等の部分

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第四の土地実測図面(1)の(ハ)(ナ)(ラ)(ニ)(ハ)の各点を順次直線で結んだ部分

(五七・四七平方メートル〔一六・四八坪〕)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第四の土地実測図面(2)の(ハ)(ナ)(ラ)(ニ)(ハ)の各点を順次直線で結んだ部分

(一六・二八坪)

(3) 前記(二)の(3)の建物の敷地等の部分

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第四の土地実測図面(1)の(ロ)(ケ)(フ)(コ)(ナ)(ハ)(ロ)の各点を順次直線で結んだ部分

(五九・七六平方メートル〔一八・〇八坪〕)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第四の土地実測図面(2)の(ロ)(ネ)(ナ)(ハ)(ロ)の各点を順次直線で結んだ部分

(一六・二八坪)

(4) 前記(二)の(4)の建物のうち一階部分の敷地部分

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第四の土地実測図面(1)の(タ)(ラ)(ム)(レ)(タ)の各点を順次直線で結んだ部分

(三・九七坪)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第四の土地実測図面(2)の(タ)(ラ)(ム)(レ)(タ)の各点を順次直線で結んだ部分

(5) 前記(二)の(5)の建物のうち一階部分の敷地部分

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第四の土地実測図面(1)の(ヨ)(ナ)(ラ)(タ)(ヨ)の各点を順次直線で結んだ部分

(六・五一坪)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第四の土地実測図面(2)の(ヨ)(ナ)(ラ)(タ)(ヨ)の各点を順次直線で結んだ部分

(6) 前記(二)の(6)の建物の敷地部分

<イ> 原告の主張する範囲

別紙第四の土地実測図面(1)の(カ)(ケ)(フ)(コ)(ナ)(ヨ)(カ)の各点を順次直線で結んだ部分

(二六・八〇平方メートル〔八・一一坪〕)

<ロ> 裁判所の認定する範囲

別紙第四の土地実測図面(2)の(カ)(ネ)(ナ)(ヨ)(カ)の各点を順次直線で結んだ部分

(7) 前記(二)の(7)の建物の敷地等の部分

別紙第四の土地実測図面(2)の(ニ)(タ)(レ)(ホ)(ニ)の各点を順次直線で結んだ部分

(五・〇七坪)

(8) 前記(二)の(8)の建物の敷地等の部分

別紙第四の土地実測図面(2)の(ハ)(ヨ)(タ)(ニ)(ハ)の各点を順次直線で結んだ部分

(九・九七坪)

(9) 前記(二)の(9)の建物の敷地等の部分

別紙第四の土地実測図面(2)の(ロ)(カ)(ヨ)(ハ)(ロ)の各点を順次直線で結んだ部分

(九・九七坪)

(10) 別紙第二の図面の(イ)(ハ)(ホ)(ロ)(イ)の各点を順次直線で結んだ部分

(一〇五・八二坪)

(11) 別紙第四の土地実測図面(2)の(イ)(ワ)(レ)(ホ)(イ)の各点を順次直線で結んだ部分

(六五・八四坪)

第二、図面

<省略>

第三、建物実測図面(1)

<省略>

第三、建物実測図面(2)

<省略>

第四、土地実測図面(1)

<省略>

第四、土地実測図面(2)

<省略>

第五 賃料相当損害金一覧表

<省略>

注・賃料相当損害金(1)とは、原告の主張する本件(1)ないし(3)の土地の<イ>の部分(43.60坪)の賃料相当損害金のことである。

・賃料相当損害金(2)とは、裁判所の認定する本件(1)ないし(3)の土地の<ロ>の部分(42.79坪)の賃料相当損害金のことである。

・原告は、本件(1)ないし(3)の土地の<イ>の部分の賃料相当損害金の算出に際し、本件(7)の建物の敷地面積が5.28坪であるにも拘わらず4.08坪であるとし、したがつて、本件(7)の土地の面積を5.07坪(理論的数値は6.27坪)、本件(1)の土地の<イ>の部分の面積を9.04坪(同10.24坪)、本件(1)ないし(3)の土地の<イ>の部分の面積を43.60坪(同44.80坪)として計算している。

第六、賃料相当損害金算出式

(一) 本件(1)の土地(9.04坪)の賃料相当損害金

・昭和31年1月1日から昭和48年12月31日までの分

<省略>

・昭和49年1月1日以降の分

1,018×9.04=9,202

(二) 本件(2)の土地(16.48坪)の賃料相当損害金

・昭和31年1月1日から昭和48年12月31日までの分

<省略>

・昭和49年1月1日以降の分

1,018×16.48=16,776円

(三) 本件(3)の土地(18.08坪)の賃料相当損害金

・昭和31年1月1日から昭和48年12月31日までの分

<省略>

・昭和49年1月1日以降の分

1,018×18.08=18,405円

(四) 本件(4)の土地(3.97坪)の賃料相当損害金

・昭和31年1月1日から昭和48年12月31日までの分

<省略>

・昭和49年1月1日以降(月額)

1,018×3.97=4,041円

(五) 本件(5)の土地(6.51坪)の賃料相当損害金

・昭和31年1月1日から昭和48年12月31日までの分

<省略>

・昭和49年1月1日以降(月額)

1,018×6.51=6,627円

(六) 本件(6)の土地(8.11坪)の賃料相当損害金

・昭和31年1月1日から昭和48年12月31日までの分

<省略>

・昭和49年1月1日以降

1,018×8.11=8,255円

(七) 本件(7)の土地(5.07坪)の賃料相当損害金

・昭和31年1月1日から昭和48年12月31日までの分

<省略>

・昭和49年1月1日以降

1,018×5.07=5,161円

(八) 本件(8)および(9)の土地(いずれも9.97坪)の賃料相当損害金

・昭和31年1月1日から昭和48年12月31日までの分

<省略>

・昭和49年1月1日以降

1,018×9.97=10,149円

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