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大阪地方裁判所 昭和40年(わ)3274号 判決 1968年4月15日

被告人 橋本郁雄 外四名

主文

被告人橋本郁雄、同濱口嘉男、同川西賢次郎を各懲役四月に、被告人池田義一、同竹中愛和を各懲役三月に、それぞれ処する。

この裁判確定の日から、各被告人に対しいずれも二年間、それぞれの刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、証人岡本栄、同中川慶夫、同中川幾次郎、同田中正道、同三村俊勝、同音川勇三に支給した分は被告人橋本郁雄、同濱口嘉男、同川西賢次郎、同池田義一の連帯負担とし、その余の証人に支給した分は被告人五名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人五名は、旧枚岡市(現在東大阪市に統合、以下同じ。)が昭和三八年度から同市営のし尿処理場建設計画を立て、建設用地の位置の選定および買収に手間どり苦慮した結果、同三九年一〇月ごろに至つてにわかに同市布市町の通称味岡地区内南西隅の土地約五、五〇〇坪を用地として決定し、これを買収して建設準備を進めるに至つたが、右用地の位置が被告人らを含めた地元住民の人家に近く、右処理場の操業には多量の地下水の汲み上げを必要とするので、臭気および同地区付近の灌漑用水への悪影響、右地域の発展の阻害等いわゆる公害の発生を憂慮し、そのうえ、右用地が味岡地区に決定されるまでに、市側において数回予定地の変更があつた経緯を不満とし、布市町、元町の数百名の地元住民らによりそのころ結成されたし尿処理場設置反対期成同盟に加わつて、その設置反対の運動をしていたものであるが、

第一、被告人橋本郁雄、同濱口嘉男、同川西賢次郎は、枚岡市から右処理場の建設基礎工事のうち前記建設用敷地の盛土工事を請負つた土木建築請負業株式会社音川組(代表取締役音川勇三)が、同市市長中田昌義の指示により、昭和四〇年三月一五日右工事に着工したので、それ以前に右市長、同市助役らが、同市の市庁舎において強く建設反対を訴えた前記反対同盟員らに対して、地元民の了解なしでは作らない旨の文書を交付したことを知つていたいきさつもあつて、右市長の措置を憤り、他の反対同盟員らとともに何とかして右工事の施行を阻止したいものと考えていたが、たまたま同月一六日夜からかなりの降雪があり、翌一七日朝味岡地区北端の枚岡市布市町五〇二番地先にある味岡水利組合の管理する通称橋本の樋の西側空地付近におもむいたところ、例年であれば橋本の樋の堰板を閉じる季節ではないにもかかわらず、これが閉じられており、そのため同地区内がかなりの浸水状態であるのを見て、反対同盟員らが工事を阻止するため降雪を利用して水を同地区内に引き入れて溜めるのだと考え、同樋の閉塞をさらに完全にし、同地区一帯の浸水および増水を維持して前記工事の施行を妨害しようとの意図のもとに、右橋本の樋の通称「とぼり」の底から北に向かつて味岡地区外に通じている通称「どひろんの樋」(排水管)を閉塞するため、右被告人三名を含む十数名の地元住民らと同所において共謀のうえ、被告人橋本、同濱口、同川西において、土を入れたかます、古畳、土などを用いて「どひろんの樋」の入口を塞ぎ、杭を打ち込んでこれを支えるなどの作業を共同して行い、さらに同月一九日、同じく味岡地区内に水を溜め音川組の工事を妨害しようと考えた被告人池田義一および右被告人橋本、同濱口、同川西は、その後も増水していた味岡地区内の水位を上げるため、共同して橋本の樋の堰堤上に土のうを置き並べ、もつて、同地区内の約三万坪の地域に溢水せしむべき行為をするとともに、威力を用いて株式会社音川組の右地区内における前記盛土工事の施行を妨げて同会社の業務を妨害し、

第二、被告人橋本郁雄、同濱口嘉男、同川西賢次郎、同池田義一、同竹中愛和は、同月一九日味岡地区の西北端近くの元浜橋付近において、さらに工事阻止の方法について被告人らを含む地元住民約二〇名らと相談した際、枚岡市が前記味岡地区の浸水状態を除くためポンプを使用して同地区の西側に沿つて流れる鯰尾川に排水しようとしていることを伝え聞いたので、市側の排出する水を逆に再び味岡地区内にポンプを用いて吸み入れようと考えたが、ポンプの長さが鯰尾川水面より右岸堤防上部までの高さに満たないため、汲み入れに適する高さまで堤防を切り崩そうと企て、同所で右地元住民らと共謀のうえ、被告人らにおいて共同して、国有財産として大阪府が管理する鯰尾川の右岸堤防の枚岡市布市町五〇七番地先の部分を、それぞれスコツプを用いて上部の幅約一メートル、下部の幅約五五ないし七五センチメートル、深さ約一、四メートルで東西方向に切り開き、さらに、同所の下部にあたる西側斜面の一箇所を、ポンプを設置すべく切り崩し、もつて、数人共同して器物を損壊したものである。

(証拠の標目)<省略>

(確定裁判)

被告人川西賢次郎は、昭和四〇年四月二六日大阪簡易裁判所で道路交通法違反の罪により罰金五、〇〇〇円に処せられ、右裁判は同年五月一一日確定したものであつて、この事実は被告人西川賢次郎の前科調書、同人の検察官に対する昭和四〇年四月三〇日付供述調書によつて認める。

(法令の適用)

被告人橋本郁雄、同濱口嘉男、同川西賢次郎、同池田義一の判示第一の各所為のうち、溢水せしむべき行為をした点は刑法六〇条、一二三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、業務を妨害した点は刑法六〇条、二三四条、二三三条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、被告人橋本郁雄、同濱口嘉男、同川西賢次郎、同池田義一、同竹中愛和の判示第二の各所為は暴力行為等処罰ニ関スル法律一条(刑法二六一条)、罰金等臨時措置法三条一項二号に、それぞれ該当するが、被告人川西の右各罪は同人の前記確定裁判のあつた道路交通法違反の罪と刑法四五条後段の併合罪の関係にあるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示各罪についてさらに処断することとし、判示第一の各罪は各被告人につきそれぞれ一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条によりいずれも一罪として重い威力業務妨害罪の刑で処断することとし、以上の各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、被告人橋本、同濱口、同川西、同池田の右各二罪は同法四五条前段の併合罪の関係にあるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の威力業務妨害罪の刑に法定の加重をした各刑期の範囲内で、被告人竹中についてはその所定刑期の範囲内で、被告人橋本郁雄、同濱口嘉男、同川西賢次郎を各懲役四月に、被告人池田義一、同竹中愛和を各懲役三月に、それぞれ処し、なお、被告人らが本件各犯行に及んだ経緯をみると、当時、枚岡市市長中田昌義、同助役尾崎行貞をはじめ、判示し尿処理場の建設計画、ことにその設置場所の選定および建設工事の施行に関する行政を担当したものにおいて、右施設の性質上自然的および社会的条件等の建設に適する客観的条件を第一に配慮したうえで同市民の衛生環境改善の要望の実現をはかるべきものと考えられるにかかわらず、たびたび候補地を変更するなどその用地選定基準に一貫性を欠いた点がみられ、昭和三八年度からの継続事業とされていたのに昭和三九年度の後半に至つて、本件味岡地区の予定地地主の反対がなかつたことをよりどころとし、同年度内の着工の必要に迫られてその施行を強行せざるを得なくなつたこと、したがつて右予定地地主以外の地元住民に対する説得、ことに建設規模、処理機械の性能、補償条件等の具体的な内容について或程度の了解を得るに必要な準備の期間を失つた結果この措置が不十分であつたことなどの不手際のあつたことが認められ、これに対し被告人らは、右の経緯における市側の態度に不満を抱くとともに、味岡地区内におけるし尿処理場の存在およびその操業が、同地区およびその周辺地域に対する臭気をはじめ、農業用灌漑に及ぼす影響、地価の低下など将来の不利益を心配して、何とかその建設強行を阻止しようとの一心から本件各犯行に及んだことが認められ、しかも、同市布市町および元町の多数住民の集団による抗議、反対運動の過程において行なわれたもので、被告人らとしては右住民の設置反対意思を背景とし、これに依拠してなされたことなど、その動機および犯行時の状況において被告人らのみを強く責めるのは相当でないと考えられるので、右の情状を考慮し、同法二五条一項により、各被告人に対しこの裁判の確定した日からいずれも二年間、それぞれその刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により、証人岡本栄、同中川慶夫、同中川幾次郎、同田中正道、同三村俊勝、同音川勇三に支給した分は、被告人橋本郁雄、同濱口嘉男、同川西賢次郎、同池田義一に連帯して負担させ、その余の証人に支給した分は、被告人五名に連帯して負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

一  本件各行為の構成要件該当性について

弁護人は、被告人橋本郁雄、同濱口嘉男、同川西賢次郎、同池田義一が橋本の樋を閉塞した行為は水利妨害罪における「溢水せしむべき行為」に当たらず、威力業務妨害罪における「妨害行為」にも当たらない旨、ならびに、右被告人らおよび被告人竹中愛和が鯰尾川の提防を削つた行為は暴力行為等処罰ニ関スル法律違反を構成すべき行為に当たらない旨主張するので、右の諸点について判断する。

(一)  昭和四〇年三月一七日午前八時ないし九時ごろ被告人橋本、同濱口、同川西が橋本の樋の通称「どひろんの樋」を塞ぐ行為をする際、すでに味岡地区内には田のあぜが少し見える程度までかなりの水が溜まつており、橋本の樋の付近では、その上樋のあたりまでの水位であつたことは、証人大西増太郎、同石田嘉一郎の当公判廷における各供述(被告人橋本の関係では、第一六回公判調書中の証人石田嘉一郎の供述部分)、山口重太郎の昭和四〇年四月二七日付、被告人橋本郁雄の同年五月七日付、同浜口嘉男の同年四月二七日付、同川西賢次郎の同月三〇日付、同竹中愛和の同月二七日付検察官に対する各供述調書によつて認めることができる。したがつて右被告人らが判示の作業を始めるまでの味岡地区内の浸水状態が、右被告人らの閉塞行為および被告人池田を加えた同月一九日の土のうを積む行為の結果生じたものでないことは明らかである。そこで、三月一七日および一九日の右のごとき被告人らの行為が水利妨害および威力業務妨害を構成するか否かを検討する。刑法一二三条所定の「溢水せしむべき行為」とは、同条が溢水の危険ある行為を公共危険罪として処罰する趣旨であるところから、溢水の結果(侵害状態)の発生を要しないものと解され、したがつて溢水の危険を生ずる程度の行為をもつて足りるものと考えられる。右のすでに味岡地区内に生じていた侵害状態が右被告人らの行為との間に因果関係を欠いていても、右の観点からみるときは、それのみで「溢水せしむべき行為」に当たらないとすることはできない。しかし一方、前記「どひろんの樋」の閉塞および堰堤に土のうを積んだ行為を、その行為自体の性質にのみ着目してただちに溢水の危険ある行為とすることもできないのであつて、右危険性の有無を考えるに当たつては、当時の状況の考慮を欠くことはできない。ところで本件の場合、味岡地区の状況は前記のとおり浸水状態であり、また、山口重太郎の昭和四〇年四月二七日付、西川寅次郎の同月二一日付、被告人川西賢次郎の同月三〇日付、被告人濱口嘉男の同月二七日付検察官に対する各供述調書によると、三月一七日の被告人らの閉塞行為当時、堰板のはしから水がもれていたこと、同月一八日、一九日の間に水量がふえていたこと、一九日には堰堤上に置いた土のうがなければ水があふれるぐらいであつたことなどの事実が認められ、しかも、司法警察員作成の検証調書、被告人橋本郁雄、同濱口嘉男、同川西賢次郎、同池田義一の検察官に対する各供述調書を綜合すれば、橋本の樋が味岡地区内の排水のための唯一の樋であり、「どひろんの樋」が唯一の排水管であること、橋本の樋の「とぼり」から北に抜ける右「どひろんの樋」の入口部分を古畳、かます、土等を用いて塞ぎ、「とぼり」に打ち込んだ杭で固定した状況、および堰堤上に土のうを置き並べた状況は、完全とは言えないにしても、「どひろんの樋」の閉塞として、また、堰堤を高める効果の点において、それぞれ十分のものであることが認められ、そして、「どひろんの樋」を閉塞する行為は排水を困難ないし不能にする行為であり、堰堤に土のうを置く行為は増水に応じ水位を上げる行為であつて、前記浸水の状況下においてなされたものであり、かつ、前記被告人らの検察官に対する各供述調書により明らかなとおり、右各行為がすでに発生していた浸水状態を利用してなされたものである以上、いずれも「溢水せしむべき行為」と解せざるを得ない。

(二)  右(一)に記載した被告人らの行為が威力業務妨害罪における威力を用いた妨害行為に当たらないとの点につき、弁護人は本件し尿処理場建設予定地から百数十メートル隔たつた橋本の樋においてなされたことを理由とする。刑法二三四条所定の妨害罪が成立するには、現実に業務の遂行が阻害されることを要せず、その危険のある状態を発生させれば足りるものと解せられるから、本件ではその危険状態の存否が吟味されねばならない。ところで、右(一)に述べたごとく、当時の状況を捨象して被告人らの行為のみを観察した場合には、まだ単に妨害のおそれある行為をしたと言えるにとどまり、行為の場所と妨害対象の離隔のいかんを問わず、妨害の危険ある状態を発生させたものとは考えがたいが、本罪における危険性の判断もまた具体的状況における行為としてみなければならない。とすると、右建設予定地を含めた味岡地区一帯が、前記のとおりすでに浸水状態にあつた状況のもとで被告人らの(一)に記載の行為がなされ、右行為の性質が前述のとおり排水の困難ないし不能、および増水に応じて水位を上げる効果を有するものであり、かつ浸水状態を利用して、いわゆる「水攻め」の方法を用いた点における右行為の性質上、妨害対象がその行為の影響下に含まれるかぎり場所の離隔は問題とならず、したがつて威力を用いた妨害行為に当たるものと考えねばならない。

(三)  被告人五名が鯰尾川の右岸堤防を切り崩した行為につき、弁護人は右行為の場所から上流への同河川の長さはわずかであり流水量も少ないことを挙げており、右主張は、行為の結果が堤防の損壊に当たらないとの趣旨と解せられるが、前記検証調書によれば、損壊部分の一方は、上部幅員約一メートル、下部約五五ないし七五センチメートル、長さ五メートル余り、高さ約一・四メートルであり、他方は、南北幅員約一・五メートル、東西約二メートル、東側での高さ約一・六メートルのものであつたことが認められ、西川喜代治の昭和四〇年四月二一日付、川端磯松の同月一九日付、川端米吉の同月二二日付、石田捨吉の同日付、被告人竹中愛和の同月二七日付検察官に対する各供述調書、伊藤富雄作成の同年五月二七日付鑑定書(判示第二につき前掲のもの。)、前記検証調書を綜合すれば、本件当時まで鯰尾川堤防が決潰したことはないが、増水は三年に一度ぐらいあり、水が堤防上部を溢れたことも一〇年ぐらい前にはあつたこと、右損壊の程度でも洪水時における堤防外への溢水、決潰箇所の拡大等の危険があること、また、鯰尾川自体の総延長は短かくても、同河川は小田川、恩智川、日下川とのそれぞれの合流点を近くにもつていることなどの事実が認められ、鯰尾川右岸堤防部分が損壊前の高さにおいてその効用を有していたことは明らかであるから、被告人らの右行為による損壊は刑法二六一条所定の損壊に当たり、判示のごとく数人共同してなされたものであるから暴力行為等処罰ニ関スル法律一条の罪を構成すると言わねばならない。

二、本件各犯行の違法性について

弁護人は、被告人らの本件各行為には可罰的違法性がなく(この点は構成要件該当性とも関連するが、ここで述べる。)、また、味岡地区における水利権、堤防の管理権の行使による正当行為、ないしは枚岡市および音川組の違法な利益侵害行為に対する正当防衛行為である旨主張するので、右の諸点について判断する。

(一)、可罰的違法性を欠くとの点については、被告人らの本件各行為が水利妨害、威力業務妨害、暴力行為等処罰ニ関スル法律一条の各犯罪の定型にあたることは前記一のとおりであるので、その実質的違法性の存否についてみることにする。被告人らの橋本の樋の閉塞行為等および鯰尾川堤防の損壊の各行為の内容は前記のとおりであるが、その行為の結果をみると、前者は味岡地区の唯一の排水口である樋の閉塞等により、公共危険たる同地区内における溢水の危険を生ぜしめたものであり、後者は損壊により堤防の効用を減少せしめたもので、その各法益侵害は必ずしも軽微なものとは認めがたく、各行為の態様は、右各犯罪類型の予想する典型としての性質を有しているので、右の点において、社会生活上刑罰に値しない程度の法益侵害ないしは違法性を有するにすぎないものとみることは相当でなく、また、市側の行為との関係でみるときも、被告人らの犯行動機を情状として考慮するのほかなく、いわゆる社会的相当性のある行為とすることも適切でない。

(二)  西川喜代治の昭和四〇年四月二一日付、大西芳信の同月二〇日付、石田由太郎の同年五月一七日付、石橋庄太郎の同年四月二六日付、川端米吉の同月二二日付、石田捨吉の同日付検察官に対する各供述調書によれば、味岡地区内に田畑を持つ約三〇軒の住民が、橋本の樋の上下堰板および通称とびの樋の開閉等をなしうる慣行上の水利権を有し、味岡水利組合を作り毎年交替で四名ぐらいの年行事を置いて右の樋の管理、使用に当たつていたこと、昭和四〇年は西川浅五郎が右水利組合長として年行事の一員であり、三月一七日の被告人らの前記閉塞行為の当時、同所で、自分が水利組合長だから責任をもつ旨記載した紙片をみせていたことが認められる。しかし、右各証拠ならびに石橋光男の検察官に対する昭和四〇年四月二三日付供述調書によつても明らかなとおり、味岡地区内には、本件し尿処理場建設用地として枚岡市に対し自己の農地を売却し、なお残余の農地を同地区内に有する住民がおり、右住民は建設に反対していなかつたもので、しかも右水利権は右住民を含めた同地区内の農家が一体として有しているものと認められ、また、右各証拠によれば、「どひろんの樋」は年中閉めることがない事実も認められ、これに前記被告人らの閉塞行為の態様を併せ考えれば、橋本の樋についてなした被告人らの行為を権利の行使とみることはとうていできない。また、鯰尾川堤防は、かつて台風時などに被告人ら住民の手で修理したことがあつた事実も認めうるが、本件損壊行為が堤防の効用を害するものである以上、事実上の範囲を超えるものであることは当然であり、管理権の行使として正当行為であるとすることはできない。

(三)  本件し尿処理場建設にあたつて、昭和三八年以来、河内市との合同事業としての計画の破綻、用地選定における枚岡市市長中田昌義、同助役尾崎行貞をはじめ特別委員会の不手際、被告人らを含む同市布市町、元町など建設予定地付近住民に対する説得ないし了解を得る努力の不足、国からの補助金を失わないための建設着工の強行などのあつた事実は、前掲各公判調書中の証人中田昌義、同尾崎行貞、同砂本真一の各供述部分、証人森煕に対する当裁判所の尋問調書、石田才一の検察官に対す供述調書および被告人竹中愛和の検察官に対する各供述調書等によつて認められるところであり、昭和三九年一二月四日および同四〇年二月二日になされた布市町、元町住民の市当局に対する設置反対の陳情行動の際、助役外二名の署名による地元民の了解なしでは作らない旨の誓約書および右記載内容と同一歩調で行動する旨の市長の署名による文書(昭和四一年押第九九六号の一)を右住民に交付したことも明らかである。そして、前記建設着工に至る経緯からみて、たとい当時枚岡市にとつてし尿処理場の建設が市議会の全員一致の賛成を得、従来極めて不良であつた同市の衛生環境の改善を目的とし、八万余の市民の要望によるものであつたとしても、行政的措置の不十分であつたことは否定しがたい。しかし、右により市長らの行政上の責任を問うことはともかく、音川組の建設用地における盛土工事の施行として顕現した市側の本件建設計画の遂行行為をもつて、刑法三六条一項所定の不正(違法)の侵害行為とみることはできない。けだし枚岡市による本件し尿処理場建設用地における盛土工事の施行が被告人等を含む前記し尿処理場設置反対期成同盟員等の権利(法益)を現実に何ら侵害するものではないからである。もつとも右処理場設置の後に生ずることあるべき臭気の発生、灌漑用水の涸渇等による被害は考えられるが、これらはあくまでも将来における未確定のものでありこれらを同条にいわゆる急迫不正な侵害ということのできないことは明らかであるからその他の要件について論ずるまでもなく正当防衛を認めることはできないのである。

以上により、弁護人の各主張は採用することはできない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 原田修 松本克己 富永辰夫)

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