大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)4531号 判決 1966年9月24日

原告 合名会社、マツツエン・ウント・テイム商会

被告 協和貿易商会ことアール・ヴイ・ダスワンニー

主文

被告は原告に対し、英国通貨金一五九ポンド五シリング四ペンスおよびこれに対する昭和三九年四月一日から、支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟復代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、「もし、右金員の支払について強制執行ができないときは、被告は原告に対し現実に履行をなす時の為替相場による日本の通貨をもつてこれに相当する金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

「一、原告は商人であり、被告もまた貿易業を営んでいる商人である。

二、原告は、昭和三八年五月ごろ、被告と次の約定のもとに、被告に代理してその商品を第三者に売渡す旨の契約即ち、アフリカ州ガーナ国全域に所在する第三者に被告の商品を一手販売する代理販売契約(以下本件契約という。)をなした。

(イ)  被告は原告に対し、すべての商品につき商品販売価格の五分の手数料を支払う。

(ロ)  右手数料は、商品の船積が完了した後、当該年度四半期の末日から三ケ月以内に支払う。

(ハ)  本件契約の成立および効力については、日本の国の法律による。

三、そうして、原告の努力により別紙目録記載の売買契約が成立し、被告はこれに基いて昭和三八年一〇月三一日までに各商品の船積を完了した。

四、よつて原告は被告に対し、別紙目録記載の手数料合計金一五九ポンド五シリング四ペンスおよびこれに対する当該年度四半期の末日である昭和三八年一二月三一日から三ケ月を経過した日である昭和三九年四月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、もし、被告が任意に履行せず、原告が強制執行をなす際、その執行不能のときの代償請求、即ち債務不履行に基く損害賠償請求として、現実に履行をなす時の為替相場による日本の通貨をもつてこれに相当する金員の支払を求める。」

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として「原告主張の請求原因事実は、すべて、認める。」と述べ、抗弁として、次のとおり述べた。

「一、本件手数料は、原告の指示により、西アフリカにおける原告代理店の所在地またはハンブルク所在の原告本店に送金して支払う約定であつた。しかるに、原告は、日本において支払うことを求めているのであるから、本訴請求は失当である。

二、原告はドイツ連邦共和国に本店を有する法人であるから、外国為替及び外国貿易管理法二八条によつて、原告が被告に対し本訴において請求する債権は、本邦において支払うことができない。従つて本訴請求は理由がない。」

証拠<省略>

理由

一、本件契約締結当時、本件契約の成立および効力については、日本国の法律による旨の合意がなされたことは、当事者間に争いがない。従つて、法例七条一項により本件契約の成立および効力に関する準拠法は、日本法であることとなる。

二、原告主張の請求原因事実はすべて被告の認めるところである。

三、そこで被告の抗弁につき順次判断することとする。

(一)  抗弁一について。

本件においては原告の被告に対する本件契約に基く手数料を請求するものであるところ、その審理に当つてはその請求権の存否につきまず判断するを要するものであつて、もしその請求権が存する以上その履行地が何れであろうとも被告は支払義務が存するのであり、したがつて被告主張のように履行地がどこであるかは本訴請求権を正当に排斥しうる法律上の抗弁とすることはできない。そうすると、被告のこの点に関する主張は、それ自体失当として排斥さるべきである。

(二)  抗弁二について。

次に、本件手数料の支払が外国為替及び外国貿易管理法二八条に違反する旨の主張につき考察する。同法同条は、いわゆる代償支払の制限および禁止に関する規定であるが、その趣旨は外国において金銭サービスその他財産の給付があり、これの反対給付が本邦において「居住者に対する又は、居住者のための支払」という形で行われる場合に、これを規制の対象とするものである。そうすると、被告の主張そのものが理由がないこととなるが、被告が「原告は、ドイツ連邦共和国に本店を有する法人である。」と主張しているところを見ると、被告の意図するところは、同法二七条一項一号に違反するから、原告の請求は、理由がないということに帰着するものと思われる。よつて、同法同条項号につき判断するに、同法同条項号は(本件の場合は第二七条一項一号に該当するが、たとえ同法第二八条に該当する場合にあつても)かかる支払をなす場合につき一定の許可又は承認を要する旨を定めたに止まり、本件契約の私法上の効果に影響を及ぼすものでなく、また支払の請求自体を規制の対象とするものではないから、その許可又は承認が右手数料請求権の執行の要件となることは別として、これを欠いても、訴の提起そのものは何等さまたげなく、それ故その請求権自体の存否につき判断するにさまたげとなるものでもない。従つて、原告の右主張は、採用することができない。

四、原告は主文第一項の申立につき執行不能の場合は執行時における為替相場換算による日本通貨で支払を求めるので、この点につき審按する。民事訴訟法第六篇第二章の金銭債権とは広義の金銭を指称するものであつて、日本国において強制通用の効力を有する狭義の金銭のみを指すものではなく、日本の通貨の他に外国の通貨をも包含すると解さざるを得ない。実質的に考えても本件にあつては外国の通貨をもつて計算の標準を示したに過ぎないのであるから、日本の通貨に換算して、弁済し得べきものだからである。(民法四〇二条三項、四〇三条参照)従つて原告は右金銭債権を執行力ある請求権とする強制執行を金銭執行に関する強制執行法の規定に依拠して、なすことができるのであり、その執行不能ということは、あり得ないことといわねばならない。よつて、原告の前記代償請求は、理由がないから棄却することとする。

五、右事実によれば、原告の被告に対する英国通貨金一五九ポンド五シリング四ペンスおよびこれに対する昭和三九年四月一日から支払ずみまで、年六分の割合による金員の支払を求める請求は、正当と認められるから、これを認容することとし、本件においては、原告一部敗訴の場合であるが、代償請求の部分がいわば附随的に申立てられたことと、これによつて特に訴訟費用が増加したものではないことを考慮して、民事訴訟法八九条、九二条但書により全部被告の負担とすることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本保三 山本矩夫 増井和男)

(別紙)目録

(インデント番号)(クレジツト・ノート番号)(手数料金額)

六三〇一二-三 一四七-六三 二九ポンド一四シリング九ペンス

六三〇一九   一四九-六三 三六ポンド一〇シリング

(インデント番号)(セールス・ノート番号)(手数料金額)

六三〇三一 O-一六八-M&T-六三  二五ポンド

六三〇三三 O-一六五-M&T-六三  一八ポンド四シリング六ペンス

六三〇五七 O-一六九-M&T-六三  六ポンド一シリング三ペンス

六三〇五八 O-一七〇-M&T-六三  一三ポンド一四シリング一〇ペンス

六三〇八二 OM-一七二-六三-M&T 一五ポンド

六三〇八三 OM-一七三-六三-M&T 一五ポンド

(合計一五九ポンド五シリング四ペンス)

(以上)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例