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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)1912号 判決 1967年12月16日

福寿信用組合

理由

一、被告が、昭和三七年一二月七日、訴外キリン工業株式会社に対する公正証書の執行力ある正本に基づき大阪地方裁判所執行吏に執行の委任をし、本件物件を同会社の所有物件として差押え、同月一五日これが競売されて訴外小笠原浅照が競落し同人に引渡されたこと、この差押・競売に被告の従業員北野義太郎が立会つたことは当事者間に争いがない。《証拠》によれば、北野義太郎は右差押・競売に被告の代理人として立会つたもので、当時同人は被告の整理係主任として不良債権回収の事務を担当していたことが認められる。

二、原告は、右差押・競売において、北野義太郎が、(1)本件物件はキリン工業株式会社の所有でないこと、(2)本件物件は工場に属する建物と共に根抵当権の目的とされていて本件物件だけを建物と分離して差押えることはできないこと、(3)本件物件は差押の当時代物弁済予約の目的とされており、その後競売期日までにすでに予約が完結されて、もしそのまま競売を実行すれば新たに所有者となつた者の権利を侵害することになることを知つていたと主張する。

然しながら、北野義太郎がそれ等の事実を知つていたことを認めるに足る証拠はない。

もつとも、甲第八号証(事情説明書)には原告の右主張事実を認め得るかのような記載があり、《証拠》によれば、この書面は塚本公男が自ら全文を記載して署名指印したものであることが認められるけれども、《証拠》によれば、この書面は、塚本公男が本件競売後の昭和三七年一二月二〇日、原告と同種の金融業を営む株式会社山富の事務所に連れて行かれ、そこで国弘輝夫等五、六人の者に取巻かれ、「言うとおりに書け。」と強要されて言われるままに書いたもので、その記載内容は事実と相違し、右書面に記載してあるように塚本公男或いは塚本正敏が北野義太郎に連絡したり、被告に申し出たり、執行吏に申し述べたりした事実はないことが認められるのであるから、これをもつて原告の主張事実を肯認することは出来ない。また、《証拠》には「保険調査会の大崎という者に調査させたところ、塚本の母方の従兄弟の筧という人が不動産を担保に被告から金を借りており、それが一二月一五日に競売になることになつていたのが一七日に解除になつていることが判りました。それで、塚本と被告が共謀してやつたのだと考えました。」というところがあるけれども、この証言内容も《証拠》と照し合わせて考えて見るとこれだけで直ちに原告の前記主張事実を認定するには十分でない。

三、次に、原告は、北野義太郎としては、本件のように工場内に備え付けられている機械器具を差押えようとする場合には、登記簿について当該機械器具が工場抵当の目的とされていないかどうかを調査し、或いは執行現場において執行債務者その他の者に当該機械器具が第三者の権利の目的となつていないかどうかを十分確めた上で差押に着手すべき注意義務があるに拘らず、これを怠つて、差押・競売を進行させたのであるから過失があると主張する。

然しながら、《証拠》によれば、(1)訴外キリン工業株式会社は昭和三四年に設立された会社で板金の部分品製造を業とし昭和三七年一一月当時において従業員約八〇人を擁していたこと、(2)塚本公男はその弟塚本裕敏と共に同会社の代表者となつていたが、塚本公男個人としては何等の事業も営んでいなかつたこと、(3)被告は昭和三四、三五年頃からキリン工業株式会社と金銭取引を持つようになり、昭和三七年一二月六日当時には同会社に対して金二三五万五、九二七円の債権を有していたこと、(4)この金銭取引を始めた頃、被告は右会社並にその代表者等の資産調査をし、不動産登記簿も閲覧したがその当時原告が主張するような根抵当権設定登記、代物弁済予約の仮登記などは未だ経由されていなかつたこと、(5)昭和三七年六月頃になつてキリン工業株式会社から被告に対し新たな融資の申込みがあつたので資産内容の再調査をしたところ、同月一二日塚本公男は被告の調査担当者田中素に対し、塚本公男個人の動産は価額にして金三五万円、キリン工業株式会社所有の機械器具の動産は価額にして金四、六八七万一、〇〇〇円で、本件物件はいずれも同会社の所有物件であると説明しており、その際提出を求めた同社の昭和三七年四月三〇日現在の貸借対照表、財産目録にも本件物件は同会社の所有である旨の記載がなされていたので、右再調査の段階においても被告では本件物件をキリン工業株式会社の所有であると考えていたこと、(6)昭和三七年一二月七日本件物件の所在した工場入口には「キリン工業株式会社」と表示した金属製の看板が柱にはめ込まれていて本件物件は同会社の占有しているものと明らかに認められたこと、(7)右差押には同会社の経理係の従業員山口幸子が出会したが、同女は執行吏の求めに応じて会社の財産目録を提出し、そこに記載されている物件はいずれも会社の所有物件であるが、そのうち、プレーナー(一〇呎)一台、プレスブレーキ(一五〇屯、八〇屯)二台については既に同月四日会社に対し訴外丸昌精機株式会社から仮処分の執行がなされていると申し述べ公示札を示したので、執行吏は右財産目録から右仮処分執行のなされている物件を除いた本件物件について執行したこと、(8)右仮処分の公示札はキリン工業株式会社の応接間南側の壁の見えるところに貼られていたので、本件差押の公示札はこれと並べて貼られたこと、(9)本件物件は同月一五日に競売されたが、それまでの間に、塚本公男から被告に対し分割弁済にして欲しい旨の申し入れがあり、計三回(金一〇万円、金二二万円、その外に一回)に亘つて内入金の支払いがあつたけれども、その弁済金額は到底債務の全額に達せず、且つ塚本公男が代表者となつているキリン工業株式会社では以前にも分割弁済の約定をしておりながら不履行にしたこともあつたので、被告の側では手続通り一五日の競売を実施することにしたこと、(10)その間、塚本公男を始めその他の者からも本件物件が第三者の所有であるとかその権利の目的とされているというような申出は被告側(その従業員である北野義太郎)になかつたこと、(11)一五日の競売には塚本公男も立会つていたが、その時も同人は本件物件がキリン工業株式会社の所有物件として競売されることを承知しており、これが第三者の所有であるとか、その権利の目的とされているということは何等申し述べていなかつたことが認められる。右認定を左右するに足る証拠はない。

以上のような事実関係のもとでは、前記差押及び競売に際し、北野義太郎は本件物件をキリン工業株式会社の所有であると確信しており、執行吏に競売をさせたのは当然であり、その間に過失のかどは認められないというほかはない。

四、そうすれば、その余の点について判断するまでもなく、不法行為を原因とする原告の請求が理由のないこと明らかである。

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