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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)1629号 判決 1966年5月18日

主文

被告らは各自、原告らそれぞれに対し、縦二六センチメートル横三五センチメートルの上質ケント紙又は模造紙に、「謝罪状」と表題の上、別紙(一)記載のとおりの文言を記載して本判決確定の日付を附記し、被告中井においては和爾選挙対策本部事務長、被告菅野においては同本部委員長と各肩書を表示しそれぞれの記名及び押印のある、各原告宛の謝罪文書を送付せよ。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

〔理由〕一、原告らがいずれも日本共産党員で、原告上田が昭和三八年四月二日告示にかかる大阪市議会議員選挙に同市東区より立候補していたこと、被告らはいずれも自由民主党員で、被告中井は前大阪市長であり、昭和三八年三月二八日告示にかかる大阪市長選挙における立候補者和爾俊二郎の選挙対策本部事務長をしていたもの、被告菅野は衆議院議員で、同本部委員長であつたものであること、右市長選挙に当たり、日本共産党が無所属革新系の中馬馨候補を推薦していたこと、及び和爾選挙対策本部の事務員が原告らに対し、原告らを大阪市長選挙候補者和爾俊二郎の選挙対策委員に委嘱する旨の同本部長大野伴睦、同事務長被告中井、同委員長被告菅野の記名押印ある委嘱状を送付したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二(一) ところで、本件のような委嘱状を送付することは、送付を受ける者において選挙対策委員となることを予め承諾している場合は格別、そのような承諾がなされていない場合には、送付を受ける者の有する政治的信条によつて、その送付を受けることを名誉に感ずる者もいる反面、これに対し極めて悪感情を抱き、特に委嘱者と対立する政治的信条を有している者は、それが純粋であればあるだけ、自己の政治的良心、ひいてはその名誉感情を深く傷つけられたと感ずるであろうことは多言を要しないところであるから、委嘱状の送付が公職選挙法一四二条又は一四六条で禁止されている法定外文書の頒布に該当するものであるかどうかにかかわりなく、場合によつては、これを違法行為として、民事上の責任が生ずるものであるといわねばならない。

<証拠>を総合すると、和爾選挙対策本部は、前示大阪市長選挙の際和爾候補の選挙運動をするため、同候補の選挙事務所内に設けられ、大野伴睦がその本部長、被告中井がその事務長、被告菅野がその委員長となり、竹下重義を総務担当、古高清を文書責任者とするなど役職を定め、アルバイト学生等も雇い入れ、専ら和爾候補の選挙運動をしていたこと、和爾候補の運動員であつた竹下重義と古高清は相談の上、選挙運動の一環として前示委嘱状を有権者に発送することとし、宛名人については、文書責任者であつた古高が、和爾会、和爾の出身校の同窓会名簿(市岡中学校、第四高等学校)、県人会名簿(愛媛県、広島県)その他和爾が関係していた各種団体の名簿等を基に、自ら印をつけたり、右団体の役員その他の地元有力者が推薦した者について目を通したりして選択した上、アルバイト学生をして委嘱状を発送させたが、発送された委嘱状約三万枚の内約一割は、地元の有力者等に白紙で手渡したに拘わらず、その宛先については報告を受けなかつたこと、委嘱状を送付するに当たり、事前に相手方より選挙対策委員になることにつき承諾を得るようなことがなかつたこと、被告ら及び大野伴睦が原告らに本件委嘱状を送付するよう古高清らに指示したことはなく、又本件委嘱状が原告らに送付されたことを知つていたかどうか明らかでないこと、古高は原告上田を知つていたが、原告栗本を知らなかつたこと、しかし宛名人を選択するに当たり原告らの氏名に気づいておれば、原告らに本件委嘱状を送付するよう指示するようなことはしなかつたと思われること、古高は被告ら個人の使用人ではなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠がない。

ところで、和爾選挙対策本部の文書責任者であつた古高としては、本件のような委嘱状を送付するに当たり、選挙対策委員に委嘱するにつき予めその送付を受ける者の承諾を得るか、又は委嘱状を送付することによつて選挙対策委員受諾の可能性があると思われる者、若しくは、少くとも送付を受ける者の政治的信条等のため、委嘱状の送付を受けたことによつて、名誉感情が傷つけられるようなことのない者を慎重に選び出すべき注意義務があるというべく、特に最後の点については、これにより選挙妨害の疑いすら生じ得るおそれがあることからいつて、他の点よりも一層慎重に検討確認する注意義務があるものといわねばならないところ、右に認定した事実によると、古高は、原告らを和爾選挙対策委員に委嘱するにつき、事前に原告らの承諾を得ていなかつたことは勿論、原告らを宛名人として選択するにあたり、その政治的信条等を十分慎重に調査確認したということができないから、この点において本件委嘱状を古高の過失により原告らに送付されたものといわねばならない。(原告らは、被告ら自らの故意又は過失により本件委嘱状が送付されたとか、古高その他選挙対策本部の事務員の故意により右送付がなされたと主張するけれども、これを認めるに足る証拠がない。却つて、原告栗本本人尋問の結果によると、原告栗本は市岡高等学校の出身であること、前掲甲第一三号証の二によると、和爾選挙対策本部阪南市岡会より原告栗本宛に委員会開催の通知が発送されていることがそれぞれ認められるから、原告栗本に対しては、市岡高等学校――市岡中学校の後身――の同窓会名簿により、本件委嘱状も送付されたことが推測され、したがつて原告栗本が日本共産党員であることを知りながら、――いいかえれば故意に――右送付がなされたものとは認めがたい。)。

(三) 前示のとおり、和爾選挙対策本部は、昭和三八年三月二八日告示にかかる大阪市長選挙の際、和爾候補の選挙運動を行なうため、運動員らによつて組織された団体であるが、選挙運動が終われば解散するもので持続性がないこと、構成員の加入脱退につき一般的な定めがなされていたとか、右対策本部の内部意思を決定するため構成員の総会が開催され、業務執行権者も右総会により選任されるべきことが一般的に予定されていたとかいう事実が認められないことを考え合わせると、和爾選挙対策本部なる団体は、他によるべき規定がない以上、法律的にはこれを民法上の組合に準ずるものとして、組合に関する規定の準用を受けると解するのが相当であるところ、その運営に当たつては、前示のとおり大野伴睦をその本部長、被告中井をその事務長、被告菅野をその委員長と定め、和爾の選挙運動を行なつていたのであるから、右大野及び被告らは、他の組合員(運動員)及び右対策本部の事務員に対し、使用者たる組合に代つてこれを監督する地位にあつたものというべく、したがつて、運動員たる古高が、右組合の業務を執行するにつき原告に対して行なつた不法行為につき、被告らは、民法七一五条二項により代理監督者としての責任を有するといわばねならない。

三 <証拠>によると、原告らはいずれも日本共産党員として、当時党活動に専念していたこと、昭和三八年四月七日、前示のとおり原告栗本に対し、和爾選挙対策本部阪南市岡会より委員会開催の通知が届き、続いて本件委嘱状が原告栗本の自宅に送付されたこと、本件委嘱状をみて、原告栗本は日本共産党及び同党党員である自己に対する侮辱であると感じたこと、原告上田は同年四月上旬、自宅宛に本件委嘱状の送付を受け、日本共産党及び原告上田個人を馬鹿にしていると感じ本件委嘱状を破つたほどであることが認められ、右認定に反する証拠がない。右認定事実からみれば、原告らが、いずれも本件委嘱状の送付を受けたことにより、その名誉感情を深く傷つけられ、その結果精神的苦痛を受けたことを認めるに十分である。

原告らは、本件委嘱状の送付を受けたことにより、原告らの社会的名誉が毀損されたと主張し、<証拠>中には、右主張に副う部分があるが、前示のとおり、本件委嘱状は原告ら個人に宛てその自宅に送付されたのであつて、右送付の事実が不特定多数人に知悉されるようになつたのは、たとえ原告上田の場合、原告上田本人尋問の結果により認められるように、当該原告上田の自宅が市議会議員選挙の選挙事務所になつていたため、多数の人がそこに出入りしていたという事実があつたとしても、ひとえに原告ら自らがこれを外部に公表したからに外ならないのであるから、仮に原告らの社会的名誉が毀損されたことがあつたとしても、これと古高の不法行為との間には、相当因果関係がないといわねばならない。

原告らは更に、俗に「地盤」と呼ばれる政治的信頼も毀損されたと主張するけれども、右事実を認めるに足りる的確な証拠がない。

四、そうすると、被告らは、組合的性格を有する和爾選挙対策本部の代理監督者として、原告らに対し、古高の不法行為により原告らが蒙つた名誉感情の侵害を回復させるべき義務を有していることが明らかであるところ、本件委嘱の形式及び原告らが蒙つた精神的苦痛の程度等を考慮すると、原告らの蒙つた名誉感情の侵害を回復させる方法としては、原告らが請求するように、被告らにおいて、上質ケント紙又は模造紙に二センチメートル四方以上の大きさの字で墨書の上、別紙(二)記載のとおりの文言を記載した各原告宛の謝罪文をそれぞれ交付の上、現実に謝罪しなければならないほどの必要はなく、本件委嘱状用紙とほぼ同一の縦二六センチメートル、横三五センチメートルの上質ケント紙又は模造紙に「謝罪状」と表題の上、別紙(一)記載のとおりの文言を記載して、本判決確定の日付を附記し、被告中井においては和爾選挙対策本部事務長、被告菅野においては同本部委員長と各肩書を表示してそれぞれの記名及び押印をした各原告宛の謝罪文を送付することをもつて十分であると思料される(なお被告らは、原告らが被告らに対し謝罪を求めることは、憲法一九条に反するから許されないと主張するが、右説示により明らかなとおり、本判決は被告らに対し口頭をもつて謝罪することを命じているわけでもなく、又、謝罪文書を直接原告らに交付すべきことを命じているものでもないから、謝罪文の送付を命じた本判決はこれをもつて憲法一九条に反するということができない。)。

よつて原告らの被告らに対する本訴請求は、右限度において正当であるからこれを認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。(下出義明 裁判官寺沢栄及び裁判官喜多村治雄はいずれも転任のため署名押印することができない。)

別 紙 (一)

わたくしは、あなたが日本共産党の大阪府下における幹部として、政治活動を行ない、あなたの所属する日本共産党が大阪市長選挙において自由民主党推せんの和爾俊二郎の対立候補として無所属革新系の中馬馨を推せんしていることを知りながら、不注意によりあなたを和爾俊二郎候補の選挙対策委員に委嘱するむねの委嘱状を発送したことを申訳ないと思つております。ここに謝罪の意を表します。

別 紙 (二)

謝 罪 状

わたくしたち二名は、あなたが日本共産党の大阪府下における幹部として、日本の独立、民主々義、平和、中立を求め国民の生活向上をめざして政治活動をおこなうなかで、自由民主党と対決する立場にあり、しかもあなたの所属する日本共産党が、自由民主党推せんの和爾俊二郎の対立候補として無所属革新中馬馨を推せんとしていることを知りながら、一方的に、あなたを自由民主党推せん大阪市長候補和爾俊二郎の選挙対策委員に委嘱するむねの委嘱状を発送しましたことは、まことに申訳けないことであります。ここに深く謝罪の意を表します。

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