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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)80号 判決 1963年9月14日

原告 杉山定裕

被告 粟村ハツ 外二名

主文

一、原告に対し被告粟村ハツは金四二、〇〇〇円、被告粟村政昭、同粟村恪治は、各自金二八、〇〇〇円およびいずれもこれに対する昭和三七年一月二三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は、被告粟村ハツに対して金一〇、〇〇〇円、被告粟村政昭、同粟村恪治に対して、各金五、〇〇〇円の担保を供したときは、その被告に対し仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

原告は訴外粟村栄一に対し(1) 昭和三四年一一月一九日、金一〇二、八二〇円を弁済期昭和三五年二月二九日の約定で、(2) 昭和三四年一二月七日、金五〇、〇〇〇円を弁済期同年一二月一五日(後に、右弁済期を昭和三五年二月一〇日に猶予)の約定で、いずれも利息の定めなく貸し与えたところ、右栄一は昭和三七年七月一九日死亡し、同人の妻被告粟村ハツ、同人の子被告粟村政昭、同粟村恪治、訴外粟村一嘉の四名がこれを相続した。

そこで原告は、右貸金合計一五二、八二〇円から栄一が生前の昭和三五年四月一一日に弁済した前記(2) の貸金のうち二五、〇〇〇円と、原告が昭和三八年五月一八日に被告らと訴外粟村一嘉に対しその相続分に応じて免除した一、八二〇円(合計二六、八二〇円)を控除した残額一二六、〇〇〇円について、被告粟村ハツに対しその三分の一の四二、〇〇〇円被告粟村政昭、同粟村恪治に対しそれぞれその九分の二の二八、〇〇〇円の支払と、これに対する訴状送達の翌日である昭和三七年一月二三日から右完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

被告ら訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

訴外粟村栄一が原告主張の日に死亡し、その相続人が原告主張のとおりであること、右栄一が原告主張のとおり(2) の五〇、〇〇〇円を借り受け、うち、二五、〇〇〇円を弁済したことは認めるが、(1) の一〇二、八二〇円を借り受けたことは否認する。

もつとも右栄一が原告に一〇二、八二〇円の借用証(甲第一号証)を差し入れたことはあるが、栄一は形式上の債務者にすぎず、真実の債務者は訴外東洋産業株式会社(以下訴外会社と云う)である。すなわち、昭和三四年四月一六日訴外会社は訴外大阪府農業協同組合連合会から金一、〇〇〇、〇〇〇円を借り受けたが、当時訴外会社は設立準備中であつたため、訴外栗村栄一がその名義上の借主となつていた。昭和三四年一一月頃、訴外会社が右連合会からその利息として一〇二、八二〇円の支払いを求められた際、訴外会社の発起人の一人である文鎮南が原告に依頼して、原告から右一〇二、八二〇円の立替払いを受けたのであるが、訴外会社は同年五月四日にすでに設立されていたから、右立替金の返還債務は当然訴外会社が負担すべきものである。ただ右連合会との関係では依然として栄一が名義上借主であつたところから、原告の申し入れにより右一〇二、八二〇円についても粟村栄一名義の借用証(甲第一号証)を作成し、原告に差し入れたに過ぎない。そのとき原告は栄一に対し迷惑をかけないと言明していた。それゆえ、被告らに右債務の支払義務はない。

原告訴訟代理人は被告らの右主張を争つた。<立証省略>

理由

まず、職権で、本訴の訴訟物の範囲について判断する。

原告は、本訴において、(1) の貸金一〇二、八二〇円と(2) の貸金五〇、〇〇〇円の合計額から(2) のうち弁済ずみの二五、〇〇〇円を控除したうえ、さらに免除にかかる一、八二〇円を控除した残額一二六、〇〇〇円について、被告らにその相続分に応じた支払を求めている。しかし、右免除は、原告がこれにもとづいて免除の意思表示をするとともに本訴においてその旨を主張した昭和三八年五月一八日付原告準備書面の記載によると、(1) (2) のいずれの貸金のうちから免除するのかそれを明らかにしないでなされている。そこで、右免除がどの貸金についてその効力を生じたかの点について考える。

弁済の充当に関する民法の規定は、免除の場合にも準用されると解されるが、その準用にあたつては、同法四八九条二号に「債務者の為めに弁済の利益多きものを先にす」とあるのは免除の場合には「債権者の為めに不利益なものを先にす」との意味に解するのが相当である。なぜなら、弁済の法定充当に関する民法の規定は、当事者が弁済を充当すべき債務を指定しなかつたときに、どの債務に充当すべきかを定めた補充規定であり、右四八九条二号には弁済の場合に即して規定されているため債務者の為めという表現がとられているが、その趣旨とするところは、市民社会においては人は自分にとつて利益となるように行動する場合が多いということを前提として別段の充当の指定がなければ、その者のために債務消滅の原因となる行為がなされた者(たとえば第三者弁済のときは債務者、相殺のときは自動債権、受動債権の各債務者、免除、放棄のときは債権者)にとつてもつとも有利となるように順次債務を消滅させることを規定したものと解するのが相当だからである。すると、本件の場合は、後記認定のとおり本件貸金はいずれも免除当時すでに弁済期を徒過しているところ(1) の貸金には他に連帯債務者があるが、(2) の貸金は単独債務であり、(2) の貸金の方が債権者にとつて不利益であることは明らかであるから、右免除により(2) の貸金のうち一、八二〇円の債権が消滅したものというべきである。

したがつて、原告が本訴において請求しているのは、(1) の貸金一〇二、八二〇円全額と、(2) の貸金五〇、〇〇〇円から弁済ずみの二五、〇〇〇円ならびに右免除にかかる一、八二〇円を控除した二三、一八〇円との合計一二六、〇〇〇円(ならびにその遅延損害金)について、各被告がその相続分に応じた支払をすることであると解せられる。

そこで原告の右請求について本案の判断をすゝめる。

成立に争いのない甲第一号証(借用証)、証人文鎮南の証言ならびに原告本人尋問の結果を総合すると、原告は訴外文鎮南の紹介で訴外粟村栄一に一〇二、八二〇円を貸すことになり、昭和三四年一一月一九日右栄一の家で栄一と文鎮南に現金一〇二、八二〇円を交付し、同人らを連帯債務者として利息の定めなく、弁済期昭和三五年二月二九日の約定で、これを貸し与えたことが認められ、右認定に反する証拠はない(被告らは、右甲一号証(借用証)は形式上のものにすぎず真実の債務者は訴外会社である旨主張するが、右主張にそう証拠はなにもない)。

次に、右栄一が原告主張(2) の五〇、〇〇〇円をその主張どおり借り受け、後にその主張どおり弁済期の猶予を受けたことは当事者間に争いがない。

そして、栄一が昭和三七年七月一九日に死亡し、同人の妻である被告粟村ハツ、同人の子である被告粟村政昭、同粟村恪治、訴外粟村嘉の四名がその相続人であることもまた当事者間に争いのないところである。

すると、右貸金合計一五二、八二〇円のうち原告の主張する残額一二六、〇〇〇円について、被告粟村ハツに対しその三分の一の四二、〇〇〇円、被告粟村政昭、同粟村恪治に対しそれぞれその九分の二の二八、〇〇〇円、およびいずれも右各金員に対する訴状送達の翌日であること記録上明白な昭和二三年一月二三日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は理由があるから、相当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴八九条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平田浩)

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