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大阪地方裁判所 昭和36年(行)28号 判決 1966年5月06日

原告 太平信用組合

被告 北税務署長

訴訟代理人 叶和夫 外六名

主文

被告が、信用組合大阪華銀に対して昭和三五年七月三〇日付でした、源泉徴収所得税額を金七九、六三一円とする決定処分のうち、金一五、九二六円をこえる部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用を五分し、その一を原告の負担とし、その四を被告の負担とする。

事実

第一、原告訴訟代理人は、「被告が訴外信用組合大阪華銀に対して、昭和三五年七月三〇日付でした、源泉徴収所得税額を金七九、六三一円とする決定処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は、中小企業等協同組合法にもとづき設立された信用組合であり、昭和三五年三月一日訴外信用組合大阪華銀(以下単に華銀という。)を吸収合併し、その権利義務の一切を包括承継したものである。

華銀は、昭和二八年五月三一日開催の第二回通常組合員総会において、昭和二七年四月一日から昭和二八年三月三一日までの事業年度の決算につき、組合員出資金に対して各一割の割合による配当決議をし、右配当金の支払を同年六月二二日から開始した。そして、当配金の大部分は組合員に支払われたが、別紙未払者名簿(以下単に別紙という。)に記載の組合員に対する各配当金、合計三九八、一五七円(以下本件配当金という。)については、右組合員らにこれを支払うことができなかつた。そこで華銀は、昭和三三年八月三〇日役員会の決議をもつて、本件配当金を雑益勘定に組入れ処分した。

二、その後華銀は経営状態が悪化したため、昭和三三年九月大阪地方裁判所に和議開始の申立をした。同裁判所は、昭和三四年五月一八日和議認可決定をし、この決定は同年六月一二日確定した。その和議条件の要点(以下本件和議条件という。)は次のとおりである。

(1)  昭和三二年一〇月二四日開催の債権者会合の決定を承認し、同年九月二七日現在の債権額に対し一万円及びその差額の五分を支払う。

(2)  和議債権額(前項のものを除く)に対してその二割を支払う。

(3)  前二項による支払をした残余の債権に対しては、和議認可決定確定日現在の華銀の財務諸表に計上された資産(前二項の支払引当分を除く)を整理して昭和三五年一二月三一日までに支払う。

(4)  前三項によつて支払つた残存債権は免除する。

右和議条件(1)項にいう債権者会合の決定とは、「昭和三二年一〇月三一日に預金者に対し、一万円及びその残額の五分を支払う。」との預金債権者会合の決定をいうものである。

三、被告は、昭和三五年七月三〇日華銀に対し、本件配当金に対する源泉徴収所得税七九、六三一円を徴収する旨の決定(以下本件決定という。)をした。原告は、同月三一日右決定通知書を受領し、同年八月二六日被告に対し再調査の請求をしたが、同年九月二日付で棄却決定を受け、同月三日右決定通知書を受領した。更に原告は、同年一〇月三日大阪国税局長に対し審査請求をしたが、これも昭和三六年二月一三日付で棄却決定を受け、同月一四日右決定通知書を受領した。

四、被告のした本件決定は、次の点で違法であり、取消しを免れない。

1、別紙記載の組合員には、本件配当金による配当所得が生じていない。すなわち、別紙記載の組合員に対しては、それらの者が国外へ移住したとか、あるいは架空人名義のため所在不明であるとかの理由により、配当金を支払うことが不能となつた。そこで華銀は、役員会の決議により本件配当金を支払わないことに決定して、雑益金勘定に組入れることとしたのである。したがつて、右決議により、本件配当金については当初から配当決議がなかつたのと同一の状態に復元し、別紙記載の組合員には配当所得が生じないことが確定したのである。配当所得がなければ、華銀に源泉徴収所得税納付義務も生じない。よつて右役員会の決議後になされた本件決定は違法である。

2、華銀も、それを吸収合併したのちの原告も、別紙記載の組合員に本件配当金を支払つた事実がないから、源泉徴収所得税納付義務も生じていない。昭和三四年法律第七九号による改正前の所得税法(以下旧所得税法という。)三七条には、配当所得の支払をなす者は、その支払の際、配当金に対する所得税を源泉徴収して政府に納付しなければならない旨定められているからである。

また、本件配当金の支払いと同視すべき事実もない。被告主張のように、華銀が本件配当金を雑益金勘定に組入れたことをもつて、配当金の支払いと同視すべき事実ということはできない。なぜならば、華銀が本件配当金を雑益金勘定に組入れたのは、さきに述べたように、別紙記載の組合員が国外へ移住したとか、所在不明であるとかのため、配当金を支払うことが不可能であつたからであつて、右組合員らがその自由意思にもとづいて配当金の受領を辞退するとか、これを華銀に贈与するとかした場合ではないからである。

したがつて、華銀には本件源泉徴収所得税納付義務がないから、本件決定は違法である。

3、かりに、本件配当金について配当決議の時に華銀の源泉徴収所得税納付義務が発生したとしても、国の右所得税徴収権は、本件決定当時にはすでに時効によつて消滅していた。すなわち、国税徴収権の消滅時効期間は五年であるから、本件配当金について配当決議のなされた昭和二八年五月三一日から五年後の昭和三三年五月三一日をもつて、あるいは、遅くとも配当決議のなされた日の属する月の翌月である昭和二八年六月一〇日(所得税法三七条)から五年後の昭和三三年六月一〇日をもつて、本件配当金に関する国の源泉徴収所得税徴収権は時効により消滅したものである。

したがつて、その後である昭和三五年七月三〇日になされた本件決定は違法である。

4、かりに、本件配当金を雑益金勘定に組入れたことによつて、別紙記載の組合員の配当金請求権が消滅しないとしても、右配当金請求権は、本件和議条件の適用を受けるものである。そして、本件和議条件(3)項による支払いは、実質的な資産がなかつたため不能に帰した。

配当金支払者が和議開始決定を受けた場合、その未払配当金については、所得税の源泉徴収をすべきではない。このことは、昭和三三年一月二八日付個別通達直所二―一一にも明記されている。よつて、この点を無視してなされた本件決定は違法である。

第二、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び主張として、次のとおり述べた。

一、請求原因一、二、三項記載の事実は認める。なお、和議条件(1)項は預金債権についてだけ適用されるものである。請求原因四項の1記載の事実のうち別紙記載の組合員が国外へ移住しているかまたは所在不明であることも認める。同項の4記載の事実のうち、本件和議条件(3)項による支払が不能であつたことは知らない。

二、本件決定は、次の理由により、適法である。

1、華銀が、本件配当金を雑益金勘定に組入れたことによつて別紙記載の組合員に対する配当決議が当初からなかつたのと同一の状態になるわけではなく、また別紙記載の組合員に配当所得が生じなかつたことになるわけでもない。右組合員の配当所得は、税法上の発生主義の原則により昭和二八年五月三一日の通常組合員総会における配当決議によつて配当請求権が発生したときに、生じたものである。そして、配当金支払者である華銀は、配当金の支払いの際、配当金に対する所得税を源泉徴収してこれを政府に納付する義務を負うのであるが、(所得税法三七条)、ここにいう支払いとは、現実に金銭または物を交付する場合のほか、支払いと同視しうべき事情のもとに支払義務の消滅する場合をも含むものである。

華銀が本件配当金を雑益金勘定に組入れた事実は、配当金の支払と同視しうべき事情のもとに配当金支払義務の消滅した場合に該当する。すなわち、華銀において、昭和三三年八月三〇日役員会で、本件配当金を雑益金勘定に組入れる決議をするまでは、本件配当金は未払金として債務項目に計上されていたのであるが、右決議によつて、華銀は、本件配当金を債務項目から削除してその未払状態を解消させ、帳簿上そのような処理をし、以後別紙記載の組合員から配当金の請求がなされても事実上なんらの取扱いをもしないことを内部的に確認するとともに、そのことを財務諸表にも表現して一般に公表したのである。したがつて、華銀の前記決議は、まさに配当金の支払いと同視すべき事実として、所得税法三七条にいう配当所得の支払いに該当するものということができる。右決議により、華銀は、本件配当金に対する源泉徴収所得税を納付する義務を負うに至つたものである。

2、かりに、本件配当金の雑益金勘定組入れ決議によつて、別紙記載の組合員の配当金請求権を消滅させたことにならないとしても、なお本件決定は適法である。この場合には、昭和三四年法律第七九号によつて改正された所得税法(以下新所得税法という。)三七条のカツコ内、すなわち「配当所得については、その支払の確定した日から一年を経過した日までに支払がなされないときは、当該一年を経過した日において」配当金支払者はその配当金に対する源泉徴収所得税を納付する義務を負う旨の規定と、その経過措置を定めた新所得税法附則一三項により、華銀を吸収合併した原告は、新所得税法施行の日である昭和三四年四月一日から一年を経過した昭和三五年四月一日に、本件配当金に対する源泉徴収所得税を納付する業務を負うに至つたものである。

3、本件配当金に対する国の源泉徴収所得税徴収権は、本件決定の時までに時効消滅していない。配当金支払者である華銀の、本件配当金に対する源泉徴収所得税納付義務の履行期は、所得税法三七条により、配当所得を支払つた日の属する月の翌月一〇日と定められている。したがつて、国の右所得税徴収権の消滅時効は、「権利を行使しうる時」である右法定納期限の日から進行する。本件配当金に対する国の源泉徴収所得税徴収権の五年の消滅時効期間は、前記1の解釈に立つときは、本件配当金の雑益金勘定組入れ決議のなされた日の属する月である昭和三三年八月の翌月一〇日の翌日、すなわち同年九月一一日から起算すべきものであり、前記2の解釈に立つときは、新所得税法三七条とその附則一三項により、昭和三五年五月一一日から起算すべきものである。

4、本件配当金請求権は、本件和議条件の適用を受けない。なぜならば、本件配当金は、和議開始の申立の直前である昭和三三年八月三〇日華銀役員会の決議により雑益金勘定に組入れられ、その未払状態が解消され、本件配当金請求権は消滅したものとして取扱われたからである。かりに和議条件の適用を受けるとしても、本件配当金については、原告主張の直所二―一一通達は適用されない。この通達は、配当金等の支払者が和議開始決定等を受けた場合に、その役員、株主または社員が、他の一般債権者の損失を軽滅するため、その立場上やむなく配当金等の受領を辞退した場合の当該配当金等について、所得税の源泉徴収をしないこととしたものである。本件では、配当金請求権者である別紙記載の組合員が国外に去り、あるいは所在不明のため、支払者である華銀が一方的に配当金を雑益金勘定に組入れた場合であつて、前記通達の予定する場合とは異なる。

第三、(証拠省略)

理由

一、請求原因一、二、三項記載の事実及び同四項の1記載の事実のうち別紙記載の組合員が昭和三三年八月三〇日当時国外へ移住しているかまたは所在不明であつたことは、当事者間に争いがない。以下本件決定の適否について判断する。

二、華銀は、昭和三三年八月三〇日の役員会の決議により、本件配当金を華銀の雑益金勘定に組入れたのであるが、原告は、これによつて、本件配当金については当初から配当決議がなかつたと同一の状態に復元し、別紙記載の組合員に配当所得が生じないことが確定したと主張する。しかし、この主張は失当である。雑益金勘定への組入れは、別紙記載の組合員が国外移住または架空名義等による所在不明のため、本件配当金の支払いをすることができないところから、華銀が一方的にとつた措置であつて、華銀の内部における本件配当金の経理上の処理手続にすぎず、この措置によつて当然に別紙記載の組合員の本件配当金請求権を消滅させるものではないといわねばならない。もとより右組入れ措置によつて、本件配当金について当初から配当決議がなかつたと同一の状態になるものということもできない。別紙記載の組合員の配当金請求権は、昭和二八年五月三一日の配当決議によつて発生、確定し(この時別紙記載の組合員に各配当所得が生じ)、華銀に対するこの請求権は、本件配当金の雑益金勘定組入れ後も存続しているものというべきである。

被告は、本件配当金の雑益金勘定組入れにより、本件配当金の支払いと同視しうべき事情のもとに華銀の本件配当金支払義務が消滅したと主張するが、雑益金勘定組入れにより華銀の本件配当金支払義務が消滅するものと解しえないことは、右に述べたとおりである。また配当金支払(給付)に対する前記組合員の協力行為たる受領行為が事実上期待できない状態にあつたものであり、右雑益金勘定組入れがなされたからといつて、経済上配当金の支払があつたものとみることはできないといわなければならない。

したがつて、華銀のした本件配当金の雑益金勘定組入れが所得税法三七条にいう本件配当金の支払いに該当するとし、この時華銀が源泉徴収所得税の納付義務を負うに至つたという被告の主張は、失当である。

三、原告は、本件配当金に対する国の源泉徴収所得税徴収権は、本件決定当時すでに時効によつて消滅していたと主張し、その理由として、右消滅時効の起算日は、本件配当金の配当決議のあつた昭和二八年五月三一日の翌日であると主張する。しかし、右消滅時効の進行については、国税通則法施行前の国税徴収法一七四条に「権利を行使することができる日から」と定められており、これは、法定納期限の翌日からと解すべきである(なお、国税通則法七二条はこのことを明記した。)。配当所得に対する源泉徴収所得税の法定納期限は、所得税法三七条により、配当金を支払つた日の属する月の翌月一〇日と定められているから、前記消滅時効の期間はその翌日から起算すべきものである。原告の主張は採用できない。

四、別紙記載の組合員の本件配当金請求権は、昭和三四年五月一八日認可決定(同年六月一二日確定)のなされた本件和議条件の適用を受けるものである。被告は、和議開始の申立の前に本件配当金が雑益金勘定に組入れられ、未払状態が解消されたから、本件配当金請求権は本件和議条件の適用を受けないと主張するが、雑益金勘定への組入れによつて本件配当金請求権が消滅するものでないことは、さきに述べたとおりであるから、被告の右主張は採用できない。前示和議条件(1)項にいう債権者会合の決定が、「昭和三二年一〇月三一日に預金者に対し、一万円及びその残額の五分を支払う。」旨の預金債権者会合の決定であることに双方争いがない以上、本件和議条件(1)項は、預金債権にだけ適用されるものであつて、本件配当金請求権には適用されないものと認めるべきであり、また成立に争いのない甲第八号証及び弁論の全趣旨によると、昭和三五年二月二七日当時すでに華銀にはその財務諸表計上の資産整理による支払資金がなく、本件和議条件(3)項による支払いが不能であることが確定していたことが認められる。したがつて、華銀は別紙記載の組合員に対する本件配当金債務について、昭和三五年二月二七日当時、和議条件(2)項により、その二割(金七九、六三一円)だけを支払えば足りるものであつて、右配当金債務の八割は和議条件(4)項により免除されたものというべきである。

ところで、所得税法三七条にいう「配当所得の支払い」とは、その支払いと同視すべき事実によつて支払義務の消滅するものをも含むと解すべきであるが、和議条件の適用によつて債権者が債務免除を余議なくされ、そのため支払者の支払義務が消滅した場合は、同条にいう「配当所得の支払い」に該当しないものと解すべきである。すなわち、支払いと同視すべき事実によつて支払義務の消滅するものとは、債権者がその支払を受け得ることを前提としており、たとえば、任意に債権を放棄(債務を免除)する場合のように、経済上その支払があつたものとみられるものを指すものであり、和議条件の適用を受けて債務免除を余儀なくされた場合は、これに当らないものと解すべきである。したがつて、和議条件の適用によつて配当金支払債務の免除を受けた支払者は、その免除を受けた部分については、源泉徴収所得税の納付義務を負わないというべきである。

(なお、直所二―一一通達は、本件のような和議条件の適用による債務免除の場合について定めた基準ではなく、右に述べた見解と矛盾するものではない。)。

五、そうすると、本件配当金は、昭和二八年五月三一日の配当決議によつて支払いが確定したから、新所得税法三七条及び附則一三項により、華銀を吸収合併した原告は、新所得税法が施行された日である昭和三四年四月一日から一年を経過した昭和三五年四月一日に、前示認定のように本件配当金のうち「支払うべき金額」であるその二割に当る七九、六三一円に対し一〇〇分の二〇の税率を適用して算出した金一五、九二六円の所得税を徴収し、これを同年五月一〇日までに政府に納付する義務を負い、かつ本件配当金について原告が負う源泉徴収所得税納付義務は右につきるということができる。

そうすると、昭和三五年七月三〇日になされた本件決定は、結局において所得税額一五、九二六円の限度で適法であり、右金額をこえる部分は違法である。

よつて、本件決定のうち源泉徴収所得税額一五、九二六円をこえる部分を取消すこととし、原告のその余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山内敏彦 高橋欣一 石井一正)

(別紙省略)

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