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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)1096号 判決 1963年6月28日

原告 破産者北橋新市破産管財人 遠藤寿夫

被告 東山正男 外一名

主文

破産者北橋新市と被告東山正男間において昭和三三年一月二二日別紙目録<省略>第一記載の不動産につき為された所有権譲渡行為はこれを否認する。

被告東山正男は原告に対し前記の不動産につき大阪法務局八尾出張所昭和三三年一月二二日受付第四五七号をもつて売買を原因として為された所有権移転登記に対し否認の登記手続をせよ。

破産者北橋新市と被告北橋博間において昭和三三年一月二四日別紙目録第二記載の不動産につき為された所有権譲渡行為はこれを否認する。

被告北橋博は原告に対し前記の不動産につき大阪法務局八尾出張所昭和三三年一月二四日受付第五二七号をもつて売買を原因として為された所有権移転登記に対し否認の登記手続をせよ。

訴訟費用は被告等の連帯負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を求め、その原因として、

一、訴外北橋新市は昭和三三年二月債権者訴外阪神木材商行こと橋口新太郎より破産の申立を受け、右事件は大阪地方裁判所同三三年(フ)第四四号事件として係属し、審理の結果同裁判所は同三三年一二月一五日午前一〇時訴外北橋新市に対し破産の宣告を為し、同時に原告をその破産管財人に選任した。

二、破産者は別紙目録第一、第二記載の各不動産を所有していたが、

(イ)、第一記載の不動産につき、昭和三三年一月二二日大阪法務局八尾出張所受付第四五七号をもつて売買を原因として被告東山正男のため所有権移転の登記を為し、又

(ロ)、第二記載の不動産につき、同三三年一月二四日前記法務局同出張所受付第五二七号をもつて売買を原因として被告北橋博のため所有権移転の登記を為した。

三、破産者は右の譲渡行為に及んだ当時多額の債務を負担し同三三年二月一一日手形の不渡を出すと同時にいずれにか逃亡したもので、右譲渡行為はいずれも債権者を害することを知つて為したものである。

四、そして、被告東山は破産者の長女の夫、被告北橋は破産者の長男であつて、被告等も亦前記所有権譲渡行為が債権者を害することを知りながら、その譲り渡しを受けたものである。

以上のような次第であるから、原告は否認権を行使し、請求の趣旨記載どおりの判決を求めるため本訴に及んだ、

と陳述し、次いで、被告等主張の事実に対し、

第一項は、否認する、

第二項は、不知、

第三項中、前段は否認する、

後段の内破産者が同三三年一月頃事業に支障をきたし、その債務弁済のため被告等所有にかかる本件物件の登記名義が自己にあることを奇貨として売却せんとしていることを知り、被告両名が訴外小川利兵衛宅へ相談に赴いた結果、早速登記手続をとることになつた、との事実はこれを認めて利益に援用する。

第四項中、被告東山の身分関係は認める、

第五項は、争う、

第六項は、不知、

と述べ、更に、被告東山の財団債権償還請求について、

仮に、被告東山がその主張のような債権を有するとしても、それは破産債権であつて財団債権でないから、本訴においてその償還を請求することはできない。けだし、被告は右の債権を破産法第四七条第五号所定の財団債権と主張しているが、その主張自体に照らして右の債権が破産宣告前の土地管理費であること明らかなところ、右法条所定の債権は破産宣告後破産財団に対して生じたものに限られ、宣告前の管理費はこれに含まれないからである。従つて、被告の主張はそれ自体理由がない。

と述べた。

被告等訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、原告主張の事実に対し、

第一項は、認める、

第二項は、認める、

第三項は、否認する、

第四項中、被告等と破産者との身分関係は認める、その余の事実は否認する、と答弁し、次いで、

一、破産者は昭和二七年六月二五日家族を放置して家出した。そこで、親籍一同が手分けして捜査した結果、同人を道後温泉で見付けたのでこれを訴外小川利兵衛宅に連れ戻し、親族の主なる者訴外小川利兵衛、同北橋一雄、同雑賀タネ、同藤本菊松、同北橋久代等立会のうえ種々協議した末同二七年七月一五日破産者はその所有にかかる別紙目録第一記載の土地を破産者の長女操に、又第二記載の家屋を長男被告北橋博に合計金二〇万円で売渡し、以後破産者は右物件について一切関係しない旨を約し、その旨記載の念書を作成した。被告北橋及び訴外操は即日金二〇万円を支払つて右物件を買取つた。

二、けれども、破産者と買受人等は親子関係にあるので右物件の所有権移転登記を為さずに日時を経過した。右物件に対する公租公課は被告北橋と訴外操が支払つてきた。

三、訴外操は同三二年四月二二日被告東山正男と婚姻するに当り、即日同人に対し前記土地を持参金代りに贈与した。贈与に因り右土地所有権を取得した被告東山も敢て所有権移転登記手続を経ることなく之を使用収益していたが、同三三年一月頃破産者が事業に支障をきたし、その債務弁済のため被告等所有にかかる前記土地、家屋の登記名義が自己にあることを奇貨として売却せんとしていることを知り、被告北橋と共に訴外小川利兵衛宅へ相談に赴いた結果、早速登記手続を執ることになり同三三年一月二二日之を為したものである。

四、被告北橋は同二七年七月一五日の親族会議以降破産者と別居し、被告東山は前記婚姻に因り破産者と親族関係を生じたが、同人とは何等の交渉もなかつた。従つて、被告等は破産者の事業内容がどのような状態にあるのかも知らないまゝに右の移転登記を為したのである。

五、以上述べたところに照らして明らかなように、被告等が前記各物件に対する所有権移転の登記を為したのは、既に取得している自己の所有権を破産者の不法な行為から確保するために為したものであつて、破産者の債権者を害するために為したものではない。

と述べ、更に、

六、被告東山は、仮に原告の否認権行使が認められるとすれば、

別紙目録第一記載の土地は土砂採取後の窪地であつたため、宅地として使用に堪えない状態であつたものを、同被告が昭和三一年一二月より同三二年四月末日までの間金六五万円を支出して埋立をなし、ために右土地の時価は今日相当高額に評価されている。右費用は被告東山が右土地の管理者として原告のために出捐したもので、破産法第四七条第五号所定の請求権に該るから、これが償還を求める、

と主張した。<立証省略>

理由

訴外北橋新市が昭和三三年二月訴外阪神木材商行こと橋口新太郎から破産の申立を受け、その事件が大阪地方裁判所において昭和三三年(フ)第四四号事件として審理された結果、同裁判所が同三三年一二月一五日午前一〇時訴外北橋新市に対し破産の宣告を為し、同時に原告をその管財人に選任したこと及び是より先、破産者がその所有にかゝる別紙目録第一記載の不動産につき同三三年一月二二日大阪法務局八尾出張所受付第四五七号をもつて売買を原因として被告東山正男のため所有権移転の登記を為し、又同目録第二記載の不動産につき同三三年一月二四日前記法務局同出張所受付第五二七号をもつて売買を原因として被告北橋博のため所有権移転の登記を為したこと、並びに被告東山が破産者の長女訴外操の夫で、被告北橋が破産者の長男であることは当事者間に争いがない。

(一)、譲渡行為の時期について、

被告等は、右登記原因たる各売買は昭和二七年七月一五日訴外小川利兵衛宅で開かれた親族会議の席上で、破産者とその長男被告北橋、その長女訴外操(被告東山の妻)との間で為されたものである、と主張し、原告はこれを否認しているので検討してみることにする。乙第一号証及び証人小川利兵衛、同北橋久代の各証言並びに被告北橋尋問の結果中には、右主張に副う記載、証言、供述があるが、反面、被告北橋は、右の親族会議は別府温泉において開かれ、その席上で破産者が自己名義の不動産を譲渡する旨一筆書いた、と供述し、又証人北橋久代は、被告北橋が昭和三一年一一月に、又訴外操が同年一〇月にそれぞれ結婚したので、その際財産分けとして本件土地家屋を贈与したものである、とも証言し、いずれもその述べるところ甚だ動揺して帰するところを知らない状況であるので、前記記載、証言、供述はたやすく信用するわけにはいかない。外に被告等の全立証に徴しても、右主張を認めるに足る的確な証拠がないので、被告等の右主張は採用できない。寧ろ、成立に争いのない甲第一〇号証の二、第一二号証の二に照らし、被告東山が破産者から前記土地所有権を譲受けた日は昭和三三年一月二二日、被告北橋が破産者から前記家屋所有権を譲受けた日は同三三年一月二四日と認められる。

(二)、破産者の悪意について、

証人市原馨、同林貢市の各証言を綜合すると、破産者は家具調度品の製造販売に携わつていた者であるが、右の譲渡行為に及んだ当時訴外阪神木材商行に対し木材買掛代金約金一二〇万円の債務を負担していたところ、その決済ができないため同三三年二月一一日いずれにか迯亡して今日に至つていることが認められ、右認定に反する証拠がないから、破産者の前記譲渡行為は破産債権者を害することを知つて為したものと看られる。

(三)、受益者の悪意について、

被告は、破産者が同三三年一月頃事業に支障をきたし、その債務弁済のため本件土地、家屋を処分しようとしていることを知つたので、被告両名が訴外小川宅へ相談に赴いた結果、早速所有権移転登記手続をとることになつた、と自白しているので、前記認定の土地、家屋を譲受けた当時被告等がその譲受行為に因り破産債権者を害することを知つていたこと明らかである。

以上認定のように、破産者と被告等間における前記各譲渡行為は破産法第七二条第一号所定の行為に該当するので、いずれもこれを否認する。従つて、被告等は原告に対し前記各所有権移転登記に対しそれぞれ否認の登記手続をしなければならない(この場合判例は(大審昭八、四、一五判、集一二巻六三七頁)、否認の登記は予告登記の性質を有し破産管財人が否認権を行使したときは直に之が登記を為すことができる。とされているが、管財人が否認の登記を為し得る時期は「登記ノ原因タル行為ガ否認セラレタルトキ」(破一二三、I)であるから、行為が否認される以前においてはその登記ができないものと解され、そして「行為ガ否認セラレタルトキ」とは、否認権が訴又は抗弁により行使される関係上(破七六)、結局、判決で否認権行使が是認されたときと解されるから、この時(判決で否認権行使が是認されたとき)始めて右の登記ができるものと考える。従つて、原告の請求は正当なものと見受けられるので、このように判決した。)

次に、被告東山は本訴において原告に対し、別紙目録第一記載の土地の窪地箇所埋立に出捐した費用金六五万円を破産法第四七条第五号所定の財団債権としてその償還を求める、と主張しているが、訴を提起せずして給付判決を求めることはできないから、右主張はそれ自体失当である。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 牧野進)

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