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大阪地方裁判所 昭和29年(行)83号 判決 1964年2月03日

大阪市西区北堀江上通二丁目九番地

原告

芳元リン

右訴訟代理人弁護士

石川元也

宇賀神直

松本健男

同復代理人弁護士

東垣内清

被告

大阪国税局長

塩井潤

右指定代理人大蔵事務官

藤井三男

堀尾三郎

山田俊郎

右当事者間の所得金額決定取消請求事件につき、当裁判所は、昭和三八年一二月一四日に終結した口頭弁論にもとづきつぎのとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

被告が昭和二九年七月三一日に原告の昭和二七年度所得税に関してした原告の総所得金額を三九万三〇〇〇円とする審査決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、主張

一、原告

1、原告は料理店を営んでいるが、昭和二八年三月一六日に西税務署長に対し、原告の昭和二七年度分所得税につき、総所得金額を八万八二五二円とする確定申告をしたところ、同署長は、右金額を七〇万円と更正した。そこで原告は、同署長に対し再調査の請求をしたが棄却されたので、同年九月七日に被告に対し審査の請求をしたところ、被告は申立記載のとおり、総所得金額を三九万三〇〇〇円とする旨の審査決定をした。しかしながら、原告の昭和二七年度における営業の収支は一九万一八七四円の欠損となるのであつて、右審査決定には原告の所得金額を誤認した違法があるから、その取消しを求める。

2、被告主張の2の事実のうち、原告の取引先からの受取金で原告の帳簿に記入されていないものについては、別紙一覧表原告主張欄に記載のとおりであり、原告が同表1ないし10の取引による受取金計三七万一八九四円を帳簿に記入しなかつたことは認めるが、その余の被告主張は否認する。当時の原告の記帳は、一度記帳した取引先についてはすべてを完全に記帳し、記帳しない取引先については全く記載しないという方法をとつていたのである。そして、原告方で飲食した顧客の内部での負担関係は原告の関知するところではなく、原告のような営業においては帳簿上真の支払者の名称を正確に表示することはできないから、被告が原告の収入中記帳から除外したと主張する分について、原告の帳簿上他の取引先の名称により記帳されている例(たとえば香川商店とクレテー香川とは同一である。)もあり得るのであつて、原告の真実の収入を追究するなら、取引先が原告に支払つたとされている金額より原告の記帳額が多い場合もあることをみのがしてはならない。従つて、被告が各取引先に照会して得た金額と取引年月日の方が原告の記帳より正確であり原告の帳簿の記載が不正確ないし虚偽であるとすることはできない。

また、原告の帳簿に記入されていない受取金からの立替金控除に関する被告の計算方法は争う。

借受金に対する支払利息についての被告の主張のうち、原告の支払利息額が八六万三三〇五円を超えるものでないとの部分は否認する。

原告は、右支払利息のほかにも他からの借受金に対する利息を支払つている。すなわち原告は、当時新甚長蔵から利息月六分の約定で四〇万円、並河令二から月三分の約定で三〇万円、石川千代吉から月六分の約定で一〇万円を借り受けており、その支払利息額は年額四六万八、〇〇〇円であつたから、そのうち三割を店主勘定として除外した残額三三万七、六〇〇円は営業経費として被告主張の額に加算されるべきである。

その余の被告の主張はすべて認める。

右によつて計算すると、原告の営業による収入は記帳されているものが三九二万五、三四〇円であり、記帳のないものは三七万一、八九四円を超えず、経費は四五三万九、一〇八円となり、差引二四万一、八七四円を超える欠損を生じているし、これに営業外所得五万円を考慮しても、一九万一、八七四円を超える欠損となる。

二、被告

1、原告主張の1の事実は認める。

2、原告は当時料理店を営んでいたのであるが、昭和二七年度の原告の総所得額は、つぎの計算のとおり七九万八五二二円であり、本件審査決定により定められた金額を超えるものであるから本訴請求は理由がない。

(一) 営業による所得

(1) 総収入金額

(イ) 原告の帳簿に記載のある売上金額

三九二万五三四〇円

売上として記帳されているものの総額は四一八万六六三〇円であるが、その中には実質は収入でなく原告が立替え支出した煙草代、タクシー代仲居への祝儀等が含まれており、その総額は二六万一二九〇円である。そこで、右四一八万六六三〇円から二六万一二九〇円を控除すると三九二万五三四〇円となる。

(ロ) 原告の帳簿に記載のない売上金額

一〇二万四六九〇円

原告は別紙一覧表記載の各取引先からその下欄の同表被告主張差額欄記載のとおりの金員を原告の帳簿に記入しないまま受領しており、その合計額は一〇四万九〇二三円である。そのうち帳簿上に取引先として全く記入されていないのは同表1ないし12の各取引先に関する分であつて、右各取引先からの受取金は合計四四万二四三四円であるが、その中には原告が立替えた煙草代、タクシー代、仲居への祝儀等が含まれていると認めるのが相当であり、右一覧表中のその余の取引先からの受取金中には立替金が含まれていないと認めるのが相当である。そこで、右四四万二四三四円中に含まれる立替金の額を考えると、つぎのとおりと認められる。すなわち、前記(イ)の記帳されている受取金額四一八万六六三〇円と別紙一覧表13ないし25の各取引先からの受取金中帳簿から脱漏している金額(同表被告主張差額欄に記載)の合計である六〇万六五八九円とを加えると四七九万三二一九円となるが、前記(イ)で述べた立替金二六万一二九〇円は右四七九万三二一九円に対応するものというべきであるから、前者の後者に対する割合をみると五・五%となる。そして、別紙一覧表の1ないし12の取引先との取引による帳簿に記入のない受取金四四万二四三四円中に含まれる立替金額も右同率とみるべきであるから、右受取金額から右金額に右同率を乗じて得た二万四三三三円を控除すると四一万八一〇一円となる。よつて、別紙一覧表1ないし12の各取引先からの右売上収入四一万八一〇一円に、同13ないし25の各取引先からの収入である六〇万六五八九円を加えると、原告の帳簿に記載のない売上による収入金額は、一〇二万四六九〇円となる。

(ハ) 前記(イ)及び(ロ)の合計売上金額

四九五万三〇円

(2) 控除すべき必要経費額

(イ) 仕入反価 二三一万五、七一一円

(ロ) 借受金利息 八六万三三〇五円

原告の昭和二七年度借受金利息は一〇七万九一三二円であるが、そのうち営業用支払利息と認められないものが二割あるので、これを控除すると、八六万三三〇五円となる。

原告には、前記以外に昭和二七年度借受金に対する利息債務ないしその支払いはない。原告は、被告の右主張を争い、前記一〇七万九一三二円以外に訴外新甚ほか二名から金員を借り受け、合計四六万八〇〇〇円の利息を支払い、そのうち三三万七六〇〇円は営業経費となる旨主張するが、原告が訴外新甚長蔵から金員を借り受けた事実はなく、仮に借入金があつたとしても、昭和二六年秋ごろまでに訴外並河令二からの四〇万円ないし五〇万円の借用金をもつて返済ずみであるから、右新甚への支払利息は昭和二七年度の経費とならず、また、右並河からの金員借用期間は四ケ月ないし五ケ月間であつて、その金利も月二分ないし三分であつから支払利息額は原告主張のように多額ではなく、かつ、その大部分が昭和二七年分の経費とならない。

(ハ) その他の経費 一〇二万二、四九二円

(ニ) 前記(イ)、(ロ)、(ハ)の合計額 四二〇万一、五〇八円

(3) 事業所得額 七四万八、五二二円

前記(1)の(ハ)の額から(2)の(ニ)の額を控除した額である。

(二) 営業外所得

(1) 家屋譲渡所得額 五万円

3  以上のとおりであつて、(一)の(3)の額と(二)の(1)の額とを合計すれば、原告の総所得額は七九万八五二二円となる。よつて、被告のした処分に取消事由はない。

第三、証拠

一、原告

甲第一号証の一ないし四九、同第二号証を提出し、証人滝清(第一、二回尋問)、同今井博(第一、二回尋問)、同並河令二の各証言及び原告本人尋問の結果を援用する。

乙第九、一〇号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立はいずれも認める。

二、被告

乙第一号証の一ないし一二、同第二、三号証、同第四、五号証の各一、二、同七号証の一ないし三、同第八号証の一ないし六、同第九、一〇号を提出し、証人金田毅の証言を援用する。

甲号各証の成立はいずれも認める。

理由

一、被告が料理店を営む原告の昭和二七年度所得税につき、原告主張のとおりの経過で、その主張のとおり総所得金額を三九万三〇〇〇円とする審査決定をしたことは当事者間に争いがない。

二、そこで原告の営業による所得額を判断する。原告の帳簿上に売上として記載された金額が合計四一万六六三〇円であり、その中から原告の立替金二六万一二九〇円を控除すると、真実の売上金で帳簿に記載されているものが合計三九二万五三四〇円であることは当事者間に争いがなく、また、原告が右売上のほかに別紙一覧表の1ないし10の各取引先からその各下欄記載のとおりの金員を受取りながらこれを記帳しなかつたこと及び右記帳のない受取金が計三七万一八九四円であることも当事者間に争いのないところである。

ところで、被告は、原告には前記争いのないもののほかにも記帳されない売上金があると主張するので、この点を判断すると、別紙一覧表の11ないし25に記載した各取引先ごとに、その各名下証拠欄に記載したいずれも成立に争いのない甲、乙各号証を総合すれば、原告は昭和二七年中に右各取引先から右一覧表被告主張受取金額欄記載のとおりの金員を受取り、そのうち右帳簿記載欄額記載のとおりの金員を記帳したにすぎず、従つて右差額欄記載のとおりの帳簿に記入されていない合計金六七万七一二九円の受取金があることが認められる。原告は右各取引先からの収入については、取引先の名称こそ異なるとはいえ、原告の帳簿にすべて記入されていて記帳もれはなく、原告の売上金につき記帳上脱漏があるとの被告主張に副う被告提出の証拠は信用できないと主張して争うが原告がその一例としてあげているクレテー香川と香川商店との関係については、成立に争いのない甲第一号証の三三と同乙第七号証の三とを合わせれば、被告がクレーテー香川関係の売上として主張する分と香川商店関係の売上として主張する分は、売上の時期を異にしていて重複するものではないと認められるから、右両者が同一かどうかを審及するまでもないし、その他右原告の主張を一応首肯させ、もつて右認定を左右するに足りる格別の証拠はなく、却つて、原告が売上金中の相当多額を意識的に記帳しなかつたことは証人今井博(第一回尋問)の証言によつて明らかであり、このことと右甲、乙号各証の比較検討の結果とを合わせれば右原告の主張は採ることができない。

そうすると、原告の帳簿に記入されていない受取金は、原被告間に争いのない三七万一八九四円に前記認定の六七万七一二九円を加えて一〇四万九〇二三円となることが明らかである。

もつとも右受取金中には、タクシー代、煙草代等原告が支出した立替金につき支払いを受けた分が含まれていることは推認するに難くなく、原告の真の売上による収入計算に当つては記帳外受取金額から右立替金額を控除するのが相当である。そして、右立替金額を直接証するべき証拠はないが、前記記帳売上金四一八万六六三〇円中には立替金二六万一二九〇円が含まれていることは当事者間に争いがなく、その記帳売上金額に対する割合は六、二四一五%に当ることが明らかであるから、右記帳のない収入総額の算定に当つては、記帳のない受取金額からこれに対する右同率の金額六万五、四五九円を控除し、記帳されない売上による収入総額は金九八万三、五六四円と認めるのが相当である(当事者間に争いのある被告主張の計算方法は別紙一覧表の13ないし25の各取引先からの受取金で記帳されていない分計六七万七、一二九円中には立替金が含まれていないとの前提に立つているが必ずしもそのように認めるべき理由はないから、右計算方法はとらない。)。

そうすると、原告の営業による総収入金額は、前記記帳売上金三九二万五、三四〇円と右九八万三、五六四円とを合計し四九〇万八、九〇四円と認められる。

三、つぎに原告の必要経費につき判断する。被告主張のうち原告の営業仕入原価が二三一万五、七一一円借受金に対する支払利息割引料を除くその余の経費が一〇二万二、四九二円を超えないことはいずれも原告の認めるところであり、また借受金支払利息等についても原告が一〇七万九、一三七円を支出し、そのうち計八六万三、三〇五円が営業経費に当ることは当事者間に争いがない。

そこで進んで前記一〇七万九、一三七円を除き当事者間に争いのあるその余の借受金に対する支払利息部分につき考えると、この点につき被告の主張に合う乙第九号証(証人金田毅の証言により真正に成立したものと認める。)、同第一〇号証(証人並河令二の証言により真正に成立したものと認める。)は、後記判断の用に供した各証拠にてらし必ずしも信用できず証人滝清(第一回尋問)同並河令二の各証言に原告本人尋問の結果を総合すると原告主張の事実がうかがえないでもないから、この点に関する被告主張は証明が十分でなく採用できない。そこで、原告が営業の必要経費として主張する支払利息計三三万七、六〇〇円は、所得算定に当り、必要経費として控除するのが相当である。

そうすると、原告が営業に要した経費は、総計四五三万九、一〇八円となることが明らかである。

四、以上の認定したところによれば、原告の昭和二七年度営業所得は、売上収入総額四九〇万八、九〇四円から必要経費総額四五三万九、一〇八円を控除し、三六万九、七九六円と認められ、右金額に当事者間に争いのない原告の営業所得(家屋譲渡所得)五万円を加えると、原告の同年度における総所得額は四一万九、七九六円と認められる。

そうすると、被告が本件審査決定においてなした原告の所得額を三九万三、〇〇〇円とする認定は、当裁判所の認定額を超えるものでないから、右審査決定の取消を求める本訴請求は失当である。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 羽柴隆 裁判官 井上清 裁判官 小田健司)

収入除外額に関する一覧表

<省略>

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