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大阪地方裁判所 昭和28年(行)83号 判決 1956年7月30日

原告 京都有価証券金融株式会社

被告 大阪国税局長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和二八年七月七日付原告に対してなした原告の昭和二五年一〇月一日から同二六年九月三〇日に至る事業年度分法人税の審査決定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次の通り述べた。

(一)、原告は有価証券を担保として金融すること等を目的とする株式会社であるが、昭和二五年一〇月一日から同二六年九月三〇日に至る事業年度(本件事業年度)分法人税について、所得がない旨の申告をしたところ、京都市中京税務署長は昭和二七年四月三〇日所得金額金一、一一七、九〇〇円、法人税額金三二二、〇九〇円、過少申告加算税金一六、一〇〇円とする旨の更正決定をなし、同年五月二九日右決定は原告に送達された。

そこで原告は右決定を不服として、被告に審査請求をしたところ、被告は昭和二八年七月七日付右審査請求を棄却し、右決定は同月八日原告に送達された。

(二)、ところで、被告が右のような課税決定をしたのは、被告が、原告の丸二証券株式会社外三九の会社及び芦田潔外九名(以下各証券業者と称する。)に対する合計金一七、九九〇、〇〇〇円の貸付金について、原告が昭和二四年一〇月一日から同二五年九月三〇日に至る事業年度(前事業年度)において金一、〇七一、一二四円、本件事業年度において金一、〇八八、八九二円の未収利息債権を有するとして、これをそれぞれその事業年度の益金に加算し、原告の所得額を算出したためである。

(三)、しかしながら、原告の前記貸付金は無利息である。すなわち、原告が昭和二五年二月増資した際、増資新株引受人であつた前記各証券業者は他からの借受金によつて増資新株の払込を了していたが、原告は京都証券取引所の附属機関として、取引所の会員である証券業者を株主として、証券業者に対する有価証券を担保とする金融の円滑を期する使命を有していて、証券業者が原告の金融によりその事業の発展を遂げると、原告もその利益を受ける関係にあつたし、前記増資新株引受人である各証券業者の求めもあつて、その頃開催された原告の役員会において、その借受金を返済させるために、右各証券業者に払込金相当額の金員を昭和二五年二月一五日無利息で貸付けることを決議し、右決議に基き同日右各証券業者に合計金一七、九九〇、〇〇〇円を無利息で貸付けたものである。従つて原告は右貸付金に対する利息請求権を有しないから、利息収入による純資産の増加があるわけはなく、これを原告の益金に算入することはできない。

また税法にいう未収利息は、会計学上の用語と同様、収入となるべき権利が確定しているが、未だ現実に取得されていないものをいうのであつて、法律上利息として発生していないものを未収利息として益金に算入すべきものではない。

(四)、なお被告において原告が前記貸付金につき未収利息債権を有するというならば、債務者である前記各証券業者は原告に対しこれに対応する未払利息債務を負担しているわけであるから、被告は右各証券業者に対する課税に際しては、これを損金として計上して益金から控除すべきであるのに、これを損金に計上していない不公平がある。

以上の理由から被告の前記決定は違法として取消さるべきものであると述べ、

被告の答弁に対して、原告が、その貸付金については通常日歩二銭六厘の割合による利息を徴収していること、前記貸付金について右の割合による利息を付したとすると、原告が被告主張の各事業年度においてその主張額の利息債権を有したことになることは争はないと述べた。(立証省略)

被告は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張の事実中(一)、(二)の各事実、(三)の事実中原告が昭和二五年二月増資した際増資新株引受人であつた各証券業者が他からの借受金によつて増資新株の払込をした事実、原告が役員会の決議に基き昭和二五年二月一五日右各証券業者に合計金一七、九九〇、〇〇〇円を無利息で貸付け、右業者等が他から借受けていた増資払込金相当額を返済させた事実、(四)の事実中被告の課税が不公平であるとの点を除きその余の事実はいずれも認めるが、(三)のその余の事実中、原告と京都証券取引所並びに右取引所の会員である証券業者との関係及び原告の使命に関する原告の主張事実は知らない。その他原告主張の事実はすべて否認する。原告が無利息で本件貸付をしているに拘らず、被告において、右貸付金の未収利息債権があるとして、これを原告の益金中に加算したのは、次の理由に基くものである。すなわち、原告が前記の通り金融業を営んでいて、その貸付金の利息を唯一の収入源としていること、原告は通常貸付に際して日歩二銭六厘の割合による利息を付していることからすると、原告は本件貸付金についても当然右割合による利息を徴収すべきであるから、無利息で本件貸付をしても法人税法上その行為の効力を認めるわけにいかない。このことは、原告が同族会社であると否とによりその結論を異にするものではない。従つて原告は前事業年度及び本件事業年度において、それぞれ本件貸付金に対する日歩二銭六厘の割合で計算した前記の未収利息債権を有することとなる。なお、被告が前記各証券業者に対する課税に際し、原告の未収利息に対応する未払利息債務を損金として計算しなかつたことは、右各証券業者が支払うべき利息を支払わなくてもよいことになつたのであるから損金計算の必要はない。

仮に本件貸付について無利息の定めが有効であるとしても、原告が債務者である各証券業者から利息の支払を受けた上で、これを贈与或は利益配当の形で右債務者に分与すると、原告の右利息債権は原告の益金の一つに加算されて徴税の対象となる結果分与額が減少するに反し、当初から無利息で貸付けると利息相当額の金員全額を債務者の手に保有させることができるところから、原告が前記のように無利息の貸付をしたものであつて、かかる場合においては原告が右債務者に対して本件貸付金の利息相当額を無償給付したと見るを相当とする。

従つて、いずれにしても、原告主張の各事業年度において、それぞれ前記利息相当額を益金に加算し、本件事業年度の原告の所得額を算出してなした被告の決定には何等違法な点はないと述べた。(証拠省略)

理由

原告がその主張のような事業を目的とする株式会社であること、京都市中京税務署が原告主張の法人税の申告に対し、その主張の日その主張のような更正決定をし、その主張の日右決定が原告に送達されたこと、原告が右決定を不服として被告に審査請求をし、被告がこれに対し、その主張の日その主張の決定をし、右決定がその主張の日原告に送達されたこと、被告が右のような決定をしたのは原告主張のような理由に基くものであつたこと、原告が昭和二五年二月増資した際新株引受人であつた各証券業者は他からの借入金によつて増資新株の払込を了していたが、原告の役員会の決議に従い、昭和二五年二月一五日右各証券業者等に対して、その借受金を返済させるために、それぞれ払込金相当額の金員(合計金一七、九九〇、〇〇〇円)を無利息で貸付けたことはいずれも当事者間に争がない。

そこで、被告主張のように原告が前事業年度において金一、〇七一、一二四円、本件事業年度において金一、〇八八、八九二円の益金を有していたかどうかについて判断する。

原告が右貸付金を無利息とした行為(法律上の性質の点はしばらくおく)により、原告が当然徴収し得べき利息の収入を失つたとしても、それは原告の業務の運営として、当を得た措置であつたかどうかの点において問題となることがあるだけであつて、そのことのために、右行為の私法上の効力を否定するわけにいかない。従つて貸付の当初から右貸付金の利息債権は発生していないことが明白であるから、原告が右貸付金の未収利息債権を有するわけがなく、従つてこれを課税標準の計算上益金に加算することは許されない。

しかしながら、原告が金融業を営む会社である事実からして認められる原告の唯一の収入源は貸付金の利息である事実、当事者間に争のない原告の貸付金には通常日歩二銭六厘の割合による利息を付していた事実、前示のように、原告の増資新株引受人であつた各証券業者に対し、その増資払込金の返済資金にあてるため貸付をしたものである事実を総合すると、原告としては本件貸付金についても右の割合による利息を付するのが当然であるのに、右のような特別の事情から利息を付さないこととしたものであるから、法人税法上は原告は前記行為により右貸付金に対する前記割合による利息相当額の利益を債務者である各証券業者に無償で給付したものと解するを相当とする。蓋し右のような特別の事情の下になされた利息を付さない貸借において、原告の前記行為により原告は当然得べき右利息相当額の利益を失うに反し、各証券業者は右利息相当額の支払を免れ、同額の利益を得ることとなるから、これを実質的に見ると右原告の行為に基因して、原告から各証券業者に右利息相当額の価値の移転があつたものとしなければならないからである。そして右貸付金の利息相当額が前事業年度において金一〇七一、一二四円、本件事業年度において金一、〇八八、八九二円であることは当事者間に争がないから、被告が右利息相当額を右各年度の原告の益金中に計上して本件事業年度の原告の所得額を算出したことは結局正当であり、従つて被告の審査決定には何等の違法はない。

よつて、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 中島孝信 芦沢正則)

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