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大阪地方裁判所 昭和25年(ワ)3769号 判決 1961年6月28日

判  決

大阪市城東区関目町二丁目二九番地

原告

相互タクシー株式会社

右代表者代表取締役

多田清

右訴訟代理人弁護士

吉川大二郎

伊藤秀一

南利三

右同復代理人弁護士

岩田喜好

山口俊三

大阪市東住吉区桑津町四四七番地

被告

佐野幸次

ほか一〇名

右被告訴訟代理人弁護士

山本治雄

右同復代理人弁護士

古川毅

右当事者間の昭和二五年(ワ)第三七六九号宅地明渡請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求は(主請求及び予備的請求共)これを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告等は原告に対し別紙図面記載の大阪市東住吉区内大阪市平野土地区画整理組合地区内に存する大阪市都市計画街路森小路大和川線(幅員三〇米)の城東運河に架せる神子橋の南東隅より南東へ五一尺七二と森小路大和川線の東側境界と交叉せる(イ)点を基点として同森小路大和川線の東側に沿うて南へ七一間五分三厘(ロ)点と結び(ロ)点より東西の路線の北側に沿うて東へ六六間八厘(ハ)点に達しそれより東北へ二間三分三厘(ニ)点を経て更に南北の路線の西側に沿うて北へ六八間二分二厘(ホ)点に次で(ホ)点より西北へ二間三分三厘(ヘ)点に達し(ヘ)点より東西の路線の南側に沿うて西へ六六間八厘(イ)点と結ぶ地域内換地五一七四番、同五一七五番、同五一七六番、同五一七七番、面積四八四一坪三合二勺上の耕作物を収去して該土地を各明渡せ。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

一、請求の趣旨記載の土地(以下本件土地と略称する)は原告の所有に属する。即ち本件土地はもと昭和五年一二月一一日都市計画法(大正八年四月五日法律第三六号)第一二条により宅地としての土地利用増進の目的で大阪府知事の認可により設立された公法人である訴外大阪市平野土地区画整理組合(以下単に組合と略称する)の整理地区内にある同組合員の所有地であつたが、その後後記各評議員会頃同組合より同組合の規約(以下単に規約と略称する)第二七条第二項により、組合員が本来組合員に分賦されるべき整理費又は組合費の支払にかえるため整理地区内の所有土地の一部を組合に無償提供し、その処分に委ねるところの所謂替費地として同組合評議員会の議決を経て組合長が指定したものであつて、同組合が将来このような替費地を設定することは昭和一二年三月七日の同組合員総会で予め組合員の三の分二以上の同意を経、更に知事の認可を受けており、右指定により同組合が本件土地の所有権を原始的に取得したものであり、右は従前の土地ではない整理工事完了後の土地であるから権利者名簿(替費地権利台帳)に組合所有地として登載されていたところ、同組合は耕地整理法(以下単に法と略称する)第三〇条第二項、第三一条但書、同組合規約第二七条第三〇条による特別換地処分として前記昭和一二年三月七日の組合総会および同年六月二五日の第三一回、同一三年一二月八日の第三七回、同一四年二月二七日第三九回の各評議員会並に同一二年七月一二日の第二四回、同一三年一二月二七日の第二九回、同一四年三月一五日の第三四回、同二一年一〇月二六日の第六三回、同二五年一月二一日の第七〇回各組合会会議の各議決を経て原告に対し昭和一二年一〇月一一日本件土地附近の土地及び本件土地の一部計四七四〇坪四合八勺を売り渡し、後同一四年三月中頃右売渡土地及び地積を合意変更の上更に同二五年二月四日本件土地内の一部四六〇坪六合五勺を売渡し結局右経過を経て原告は本件土地全部の所有権を取得したものである。

二、仮に右により原告が本件土地の所有権を取得していないとするの前提に立つときは、替費地処分は所有権と同一内容を有する使用収益権を設定する仮換地指定処分と同一性質を持つところの組合規約に基く公法上の行政処分と解すべく、組合長は昭和一二年一〇月一一日付処分、同一三年四月中頃の変更処分、同二五年二月四日付処分を以て本件土地全部につき直接原告に対し右の意味における替費地処分をなしたものでこれにより原告に所有権と同一内容の所有権類似の使用収益権が設定されたのである。

三、然るに被告等は故なく本件土地を共同占有し該地上に各耕作物を所有し原告の数次に亘る右耕作物収去本件土地明渡の要求に応じないので第一次的に所有権(前一項)に基く、第二次的に所有権類似の使用収益権(前二項)に基く妨害排除請求権を以つて本訴請求に及んだ。

とのべ、被告の答弁及び主張に対し、

本件土地の処分は替費地処分であるからこの処分をすることのできる時期は規約第二七条によれば「整理後」であるがこれは法三一条にいうところの「工事完了したる後」と同意義であつて「仮換地指定後」は「整理後」に該当することは当然である。蓋し、組合は施行者が行政庁ないし公共団体である場合と異り自ら事業資金を有しないために本換地前に替費地処分をせねば整理事業そのものの遂行ができず若し本換地後でなくてはならぬとすると替地制度の趣旨、目的、実際の慣行、組合規約等に著るしく反するからである。従つて現行土地区画整理法と同一に論ずるをえない。次に替費地処分については総会の決議を要するとの点については主張の施行規則第五一条は絶対強行的なものではない。仮に然らずとして同条を強行法規と解しても主張の制限は法律によらず施行規則による組合長の代表権に加えた制限であるから法第七五条により少くとも善意の第三者たる原告に対し対抗できない。本件替費地処分は表見代理に関する民法第一一〇条の類推適用により有効である。即ち本件売却処分は代表権限ある組合長名義においてなされ、又本件処分が施行規則第五一条に規定する法第三〇条第一、二項の処分に該当するかどうかは法律専門家の知識をもつてするも容易に知りえないところであり一方本件処分について組合会議員の全員一致の表決をえている点等よりすれば原告には組合長が本件替費地を処分するにつき民法第一一〇条所定の「権限アリト信ズベキ正当ノ理由」があるものというべきである。又本組合地区内の耕作地については昭和一二年一二月一日すべて土地所有者において返還を受けたのみならず本件土地の従前所有者は本件土地以外の場所に仮換地を受けているのであるから本件土地の借地関係は右仮換地上に移行しているものであつていづれにしても被告等は本件土地の不法占有者であるから、被告等は登記欠を主張しうる正当な利益を有する第三者に該当しない。仮に然らずとするも本件売買が整理地区内の土地という公法上の制約のため即ち替費地は従前の土地でなく登記簿に登載されていないため登記することのできないのであつて、かような土地については民法第一七七条は適用されず、前記権利者名簿の登録をもつて第三者に対抗しうるものと解すべきである。

とのべ、

証拠(省略)

被告等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、

請求原因事実中本件土地につき原告が所有権を取得したこと、被告等の占有部分並びに予備的請求原因事実全部を否認する。本件土地処分が主張の如く法第三〇条第二項の特別換地処分である限り、整理施行地全部につき工事完了した後でなければ不可能であり、所謂仮換地指定に関する規約第三〇条は本換地に関する法三一条但書とは全く無関係であつて、後者は一部の本換地処分についての規定であるにすぎない。更に規約三〇条は規約二七条とも無関係であるから二七条に基く処分の効果が三〇条の仮換地指定処分により発生するが如きことはありえない。二七条にいう「整理後の土地」は「区画整理事業が完成し新な所有権関係が確定されるに至つた土地」という意味に解すべきである。更に本件土地処分が主張の如く法三〇条二項による特別処分である限り、これについて個別的具体的に総会の決議を経ていないから法第六一条第一号、第七〇条、第七一条、耕地整理法施行規則(明治四二年一〇月一三日農商務省令第三九号)第五一条により無効である。仮に有効とするも本換地処分前に所有権変動がないことは判例学説の確立した理論であるところ本件では未だ本換地処分がなされていないから現行土地区画整理法第一〇四条第九項の趣旨に徴しても本件土地につき組合が又ひいては原告が所有権を取得する筈がない。以上すべてが然らずとするも原告は本件所有権取得につき登記を有しないから被告等に対抗できない。予備的請求原因に関しては組合が組合員以外の第三者たる原告に対し規約に基く行政権能を行使しうる筈がない。仮に主張使用収益権設定が私法上のものとしてもそれは単に債権に過ぎず債権者たる原告の権利に占有を伴わない本件ではこれに基く妨害排除請求権は認められない。

とのべ、右に対する原告の主張に対し、

法第七一条、同施行規則第五一条は強行規定であり、法第七五条は本件の如く代表権の原始的制限以外の場合に該当するものである。

とのべ、

証拠(省略)

理由

訴外大阪市平野土地区画整理組合は昭和五年一二月一一日都市計画法により宅地としての土地利用増進の目的で大阪府知事の認可を受け設立せられたものであること、原告主張の本件土地が同組合の整理地区内はある同組合員の所有地であつたこと、本件土地を含む整理地区内の土地につき未だ本換地処分未了であること、本件土地と同一位置の従前地(本件土地は原告の請求趣旨自体からして旧所番地によらず専ら事実上の特定方法を用いているところから整理工事完了した事実上の土地を指称するものなることが明かである。)所有者が本件土地以外の区域内の土地に仮換地(正確には甲第一号証の規約に基く使用区域指定以下仮換地と言う語はこの意味に用いることがある。)を受けていることはいづれも被告等の明に争わないところであるから自白したものと看做す。

第一、主請求について、

原告が主請求原因として主張する事実中、右冒頭掲記の事実、訴外組合が本件土地の所有権を取得し、従つて組合より特別換地処分としての替費地売却を受けた原告においても本件土地の所有権を取得したとする事実、本件土地が組合員の無償提供地であるとする点(本件土地は未だ同一位置の従前地所有者またはその承継人の所有に属し、その者は他に換地を受けることが予定せられているから無償提供地ではない。)を除くその余の事実(法律解釈を除くことは当然である。)は、(証拠)により略原告主張通りこれを認めることができる。

そこで右事実関係の下において原告が果して完全に本件土地の所有権を取得したかどうかを按ずるに、凡そ本件土地区画整理組合のように、宅地造成を目的とする土地区画整理事業にあつては、従前田、畑、荒地であつた土地が宅地として整序せられるとともに住宅地に不可欠のものとせられる諸施設(例道路、下水路、広場、公園、学校)のための敷地等が要求せられ、従前地は多くは減歩せられて現地または現地附近に換地を受けることとなるのであるが、工事進行とともに、従前地の区画は、原形を没して観念的なものとなり現実には新な区画による土地が現出して行く、併し法的には法第三〇条第四項の告示を俟つて始めて換地は従前地とみなされ(法第一七条)それまでは新区画による土地(換地)は所有権の対象となることなく使用区域指定処分(規約第三〇条)により使用収益権の客体たるに止まる。即ち従前所有者が仮換地を受けた場合においては所有権の作用は対象において分離し一面観念的な所有権は従前地に存し、事実的な使用収益権は仮換地に存することとなる。替費地処分も右の例外をなすものではない。即ち替費地は公道路敷等となるべきその他の増歩地と同じくそれ自体は他の土地に対する換地交付地となることなく、従つて増歩地と同一位置の従前地所有者またはその承継人は本件における如く他の場所に換地を受けることとなるのであるが(右のように自らは換地交付地とならないでしかも他の場所に換地を受け、法一七条の効果発生と同時に、比喩的ないいかたではあるが、増歩地と同じ位置の従前地は換地に移動し、しかもこの増歩地の位置には他から移動して来る従前地がなく、恰も海上に忽焉として島が現前するが如き事象を呈するが故に増歩地なる名称を以て呼ばれるものと考えられる。)なお法第一七条の適用を受けるが故に、増歩地といえども同条の効果が発生するまでは法的には従前区画による所有権が存し、その所有者が受けた換地が従前地とみなされて(比喩的にいえば従前所有地から立退いて)始めて真の意味の増歩地となり所有権の対象となる。

原告は法第三一条但書の規定から規約に別段の定めがあるときは整理施行地の全部につき工事が完了していないでも本換地ができるのであり、規約第二七条の「整理後ノ土地ノ処分」は「整理工事後の土地の処分」と読むべきであり、本件土地は工事が完了しているのであるから法第三〇条第二項特別換地処分の一たる替費地処分として訴外組合が従つてまた原告が完全に所有権を取得するにつき何等妨げないものであると主張するが、右法第三一条但書の規定は整理地区内の土地を数区画に分け一区画内の土地につき全部工事が完了したときのことを意味するのであつて一区画内の一部の土地につき工事が完了したことを以て足ると解するをえない。従つて法第三一条但書との関係から規約第二七条にいうところの「整理後ノ土地」は少くとも一区画内の土地につき全部工事が完了した後の土地と解する外なく、本件土地だけを切離して「整理後ノ土地」とすることは正当でない。そしてまた規約第二七条の規定は法第三〇条第二項の特別換地処分についての規定である(若しこれをそうでないと解すると他に同条同項を受けた規定が見当らず本件区画整理組合は特別換地処分としての替費地処分をすることができないことになり著しく実状に合わない)。すなわち替費地処分をするについては規約第二七条第二項により予め評議員会の議決を経てその方法等の細目を定め、更に同条第一項により予め組合会(組合会の議決で足るという趣旨ではない)の議決を経ねばならぬこととして慎重を期したものである。しかるところ特別換地処分たる替費地処分については右規約第二七条の外に法第六一条第一号第七〇条第七一条施行規則第五一条が適用せられ組合総会の議決を経ねばならぬことは勿論、更に法第三〇条第三項第四項により行政庁の認可を受け且つこれが公示せられねばならずこれらの手続が施行せられて始めて替地処分が完了し当該増歩地は完全に組合の所有に帰するのである。そして特別換地処分としての替費地処分はこれを以て終るのであるからその後組合所有に帰した当該換地が売却されるのは私法上の売買であつてもはや替費地処分なる行政処分の一部をなすものではない。

原告はそのようなことでは替費の目的を遂げないというが事実上の土地であつても将来替費地処分が完了することを見越し将来の所有権として売買して差支えなく、買受人が引渡を受けて売買契約条項に従い使用収益が許される限り必ずしも替費の目的を遂げないとすることをえない。若しそれ右のような売買では替費の目的を遂げると十分でないとすれば、組合員より換地を受けることのない土地を寄附せしめまたは規約(法第三〇条第二項に基く)を設けて金銭交付等により同様土地を提供せしめ、該土地を替費の目的で第三者に所有権を移転しかくて組合員となつた取得者に換地として現地交付をなす方法が考えられる。

前記甲第七号証の四第八乃至第一二号証の各三によれば本件売買はいづれも私法上の契約と認められる形式を以て売却せられていることが明かであり、本件においても右に述べた将来の所有権の売買と言う処置がとられたもの、すなわち未だ全工事も完了しておらない、また総会の議決、認可、公示を経ていない、一言でいえば替費地処分手続未了で法律的には従前主又はその承継人に帰属している土地を従前地としてではなく換地として組合は原告に売却したものであつて、原告に所有権が帰属する筈はない。すなわちもし現在の所有権移転ということを固執しないならば将来前記替費地処分についての諸要件が具備した場合に発生し組合が原始取得する増歩地を予め売却しておくという積極的売買契約としての効果を生ずるに止るのである。

以上の通りであるから原告が本件土地につき所有権を取得したとする点は到底これを肯認することができない。

第二、予備的請求について、

本来区画整理において、その期間も長期に及ぶことが予定せられる結果、事実上整理工事が一時完了し換地が予定せられる場合未だ所有権の変動はないが、当該換地予定地に仮に使用収益権を設定し将来の本換地に備えしめるための便宜上認められたものが仮換地の制度であるが、この制度は耕地整理法上は未だ法定せられず専ら規約に委ねられていた。本件規約第三〇条の使用区域指定処分がそれである。これは勿論行政処分であつてこの処分を受けうる者は規約の効力を受ける者即ち原則として組合と組合員に限ると解するのが相当であつて、原告は第一に縷述した如く本件整理区域内の本件土地に所有権を取得しておらず他の区域内地を所有しまたは登記したる用益権を有するとの主張もなく結局組合員でないから右処分を受ける資格を欠く。仮にこの点を看過しても、前記甲第七乃至第一二号証中に顕れている本件各売買は結局において将来の所有権の債権的売買と認められることができるに止るものであつて、これは私法上の売買契約であるからこの契約から直に使用区域指定なる行政処分がなされたとすることは著しき論理の飛躍であり、更にまた行政処分としての替費地処分は未だ完了することなく何等の効力をも生じていないからこの処分(組合に所有権を取得させることを目的とすること前敍の通り)から直接原告に使用区域指定がなされたと認めることも勿論できず他にこれを認定するに足る証拠もない。

尤も右各売買契約証中には「原告は売買地を自動車営業上必要なる事務所従業員の住宅等の敷地に充て代金支払後遅滞なく建築する」趣旨の条項はあるがこれは固より売買契約中の一条項であつてこれを以て使用区域指定処分と認めることはできない。

以上によれば原告は本件土地につき所有権を取得したこともまたその主張のような使用収益権を取得したことも遂にその証明がなく、原告の主請求予備的請求は共に理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文の通り判決した。

大阪地方裁判所第五民事部

裁判長裁判官 宅 間 達 彦

裁判官 安 芸 保 寿

裁判官杉本昭一は転任のため署名捺印することができない。

裁判長裁判官 宅 間 達 彦

(別紙図面省略)

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