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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)9948号 判決 1999年10月08日

住所<省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

田端聡

住所<省略>

被告

日興證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

宮﨑乾朗

大石和夫

玉井健一郎

板東秀明

辰田昌弘

関聖

田中英行

塩田慶

松並良

河野誠司

水越尚子

下河邊由香

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金九五七万三四二八円及び内金八六七万三四二八円に対する平成九年一〇月二二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、被告を通じて証券取引を行っていた原告が、被告の従業員の違法な勧誘により転換社債を購入したところ、右社債を発行した会社の倒産により多額の損失を蒙ったとして、被告に対し、不法行為もしくは債務不履行に基づく損害賠償請求として、右損失相当額である八六七万三四二八円及び弁護士費用九〇万円の支払を求めた事案である。

二  争いがない事実等

1  原告は、a専門学校付属の診療所の勤務医である。原告の妻である訴外B(以下「B」という。)は、中国にて生まれ育ち、昭和六二年以降日本で生活していたものである。

2  被告は、証券業を営む株式会社である。

3  Bは、被告の従業員の勧誘により、平成七年六月二八日、株式会社オリンピックスポーツ(以下「オリンピックスポーツ」という。)が発行した額面一〇〇〇万円の転換社債(以下「本件転換社債」という)を原告名義により代金九七九万五二〇八円で購入した(以下「本件取引」という。)。

4  原告は、本件転換社債につき、平成七年一〇月二日、平成八年四月一日の二回にわたり各七万円の利金を受領した(乙一の43、45)。

5  オリンピックスポーツは、平成八年九月一七日、和議手続開始の申立をし、平成八年一一月二〇日に破産宣告を受けた(甲一七)。

6  原告は、平成一一年四月七日、本件転換社債の配当金として、元金に対し九六万二一〇〇円、利金に対し一万九六八〇円の合計九八万一七八〇円を受領した(甲二八)。

三  争点

1  勧誘行為の違法性

(一) 原告の主張

(1) 適合性原則違反

Bは証券取引につき知識、経験が乏しく、常に安全な商品のみを求めていたものであるところ、本件転換社債は、店頭登録企業が適債基準等の規制を受けない外国の市場において発行された無担保、無保証の社債であり、発行時の格付は一般投資家の投資適格の最下限であるBBBであった。そして、オリンピックスポーツは、平成五年に本件転換社債を発行した後、業績下落を続け、原告が本件転換社債を購入した平成七年には経常損失において赤字を計上し、株価も平成四年の最高値の八分の一にまで下落していた。

以上によれば、本件転換社債は、右のBの属性に適合した商品ではなく、本件勧誘は適合性の原則に違反する違法な勧誘である。

(2) 説明義務違反

被告従業員は、勧誘の際、日本証券業協会公正慣習規則第四号に基づき、外国証券内容説明書を交付すべき義務があり、また、右Bの属性に照らせば、被告従業員が説明した利回り等の事項以外に、重要なリスク判断の要素として、本件転換社債は無保証、無担保であり、その償還期限に総額五〇億円の償還を予定し、発行企業が破たんすれば元利が支払われなくなるおそれがあること、オリンピックスポーツは上場していない店頭登録企業であること、その株価、業績は下落しており、赤字決算を出していること、格付はBBBであり絶えず注意が必要と位置づけられていることなどを説明する義務があるにもかかわらず、右被告従業員は右外国証券内容説明書を交付しなかったばかりか、右Bの属性を熟知しながら右事項を全く説明することなく、本件転換社債を勧誘したものであり、説明義務に違反する違法な勧誘である。

(3) 断定的判断の提供

被告従業員は、本件勧誘の際、Bに対し、償還期まで保有すれば高利回りが得られるのでそれまで保有し続けるよう述べるとともに、「大丈夫です。任せて下さい」と述べたものであり、右勧誘はリスク情報を伝えず有利性と確実性のみを強調した断定的判断による違法な勧誘である。

(4) 事後の情報提供義務違反等

情報収集能力のないBは、本件転換社債を購入後、平成八年ころになって、金融機関の破たんの話を聞いて不安に思い、本件転換社債の安全性を被告従業員に確認しようとしたところ、実際にはその当時オリンピックスポーツの経営状況がさらに悪化していたにもかかわらず、被告従業員は、右状況を説明せず、何らリスク判断に資する適切な助言をすることなく、安易に不安はないと述べたものであり、右被告従業員の右対応は事後の情報提供義務ないし助言義務に違反するとともに、それ自体顧客のリスク判断を阻害する断定的判断の提供ともいうべき違法な行為である。

(二) 被告の主張

(1) 適合性原則違反及び説明義務違反について

転換社債は、償還期限の到来により、利息及び額面全額の償還を得られるものであり、原告は、償還時まで本件転換社債を保有する前提であったから、安全性に欠ける点はなく、そのリスクは償還時までの発行会社の倒産ないし経営破たんに限定されるものであるところ、本件転換社債については、その勧誘時において、オリンピックスポーツの倒産、経営破たんを予見させるに足りる具体的兆候、倒産の予見可能性はなく、本件転換社債は客観的に安全・確実な商品と判断されてしかるべき商品であった。他方、Bは、以前より証券取引に意欲的であり、本件転換社債購入前にも他社の転換社債の売買を行ったことがあり、転換社債の知識も有していたものである。以上の事実に照らせば、本件勧誘は適合性の原則に反するということはできないし、原告主張の説明義務違反もない。

(2) 断定的判断の提供(事後の断定的判断の提供も含む)について

原告の主張によると、被告従業員が単に「大丈夫」とか「心配はない」と述べたというにとどまり、倒産の危険性がないことについて具体的根拠を述べたと主張しているわけではない。そうすると、Bが右抽象的一般的言辞だけからオリンピックスポーツが倒産するおそれがないと信じたとはいえない。

したがって、右主張のことだけで断定的判断の提供に該当するということはできない。

また、本件転換社債勧誘時においても、購入後Bの問い合わせを受けたときも、オリンピックスポーツ倒産の予見可能性はなかった。

(3) 事後の情報提供義務について

原告は、投資家の自己責任の原則に基づき、新聞や雑誌等で取得したオリンピックスポーツの経営状況の悪化についての情報を基に適宜の判断をし得たのであり、また、被告は右のとおりオリンピックスポーツ倒産の予見可能性を有しておらず、したがって、被告に原告が投資した後の情報提供義務または助言義務はない。

2  因果関係

(一) 原告の主張

安全性のみを追求し、心配性であった原告の性癖に照らせば、被告従業員の違法な勧誘がなければ、本件転換社債の購入もなかったのであるし、購入後に被告従業員から正しい情報が与えられていれば直ちに売却に及んで損害を回避できたのであるから相当因果関係はある。

(二) 被告の主張

原告の本件転換社債による損失は、被告従業員において予見できなかったオリンピックスポーツの経営破たんの結果生じたものであり、本件勧誘とは相当因果関係はない。

3  損害についての原告の主張

本件転換社債購入代金九七九万五二八〇円から本件転換社債につき交付を受けた前記二の4及び6の合計金一一二万一七八〇円を差し引いた金八六七万三四二八円が本件取引による損失であり、右損失に相当因果関係を有する弁護士費用金九〇万を加えた金九五七万三四二八円が原告の損害である。

第三争点に対する判断

一  前記第二の二(争いのない事実等)の各事実に加え、証拠(甲一、三、八、九、一一、一七、二五、二九、甲三一の2、乙一の1ないし52、二の1ないし4、三の1ないし4、四ないし七、八の2、九の2、一〇の2、一二、一五の1ないし6、一六の1、2、一七の1、2、証人B、同C)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)  原告及びBの経歴

原告は、b大学医学部の大学院を卒業した後、中国留学を経て、昭和六二年にBを伴い帰国し、c医大等で勤務していた。

Bは、中国の六年制の大学で医学を学んだ後、昭和六二年に来日後日本語を覚え、平成三年からはa専門学校で日本語による授業を受けるなど、本件取引当時は日常生活に不都合のない程度の日本語を習得していた。

(三)  本件取引に至るまでの経緯

(1) 原告及びBは、平成二年ころ、原告の亡母遺産であったNTT株を売却したことが契機となり、以後、Bが原告名義で被告との間で金貯蓄、中期国債ファンド等の取引をするようになった。右取引の被告の担当者は、D1(旧姓D)(以下「D」という。)であった。

(2) Bは、平成四年五月、元金保証でない公社債投資信託を代金四〇〇〇万円で購入した。

(3) 平成六年五月、D及び同人の上司であるC(以下「C」という。)は、原告宅を訪問し、Cにおいて、原告及びBに対し、転換社債は株式に転換できる社債であり、株価に連動して価格が変動するが、償還期限に額面で戻ってくるので、償還まで待てば価格の変動を受けず、償還差益と途中の利金が利回りとなることなどを説明して、額面割れの戸田工業の転換社債の購入方を勧誘した。

原告及びBは、右Cの勧誘により、額面四〇〇万円の右転換社債を額面割れで購入した。

(4) 平成七年五月、D及びCは第一回チュニジア中央銀行円貨債券の購入をBに勧誘し、Cにおいて、Bに対し右債券の内容、価格、利率を説明して勧誘し、右債券を額面一二〇〇万円で購入した。

(5) 平成七年六月、Bは、Dから前記戸田工業の転換社債の単価が額面を超えたとの連絡を受けたことから、右転換社債を売却して売却益を得た。

(三)  本件取引の経緯

(1) 本件転換社債は、外国会社が受託会社となって店頭登録企業が適債基準等の規制を受けない外国の市場において発行されたユーロ円貨建転換社債であり、利率が一・七五パーセント、償還期限が平成九年九月三〇日で、無担保、無保証であった。また、本件転換社債の格付は、日本格付研究所によるもので、平成五年の発行当時及び平成六年に見直しが行われた際には、「現在十分な確実性があるが、環境の変化を受けやすい」あるいは「一般的投資対象としての安全度は十分あると判断するが、絶えず注意していかなければならない要素を持っている」ことを意味するBBBとされ、平成七年六月の購入時においてもBBBのままであった。ところが、後記のとおり、その後オリンピックスポーツの経営状態が悪化したことにより、平成八年四月にはBB、同年九月にはDにランクが下がった。

(2) 平成七年六月下旬ころ、Dは本件転換社債は償還期限までが短く、利回りも良いと考え、右社債の購入を原告及びBに勧誘することをCに相談したところ、Cも同意した。

(3) そこで、Dは、原告宅に電話をかけ、Bに対し、本件転換社債の購入方を勧誘し、本件転換社債の説明をするためにCに電話をかわった。

Cは、本件転換社債の単価、償還までの残存期間、年利回り等について説明するとともに、本件転換社債はオリンピックスポーツという国内のスポーツ関係の会社がヨーロッパにおいてユーロ建てで発行した円貨建て債券であり、為替リスクはないこと、満期までの期間が短く、償還まで待つことを考えれば最終利回りとしては比較的よい商品であること、取引単位が一〇〇〇万円であり、途中で売却するよりは償還まで待ったほうがいいことなどを説明して本件転換社債の購入を勧誘した。

右説明を聞いて納得したBは、償還期まで待って額面相当金額の償還を受けることを前提に本件転換社債が安全な商品であると信じ、利率二・五パーセントの私立学校教職員共済組合の積立貯金を解約・調達した資金で実質利回り二・五一パーセントの本件転換社債を購入した。

なお、Cは、右勧誘において、本件転換社債が、無保証、無担保であること、オリンピックスポーツが店頭登録企業であり、株価、業績が下落して赤字決算を計上していること、格付がBBBであることを説明しておらず、右事項を含む事項の記載のある外国証券内容説明書も交付しなかった。

(3) Dは、平成七年六月二七日、原告宅を訪問し、外国証券取引口座設定約諾書及び投資確認書をBに渡し、Bは右書面に署名、押印をしたうえでDに交付した。

(四)  本件取引後の状況

(1) 平成七年九月ころ、木津信用組合の経営破たんの報道を見て被告に預けている証券のことが不安になったBは、被告支店に電話をかけたところ、Cは心配はないと述べた。

(2) 平成八年一月ころ、本を読んで日興MMFのことを知ったBは、Dに電話をかけ、預けてある証券を安全なMMFに替えたい旨を伝えたところ、Dは預かっている証券は何も問題はなくすべて安全であると述べた。

(3) その後、原告とBは、平成八年七月一二日、長谷川コーポレーションの転換社債を額面四〇〇〇万円で購入したが、平成九年には、三回にわたり、右の一部を売却し手数料分の損失をこうむったが、残りについては、平成一〇年の満期まで保有し続け、満期時に額面及び利息の返還を受けた。また、平成八年九月二五日には、前記チュニジア中央銀行円貨債券を売却し、売買益をあげた。

(五)  オリンピックスポーツの経営状況

(1) オリンピックスポーツは平成三年一一月、株式を店頭登録銘柄として登録した企業であり、その株価は、平成四年二月に最高値が五二五〇円となったが、その後株式分割を経て、本件転換社債の発行時である平成五年には二一〇〇円に、本件勧誘時である平成七年には、約七〇〇円前後に下落したが、その後平成八年九月の和議申請に至るまでは上下しながら八〇〇円から五〇〇円へと推移していった。

(2) オリンピックスポーツの業績は、各年度末に発表される同社の決算書によると、平成五年度までは利益を計上したが、平成六年度には金一六二六万円の損失を計上しつつも一〇円の配当を行っており、右業績発表直後の会社四季報(平成七年四月発行)には、オリンピックスポーツの株について「全般に価格は軟調」としながら、「新規の大型店が寄与し増収増益。九五年度も価格安は当分続くが、既存店売上げは小幅回復に転じる」と記載され、新店効果により増益が予測される旨発表されていた。また、平成七年七月の会社四季報においては、新規出店により増収だが単価横ばいで利益停滞である旨発表されていた。

ところが、平成七年度には金七四億九三五八万円の損失を計上し、平成八年三月の決算において右損失を公表したことことから、同社への信用不安が広がり、これが原因となって決済資金に窮するようになり、平成八年九月、和議手続開始の申立てをするに至った。

二  争点1について

(一)  適合性の原則の違反について

(1) 前記認定事実のとおり、原告及びBは、平成二年ころより被告との間で証券取引をするようになったが、金貯蓄、公社債投資信託等比較的安全な商品のみを取引の対象とし、本件取引以前、原告の相続財産を原資として四〇〇〇万円の投資信託を購入し、その後、戸田工業の転換社債四〇〇〇万円、チュニジア中央銀行円貨債券一二〇〇万円を購入したことがあり、戸田工業の転換社債購入に際し、原告宅を訪問したC及びDより転換社債についての説明を受け、本件取引においても本件転換社債は安全な商品であると信じ、利率二・五パーセントの私立学校教職員共済組合の積立貯金を解約して用意した資金で実質利回り二・五一パーセントの本件転換社債を購入したことからすれば、原告及びBの投資意向は投機性よりも安全性を重視していたことがうかがわれる。

(2) 他方、転換社債は、流通中、株価等の要因による値動きがあり、これを償還前に処分する場合には価格変動によるリスクが生じるが、償還期限まで保有すれば額面全体が償還される証券であり、償還前の利払いの利率も確定しており、本件転換社債は、ユーロ円転換社債であって、発行、利払い、償還が円建てでなされるため為替変動によるリスクがなく、償還期限も短期間に到来するのであるから、為替、価格等の変動の影響を受けないという意味で、安全性が高い商品であるということができる。

ところで、原告が主張する損害は、オリンピックスポーツが破産宣告を受けたことにより本件転換社債の額面相当の金額の償還を受けられなかったという結果を生じたものであり、適合性原則違反の主張事実も、不法行為の要件である故意若しくは過失による違法行為に該当しなければならないから、右結果発生との関係で違法性・有責性を備えるべきことが必要となる。この観点から、適合性原則違反の内容を考えると、本件転換社債は、無担保、無保証の社債であったから、償還期限までに発行会社が倒産により額面相当の金額の返還を受けられないリスクが存在したか、そのリスクを被告が予見し又は予見し得たか等の点が適合性原則違反の内容となる。

前記認定事実のとおり、オリンピックスポーツは店頭登録企業であり、資本金は二一億円と比較的小規模の会社であること、本件転換社債は国内の適債基準の適用を受けない外国において発行されたものであることなどによれば、本件転換社債は国内で発行された上場企業の転換社債に比べ、相対的にリスクの高い商品であったことは否めず、また、本件勧誘時には、オリンピックスポーツの業績は赤字に転落しており、株価も本件転換社債の発行時に比べ三分の一程度、最高値の八分の一程度に下落していた(ただし、株式分割も経ていた。)のであるが、本件勧誘時の本件転換社債の格付は、BBBであり、本件勧誘時において、元利金の支払の確実性の点では問題はなく、国内の上場企業にもBBB格銘柄のものが多数存在し、本件勧誘当時、国内においてBBBの格付けを受けながら倒産し社債償還が不履行になった事案はほとんどなかったこと(乙一一の1、証人Cの証言により認められる)からすれば、本件転換社債が外国で発行された店頭登録企業の証券であるといっても、直ちに倒産のリスクのあるものということはできない。また、本件勧誘時の直前の平成七年三月に発表された平成六年度のオリンピックスポーツの損失は一六〇〇万円程度にすぎず、一〇円の配当を行っており、大規模な損失が計上されたのは、翌年の平成八年三月になってからであり、会社四季報(平成七年四月発行)には、新店効果により増益が予測される旨発表されているのであって、バブル経済の破たんにより日本経済全体の景気が低迷していたこと、店頭登録銘柄が価格の変動を受けやすいことをも考えあわせれば、右損失及び株価の下落をもって、償還期限までの二年三か月という短い期間でオリンピックスポーツが倒産することを予見させるような兆候があったとまでは認められない。

そうすると、本件勧誘時において、本件転換社債は、倒産により額面全額の償還がされなくなるようなリスクのあるものでなく、償還を前提とすれば、リスクの低い比較的安全な商品であったというべきである。

(3) 以上によれば、本件取引は、原告及びBの投資意向、経験、知識、資産状態に照らして、適合しないほど危険な取引であったということはできず、適合性の原則に違反するという原告の主張は採用できない。

(二)  説明義務違反について

(1) 前記認定事実のとおり、本件勧誘の際、Cは、Bに、本件転換社債は国内のスポーツ関係の会社の発行したユーロ円転換社債であり、為替リスクはないこと、満期までの期間が短く、償還まで待てば比較的利回りがよい商品であること等は説明したが、本件転換社債が、無担保、無保証で、店頭登録企業であり、株価、業績が下落して赤字決算を計上している会社の発行する格付がBBBのものであること等を説明しておらず、外国証券内容説明書も交付しなかった。

(2) 前記適合性原則違反の有無についての説示したのと同様、説明義務違反の内容も、原告主張の損害との関係で定まってくるのであり、オリンピックスポーツの倒産により額面相当の金額の返還を受けられないリスクが存在したか、そのリスクを被告が予見し又は予見し得たか等の点が説明義務違反の内容となる。そうすると、本件転換社債が、無担保、無保証で店頭登録企業であり、株価、業績が下落して赤字決算を形状している会社の発行する格付がBBBのものであることは、本件転換社債の価格それ自体の変動に影響を及ぼす事由ではあるが、前記のとおり、オリンピックスポーツが償還期限までの二年三か月という短い期間で倒産することを予見させるような事由に該当しないのであるから、右事由を告げなかったことは説明義務違反に該当しない。

また、被告従業員がBに外国証券内容説明書を交付しなかったことは、行政上の措置に違反し、証券外交員として不適切な処置であるが、右説明書には本件転換社債についての右事項が記載されているところ、右説示のとおり、右事項はオリンピックスポーツが償還期限までの二年三か月という短い期間で倒産することを予見させるような事由に該当しないのであるから、右説明書の不交付も同様に説明義務違反に該当しない。

(三)  断定的判断の提供について

(1) 前記のとおり、Cは、Bに対し、本件転換社債は為替リスクはないうえ、満期までの期間が短く、償還まで待てば利回りがよい商品であるから償還期まで保有し続けけるよう述べて右社債購入を勧誘したことが認められる。

この点つき、Bは、被告との証券取引は元本保証が前提となっており、戸田工業の転換社債を購入する際にCから転換社債の説明を受けたときも、Cはたとえ会社が倒産しても転換社債は大丈夫である旨述べ、本件勧誘においてもDが「大丈夫です。任せて下さい」と述べたと証言し、甲第一一号証にもこれに沿う部分がある。

しかしながら、証人Cの証言に照らし、右発言がされたか断定しえないうえ、仮に右発言があったとしても、右発言が倒産するか否かという事項についてされたものといえるかは疑問であり、したがって、倒産することがないという趣旨で右発言があったと認めることはできない。

(2) そうすると、前記説示と同様、断定的判断の提供の内容も、原告主張の損害との関係で定まってくるというべきであり、倒産することがないという趣旨で右発言があったと認められない以上、右断定的判断の提供があったとはいえない。

(四)  事後の情報提供義務違反等について

前記のとおり、Bは、平成七年九月ころ、木津信用組合の経営破たんの報道を見て不安に思い、被告支店に電話を掛けたところ、CはBに心配ないと述べ、平成八年一月ころ、BはDに電話をかけ、安全なMMFに替えたいと述べたところ、Dは原告の証券は安全である旨述べたのであるから、右各発言は断定的判断の提供にあたるということができる。

次に、前記のとおり、オリンピックスポーツが多額の赤字が発生したことを公表したのはBの右問い合わせ以後の平成八年三月の決算の際であり、その後右公表が原因となり資金繰が困難となり倒産するに至ったものであること、本件転換社債の格付もBBBからBBに格下げされたのは右公表直後の平成八年四月になってからであること、平成七年七月の会社四季報には、新規出店により増収だが単価横ばいで利益停滞であると公表されていたことが認められ、右認定事実に照らせば、Bが被告の支店に電話をかけた平成七年九月及び平成八年一月の段階では、いまだ倒産の危機をうかがわせる具体的な兆候はあらわれておらず、他に被告従業員が右時点におけるオリンピックスポーツの経営状況の悪化について原告ないしBが知りうる以上の情報を知っていたと認めるに足りる証拠もない。

したがって、原告の主張する被告の情報提供義務違反はその前提を欠き、認められない。

三  争点2、3について

前記事後的断定的判断の提供があったことによって、原告が本件転換社債の売却をやめるに至ったことを認めるに足りる証拠はない。

仮に、右断定的判断の提供により本件転換社債の売却をやめるに至ったと認められたとしても、売却し得た額を明らかにさせる証拠がないから、原告の回避し得た損害額が判明しない。

よって、争点2、3にかかる原告の主張は認められない。

(裁判長裁判官 若林諒 裁判官 河合裕行 裁判官 井出弘隆)

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