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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)2740号 判決 1997年2月21日

原告

波多野静代

被告

喜家村政宣

主文

被告は原告に対し、金一五〇万〇三〇九円及び内金一三七万〇三〇九円に対する平成五年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一請求

被告は、原告に対し、金三五〇万円及び内金三二〇万円に対する平成五年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、軽四輪自動車に同乗中、車両が道路脇の溝に脱輪して負傷した被害者が、運転手に対し、自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条により損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含み、証拠により認定する場合には証拠を摘示する。)

1  事故の発生

(一) 日時 平成五年一〇月九日午前六時三〇分ごろ

(二) 場所 三重県志摩郡磯部町恵利原一二五番地先路上

(三) 加害車輌 被告が運転し、原告が助手席に同乗していた軽四輪自動車(登録番号大阪五〇た二〇二二、以下「被告車」という。)

(四) 被害者 原告

(五) 事故態様 被告車が道路左側の側溝に車輪を落としたにもかかわらず、そのまま走行した。

2  責任

被告は、被告車を保有し、これを自己のため運行の用に供していたものであり、また、進路左側の安全を確保して運転する安全義務があるにもかかわらずこれを怠り本件事故を発生させた過失があるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条又は民法七〇九条により、原告が被つた損害を賠償する義務がある。

3  原告の治療経緯

(一) 三重県立志摩病院

平成五年一〇月九日から同年一一月八日まで入院(三一日)

(二) 大阪北逓信病院

平成五年一一月九日から同年一二月二三日まで入院(四五日)

同月二八日から平成六年二月二三日まで通院(実日数六日)

(三) 北野病院

平成五年一〇月三〇日から平成六年六月二七日まで通院(実日数二一日)

(四) 福徳医学会病院

平成六年五月二八日から同年一二月二四日まで(実日数一四日)

4  損害てん補

原告は、被告より、本件事故につき一六三万二九一九円の支払いを受けた。

二  争点

1  原告の受傷及び後遺障害

原告は、本件交通事故により、胸・腰椎打撲捻挫、頸椎捻挫、腹部打撲等の傷害を負い、痛みのため、背中や腰にコルセツトを着用しないと歩けない、重い荷物を持つた時力が入らず背中や腰が痛い、睡眠時に背中が痛く、仰向けのまま眠ることができない、首から右腕の中心線が重く、痛みを感じる、月に二、三回は頭が割れるような痛みがあるという後遺障害を残した。

原告の右後遺障害は、自賠法施行令二条別表第一四級一〇号に該当する。

2  損害

(一) 治療費 六五万三五一九円

(内訳)

三重県立志摩病院、大阪北逓信病院、北野病院(平成六年四月二二日までの分) 五五万八四一九円

北野病院(平成六年四月二三日から同年六月二七日まで) 八一七〇円

福徳医学会病院 五万五一五〇円

文書料 三万一七八〇円

(二) 入院雑費 九万八八〇〇円

一日当たり一三〇〇円として七六日分

(三) 通院交通費 八万二〇〇〇円

原告の通院日数は四一日であるところ、その間にタクシー等も利用しており、通院一日当たり、少なくとも平均二〇〇〇円を要した。

(四) 休業損害 二四二万一一六八円

原告は、平成五年七月から、被告が代理店をしていた株式会社ベルセージユを通じて化粧品販売に従事していたところ(失業保険金受給中であつた)、本件事故により受傷し、事故日から平成六年六月二七日までの間販売業務に従事することができなかつた。

原告は、平成五年六月までは他の会社に勤務して収入を得ていたから、右休業期間中、同年代の女子の労働者の平均賃金程度の収入を得ることができたはずである。

(五) 逸失利益 七三万五九八八円

原告の後遺障害は自賠法施行令二条別表第一四級相当であり、少なくとも今後五年間、その労働能力の五パーセントを喪失したから、平成四年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計の一八歳から一九歳の年額平均賃金三三七万三〇〇〇円を算定の基礎として、新ホフマン式計算法により右期間の年五分の中間利息を控除して、逸失利益の現価を算出すると右のとおりとなる。

(算式)3,373,000×12×0.05×4.364

(六) 入通院慰謝料 一四〇万〇〇〇〇円

原告は、本件事故により、長期間にわたつて入通院を繰り返し、自らと共に家族らにも多大な迷惑をかけ、著しい精神的苦痛を受けた。

(七) 後遺障害慰謝料 八〇万〇〇〇〇円

(八) 弁護士費用 三〇万〇〇〇〇円

(九) よつて、原告は被告に対し、前記損害額合計の内金三五〇万円及びその内金三二〇万円に対する平成五年一〇月九日より支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める。

3  好意同乗減額

(被告の主張)

原告は、被告が事故の一時間ぐらい前からふらふらするような運転をし、何回もブレーキをかけたり眠そうにしていた状況を現認し、被告に対し「運転を代わろうか。」とまで言つていたのであるから、被告の危険な運転を結果的に受け入れていたものであつて、公平の見地から発生した損害については減額するのが相当である。

(原告の反論)

本件事故時に、原告が被告車に同乗していたのは、原告が依頼してからではなく、被告が積極的に勧誘したからであり、また、原告が同乗した結果、被告の走行距離が伸びたわけでも、走行予定が変更されたわけでもなく、更に、原告は本件事故発生の危険を増大させるような状況を作出した事情もないのであつて、原告が被告車に同乗していた事実だけで原告に事故発生につき非難されるべき事情はない。

第三争点に対する判断

一  原告の受傷及び後遺障害

1  前記争いのない事実及び証拠(甲第二、第三、第五の一から第八の五まで、乙第三の二、第四の二、第五の一及び二、第六の一から第一一の二、原告、弁論の全趣旨)によれば、

原告は、平成五年一〇月九日、被告が運転する被告車の助手席に同乗していた時に、被告車が道路左側の側溝に車輪を落としたまま十数メートル走行し、助手席側ドアガラスが割損等した後停止するという本件事故に遭つたこと、事故直後には右手が重く感じられたが、被告の妻のペンシヨンに赴いたところ、同所で腹痛で動けなくなつたため、三重県立志摩病院に搬送され、同病院に入院したこと、同病院の田中雅医師は、同年一一月七日の診察に基づき、原告の傷病名を頸椎捻挫、腹部打撲、腰部打撲、症状の経過治療の内容等につき、頸部痛及び腹痛、胸腰部痛あり、ベツド上安静にて経過観察とした旨診断したこと、

原告は、同月九日に大阪北逓信病院に転院し、外傷性頸部症候群の傷病名で入院し、投薬治療、消炎鎮痛措置、理学療法(簡易なもの)等を受け、同年一一月一一日には協和病院でMRI検査を受け、同年一二月二三日に大阪北逓信病院を退院する時、同病院の医師は原告に対して、普通の生活をするように告げたこと、

同病院の森竹財三医師は、平成六年二月二三日の診察に基づき、原告の傷病名を「外傷性頸部症候群、腰背痛」、症状の経過治療の内容等につき「項部痛、めまい、腰背痛あり、入院精査するも、特に脊髄圧迫所見、骨折なし、フレームコルセツトにて安静保持とする」旨診断したこと(なお、乙第一一の二には、平成五年一一月二六日付けで原告が第四胸椎棘突起骨折により加療中である旨の記載があるけれども、右は装具の装着の必要性に関する意見書であつて、その後に作成された平成六年六月七日付け診断書には、原告に骨折がない旨記載されていることに照らし、右認定の妨げにはならないと解される。)、

原告は、大阪北逓信病院を退院後も、同病院に通院し(平成六年一月に二回、同年二月に三回)、同年二月から北野病院に通院を始め(同年二月に四回、同年三月に五回、同年四月に三回、同年五月に二回、同年六月に五回、平成五年一〇月三〇日、同年一一月四日にも通院)、キシロカイン注射や投薬による治療を受け、同病院の坂本医師は、同年四月二二日の診察に基づき、原告の傷病名を腰背部打撲、主たる検査所見として、単純エツクス線検査、骨シンチなど施行するも異常所見認めずと診断したこと、

同病院の梁瀬義章医師は、同年六月二七日の診察に基づき、平成七年四月二六日付け自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書を作成し、そこで、原告の傷病名を頸椎捻挫、腰背部打撲、腹部打撲」、自覚症状「めまいと背部痛のため車椅子で来院、北逓信病院を紹介して入院加療を受け、その後、当院で外来通院加療施行す、事故後頑固な腰背部痛持続する、種々の対症療法施行するも軽快せず平成六年六月二七日で症状固定とす」、精神神経の障害、他覚的症状および検査結果「背部に頑固な疼痛を残す(事故前に他疾患で三度当科受診しているがこのような愁訴はいつさいなし)、骨シンチ、MRIでは特に異常所見は認めない」旨診断したこと、

自動車保険料率算定会大阪第三事務所長は、平成七年三月二日、原告につき、頸、肩、腕部痛等の自訴について、レントゲン、MRI、骨シンチ等で本件外傷に起因する特段の異常所見はなく、事故・受傷態様、経過及び他覚的神経学的な検査所見等から自賠責上の後遺障害として捉えることは困難であるとして、同日付けで非該当とし、同年八月三〇日、原告の異議申立てに対しても、同日付けで原告につき非該当としたこと、

等の事実を認めることができ、右認定に反する甲第二号証の記載部分は採用することができない。

2(一)  右の事実によれば、本件事故の態様に照らし、助手席にいた原告に加わつた本件事故の衝撃は必ずしも軽微とは考えられず、原告は、本件事故前には訴えていなかつた背部の疼痛を訴え、複数の医師が原告につき、頸椎捻挫、腰部、背部、腹部の打撲等の傷害を負つた旨診断しているのであるから、原告は右の傷害を負つたと解するのが相当である。

(二)  原告は、本件交通事故により、自賠法施行令二条別表第一四級一〇号に該当する後遺障害を残した旨主張し、原告本人もこれに沿う供述をするけれども、原告につきレントゲン検査、骨シンチ、MRI等の検査が行われたにもかかわらず、異常所見が認められておらず、治療内容も投薬、注射、簡易な理学療法等に終始していること、平成五年一二月二三日の退院に際して、大阪北逓信病院の医師が原告に対して、普通の生活をするように告げたこと、医師が平成六年六月二七日をもつて症状固定と診断したこと、自動車保険料率算定会大阪第三事務所長が、原告の異議申立てに対しても、非該当としたこと、神経学的テストが実施され、その結果が陽性であつたことをうかがわせるに足る証拠もないこと等を併せ考えれば、原告につき、その主張に係る後遺障害が生じたと解することはできない。

二  損害

1  治療費 六五万三五一九円

証拠(甲第五の一から九まで、第七の一から第八の四まで、乙第六の一から第一〇の一〇まで、弁論の全趣旨)によれば、原告が本件事故による負傷につき、治療費として、その主張にかかる金額を要したことを認めることができる。

2  入院雑費 九万八八〇〇円

前記争いのない事実によれば、原告は、本件事故により合計七六日間入院し、一日当たり一三〇〇円の雑費を要したものと認めることができる。

3  通院交通費 〇円

原告は、四一回の通院にタクシー等も利用して、通院交通費として通院一回当たり、少なくとも平均二〇〇〇円を要した旨主張し、原告もこれに沿う供述をするけれども、右供述は採用できないし、他に原告主張の事実を認めるに足る証拠はない。

4  休業損害 一七〇万一七二九円

証拠(甲第四、乙第一及び第二、原告、弁論の全趣旨)によれば、原告は、本件事故当時四三歳の女性であつて、その平成三年分の申告に係る給与所得の収入金額は一二一万六九三一円、平成四年分の申告に係る給与所得収入金額は一九七万七三七〇円であること、原告は、平成四年七月から平成五年六月まで関西ジヤンスという肉店に就職し、それ以前にも就職していたこと、原告は右の就業による収入以外に、申告していない収入として月額六万円から八万円を化粧品の販売により得ていたこと、本件事故当時は、関西ジヤンスを辞めて、失業保険を受給し、その他に化粧品の販売を行つて収入を得ていたこと等の事実を認めることができ、右認定に反する原告の供述部分は採用することができない。

右の事実に前記一の事実を併せ考えれば、原告は、本件事故時には、平成五年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計の四〇歳から四三歳の年額平均賃金三四五万三八〇〇円の八割程度の収入を得られていたものと解され、また、その収入を七六日間の入院期間中は全額、平成五年一二月二三日に退院した後平成六年六月二七日までの一八六日間は八割喪失したと解するのが相当であり、右期間の休業損害を算出すると一六九万五六七三円となる(一円未満切り捨て。以下同じ)。

(算式)3,453,800×0.8÷365×(76+0.8×186)

5  逸失利益 〇円

前記一のとおり、原告につき後遺障害の発生を認めることはできない。

6  慰謝料 一三〇万〇〇〇〇円

原告が、本件事故により負傷し、前記のとおりの入通院を余儀なくされたこと、その他本件に顕れた一切の事情を考慮し、原告の慰謝料としては一三〇万円をもつて相当と解する。

三  好意同乗減額

証拠(原告)によれば、原告は、本件事故当時従事していた化粧品販売の仕事の関係で被告とは約七年のつきあいがあつたこと、被告から三重県で行われる化粧品の説明会に出席のため同行するように言われて、被告が運転する被告車に同乗し、平成五年一〇月九日午前零時ごろに大阪市内の被告宅を出発したこと、本件事故の一時間くらい前から、被告は眠たそうで、対向車線に出たことこそなかつたものの、何回もブレーキをかけたりしてふらふらしていたこと、原告は運転免許を持つているので、被告に対して運転を代わつてもよい旨告げたが、交代するに到らず、その約一五分後に本件事故が発生したこと等の事実を認めることができ、右の事実によれば、原告は事故発生の危険性が高いことを知りながら同乗を続け、かつ、運転の交代などの方法により事故の発生を容易に回避できたのに、これをせず本件事故にあつたものであるから、民法七二二条二項の規定の類推適用により、前記二の損害額合計三七五万四〇四八円から二割を減額するのを相当と解する。

四  損害てん補

前記争いのない事実によれば、原告は、被告より、本件事故につき一六三万二九一九円の支払いを受けたのであるから、前記三の減額後の残額三〇〇万三二三八円から一六三万二九二九円を控除すると残額は一三七万〇三〇九円となる。

五  弁護士費用

本件事案の性質、認容額その他諸般の事情を考慮すると弁護士費用は一三万円とするのが相当である。

六  以上のとおりであつて、原告の請求は、金一五〇万〇三〇九円及び内金一三七万〇三〇九円に対する平成五年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 石原寿記)

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