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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)1615号 判決 1996年10月30日

原告 株式会社日本債券信用銀行

右代表者代表取締役 西川彰治

右訴訟代理人弁護士 北林博

玉城辰夫

被告 大阪総合信用株式会社

右代表者代表取締役 吉原功

右訴訟代理人弁護士 中務嗣治郎

安保智勇

主文

一  原告が、別紙供託目録≪省略≫記載の供託金還付請求権を有することを確認する。

二  原告が、別紙債権目録≪省略≫記載の各債権について真正な債権者であることを確認する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

一  当事者間に争いのない事実

1  原告は、平成二年八月一三日、被告との間において銀行取引約定書を取り交わし、これに基づき次のとおり三回に亘り合計金二七億円を貸し渡した。

(一)① 日時 平成二年八月一三日

② 金額 金一〇億円

③ 元金弁済期日 平成三年八月から平成七年五月まで毎年二月、五月、八月、一一月の各月末日に金六〇〇〇万円宛(一六回)、平成七年八月末日に金四〇〇〇万円。

④ 年八パーセント

⑤ 利息支払期日 借入日及び平成二年一一月以降毎年二月、五月、八月、一一月の各月末日に支払う。

⑥ 遅延損害金 年一四パーセント

(二)① 日時 平成二年九月二七日

② 金額 金七億円

③ 元金弁済期日 平成三年九月から平成七年六月まで毎年三月、六月、九月、一二月の各月末日に金四〇〇〇万円宛(一六回)、平成七年九月末日に金六〇〇〇万円。

④ 利息 年八・八パーセント

⑤ 利息支払期日 借入日及び平成二年一二月以降毎年三月、六月、九月、一二月の各月末日に支払う。

⑥ 遅延損害金 年一四パーセント

(三)① 日時 平成二年一〇月三一日

② 金額 金一〇億円

③ 元金弁済期日 平成三年一〇月から平成七年七月まで毎年一月、四月、七月、一〇月の各月末日に金六〇〇〇万円宛(一六回)、平成七年一〇月末日に金四〇〇〇万円。

④ 利息 年八・九パーセント

⑤ 利息支払期日 借入日及び平成三年一月以降毎年一月、四月、七月、一〇月の各月末日に支払う。

⑥ 遅延損害金 年一四パーセント

2  原告は被告との間において、平成二年八月一三日被告が原告に対し、現在及び将来負担する一切の債務の根担保として、被告が第三者(以下、「第三債務者」という。)に対して有する貸付金債権(以下、「譲渡債権」という。)を譲渡する旨、次のとおり債権譲渡担保契約(以下、「本件債権譲渡担保契約」という。)を締結した。

① 被告が第三債務者に対して有する貸付債権を譲渡するときは、譲渡の都度、被告は原告に対し譲渡債権明細書を差し入れる。

② 被告が原告に対し、譲渡債権明細書を差し入れ、原告がこれを異議なく受領したるときは特段の手続きを要せず譲渡債権は原告に譲渡されたものとする。

③ 被告が原告に、譲渡債権明細書を差し入れた後、被告が新たに譲渡債権明細書を別途原告に差し入れ原告が異議なく受領したるときは、先に差し入れた譲渡債権明細書に基づく譲渡債権については、担保解除されたものとする。

④ 被告は原告から、譲渡債権にかかる原契約証書その他原告の権利保全並びに権利行使に必要なる一切の書類を請求されたときは、直ちにこれを交付する。

⑤ 被告は原告から、第三債務者に対する債権譲渡の通知又は異議なき旨の承諾手続方を要請されたときは直ちにその手続きをなすものとする。

⑥ 被告は原告に対し、債権譲渡の通知をなす権限を予め委任し、原告は前条の規程に拘らず、何時でもその代理権を自由に行使して、第三債務者に債権譲渡の通知手続きを行うことができる。

3  被告は、原告に対し、本件債権譲渡担保契約に基づき、平成七年三月一三日訴外巽住宅株式会社に対して有する別紙債権目録記載の譲渡債権明細書を交付し、原告はこれを異議なく受領した(以下、「本件債権譲渡」という。)。

4  原告は、本件譲渡債権の第三債務者訴外巽住宅株式会社(以下、「訴外会社」という。)に対し、別紙債権目録記載の債権(以下、「本件債権」という。)の債権者である被告の代理人として、平成七年四月五日付け内容証明郵便にて本件債権を原告に譲渡した旨通知し(以下、「本件債権譲渡通知」という。)、右書面は同月六日、訴外会社に到達した。

5  被告は、平成七年三月二八日、大阪地方裁判所に対し、会社整理の申立てをし、同年一〇月一七日手続き開始決定がなされた。

被告は、右会社整理手続きにおいて、訴外会社に対する本件債権について原告が担保権者たる地位を有することについて異議を述べ、原告を暫定的に一般債権者として取り扱う整理計画を作成した。右整理計画については債権者全員の同意(但し、原告は本件債権について担保権を有することを別途訴訟において争う権利を留保のうえ同意した。)を得て、平成七年一二月一五日大阪地方裁判所により実行命令が出された。現在、被告は会社整理手続き中であり、整理集結に至っていない。

6  大阪地方裁判所は、平成七年三月二八日、被告に対し、あらかじめ同裁判所の許可を受けた場合を除き、平成七年三月二八日以前の原因に基いて生じた一切の金銭債務のために担保提供を禁止する保全処分命令(以下、「本件保全処分命令」という。)を発令した。

7  原告は、訴外会社に対し、本件債権の真正なる債権者として弁済方を申し入れたところ、訴外会社は債権者を確知することができないことを供託原因として別紙債権目録記載の債権の一部につき別紙供託目録記載のとおり供託した。

二  争点

1  本件債権譲渡通知は有効か。

被告の主張

本件債権譲渡通知は、債権の譲受人たる原告が譲渡人たる被告の代理人としてなしたものであるが、これは、債権譲渡の通知が譲渡人からなされるべきであると定める民法四六七条一項に反し、無効である。

2  本件債権譲渡は、本件保全処分命令に反し無効か。

被告の主張

(一) 前記第二、一に判示したとおり、原告は、被告との間において、平成二年八月一三日被告が原告に対し、現在及び将来負担する一切の債務の根担保として第三債務者に対して有する貸付金債権を譲渡する旨の本件債権譲渡担保契約を締結した。大阪地方裁判所は、平成七年三月二八日本件保全処分命令を発令した。原告は、訴外会社に対し、平成七年四月五日付内容証明郵便にて、被告の代理人として、本件債権を原告に譲渡した旨通知し、右書面は同月六日訴外会社に到達した。

このように本件債権譲渡は、本件保全処分命令前になされていたものではあるが、その債務者に対する対抗要件は本件保全処分命令発令後に具備したものである。

債権譲渡行為について債務者及び第三者対抗要件の具備は債権譲渡を完全ならしめるための処分行為の一部であり、右保全命令で禁止された担保提供行為の一部にあたると解釈すべきである。そして、これが本件保全処分命令発令後になされたときはその権利取得をもって対抗できないと解すべきである。

(二) 被告による対抗要件具備の無効の主張の可否について

訴外会社は、債権者が原・被告のいずれか確知できないことを理由に本件債権の利息を供託していることから明らかなように、本件債権譲渡通知が法律上有効である場合に限って、原告を債権者として認め、本件債権譲渡通知が無効の場合には、進んで原告を債権者とは認めずに、依然被告を債権者として取り扱うとの立場を明確にしている。訴外会社との関係では、本件債権譲渡通知の法律上の効力の如何を決しない限り、原・被告のいずれが弁済を受け得る立場にあるかが決まらないのであり、被告は本件債権譲渡通知の有効性を争う法律上の利益を有するものである。

しかも、本件では、本件保全処分命令がなされているのであり、少なくとも被告は悪意の債権者に対し会社整理手続きとの関係において保全処分違反の行為の無効を主張し得るのである。

原告の主張

本件債権譲渡は、原・被告間において平成二年八月一三日債権譲渡担保約定書を締結後、これに基き六二回にわたり個別的に譲渡債権明細書の差し替えをなし、長期間継続的に債権譲渡契約を実行しておきながら、今回突然に自らの申立による保全処分命令で債権譲渡通知の欠如を主張して債権譲渡の効力を否定することは信義則上からも認められない。

債権譲渡通知の欠如は、債権譲渡契約の対抗要件の問題であり、債務者がその欠如を問題にすることはできない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

債権譲渡通知は、譲渡人が債務者に通知をしなければならず、譲受人から通知をしても債務者に対する対抗力を生じない(民法四六七条一項)。これは、譲受人からの通知にその効力を認めると、債権譲渡の事実がないにもかかわらず、譲受人から虚偽の通知がなされるおそれがあるからである。

ところで、債権譲渡通知の法律的性質は、いわゆる観念の通知であり、本来代理人によってなし得るものである。そして、譲渡人が譲受人に対して、具体的な債権譲渡について、債務者に通知をすることについて代理権を授与し、譲受人が譲渡人の代理人として通知をする場合には虚偽の通知がなされるおそれはない。したがって、譲受人が譲渡人を代理してなした債権譲渡通知は、民法四六七条一項に違反する無効なものと解することはできず、これを有効と解すべきである。

二  争点2について

原・被告は、本件債権譲渡の当事者であり、したがって、両者間においては債権譲渡の対抗の問題が生じる余地はない。原・被告間においては、前記一2及び3に認定したところにより有効に債権譲渡がなされたものと認められる。

そして、本件債権譲渡通知によって訴外会社に対して対抗力を取得したかどうかという問題は、原告と訴外会社との間において決せられるべき問題である。原・被告間において、訴外会社に対する対抗の問題を決することはできない。それは、仮に訴外会社が本件債権譲渡を承諾した場合には、被告においてこれによる対抗力を争うことはできなくなるのと同じである。

被告は、「訴外会社は、本件債権譲渡通知が法律上有効である場合に限って、原告を債権者として認め、本件債権譲渡通知が無効の場合には、被告を債権者として取り扱うとの立場を明確にしている。」と主張するが、本判決の効力が、訴外会社に及ぶわけのものではないのである。

結局、原・被告間においては有効に債権譲渡がなされ、対抗の問題が生じる余地がないのであるから、争点2についての被告の主張には理由がない。

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求には理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小見山進)

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