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大阪地方裁判所 平成8年(モ)54479号 決定 1997年9月17日

債権者

浅川重美

外一五六名

右債権者ら代理人弁護士

山本忠雄

池田崇志

債務者

飯田健治

外五名

右債務者ら代理人弁護士

阿部昭吾

北原潤一

村上寬

加茂善仁

主文

一  債権者らの債務者らに対する大阪地方裁判所平成八年(ヨ)第二一五〇号建物使用妨害禁止等仮処分命令申立事件について、同裁判所が平成八年一二月一三日にした仮処分決定は、立担保の点を含め、債権者らが霊友会第二十五支部所属の霊友会会員を対象にして別紙物件目録記載の建物で毎月定例的に行われる読経又は法座へ参加するため右建物へ立ち入って右建物を使用することを債務者らにおいて妨害してはならないとする限度で認可し、その余を取り消す。

二  右取消しにかかる申立てをいずれも却下する。

三  申立費用は、これを二分し、その一を債権者らの負担とし、その余を債務者らの負担とする

理由

第一  申立て

一  債権者ら

1  債権者らの債務者らに対する大阪地方裁判所平成八年(ヨ)第二一五〇号建物使用妨害禁止等仮処分命令申立事件について、同裁判所が平成八年一二月一三日にした仮処分決定を認可する。

2  申立費用は債務者らの負担とする。

二  債務者ら

1  債権者らの債務者らに対する大阪地方裁判所平成八年(ヨ)第二一五〇号建物使用妨害禁止等仮処分命令申立事件について、同裁判所が平成八年一二月一三日にした仮処分決定を取り消す。

2  債権者らの右仮処分命令の申立てをいずれも却下する。

3  申立費用は債権者らの負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、宗教法人霊友会(以下「霊友会」という。)の会員である債権者らが、霊友会の職員である債務者らに対し、債権者らの所属する同会第二十五支部(以下「本件支部」という。)の講堂として使用されてきた同会所有名義の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)の債権者らによる使用を、債務者らが妨害しているとして、霊友会の会員としての施設利用権に基づく妨害排除請求権若しくは差止請求権又は宗教的行為の自由若しくは宗教的人格権に基づく差止請求権を争いのある法律関係として、本件建物使用妨害禁止仮処分命令を申し立て、これが認容されたところ、債務者らから異議が申し立てられ、その後、霊友会において、債権者らを除名し、依然として、債権者らの本件建物の利用を拒んでいる事案である。

二  前提となる事実

疎明及び審尋の全趣旨を総合すると、以下の事実が一応認められる。

1  霊友会は、昭和二十七年一一月二一日に設立された宗教法人で、もともと、久保角太郎、小谷喜美の立教に始まり、法華経の大義を遵奉し、その奥義とする先祖供養を行践し、その教えを広め、儀式行事を行い、会員を教化育成し、教会及び支部を包括して、思想の善導、社会の教化を目的とし、その目的を達成するために必要な業務を行う宗教団体であり、一四の支部があり、本件支部は、右にいう支部の一つである。そして、霊友会の教えの趣旨に賛同し、所定の入会手続を了したものを会員とし、会員は、いずれかの支部に所属し、霊友会の定める会費を支払わなければならないもので、本件支部には約一八万人の会員が所属している。

2  債権者らはいずれも、本件支部に所属する霊友会の会員として活動してきており、一方、債務者佐竹茂及び同井村隆重は本件支部の職員であり、他の債務者らは、東京にある霊友会本部の職員であって、本件支部に派遣されて本件支部で執務している。

3  本件建物は、霊友会の所有・管理にかかり、昭和五三年に建築されてから現在まで本件支部専用の礼拝所及び集会所として使用され、毎月八日と第四日曜日には本件支部所属会員全員のための読経と法座が行われるほか、各種の集会、会議が行われてきた。

4  霊友会本部では、従前会長職にあった久保継成(以下「久保」という。)が、霊友会の運営を、集団合議制により行うべくその組織改革を試み、同人は、その一環として、平成五年一一月一八日に会長職を辞任する旨の宣言をし、代わりに、宗教法人法に基き定められた規則(以下「規則」)という。)に規定されていない理事長職に就任し、右改革を主導してすすめた後、平成八年一月一二日、理事長職を辞任し、その後任には、増永雄俊(以下「増永」という。)が就任した。しかしながら、同年四月ころ、久保を中心とする派とそれに対立する増永らなどの派との意見対立に基く内紛が表面化し、同年六月九日、久保はいったん辞任した会長職に復帰する旨の宣言をしたため、内紛は激化し霊友会内部で混乱が生じた。右内紛は、本件支部にも波及し、本件支部の運営委員長であった債権者浅川重美は、同年八月上旬、久保支持を表明し、同人及びこれに同調する債権者らは同月分以降の会費の本部への納入を停止した。

5  すると、同月七日以降、増永らを支持する債務者らは、霊友会の指示に基づき、本件建物を内側から施錠して、債権者らの本件建物への立入り及び使用を拒否した。なお、霊友会の事務運営は、現在、増永ら主導のもとに行われている。

第三  争点

一  当事者適格

1  債務者らの主張

債務者らが、債権者らの本件建物の使用を拒否しているのは、霊友会の指示によるものであるから、結局本件建物の利用を拒否しているのは、霊友会である。したがって、本件申立ては、霊友会を相手にすべきで、債務者らを相手にしている本件申立ては、紛争解決の実効性を何ら期待できない者を相手にしており、当事者適格を欠いた申立てである。

2  債権者らの主張

現に債権者らの本件建物の利用を拒否しているのは債務者らであるから、債務者らは当事者適格を有する。

二  権利関係(被保全権利)

1  霊友会会員としての施設利用権に基づく妨害排除請求権又は差止請求権

(一) 債権者らの主張

宗教法人の会員は、当該宗教団体の構成分子であり、宗教法人法(以下「法」という。)上も、「信者その他の利害関係人」に該当するものであるから、宗教法人とその会員との関係は、単なる宗教上の事実関係にとどまるものではなく、会員たる地位は、法律上の地位である。したがって、本件において、債権者らが霊友会の会員であり、かつ霊友会が施設の所有権を有しているならば、債権者らは自己の会員たる地位に基づき、法律上の権利として、本件建物を使用する権利を有している。そして、右権利が妨害されたときには妨害排除請求権が発生する。

(二) 債務者らの主張

債権者ら主張にかかる霊友会会員たる地位に基く本件建物を利用する権利なるものの実体法上の根拠、法的性質、権利の内容、発生・行使の要件等は一切明らかでない。

霊友会の会員は、会の組織運営上の権限を何ら有していないから、宗教法人である霊友会と会員との関係は、法律上の関係と呼べるものではなく、会費の納入という客観的、外形的な事実を媒介とした事実上、宗教上の関係にすぎない。すると、霊友会の会員が施設を利用できるのは、霊友会の所有する施設に対して会員が法律上の利用権を有するからではなく、会費を納入している会員に対して、霊友会が有する施設所有権及び宗教活動の自由ないし宗教的人格権に基いて、その裁量により、利用を許可しているからにすぎない。したがって、霊友会の所有する施設に対する会員の利用は、霊友会の裁量にまかされているのであるから、霊友会の指導に従わず、霊友会に対し、意図的かつ継続的に会費を納入していない債権者らにその所有する施設を利用させなければならない理由はない。

仮に、本件建物の利用に関する霊友会と会員との関係を何らかの契約関係と解した場合にも、右効力は、契約当事者である霊友会と会員との間に生ずるのみで、契約当事者でない債務者らに対して直接生じるものでなく、債務者らに対する妨害排除請求権は認められない。

2  宗教的行為の自由又は宗教的人格権に基づく差止請求権の有無

(一) 債権者らの主張

憲法で保障されている基本的人権たる信教の自由は、その重大性に鑑み、私人による侵害に対しても、法的に保護されるべきであり、宗教的行為の自由も信教の自由の一内容である。本件において、債権者らは、本件建物を宗教活動のために利用してきたのであり、本件建物の利用は、債権者らの宗教的行為の根源であるから、まさに前記宗教的行為の自由の行使である。

また、本件建物の利用が妨げられると、債権者らの宗教的行為が妨害されることになるから、債権者らは、本件建物を自己の宗教活動の目的のため、平穏に使用する権利という内容の宗教的人格権を有している。

そして、宗教的行為の自由及び宗教的人格権に対する侵害がなされると、個人人格の価値そのものが侵害されることになり、かかる人格権の重要性に鑑み、人格権に排他性のある権利としての性格を積極的に認め、差止請求権を認めるべきである。

本件では、債務者らによって、債権者らの宗教的行為の自由又は宗教的人格権の行使としての本件建物を利用する権利が妨害されているのであるから、差止請求権が発生する。

(二) 債務者らの主張

債権者らが主張する憲法上の基本的人権たる信教の自由、宗教的活動の自由は、対国家との関係で問題となるもので、本件のような私人間の法律関係が問題となっている場合に妥当するものではない。仮に、債権者らが、私人間における法的な権利として、宗教的行為の自由あるいは宗教的人格権なるものを有するものとしても、右自由や権利は、無制限に認められるべきものではない。他人の有する法的権利や他人の宗教的活動の自由などと抵触するような場合に右自由が制約されたとしても、やむを得ないものであり、直ちに差止請求権が発生するものではない。

本件においては、本件建物の所有者である霊友会はその運営維持のために所有施設の利用に関して自由に決定することができ、これは、宗教団体、宗教法人としての活動の自由、宗教的人格権の範疇の問題ということができ、前記のような霊友会に敵対する態度を示し、会費を納入しない債権者らに対して、本件建物の立ち入りを認めないことは宗教団体、宗教法人としての活動の自由、宗教的人格権の正当な行使ということができる。したがって、債権者らに差止請求権は発生せず、右権利を行使することはできない。

3  会費不納入によるみなし退会等

(一) 債務者らの主張

霊友会の会費納入義務は、会員の基本的義務であることからすれば(規則二四条三項)、霊友会に対する帰属意識の有無は、霊友会に対する会費の納入の有無という客観的外形的な事実の有無をもって判断するしかなく、これまでも霊友会は、三ヵ月以上会費を納めない会員は自主的に退会したものとみなす取扱いをしてきたのであり、本件でも同様である。しかも、本件においては、債権者らは、霊友会の再三にわたる警告にもかかわらず、継続的かつ意図的に霊友会に会費を納入していないから、このことは、自ら霊友会への帰属を拒否し、その会員たる資格を自ら放棄する旨の意思の表明ということもでき、霊友会の退会したものとみなす取扱いは、むしろ霊友会として、債権者らの退会の意思表明を確認したものである。したがって、債権者らは、霊友会の会員ではない。

(二) 債権者らの主張

宗教の本質は、信仰良心の問題であり、会費という金銭的価値においてのみ会員としての資格をとらえるべきではない。債権者らは、霊友会の会費を自己の信仰的基礎に立って、霊友会の真の指導者であると信じている久保に納入しているのである。霊友会の既存の会計担当者のもとに会費が納入されていないからといって、霊友会を退会したものとみなす扱いは許されない。

また、債権者らは、依然として霊友会に対する忠誠心と信仰を有しているのであり、正当な指導者と信じる久保の指定する方法による支払をしているのであるから、会費の送付先が異なるというだけで、霊友会への帰属を拒否し、退会の意思を表明したということはできない。

4  除名処分

(一) 債務者らの主張

(1) 前記のとおり、会費納入は会員の基本的義務であり、右義務を怠ったときは本会の規範で定める手続により除名されるとの規則の規定(二四条四項)により、平成七年一一月二三日に改正され平成八年一月一日に施行された霊友会規範(以下「新規範」という。)五〇条二項、六項、七項、四六条、四九条八項等に基づき、債権者らは除名された。

すなわち、本件の仮処分決定の後である平成八年一二月二〇日、霊友会の責任役員増永、荻窪新始及び平沼正次郎から霊友会指導会議議長小出繁夫宛に、本件債権者らについて、霊友会会費の納入懈怠を理由として、霊友会からの除名処分を求める申立てがなされ、右案件は、霊友会指導会議から霊友会公平会議に付託された。翌年一月九日には債権者らに対して、右案件に関して、弁明する機会が与えられた後、さらに同月末日を期限とする霊友会公平会議議長大形市太郎名の、霊友会会費の納入意思の有無を確認する通告がされた。その後、同年二月一日、霊友会公平会議は全員一致で、債権者らを除名する旨の決定を行い、右決定は、同月三日に霊友会運営会議議長蓼沼善四郎の承認がされた後、代表役員増永の執行として、債権者らに同日付書面で通告された(以下「本件除名処分」という。)。

(2) 仮に新規範が無効でも、本件除名処分は、前記改正前の規範(以下「旧規範」という。)に基づくものとして有効である。

旧規範と新規範のそれぞれの除名手続に関する規定を比較すると、除名手続に関与する機関の名称が変更されているだけであり、除名の事由や手続はほどんど同一である。したがって、本件除名処分は、実質的には旧規範に従って手続がされたとみることができる。ただ、新規範では、除名決定について運営会議議長の承認が必要とされているのに対し、旧規範では会長の裁可が必要とされている点が異なる。しかしこの点に関しては、本件除名処分にあって、濱口八重(以下「濱口」という。)会長の裁可も得ており、旧規範に則った除名手続と解しても、何ら瑕疵はない。

(二) 債権者らの主張

(1) 新規範は、以下の理由のとおり、不成立ないし無効であるから、新規範に依拠してされた本件除名処分は結局無効である。

ア 新規範の予定する新体制である集団合議制は、平成八年一一月一八日を完成の目標とし、最終的には、法上規定されている規則の改正までを予定して、未だ整備途中にあったもので、未だ各関係部署で集団討議を行っている段階にあった。新規範は、現行の規則とその内容が異なるから、規則の改正前に成立するものではなく、新規範は、集団合議制及び規則の改正がなされた時点で同時に、正式に成立し、効力を生じることが予定されていた。

イ 仮に、右新規範が成立したとしても、平成八年六月九日になされた久保の会長復帰宣言により、新規範は無効となったか又は効力を停止したというべきである。

ウ 仮に新規範が成立したとしても、新規範の内容は、現行の規則の規定の内容と矛盾している。新規範の内容は、組織機構や宗教法人の運営に関する、いわゆる世俗的側面に関することがほとんどである。そうであれば、右新規範は宗教法人法上、文部大臣の認証を得ている規則の下位規範にすぎず、新規範により規則を変更することができないのはもちろん、その内容を比較して、規則に違反している新規範は、無効である。

したがって、本件除名処分は、結局、無効な新規範に依拠してなされたものであるから、やはり無効である。

(2) 新規範が無効である以上、旧規範に従った除名手続が必要となる。しかし、旧規範のもとでは、以下になされた除名処分における除名事由と実質的同等の事由の場合であってはじめて除名事由となるのが、確立された準則的慣行となっており、右慣行に照らせば、会費不払という事由は、除名事由にはあたらない。したがって、除名事由は不存在であるから、本件除名処分は無効である。

(3) 仮に新規範が有効に存在するとしても、新規範に定める除名手続を履践しておらず、適正手続違反により、本件除名処分は無効である。

すなわち、本件除名処分は、平成八年一二月一三日になされた裁判所の仮処分決定の後、急遽、債権者らの本件建物の使用妨害を継続するための根拠づけのために、あたかも何らかの会議を開催して、審議を経たかのような外形を作り出すことだけを目的として行われたもので、実質的には何ら適正な手続を履践していない。また、そもそも現会長と称する濱口八重は、平成八年六月九日の久保の会長復帰宣言を無視して会長に就任しており、濱口の会長就任は無効である。したがって、濱口が直接任命し、あるいは関わった、本件除名手続に関与した公平会議や運営会議は何ら権限を有せず、何ら権限を有しない会議によってなされた除名処分もまた無効である。

(4) 本件除名処分は、債権者らの宗教活動の妨害のみを目的としてなされた処分であり、権利の濫用にあたり、無効である。

(三) 債務者らの反論

(1) 新規範の有効性等

ア 久保は、平成五年一一月一八日に会長職を辞任し、規則に規定のない理事長職に就任した後、自らの主導により、会長職の存在しない新規範の制定作業をはじめた。しかし、規範の改正については、旧規範の規定では、総括審議会の議決を経て、会長の承認が必要と規定されている(五七条)。そこで、総括審議会の議決や会長の承認手続にあたっては、久保を理事長(会長)とし、平成七年一一月二三日に総括審議会の議決が行われ、同日会長の承認がなされた。そして、平成八年一月一日から新規範が施行されたことは、各種霊友会の広報でも明確に掲載されている。その後、平成八年一月一二日に、久保は理事長職も辞任し、同年三月には、退職金まで受領した。しかしながら、平成八年六月九日に久保は会長復帰宣言をしたため、霊友会が混乱し、規則変更について、文部大臣の認証が得られるまでの間の暫定的な措置として、現在の規則に従って霊友会の運営がなされるように会長選任の必要が生じたが、久保は、会長職を辞任するにあたり、予めの指名をしなかったので、規則六条三項の規定に従うことになった。そして、規則七条五項により準用される八条七項により、従前の教務役員会を構成していた者らによる議決がなされ、平成八年六月一四日、同年九月四日、同月一七日の三回にわたり、濱口を会長に選任した。規範の改正についても、霊友会が混乱しているため、手続的な疑義を残さないよう、濱口が就任した後の平成八年一一月一八日に再び、総括審議会の議決及び濱口会長の承認がなされた。

このように、旧規範に従った規範改正の手続はすべて履践され、しかも新規範の施行は、霊友会内部で周知の事実となっていたのであるから、新規範は正式に成立している。

イ 久保の行った平成八年六月九日の会長復帰宣言は、何の根拠もなく、手続も踏まない一方的なもので、このような一方的な宣言により、正規の手続を踏んで行われた規範の改正が当然に無効になったり、その効力が停止されたりはしない。

ウ 宗教法人は、規則のほかに法の規制事項以外の事項について、宗教団体内部の自治規範を定めることができるが、その自治規範が宗教団体としての根本規範であり、その団体の世俗的側面に関する特別のルールが規則にすぎず、規則の規定と自治規範の規定との間に何らかの抵触がある場合は、宗教法人としての世俗的事項に関する限り、規則が優先的に適用されるだけである。そして、宗教団体における会員の地位の得喪について、法は規則の規制事項としていないから、自治規範によって自由に規定されるものであり、規則との抵触が問題となる事項ではない。

規則の規定と新規範の規定が抵触している箇所があるからといって、新規範が全体として無効になるものではない。債権者らが規則の規定と新規範の規定とが抵触していると主張している箇所は、いずれも会員の除名手続とは無関係な箇所であり、本件除名処分とは無関係である。したがって、新規範で定められた除名手続の具体的内容如何により、規則違反の問題が生じることはない。

(2) 権利濫用について

前記のような債権者らの霊友会に対する意図的かつ継続的な会費不払いの事実、その動機や目的に鑑みれば、本件除名処分は宗教団体内部の自律的決定として相当な措置というべきで、権利濫用には当たらない。

第四  当裁判所の判断

一  当事者適格について

本件仮処分手続に対応する本案訴訟は、本件建物の使用の妨害を禁止する旨の不作為を求める給付訴訟であり、給付訴訟では、原告が給付義務者であると主張している者に被告適格がある。本件では、債権者らが右給付義務者であると主張している債務者らが本案訴訟での被告適格を有することになる。ところで、本案訴訟と仮処分の内容が一致する場合には、本案の被告適格を有する者に仮処分手続における債務者適格があることになるから、債務者らに本件仮処分手続の債務者適格が認められる。

債務者らは、霊友会を被告・債務者とすることが紛争解決の実行性確保のために必要であると主張するが、仮に、本件債務者らを被告・債務者らとすることによる紛争解決の実効性が低いとしても、まったく実効性がないわけではなく、相対的に低いというだけに過ぎず、当事者適格を否定することにはならない。

したがって、債務者らの主張は失当である。

二  権利関係(被保全権利)について

1  霊友会会員としての施設利用権に基づく妨害排除請求権ないし差止請求権について

霊友会会員である債権者らは、前記のとおり、法華経の大義を基本とする信仰・活動を行う霊友会の教えの趣旨に賛同して入会し、本件建物で行われる読経・法座等の宗教活動に参加してきたものと考えられ、右宗教活動に必要な限りで本件建物を利用することができるものということができる。しかしながら、その利用関係がどのような法的性質を有するのか、どのような権利内容なのかは、規則・規範にも記述がなく、必ずしも明らかでない。

まず、本件支部の前記組織、会員数を考慮すれば、債権者らが時期、日時、時間帯、建物の範囲、利用方法の如何を問わず全面的又は独占的利用権を有しているとは言い難い。そして、右時期、日時、時間帯、建物の範囲、利用方法等の面で限定された形で本件建物を利用することができるとしても、所有・管理権者である霊友会の調整・指定・指示等の行為なくして具体的な利用行為が可能となるとも言い難い。したがって、また、右調整・指定・指示等の行為によって具体的な利用行為が可能となる以前の段階では、会員相互の間又は霊友会職員に対して本件建物の優先的利用権を主張することができないと考えられる。

そうすると、本件建物を利用する権利といっても、その権利性は弱く、本件建物を利用しうる資格ないし立場を意味するに過ぎないとも考えられる。

いずれにしろ、この点につき、債権者らの具体的主張・疎明はなく、債権者らの主張のような全面的・独占的形態の利用権ないし妨害排除請求権があるとはいえない。

2  宗教的自由又は宗教的人格権に基づく差止請求権について

信教の自由は、人間の感情世界に関することがらであるものの、生命、身体、健康、行動の自由などと同様、人間の人格的本質にかかわるものとして、私人間においても実定法上一定程度尊重されなければならないものと考えられ、これを宗教的自由又は宗教的人格権に基づく権利と言うかどうかは別として、宗教上の信仰等に相当する行為に対する侵害があり、その態様・程度が社会的に許容しうる限度を超えるときには、場合によっては、法的保護が図られるべきであって、侵害の差止が認められる場合もあり得るというべきである。

本件支部においては、本件建物において所属会員全員のための読経と法座が毎月定例的に行われているところ、読経と法座に参加するという行為は、霊友会会員にとって霊友会という宗教団体に所属してその信仰を現実化する少なくとも最小限の基本的宗教活動と考えられ、債権者らがこれに参加することは、霊友会会員として当然の信教の自由の行使に関することがらであるといえる。したがって、右権利の行使のために必要な限りにおいて本件建物に立ち入り、これを使用することは、会員としての信教の自由の行使の前提をなすものとして、当然に許容されると考えられる。そして、右読経と法座は、会員全体のために、定例的に行われるのであるから、所有・管理権者である霊友会の調整・指定・指示等の行為をまつまでもなく、当然に債権者らもこれを享受することができ、これによって、所有・管理権者である霊友会の権利等の行使が侵害されるとか不都合が生じるとかのことは考えられないし、他の会員についても同様である。

債務者らは、霊友会に敵対する態度を示して会費を納入しない債権者らの本件建物への立入り・使用を認めないだけであって、霊友会の宗教団体・宗教法人としての活動の自由・宗教的人格権の正当な権利の行使として、違法でないという。

しかしながら、債権者らは、前記内紛に伴い一方の立場を支持する反面これに対立する立場に敵対することになっているのであって、霊友会そのものに敵対しているとはいえない。また、会費を納入しないことは遺憾であるけれども、右事由によって前記会員としての最小限の基本的な宗教活動と考えられる読経と法座への参加を拒否されることは、規則・規範で定められた除名手続を経ることなく会員であることを否定されることに等しく、このような結果を招来する右拒否行為は、霊友会の活動の自由・宗教的人格権の行使としても、その正当な範囲を超えた権利行使というべきであり、相当とはいえない。

そうすると、債権者らが、本件支部所属会員全員を対象として本件建物で定例的に行われる読経又は法座へ参加するために本件建物へ立ち入り、使用することを、霊友会、霊友会会員、霊友会職員によって拒否されることは、信教の自由、宗教的活動の自由の侵害に該当し、その妨害の排除が認められる場合に該る。

なお、債権者らの本件建物の利用については、従前、他の形態・態様の利用もあったといえるが、右読経又は法座に関する利用以外に、債権者らの信教の自由、宗教的活動の自由の侵害に該当して使用妨害の排除が認められるものがあるといえる疎明はない。

3  債権者らの会員資格について

(一) 会費不納入によるみなし退会について

審尋の全趣旨によると、債権者らの会費不納入は、霊友会の真の統率者は誰であるかについての見解の相違に基くものであって、霊友会からの退会の黙示的意思表示でないことは明らかである。したがって、仮に債務者ら主張のとおり、従来、三ヶ月以上会費を納めない会員については自主的に退会したものとみなしてきたとの取扱いがあったとしても、これをそのまま本件にあてはめるのは適当ではなく、債権者らの会員資格については、規則や規範に基づく正式な手続に従って定めるべきであり、債務者らの主張は失当である。

(二) 本件除名処分について

疎明によれば、債務者ら主張の手続で本件除名処分が行われたことが一応認められるから、その効力の有無を検討する。

(1) 新規範の成立について

疎明によれば、久保は、平成五年一一月一八日に会長職を辞任し、規則に規定のない理事長職に就任した後、自らの主導により、会長職の存在しない新規範の制定作業をはじめ、平成七年一一月二三日、総括審議会の議決が行われ、平成八年一月一日から新規範が施行されたこと、旧規範上、規範の改正については、総括審議会の議決を経て、会長の承認が必要と規定されていること(五七条)、久保は、平成八年一月一二日、理事長職も辞任し、同年三月には、退職金まで受領したが、平成八年六月九日に会長復帰宣言をしたため、霊友会が混乱したこと、そのため、規則変更について、文部大臣の認証が得られるまでの間の暫定的な措置として、現在の規則に従って霊友会の運営がなされるよう会長選任の必要が生じたが、久保は、会長職を辞任するにあたり、予めの指名をしていなかったので、規則六条三項の規定に従い、規則七条五項により準用される八条七項により、従前の教務役員会を構成していた者らによる決議がなされ、平成八年六月一四日、同年九月四日、同月一七日の三回にわたり、濱口が会長として選任されたこと、そして、規範の改正についても、霊友会が混乱しているため、手続的な疑義を残さないよう、濱口が就任した後の平成八年一一月一八日に、再び総括審議会の議決及び濱口会長の承認がなされたこと、が一応認められる。

以上によれば、新規範は、平成八年一月一日時点においては、その改正を承認すべき会長の不在という問題があり、その時点における成立には疑問があるものの、遅くとも濱口会長の承認を得た平成八年一一月一八日には成立したものと一応認めることができ、債権者らの主張は認められない。

(2) 新規範の効力について

ア 債権者らは、久保の会長復帰宣言により、新規範は無効になった旨の主張をするが、霊友会においては、その規則に則って濱口が会長に選任されているのであって、久保の一方的な会長復帰宣言により久保が会長となったり、新規範の効力が左右される理由はない。

イ 規則と規範の抵触による無効について

宗教法人法は、宗教法人の世俗的側面の事項に関して、規則で定め所轄庁の認証を受けるべきことを規定しており(一二条)、規則の定めは、宗教法人法等の規定を別として世俗的側面に関しての根本の規範となると解される。したがって、右世俗的側面に関する事項である限り、規則の定めに従った運営がされるべきであり、「規範」など当該宗教法人内部の定めは、規則に反してはならず、もしこれに反している場合は、当該規範は無効であるというべきである。規則四九条は「本会の運営に関し、この規定に定める事項の外、規範で別に定める。」と規定しているが、これは右のことを当然の前提としていると考えられる。

ところで、会員の除名について、規則は、会員は、本会の趣旨に違背する非違のあったとき、又は会員としての義務を怠ったときは、本会の規範で定める手続により譴責又は除名される(二四条四項)としているから、除名手続は規範の定めに委任されていると解される。そして、新規範においては、第六章が除名手続を規定しており、指導会議及び公平会議の議を経て処分が決定され、運営会議議長の承認を得て代表役員が執行することになっている(四九、五〇条)。

しかるところ、新規範では、

①  指導会議は、指導会議議長及び指導会議員若干名で構成し、これらの者は、総務会が会員代表会の構成員及び会員の有識者のうちから、評議員会の承認を得て任免し(四九条)、公平会議は、公平会議長及び公平会議員若干名で構成し、これらの者は、やはり総務会が会員代表会の構成員及び会員の有識者のうちから、評議員会の承認を得て任免する(五〇条)、

②  指導会議、公平会議の構成員を任免する総務会は、議長、副議長、常務理事(理事長、総務理事、専務理事)で構成する(二三条)、

③  総務会の構成員のうち、議長は、評議員会が、運営会議運営規定に基づき、運営会議員の経験が一期以上ある者のうちから会員代表会の意見を徴した上で選任する(七条)、

④  副議長(八条)、理事長(一〇条)、総務理事(一一条)、専務理事(一二条)は、いずれも、議長が運営会議運営規定に基づき、総務会や評議員会の承認を得て任命する、

⑤  議長を選任する評議員会は、評議員会運営規程に基づき、総務会が指名する二一名の評議員(支部長のうちから七名、本部機構各機関の構成員、系統支部運営者及びその経験者のうちから七名、諸活動推進者及び有識者のうちから七名)によって構成される(二六条)、となっている。すなわち、指導会議、公平会議の構成員は、総務会及び評議員会という合議体によって選任されることになる。

しかしながら、右総務会及び評議員会という合議体は、規則に定められていないものであり、これに該当する機関は存在せず、規則に反することは明らかである。そして、規則は「本会は、会長が統理する」(六条)と規定されており、会長が副会長(七条)、会長補佐(同)、理事・総務理事・常務理事(八条)、顧問(二〇条)、相談役(二一条)、支部長(二五条)等、霊友会の主な役員・機関の構成員の任命権限を独占しているのであって、会長を頂点とする組織構造を取っており、会長職が存在せず、会長によって選任されるのでない構成員によって構成される右総務会及び評議員会は、実質的にも規則の許容しない機関といえる(このことは、もともと新規範が、規則に定められた会長制を合議制に変更しようとしたものであることからして当然ではある。)。

そうすると、新規範の定める除名手続は、規則に反する無効のものであり、新規範によりされた本件除名処分は無効である。

(3) 旧規範に基くものとして有効か。

旧規範における除名手続は、規則二四条四項に基き、第六章に規定され、指導委員会及び公平委員会の議を経て決定され、会長の裁可により発効することとされている(四一、四二条)が、指導委員会及び公平委員会の構成員は、会長が副会長及び会長補佐の中から選任することとされており(四一、四二条)、本件除名手続にかかわった前記指導会議及び公平会議は、右指導委員会及び公平委員会と実質的に全く異なる別の機関と考える他はない。そして、本件除名手続にかかわった前記指導会議及び公平会議の各議長小出繁夫、大形市太郎、その他の各構成員が、指導委員会及び公平委員会の構成員のように、会長によって副会長及び会長補佐の中から選任されたとする疎明はない。

したがって、本件除名処分が旧規範に基くものと評価することはできず、有効ということはできない。

三  よって、本件については、債権者らが債務者らとの間で争いのある法律関係として主張する被保全権利に関して、前記の限度で疎明があり、右につき保全の必要性があることは明らかであるが、その余の被保全権利については疎明がないから、立担保の点を含め原仮処分決定を前記の限度で認可し、その余を取り消したうえ同部分にかかる申立てをいずれも却下し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官若林諒 裁判官久我泰博 裁判官建石直子)

別紙<省略>

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