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大阪地方裁判所 平成8年(ソ)12号 決定 1996年10月14日

主文

本件抗告を棄却する。

事実及び理由

第一  抗告の趣旨

一  原決定を取消す。

二  抗告人の申立てによる別紙目録記載の株券の公示催告手続において平成八年七月二日株式会社東京三菱銀行から右株券につき届出があった略式質権の存否についての裁判が確定するまで、本件公示催告手続を中止、又は、右権利を留保して右株券を無効とする。

第二  事案の概要

原審が、公示催告期間中に第三者から公示催告の対象となっている証券と同一性のある証券を提出して権利(略式質権)の届出があった場合には、民訴法七七〇条の適用はないとして、抗告人のした除権判決の申立てを却下する旨の決定をしたのに対し、抗告人は、右場合においても、民訴法七七〇条を適用し、中止決定または権利留保付判決を下すべきであるとして即時抗告した。

第三  争点

民訴法七七〇条の適用範囲

第四  抗告人の主張

実務上、権利の届出人と公示催告の申立人との間で対立が生じるのは、右申立人が証券を提出した届出人の届け出た権利の帰属を争う場合であるのに、民訴法七七〇条の適用範囲を、証券を提出しないで権利の届出をした場合または提出された証券の同一性ないし真実性につき争いがある場合に限定することは、前記の場合に右条文の適用の余地を否定することになり到底採用できないというべきである。

同条は、権利の届出につき、「其事情に従ひ」中止決定又は権利留保付判決を下すべきである旨規定され、届出人の届け出た権利の種類に応じて、裁判所の裁量により判断がなされるべきところ、証券の同一性が認められる場合においても、右権利の種類が所有権以外の権利(本件の場合、略式質権)であれば権利留保付判決を言い渡すべきである。

第五  争点に対する裁判所の判断

民訴法七七七条による証券の無効宣言のための公示催告手続は、証券が盗取、紛失または滅失により所在不明となることを要件として、法律上事実上証券の所持を回復する手段がない申立人(証券の旧所持人)が第三者の善意取得等により自己が有する証券上の権利を喪失することを防止するものである。そうすると、権利の届出人が申立証券と同一性のある証券を提出したときには、右要件を欠く(この場合、申立人は、届出人を相手方として、権利の帰属を争い、証券の所持を回復するための法的手段を講じることが可能となるから、届出人から提出された証券の無効を宣言する必要はない)ことになるから、除権判決の申立ては却下されるべきであり、民訴法七七〇条の適用の余地はないというべきである。このことは、届け出られた権利の内容が所有権以外の権利の場合であっても同様である。

本件において、原審記録によれば、権利の届出人が提出した証券と本件申立証券との同一性が認められる。

よって、原決定は正当であり、本件抗告の理由はないからこれを棄却することとし、主文のとおり判断する。

(裁判長裁判官 佐藤嘉彦 裁判官 村田龍平 裁判官 坂上文一)

別紙 目録<省略>

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