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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)7045号 判決 1998年10月01日

脱退原告

木津信用組合

右代表者代表清算人

坂口春男

引受参加人

株式会社整理回収銀行

右代表者代表取締役

水野繁

右訴訟代理人弁護士

馬場康史

被告

下宮光男

右訴訟代理人弁護士

太田忠義

右同

柴田龍彦

右同

岸本寛成

主文

一  被告は、引受参加人に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する平成七年一月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  引受参加人のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を引受参加人の負担とする。

四  この判決は、引受参加人の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告は、引受参加人に対し、金九億三八三二万一〇九一円並びに内金四億円に対する平成五年一月一九日から支払済みまで年二五パーセントの割合による金員、内金一億三七〇九万六九六七円に対する平成七年一月一三日から支払済みまで年二五パーセントの割合による金員及び内金二億〇六七七万九七二三円に対する平成五年六月二五日から支払済みまで年一三パーセントの割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、引受参加人が、「脱退原告は、訴外会社との間で、信用組合取引契約を、被告との間で、右契約に関する根保証契約を、それぞれ締結した上で、右信用組合取引契約に基づき、訴外会社に対する継続的融資等を行ってきたものであるが、引受参加人は脱退原告から、右根保証契約に基づく被告に対する保証債務履行請求権を譲り受けた」として、被告に対し、保証債務の履行を求めた事案である。

一  証拠上容易に認定できる事実

1  脱退原告は、株式会社ベクター(旧商号・ワールドビルダー株式会社、丸幸産業株式会社。以下「訴外会社」という)との間で、昭和六一年九月二五日、信用組合取引契約を締結した(以下「本件契約」という)。本件契約には、債務不履行の場合の遅延損害金は年二五パーセント(ただし、一年を三六五日とする日割計算)の割合による旨の約定がある(甲一の1)。

2  被告は、脱退原告に対し、昭和六二年一月一六日、本件契約に基づく手形貸付・債務保証を含む各種取引によって訴外会社が脱退原告に対して負担する一切の債務につき、連帯保証する旨約した(甲三の1)(以下「本件根保証契約」という)。

3(一)  脱退原告は、本件契約に基づき、手形貸付の方法により、以下のとおり、訴外会社に対し合計一〇億〇七〇〇万円を貸し付けた(甲八ないし一四、弁論の全趣旨)(以下、右各貸金を「本件貸金(1)」「本件貸金(2)」等といい、全てを併せて「本件各貸金」という)。

(1) 金額 七〇〇〇万円

貸付日 平成四年一一月九日

支払期日 平成五年一月一八日

(2) 金額 一億三〇〇〇万円

貸付日 平成四年一一月九日

支払期日 平成五年一月一八日

(3) 金額 五〇〇〇万円

貸付日 平成四年一一月九日

支払期日 平成五年一月一八日

(4) 金額 四億円

貸付日 平成四年一一月九日

支払期日 平成五年一月一八日

(5) 金額 五〇〇〇万円

貸付日 平成四年一一月九日

支払期日 平成五年一月一八日

(6) 金額 一億五七〇〇万円

貸付日 平成四年一一月九日

支払期日 平成五年一月一八日

(7) 金額 一億五〇〇〇万円

貸付日 平成四年一一月九日

支払期日 平成五年一月一八日

(二)  脱退原告は、本件各貸金の元金につき、以下のとおり弁済を受けた(甲一五、弁論の全趣旨)。

(1) 本件貸金(1)及び(2)の元金につき

平成七年一月一一日に、二億円(元金全額)

(2) 本件貸金(3)の元金につき

平成五年四月六日に、三一六六万七四四一円

平成六年八月二五日に、一〇〇〇万円

平成七年一月一一日に、八三三万二五五九円(残元金全額)

(3) 本件貸金(5)及び(6)の元金につき

平成五年四月六日に、二億〇七〇〇万円(元金全額)

(4) 本件貸金(7)の元金につき

平成七年一月一一日に、一二九〇万三〇三三円

(三)  その結果、本件各貸金に関する訴外会社の債務は、次のとおりとなった。

(1) 残元金合計 五億三七〇九万六九六七円

ただし、本件貸金(4)の元金四億円と本件貸金(7)の残元金一億三七〇九万六九六七円との合計額

(2) 確定遅延損害金合計 一億九四四四万四四〇一円

ア 本件貸金(1)につき、三四七一万二三二八円

ただし、元金七〇〇〇万円に対する平成五年一月一九日から平成七年一月一二日までの一年三五九日間に発生した遅延損害金

イ 本件貸金(2)につき、六四四六万五七五三円

ただし、元金一億三〇〇〇万円に対する平成五年一月一九日から平成七年一月一二日までの一年三五九日間に発生した遅延損害金

ウ 本件貸金(3)につき、九八二万三八五六円

ただし、① 元金五〇〇〇万円に対する平成五年一月一九日から同年四月六日までの七八日間に発生した遅延損害金二六七万一二三二円、② 残元金一八三三万二五五九円に対する平成五年四月七日から平成六年八月二五日までの一年一四一日間に発生した遅延損害金六三五万三六一二円、③ 残元金八三三万二五五九円に対する平成六年八月二六日から平成七年一月一二日までの一四〇日間に発生した遅延損害金七九万九〇一二円の合計額

エ 本件貸金(5)につき、二六七万一二三二円

ただし、元金五〇〇〇万円に対する平成五年一月一九日から同年四月六日までの七八日間に発生した遅延損害金

オ 本件貸金(6)につき、八三八万七六七一円

ただし、元金一億五七〇〇万円に対する平成五年一月一九日から同年四月六日までの七八日間に発生した遅延損害金

カ 本件貸金(7)につき、七四三八万三五六一円

ただし、元金一億五〇〇〇万円に対する平成五年一月一九日から平成七年一月一二日までの一年三五九日間に発生した遅延損害金

(3) 未確定遅延損害金

ア 本件貸金(4)の元金四億円に対する平成五年一月一九日から支払済みまで約定利率年二五パーセントの割合による遅延損害金

イ 本件貸金(7)の残元金一億三七〇九万六九六七円に対する平成七年一月一三日から支払済みまで約定利率年二五パーセントの割合による遅延損害金

4(一)  全国信用協同組合連合会(以下「全信組連」という)は、脱退原告を代理店として、訴外会社に対し、平成四年一〇月三〇日、次のとおり金員を貸し付けた(甲二五の1)。

(1) 金額 二億円

(2) 利息 年率7.2パーセント

(3) 遅延損害金

年率一三パーセント

(4) 弁済方法 元金については、平成七年一一月から平成一一年一一月まで毎月二一日限り、四〇〇万円宛(ただし、最終回は八〇〇万円)

利息については、平成四年一二月から毎月二一日限り、前月分を後払い

(5) 特約 訴外会社は、債務の一部でも履行を遅滞したときは、全信組連の請求により、一切の期限の利益を失う。

(二)  脱退原告は、平成四年一〇月三〇日、訴外会社から次の約定で委託を受けて、全信組連に対し、右貸付に基づく訴外会社の債務につき連帯保証する旨約した(甲二五の1、弁論の全趣旨)。

(1) 訴外会社が債務を履行しなかったときは、脱退原告は、訴外会社に対する事前の通知を要せず、任意の方法により保証債務を履行できる。

(2) 脱退原告が保証債務を履行したときは、訴外会社は脱退原告に対し、右履行額及びこれに対する履行の日から支払済みまで年一三パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

(三)  訴外会社は、平成四年一二月二一日支払分の利息を支払ったのみで、その余の支払をしなかったところ、全信組連の代理店である脱退原告から、平成五年一月二一日到達の書面により、右書面到達後五日以内に未払い金を支払うよう催告を受けたにもかかわらず、その支払をしなかったので、同月二六日の経過により、期限の利益を失った(弁論の全趣旨)。

(四)  そこで、脱退原告は、全信組連に対し、平成五年六月二四日、訴外会社の全信組連に対する元金二億円及び利息金六七七万九七二三円の合計二億〇六七七万九七二三円を、代位弁済した(甲二六)。

5  脱退原告は、引受参加人に対し、平成九年二月二四日、本件根保証契約に基づく被告に対する保証債務履行請求権を譲り渡すとともに、被告に対し、同年七月三日到達の書面により、その旨の通知をした(弁論の全趣旨)。

二  争点

1  債務免除

(一) 被告の主張

下宮一幸(被告の兄)及び吉川政利(訴外会社の新代表者)が、平成二年四月一三日、脱退原告生野東支店を訪れ、山本秀男支店長及び目堅次長と面会した際、被告の代理人として、吉川政利が新たに連帯保証人になるので、被告の連帯保証を外してほしい旨申し入れたところ、山本秀男支店長らは「分かりました」と答え、本件根保証契約に基づく被告の債務を免除した。

(二) 引受参加人の主張

脱退原告は、被告に対し、本件根保証契約に基づく債務を免除したことはない。

2  解約権の行使

(一) 被告の主張

本件根保証契約は、保証期間の定めのないものであるばかりか、後記3(一)記載の事情を勘案すると、被告は、訴外会社の代表取締役の辞任に伴い、本件根保証契約を解約する権利を有していた。

下宮一幸及び吉川政利は、平成二年四月一三日、脱退原告生野東支店を訪れ、山本秀男支店長及び目堅次長と面会した際、被告の代理人として、吉川政利が新たに連帯保証人になるので、被告の連帯保証を外してほしい旨申し入れ、もって、本件根保証契約を解約する旨の意思表示をした。

(二) 引受参加人の主張

脱退原告は、被告から、本件根保証契約を解約する旨の意思表示を受けたことはない。

3  権利の濫用

(一) 被告の主張

本件根保証契約は、保証金額も保証期間も限定されないいわゆる包括根保証契約であるところ、被告は、訴外会社の代表取締役就任に伴い、右契約を締結したが、平成二年一月一〇日、被告が右代表取締役を辞任し、吉川政利が新たな代表取締役に就任した旨の登記がなされていること、被告の代表取締役は名目的なものにすぎなかったが、右登記により、被告は、名目上も訴外会社との関係はなくなったこと、脱退原告は、以上の事実を知悉していたこと、吉川政利は、右代表取締役就任に伴い、脱退原告との間で新たに根保証契約を締結しており、被告との間の本件根保証契約を継続する理由がなくなったこと、被告が代表取締役として登記されていた期間に、訴外会社が負担した債務は、既に完済されており、本訴において引受参加人が被告に履行を求める保証債務は、被告の代表取締役辞任登記から約二年一〇か月後に訴外会社が負担した債務にかかるものであること、脱退原告の訴外会社に対する融資は、いわゆるバブル経済を背景として、法令による融資制限に違反し、杜撰な審査により安易になされたもので、平成三年四月ころには、二七億九二〇〇万円という巨大な金額に及んだものであることに鑑みると、引受参加人の本訴請求は、権利の濫用に当たり、許されないというべきである。

(二) 引受参加人の主張

被告が本件根保証契約を締結したのは、兄の下宮一幸に頼まれたからであって、訴外会社の代表取締役に就任したからではない。したがって、本件根保証契約による保証の範囲を、被告の右代表取締役就任期間に限定することには、合理性がない。また、被告が、名目上の代表取締役であったことをもって、権利濫用法理による保護を受ける謂われもない。さらに、被告関係者である下宮一幸や吉川政利が、脱退原告の訴外会社に対する根抵当権の実行を妨害する行為をしたこと、被告及び下宮一幸が、他の法人格を利用して、本件と同様の手法で債務を免れる工作をしていること、被告が本訴提起後、その所有不動産に対する執行を免れるため、右不動産の名義を妻等に移していることに鑑みると、被告は、信義則上、権利濫用法理による保護に値しないというべきである。そもそも、脱退原告の訴外会社に対する融資額は、被告の代表取締役就任期間中の平成元年八月二四日には、二七億九二〇〇万円に及んでいたのであるから、被告の代表取締役辞任後における脱退原告の訴外会社に対する融資が、被告の合理的な予測を超えるものであったとはいえない。

第三  当裁判所の判断

一  後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  被告は、兄の下宮一幸と共に、家具金物等の製造を業とする大久保金属工業所で働いていたが、下宮一幸が昭和四五年九月ころ、大久保金属工業所を退職し、同業の下宮金属工業所の経営を始めたところ、被告も、下宮一幸の要請に応じて、昭和四六年ころ、大久保金属工業所を退職し、下宮金属工業所において工員として働くようになった。下宮金属工業所は、昭和五六年五月、いわゆる法人成りをして下宮金属株式会社(以下「下宮金属」という)となったが、被告は、勤務を継続し、昭和六二年一月ころは、二五人位の工員が勤務する工場の工場長を務めていた(乙一の1ないし3、証人下宮一幸、被告本人、弁論の全趣旨)。

2  下宮一幸は、昭和六〇年一二月三日、不動産の売買・賃貸等を業とする訴外会社を設立し、以後、下宮金属及び訴外会社の代表取締役として、両社の経営に従事してきた(乙一の1ないし3、二の1ないし5、証人下宮一幸)。

3  訴外会社は、昭和六一年九月、脱退原告との間で信用組合取引契約を締結し、その際、下宮一幸は脱退原告との間で、右契約に基づく取引により訴外会社が脱退原告に対し現在及び将来に負担する一切の債務につき連帯保証する旨の根保証契約をした(甲一の1)。

4  以後、訴外会社は、脱退原告から継続的に融資を受けてきたが(甲一五)、脱退原告を含む取引金融機関から、「融資枠を拡大するためには、下宮金属と訴外会社の代表取締役を別人にした方がいい」との助言を受けた。そこで、下宮一幸は、被告に対し、昭和六二年一月ころ、「名前だけで何もしなくていいから、訴外会社の代表取締役になってほしい」と要請し、被告の了承を得た(証人下宮一幸、証人吉川政利、被告本人)。

5  被告は、下宮一幸と共に、昭和六二年一月一六日、脱退原告生野東支店に出向き、支店長や次長と面会し、訴外会社の代表取締役を下宮一幸から被告に変更する手続をしていることを説明した上で、脱退原告との間で、本件根保証契約を締結した(甲三の1、証人下宮一幸、被告本人)。

本件根保証契約の締結当時における被告の年収は、約一〇〇〇万円であり、自宅の土地建物には、極度額七二〇〇万円の根抵当権が設定されていたが(甲一九、二〇、被告本人)、脱退原告が右締結に際して徴求した被告の保証人調査書には、年収が一二〇〇万円であり、一億三〇〇〇万円の不動産・預金・有価証券を有するが、三三〇〇万円の住宅ローンを負担している旨の記載がある(甲三の4)。

6  昭和六二年一月二一日、下宮一幸が昭和六一年一二月二一日付けで訴外会社の代表取締役を退任した旨の登記とともに、被告が昭和六二年一月二一日付けで同社の取締役及び代表取締役に就任した旨の登記がなされ、同年二月二八日ころ、脱退原告に対し、訴外会社の代表取締役が下宮一幸から被告に変更された旨の届出がなされた(甲四の1ないし3、乙二の3・4)。

7  しかし、被告は、訴外会社における仕事を行うことはなく、専ら下宮金属の工場長としての仕事に従事し、訴外会社の経営は、引き続き下宮一幸が行った。被告の代表取締役就任登記後も、脱退原告の訴外会社に対する貸付は繰り返し行われているが、そのための交渉は、下宮一幸及び取締役の吉川政利においてなされ、被告が脱退原告と交渉したことは一度もなかった。また、被告は、訴外会社から報酬を全く得ていない(甲一五、証人下宮一幸、証人吉川政利、被告本人)。脱退原告生野東支店においても、訴外会社の実質的オーナーは下宮一幸であるとの認識を有しており、平成二年二月、山本秀男が生野東支店長に就任した際、次長からその旨の引き継ぎがあった(証人山本秀男)。

8  その後、下宮一幸は、取締役の吉川政利が、昭和六一年九月まで銀行に勤務していたので、金融機関との交渉のためには、同人を訴外会社の代表取締役に就任させるのがいいと考えるようになり(証人下宮一幸、証人吉川政利)、平成二年一月一〇日には、被告が平成元年一一月一〇日付けで訴外会社の代表取締役を辞任した旨の登記とともに、吉川政利が平成元年一一月一〇日付けで同社の代表取締役に就任した旨の登記がなされ、平成二年八月一〇日には、被告が同月八日付けで訴外会社の取締役を辞任した旨の登記がなされた(乙二の5)。

9  被告は、兄の下宮一幸を信頼し、全てのことを同人に任せ、実印や印鑑登録カードを預けていたので、自らが訴外会社の代表取締役を辞任したことになっていることを、本訴提起まで知らなかったが、本件根保証契約により保証するのは、訴外会社の代表取締役をしている期間だけであり、吉川政利が新たな代表取締役になれば、自分の保証は外れ、そのための手続は下宮一幸がしてくれるとの認識を有していた(被告本人)。

10  吉川政利は、下宮一幸と共に、平成二年四月一三日、脱退原告生野東支店を訪れ、脱退原告に対し、訴外会社の代表取締役として吉川政利が就任し、その旨の登記がなされた旨の証明書を交付するとともに、脱退原告との間で、根保証契約を締結した(甲六の1、2、証人下宮一幸、証人吉川政利)。

11  訴外会社は、脱退原告から、平成四年九月ころ、借入人の名義を分散するよう言われたため、脱退原告からの借入金の一部につき、借入人の名義を、関連会社の有限会社タッチ産業及び有限会社タカヒロの名義に変更し、訴外会社名義の借入金額を減少させるとともに、根抵当権の債務者の名義を右各社に変更する登記がなされた(乙三の1ないし4、四の1ないし3、証人下宮一幸、証人吉川政利)。

12  脱退原告の訴外会社に対する融資額は、平成元年九月に二七億九二〇〇万円に達し、その後同年一〇月に二〇億四〇〇〇万円の返済がなされたため、七億五二〇〇万円となったが、その後も徐々に増額され、平成三年四月には再び二七億九二〇〇万円に達し、平成四年九月中ころまで二〇億円を超える金額で推移した後、徐々に返済され、平成七年八月二四日に五億三七〇八万二六八二円となった(甲一五)。なお、平成四年一一月九日に貸し付けられた本件各貸金のうち、完済されていない本件貸金(4)及び(7)10は、被告が訴外会社の代表取締役及び取締役を辞任した後の平成三年四月一八日及び平成四年二月二八日に新規貸出された貸金が借り換えられたものである(甲一五、弁論の全趣旨)。

13  脱退原告は、昭和二八年に設立された信用組合であるが、いわゆるバブル経済の崩壊後、それまでの乱脈融資が露顕し、大阪府より、二度にわたる業務改善命令を受けた後、平成七年八月には、一部業務停止命令を受け、経営が破綻した。のみならず、平成八年三月には、前理事長等が背任等の容疑で強制捜査を受けた。新聞報道によれば、脱退原告においては、系列ノンバンクを通じた特定企業への迂回融資や、返済の滞っている融資先に対して利子分の追加融資をする元加貸しが行われ、経営を圧迫したほか、粉飾決算がなされ、法令上の融資制限の違反も甚だしく、また、支店において融資先の財務状況を把握する能力に欠けていたということであり、大手都市銀行の紹介預金や高金利で集めた預金を、バブル経済を背景に巨額な資金を求めていた建設・不動産業者に注ぎ込んだ安易な経営姿勢が、破綻の最大の原因であるとの指摘がなされている(乙五、六の1ないし3)。

14  脱退原告においては、「法人との継続的取引の場合、預金を担保とする貸出を除いて、代表者が個人保証することは必須であり、代表者が交替すると、新代表者には必ず個人保証してもらう。旧代表者による保証は、解約の申出がない限り続行となるが、解約の申出があると、新旧の代表者の信用力を比較し、信用力の低下がなければ、本店の決裁により、解約に応じる」という取扱になっていた(証人山本秀男)。

15  下宮一幸は、訴外会社の代表取締役を退任した後も、前記3の根保証契約に基づく債務を負担することを自認しており(証人下宮一幸)、右根保証契約の履行を求める脱退原告の同人に対する訴訟の判決は、確定している(弁論の全趣旨)。

二  争点1(債務免除)及び2(解約権の行使)について

証人下宮一幸及び証人吉川政利はいずれも、「平成二年四月一三日、脱退原告生野東支店において、脱退原告の山本秀男支店長及び目堅次長と面会し、吉川政利が根保証契約を締結した際、被告の代理人として、吉川政利が新たに連帯保証人になるので、被告の連帯保証を外してほしい旨申し入れたところ、目堅次長らは、分かりましたと答えた」旨証言する。

しかしながら、右各証人の証言は、これを裏付ける客観的な証拠が何もないばかりか、証人山本秀男が「吉川政利と根保証契約を締結した際のことは、よく覚えていないが、債務免除は、本部審査部長の決裁事項で、支店長や次長が独断で処理することはできない事柄であるから、当時支店長であった自分や目堅次長が、下宮一幸や吉川政利による債務免除の要請に対し、直ちに了解することはありえない」旨証言していること、証人下宮一幸の証言と証人吉川政利の証言とを子細に検討すると、証人下宮一幸は「被告の保証を外すよう言ったのは自分で、吉川政利は同席していただけであった」(同証人調書四四項)「平成四年九月ころ、目堅次長に再度、被告の保証を外すよう言うと、同次長は、分かりましたと言った」(同証人調書六四項)旨証言しているのに対し、証人吉川政利は「自分も、被告の保証を外すよう言った」(同証人調書二九、五五項)「目堅次長に再度、被告の保証を外すよう言ったが、返事は聞いていない」(同証人調書三八項)旨証言しており、両者の間に齟齬があることに鑑みると、証人下宮一幸及び証人吉川政利の前記各証言を直ちに信用することは困難であって、脱退原告が被告に対し債務免除したことはもとより、下宮一幸及び吉川政利被告が被告の代理人として、脱退原告に対し本件根保証契約の解約を申し入れたことも、認めることができない。

したがって、争点1及び2における被告の主張は、採用できない。

三  争点3(権利の濫用)について

一般に、保証金額も保証期間も限定されていない包括根保証契約においては、保証人の責任が不当に過大になるおそれがあるから、この弊害を除くため、信義則や権利濫用法理に基づき、保証人の責任が合理的に限定されることがある。

これを本件についてみるに、前記一認定の事実によれば、本件根保証契約は、代表者が交替した場合、新代表者には必ず個人保証してもらうという脱退原告の取扱に従って、被告が訴外会社の代表取締役に就任するに際し締結されたものであって、被告においては、本件根保証契約により保証するのは、訴外会社の代表取締役をしている期間だけであるとの認識を有していたものである。そうすると、本件根保証契約における保証期間を、被告の訴外会社代表取締役在任期間に限定することも考えられなくはないが、脱退原告においては、代表者が交替した場合、必ずしも旧代表者の保証の解約に応じるとの取扱をしていたわけではないし、被告においても、本件根保証契約に関する脱退原告との対応について、全て兄の下宮一幸に任せ、自らは何の行動をとらなかったもので、また、下宮一幸や吉川政利が脱退原告に対し本件根保証契約の解約を申し出たと認めることもできないことは、前記判示のとおりである。加えて、被告は、「本件根保証契約を締結したのは、下宮一幸に頼まれたからであり、訴外会社の代表取締役でなくとも、下宮一幸に頼まれたら保証をしていた」とも供述しており、被告が本件根保証契約を締結した動機としては、単に訴外会社の代表取締役に就任したからというだけではなく、兄弟間の情宜に基づく面もあったということができる。さらに、下宮一幸は、訴外会社の代表取締役を退任した後も、自らが締結した根保証契約に基づく債務を負担することを自認していることを考え併せると、本件根保証契約における保証期間を、被告の訴外会社代表取締役在任期間に限定することには、無理があるといわざるをえない。

しかしながら、脱退原告の訴外会社に対する融資は、前記一12認定のとおりで、平成四年九月中ころまで二〇億円を超える金額で推移していたというのであるから、脱退原告において、根保証人である被告個人から右のような巨大な金額を回収することを期待していたとは考え難い。ましてや、前記一13認定の新聞報道に照らすと、脱退原告の不動産業者等に対する融資は極めて安易になされていたことを窺うことができ、訴外会社に対する融資が、その例外であったと認めるに足りる証拠はない。そうすると、脱退原告が、訴外会社から、同社に対する融資を回収できなくなったのは、いわゆるバブル経済の崩壊に伴い地価が大幅に下落したことに加えて、脱退原告の右のような安易な融資姿勢に起因するということができる。さらに、被告は、名目上の代表取締役であって、脱退原告からの借入はもとより訴外会社の経営に何ら関与していなかったもので、そのことは脱退原告においても知悉していたというのであるから、脱退原告が訴外会社から回収できなかった融資額の全額を、根保証人の被告に負担させるのは、信義誠実の原則に照らし、相当でないというべきである。

以上の検討の結果、前記一認定の右契約締結時における被告の年収その他諸般の事情に照らし、本件根保証契約に基づく被告の債務は、三〇〇〇万円及びこれに対する平成七年一月一三日(引受参加人の請求する遅延損害金の起算日のうち最も後の日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務に限定するのが相当であると解する。

なお、引受参加人は、「① 下宮一幸や吉川政利が、脱退原告の訴外会社に対する根抵当権の実行を妨害する行為をしたこと、② 被告及び下宮一幸が、他の法人格を利用して、本件と同様の手法で債務を免れる工作をしていること、③ 被告が本訴提起後、その所有不動産に対する執行を免れるため、右不動産の名義を妻等に移していることに鑑みると、被告は、信義則上、権利濫用法理による保護に値しない」旨主張するが、①については、被告が下宮一幸や吉川政利による執行妨害行為に関与したことを、②については、被告、下宮一幸が、債務を免れる目的を有していることを、③については、被告が、その所有不動産に対する執行を免れる目的を有していることを、それぞれ認めに足りる証拠がないから、引受参加人の右主張は採用できない。また、本訴における引受参加人の被告に対する請求額は、被告の訴外会社代表取締役在任中の融資額に照らし、予想できない金額ではないといえるかもしれないが、右は、脱退原告において個人からの回収を期待していたとは考え難いほどの巨大な金額であり、しかも脱退原告の安易な判断による融資である等、前記判断において考慮した事情を勘案すると、前記判断は左右されないというべきである。

四  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官村田龍平)

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