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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)6422号 判決 1996年10月28日

原告

株式会社幸英

右代表者代表取締役

海本誠一

右訴訟代理人弁護士

中澤洋央兒

被告

株式会社東洋土地開発

右代表者代表取締役

吉本尚子

右訴訟代理人弁護士

有馬賢一

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載二の建物を収去して同目録記載一の土地を明け渡し、かつ、平成六年五月一〇日から右明渡済みまで一か月当たり一〇万円の割合による金員の支払をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び争点

一 原告の請求

主文と同じ

二 事案の概要

原告は、不動産競売によって取得した別紙物件目録記載一の土地(本件土地)の所有権に基づき、同目録記載二の建物(本件建物)を収去して本件土地を明け渡すこと及び土地所有権取得の日の翌日以降の賃料相当損害金の支払を求めている。

これに対して被告は、土地を占有する権原として、短期賃借権と法定地上権を主張している。

三 争いのない事実

1 平成二年九月二六日、株式会社キンキ地所は、本件土地とその土地上にある本件建物(昭和四八年ころ建築されたもの。当時は未登記)を中川昌子から買い受け、本件土地について信用組合関西興銀(当時の商号は「信用組合大阪興銀」)に根抵当権を設定した。そして同日受付で、その所有権移転登記と根抵当権設定登記がされた。

2 平成四年三月九日に本件建物の表示登記(所有者は被告。ただし、当時の商号は「株式会社タカオ」)がされた。そして、同月一八日受付で、本件土地には被告を権利者とする地上権設定仮登記(目的は建物所有、存続期間は五〇年、地代は一か月当たり二万円というもの)がされ、本件建物については被告を権利者とする所有権保存登記がされた。

3 平成四年八月一〇日、本件土地について、第1項記載の根抵当権の実行としての競売開始決定がされ、同月一二日受付で差押登記がされた(奈良地方裁判所平成四年ケ第一五〇号不動産競売事件)。

原告はこの競売において本件土地を買い受け、平成六年五月九日に代金を納付して、同月一一日受付で原告への所有権移転登記がされた。

四 争点

1 被告の主張

(一) 短期賃借権(民法三九五条)

平成四年二月一日、被告はキンキ地所から、本件建物を一〇〇〇万円で買い受けて、賃料一か月二万円、期間五年の約定で本件土地を賃借した。

(二) 法定地上権(民法三八八条)

根抵当権が設定された当時、本件土地上に本件建物が存在し、その所有者は同一(キンキ地所)であった。その後、被告がキンキ地所から本件建物を買い受けたのであるから、被告に法定地上権が発生する。

2 原告の主張

(一) 根抵当権設定当時、既に本件建物は無価値となっていたため、キンキ地所が取り壊すという合意のもとで根抵当権が設定されたのであり、関西興銀は本件土地を更地価格で担保評価して融資を実行している。

(二) ところがキンキ地所は、建物を取り壊すという約束を実行しないままであった。そしてそのうちに、関西興銀に対する債務返済を怠り(平成三年三月三一日に期限の利益を喪失している)、本件土地を競売されそうになったので、被告と通謀して、執行を妨害する目的で、本件建物を譲渡し、本件土地の短期賃貸借を仮装し、地上権設定仮登記を行ったのである。

(三) 被告は、以上のような事情を知った上で、キンキ地所と通謀して、執行を妨害する目的で右のような行動をとったのであるから、法定地上権を主張するのは権利の濫用である。また、短期賃貸借も仮装のもの、濫用的なものであるから、これを主張することも許されない。

理由

一  原告の建物収去土地明渡請求を認めたのは、被告の主張する短期賃借権は濫用的賃借権であって保護に値しないものであるし、法定地上権を主張するのも権利の濫用にあたるからである。

このように判断した根拠は以下のとおりである。

1  更地評価

キンキ地所は、本件土地と本件建物を同時に買い受けたのに、根抵当権は本件土地にのみ設定された(争いのない事実1)。これは、キンキ地所が「本件建物は古いのですぐに取り壊す」と約束したためであり、その結果、本件土地は更地価格で担保評価されたものである。なお、キンキ地所がなかなか取り壊しを実行しないので、平成三年八月七日には、関西興銀はキンキ地所に「同月中に取り壊す」という念書(甲四)を差し入れさせている(甲一三、証人田川)。

2  執行妨害目的

被告は、このように本件土地が更地価格で担保評価されたものであることを知りながら、執行を妨害する目的で、本件建物を買い受けて短期賃借権の設定を受けるという契約をしたものである。

このように認定する理由は次のとおりである。

(一)  キンキ地所は、関西興銀に対する債務を平成三年三月三一日に支払えなくなった(弁論の全趣旨)。被告がキンキ地所から本件建物を買い受け、短期賃借権の設定を受けたのは、その後(平成四年二月一日)のことである。そしてその半年後の平成四年八月一〇日には、本件土地の競売が開始されている(争いがない)。

また、被告やその代表者の夫である吉本効市は、キンキ地所に対して多額の債権を有している(争いがない)。

このような事情から、被告には自已の債権を回収するために他の債権者による執行を妨害する動機があると考えられる。

(二)  本件建物の売買契約書(乙一)では、本件土地につき、被告に短期賃借権を設定する他に、地上権の設定とその仮登記もすることとされており(第四条から第六条まで)、これに基づいて地上権設定仮登記がされている(争いのない事実2)。

けれども、同じ土地について短期賃借権と地上権を併用するというのは、正常な取引であれば通常は行われないことであるし、本件の場合に特にその必要性があったとも考えられない。

(三)  また、その契約書によると、短期賃貸借の賃料は五年分を一括して前払いすることになっている(第七条)。

しかし、賃料を五年分も前払いするなどというのは、普通は考えられないことである。執行妨害を企てる者は、このように賃料を前払いされたことにして、競売で買い受けた者が賃料を請求できない状態にすることをねらう場合が多い。

(四)  本件建物は、現在誰も使用しておらず、空家になっている(証人田川、良川)。

つまり、被告は、本件建物を代金一〇〇〇万円で買い受けておきながら、それを有効に活用していないということになる。

証人良川は、被告が本件建物を買ったのは、リフォームした上で再販するか、又は新しく建て直して販売する計画があったからであると証言する。けれども、そもそも「ローコスト住宅で不動産市場における経済的価値は既にない」(甲二)ような建物を一〇〇〇万円も出して買った上、リフォームして再販するというのは採算が合わないし、底地の用益権が地上権なのか賃借権なのか不明確な物件に買い手がつくとも思われない。不動産業者(被告は不動産業者である。証人良川)がこんな不合理な計画を立てるはずがないから、本件建物の売買は正常な目的による取引ではなかったと考えられる。

(五)  本件の他に、キンキ地所が関西興銀に根抵当権を設定した物件が五つ(いずれも土地及び建物)あるが、被告は、平成四年三月から六月までの間に、これらのすべての建物について賃借権設定仮登記(賃料三年分支払済み)を受けた(争いがない)。

しかし、本来の用途に従った利用をする目的で賃借権が設定された場合に、賃借権設定仮登記がされることは通常では考えられない。それに、賃料が三年分支払済みになっており、この点については(三)で述べたのと同じ問題がある。そうすると、これら五件の賃借権設定仮登記はいずれも執行妨害目的で行われた疑いが強い。

(六)  土地と建物を同一の者が所有している場合に、土地だけについて(根)抵当権の設定を受けるなどということは、よほど特別の事情でもない限り、考えられないことである。被告は不動産業者なのであるから、そのことを知らないはずはないのに、その点について特に調査してはいない(証人良川)。

したがって、本件土地が更地価格で担保評価されたことを被告は知っていたであろうと考えられる。

3  結論

以上の事実を前提として考えると、まず被告の主張する短期賃借権は濫用的なものであって保護に値しない。また、被告は、本件土地が更地価格で担保評価されたことを知りながら、執行妨害目的で本件建物を買い受けたのであり、このような者が法定地上権を主張することは権利の濫用にあたるというべきである。

したがって、被告には本件土地の占有権原はない。

二  賃料相当損害金の額について

平成六年五月一〇日以降の賃料相当損害金の額については、一か月当たり一〇万円であると認められる(弁論の全趣旨)。

(裁判官村上正敏)

別紙物件目録<省略>

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